私立遠野高等学校(二時間目)
「それでは、私の授業はこれで終わりです。に・・・志貴君は今日やったところをちゃんと復習しておいて下さい」
秋葉はそれだけ言うと、教室?を出ていった。
「・・・・・・・・・」
・・・疲れた。
今日は初日・・・しかもまだ1時間目なのに何だこの疲れようは・・・。
「志貴さん大丈夫ですか?」
優しく声をかけられるが、今の俺にはその声に優しさは感じることができない・・・。
「大丈夫ですかじゃないですよ。琥珀さんわかっていてやりましたね」
「あら、わかっちゃいました。でもいいじゃないですか、私も翡翠ちゃんも楽しかったですし秋葉様も楽しそうでしたし、志貴さんも勉強はかどったじゃないですか」
勉強がはかどったというよりは無理やり頭に詰め込まされただけなんだけど。
「確かにそうかもしれないですけど・・・何か勉強が嫌いになりそうな気が・・・」
「申し訳ありません、私の教え方がまずかったようですね」
何故か謝ってくる翡翠。
「いや、皆教えた方は上手かったよ。上手かったけど、流石に3人がかりで教えられるのは疲れたってだけだから気にしなくていいよ」
「はい・・・」
気のない返事をする、まだ少し気にしているようだ。
「それに・・・翡翠の教え方、凄い要点を掴んでいてわかりやすかった、ありがとう」
「は・・・はい、ありがとうございます」
案の定顔を赤らめて俯いてしまった。
「ところで琥珀さん、次って誰が授業やるですか?」
琥珀さんに聞いてみる・・・自分がやるのは午後がいいと考えていた。
しかし一応主催者の1人であるはずなのに何も決めてなくて悪い気がする。
「私は次は志貴さんか、翡翠ちゃんがいいなって思っているんですけど」
「俺は個人的には午後がいいなって思っているんですけど」
「・・・・・・・・・」
翡翠は何も言わない。
「私が教えられるのは料理しかないですからどちらかというと、お昼の直前がいいんです」
そっか、琥珀さんは調理実習か何かをやるのかも・・・なら今じゃないほうがいいな。
「翡翠は・・・特別この時間帯がいいというのはあるの?」
「いえ・・・特にはございません」
なら決まりだな。
「じゃあ、次は翡翠に・・・お願いできるかな」
「はい、わかりました。では今から準備をしてきます」
そう言って、翡翠は立ち上がり教室を出て行った。
「翡翠ってやっぱり掃除を教えてくれるんですかね?」
何となく気になって琥珀さんに聞いてみる。
「えぇ、多分そうだと思うんですけどね。私は掃除があまり得意ではないので楽しみです」
“あまり”という部分にかなりの疑問を感じたがあえて黙っておいた・・・その方が無難だから。
「あら・・・翡翠の姿が見えないけれど、次は翡翠の番なの?」
入れ替わりに秋葉が入ってくる。
「あぁ、そうだよ・・・」
秋葉はいつも通りの浅女の制服を着ていた。
「何だ、いつもの制服と変わらないんだな。てっきりうちの制服を着てくるかと思ったよ」
「私の制服はこれなのですから、別に問題はないと思いますけど」
「確かにそうだ」
でも、翡翠と琥珀さんが同じ制服着るのもいいかなと思ったんだが。
何か、変な感じがする・・・秋葉はうちの制服が嫌いなようにも見える。
「秋葉・・・ちょっと聞くけどうちの制服嫌いなのか?」
「・・・・・・そんなことはありませんよ」
何でそんなに間があるんだ・・・明らかに動揺しているように見える。
そして、秋葉は琥珀さんのベストのをちらちらと見て自分の胸元を見ていた・・・。
えっと、浅女とうちの制服の違いは・・・ベストかセーラー服かの違いだよな・・・。
う〜ん・・・これに何の意味が。
秋葉の視線が気になり、ちら・・・と琥珀さんのベストを見てみる・・・それから秋葉のセーラー服・・・。
・・・・・・・・・。
そうか・・・なるほど。
「そっかそっか、秋葉も大変だなぁ」
「何がですか」
まゆをピクっとさせてこちらを見てくる。
「いやいや、こっちの話だ。まぁ、がんばりなさい、影ながら応援してるから」
と、秋葉の頭を撫でてやる。
「だから、何がですか」
何がってそんなこと言えるわけないだろ・・・、
・・・・・・ベスト着るのと秋葉の胸がないのがまるわかりだなんてことは・・・。
ガラガラガラ
「ほら、先生が着たぞ、秋葉もはやく座れ」
「・・・このことはいずれ聞かせてもらいますからね」
ぶつぶつと言いながら、秋葉も翡翠がさっきまで座っていた場所に座った。
「では、これから私の授業を始めさせていただきます。何分未熟者ですから至らない点も多いと思いますが、よろしくお願いします」
といって、翡翠はおじぎをした。
・・・でも、翡翠って何でまたメイド服に着替えているんだろう。
「私が教えることが出来るのは掃除だけです。それでこれから皆さんにも着替えていただきたいと思います」
そう言いながら、秋葉は3人の机の上に服を置いていく。
琥珀さんと秋葉の机の上には翡翠が今着ている服と同じメイド服だった。
そして、俺の机の上には執事の人が着るような服が置かれていた。
要はいつもの翡翠の仕事をやれってことなのかな。
秋葉の方を見ると、何だか複雑な顔をしていた。
それはそうだろう、自分は当主なのにまさか使用人がする仕事をするなんて思わなかったはずだ。
「秋葉・・・」
「何ですか兄さん」
「たまには、こういうのもいいんじゃないか。別に1人でやるわけじゃないんだし、俺もいるから。きっと楽しいと思うぞ」
説得を試みてみる、これで納得してくれるととても助かるのだが。
「・・・そうですね。じゃあ着替えてきます」
服をとり秋葉は着替えに行った。
琥珀さんはと言えば・・・。
「あは〜、翡翠ちゃんとまたお揃いですね」
・・・何も言うまい。
俺も着替えるか・・・。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「お待たせしました」
秋葉と琥珀さんが入ってくる。
俺は既に着替え終わっていたので2人を待つ形になっていた。
その間に翡翠と一緒に用具の準備をしていた。
「どうですか、兄さん・・・その、似合っていますか」
「・・・・・・・・・」
「あの・・・兄さん?」
「あ・・・あぁ。・・・うん、よく似合っているよ」
いつもの秋葉と違って少なからず動揺してしまった。
長い髪の毛はやはり邪魔なのか、後ろで1つに束ねていた。
「そうですか・・・良かった」
でも、女の子って髪がた1つで随分違うものだと感じた。
「その・・・兄さんも似合っていますよ・・・とても」
秋葉が頬を赤らめがら褒めてくれる。
「そう?ありがとう」
制服とも違うこの服・・・首もとの蝶ネクタイが何とも変な感じがする。
「志貴さん、私はどうですか?」
琥珀さんが聞いてくる・・・って翡翠と双子なんだから翡翠を見ているようなものなんですけど。
「うん、似合うよ」
とりあえず、この言葉だけは言っておいた方がいいかもしれない。
「そうですか、じゃあこれからもこの格好で仕事しようかな」
「それは絶対に止めて下さい」
本当に見分けがつかなくなります、というか貴方の場合意図的にそれをやりそうですから。
「ちぇ・・・」
「では、始めましょうか。ついて来てください」
翡翠が場をまとめ、皆翡翠に着いていく。
着いた場所は・・・まだ俺が入ったことのない部屋だった。
「ここは?」
「ここは・・・昔使っておいた物を保管している場所ですね。私も入るのは初めてです」
秋葉が俺の問いに答えてくれた。
「昔使っていた物って、使わないんだったら捨てても良かったんじゃないか」
当然の疑問を口にする・・・。
「そうなんですけど、中にはとても価値のあるものもありますし、それになかなか捨てることが出来なかったらしいですね、お母様は・・・」
「そうなんだ」
親父が収集癖があり、集めてしまうと興味がなくなってしまうのは知っていたが・・・。
「ごめん、秋葉・・・もしかして気を悪くするかもしれないけど・・・秋葉の母さんってどんな人だった?」
「お母さなですか・・・早くに亡くなりましたので私もよく覚えてないんですけど・・・そのとてもやさしかったのは覚えています。そして、私を抱きしめてくれた時の温もりはとても温かったことも・・・」
「そうか・・・」
「はい・・・」
俺はこれ以上何も聞かなかった・・・秋葉もこれ以上何も言わなかった。
ただ・・・秋葉が母親に関して良い思い出を持っているなら・・・それで良かった。
・・・・・・・・・。
何か重苦しい雰囲気になっちゃったな。
「何で、この部屋選んだんですか?」
重苦しい雰囲気を振り払うため素朴な質問をしてみる・・・今の時間は先生なのだから敬語は忘れない。
「ここは・・・1人じゃとてもじゃないですけど、掃除が出来ないんです。だからこういっては何なのですが皆さんに手伝ったいただきたいなと思いました」
「なるほど、よくわかりました。じゃあ早速やりましょうか」
「はい・・・では、開けますね」
翡翠が鍵を開ける・・・カチャリと音がした後扉が開く・・・。
その部屋は・・・。
「「「「・・・・・・・・・」」」」
何とも言い難かった。
「凄いね、これは」
始めに口にしたのは俺だった・・・。
とりあえず、椅子、机、タンス、様々なものが乱雑に置かれていた・・・埃もすごい。
「では、始める前にペアを決めます・・・2人1組になって掃除をした方が効率が良いと思いますから。わからないことがあったら私に聞いてください。それと捨てるか迷った時は秋葉さまに言ってください。秋葉さま、よろしいですか?」
「えぇ・・・いいわよ。それにしても懐かしいものが結構あってあまり捨てたくはないのだけれど、この際仕方ないわね・・・これだけ物が多いと」
「わかった・・・じゃあペアは・・・」
「私と秋葉さま・・・志貴・・・くんと姉さんでお願いします」
「ジャンケンか何かでって・・・え?」
今、凄い組み合わせを言い渡された気がするのは気のせいだろうか。
「ペアは今言った通りです。異論のある方はいらっしゃいますか」
「そうですね、このペアなら問題はないでしょう」
真っ先に賛同する秋葉・・・ちょっと待て。
「いいですね、これで行きましょう」
琥珀さんまでもが・・・というか貴方のことで悩んでるんですよ。
琥珀さんが掃除下手というのが周知の事実・・・それに巻き込まれたくないからとこのペアを選んだのだと思われる・・・。
琥珀さんとペアになる人が以外反論する人はいないという確証を持った考えを持って・・・。
「はぁ・・・わかりました。これでいきましょうか」
仕方ないという思いを存分に込めて賛成をした。
「では・・・始めましょう。私と秋葉さまは右側から始めますから左側をお願いします」
「了解しました。じゃあ、琥珀さんやろうか・・・くれぐれも慎重にやって下さいね、お願いしますよ」
念を押す。
「あは〜大丈夫ですよ、心配性ですね志貴さんは」
・・・大丈夫じゃないから言っているんですよ。
考えようによっては何故琥珀さんが掃除下手なのかわかるいい機会かもしれない・・・。
とにかく始めるとするか。
「琥珀さん・・・物を整理するのは後にしてまずは埃を払って雑巾で拭きましょう」
「は〜い、わかりました」
「先に言っておきますけど、外の箒みたいに振り回したら駄目ですからね」
「大丈夫ですよ・・・志貴さんと掃除をするのも久しぶりです。ワクワクしますねぇ」
思いっきり不安だ・・・。
「じゃあ・・・これ、はたき」
琥珀さんにはたきを渡す・・・そして、少し様子を見ることにした。
「♪♪」
琥珀さんはご機嫌で机の上にあるコップなどの埃を払いはじめた。
琥珀さんそのはたきの使い方は・・・・・・まずい。
ダッシュと同時にぐらついていたコップが下に落ちる。
何とかキャッチ・・・危なかったと思っていたら・・・。
次々と落ちてくるコップ・・・。
慌てて持っていたコップを置き、両手でそれぞれキャッチ・・・最後の一個はお腹をクッションがわりにしてみずから受けた・・・。
「ごめんなさい、志貴さん大丈夫ですか?」
心配そうに聞いてくる琥珀さん。
「あぁ、何とかね」
何よりコップが割れなくて良かった。
「とりあえず、琥珀さん・・・はたきを使い方を覚えよう」
「・・・今の使い方じゃまずいんですか?」
真顔で聞かれても・・・。
「まず、そんな乱暴に使ったら物が倒れるのは当たり前です。埃をとるだけなんだからもうちょっと優しくはたかないと」
「そうだったんですか、これで全部とらないといけないと思っていたんですよ」
根本的にはたきの用途を間違えている琥珀さん・・・おいおい。
「この後雑巾で含んですから、全部とる必要はないし、一度はたいたら大抵の埃はとれるから」
「わかりました・・・では改めて・・・」
・・・危なっかしいことには変わりはないがさっきよりはましになったようだ。
・・・・・・・・・ほどなくはたきもかけ終わり・・・。
「琥珀さん、そろそろ雑巾掛けをしようか・・・」
「はい、そうですね」
手を止めて振り返る。
「じゃあ、コップとか拭くのに邪魔なものをひとまとめにしてテーブルの上とか拭こうか」
「はい・・・」
はたきを起きコップを両手にそれぞれ二つずつ持ち・・・。
「志貴さんこれはどこに置きましょうか」
琥珀さんが勢いよく振り向いた瞬間・・・まだ残っていたコップに琥珀さんの肘があたり・・・倒れる・・・。
・・・再びダッシュ、しかし今度は出遅れたためキャッチするのは難しい・・・身体のどこかに当たってクッションがわりになることを祈って滑り込む。
・・・ドッ。
背骨部分に少し強い衝撃を感じた・・・何とかコップは大丈夫のようだ。
「大丈夫ですか志貴さん」
再び心配そうに聞いてくる琥珀さん。
「あぁ、何とか。それより1つお願いが・・・」
「振り返るときとかは周りをよく見てからにしてくれると助かります」
「わかりました」
あくまで何事にも熱心な琥珀さん・・・この姿勢には本当に頭が下がる。
普通なら落ち込んでしまうところも持ち前の明るさでカバーしてる。
もしかしたらこれは俺の思い込みなのかもしれないけど・・・。
「じゃあ、このコップはここに置いて・・・と。残りのコップをお願いします」
「は〜い」
いそいそとコップを手に取り、そして・・・。
「志貴さん、これですね♪♪」
琥珀さんがこっちに勢いよく走ってきた時・・・何かにつまづき・・・。
「・・・わっ!!」
「・・・くそっ」
俺は瞬時に琥珀さんの前に行き・・・抱きとめる。
ガチャン ガチャン
コップの割れる音・・・そして・・・。
「ついに、割ってしまいましたか・・・大丈夫ですか・・・兄さん、琥・・・珀
!?」
「・・・・・・・・・」
翡翠も固まっている。
とりあえず、2人にはどう映っているだろうか・・・。
琥珀さんが転びそうになって慌てて抱きとめたと思ってくれるだろうか。
もしくは俺が無理やり琥珀さんに抱きついて・・・琥珀さんはびっくりしてコップを落としてしまったように見えるのだろうか。
おそらく後者であろう・・・。
救いの手があるとすれば琥珀さんなのだが・・・。
「・・・・・・・・・」
このように固まってしまっている・・・そして、全然身体に力が入っていないようだ。
手を離すとそのまま倒れてしまうくらいに・・・。
これは・・・もう覚悟を決めた方がいいのかもしれないな・・・。
逃げることが出来ず、状況を説明できないのであればこれが一番良い選択だと思う・・・。
いや、他に選択などないわけだが・・・。
「兄さん・・・貴方は何をやっているのですか!!」
「志貴さまを・・・軽蔑します」
うん、わかっている・・・出来れば力を加減してくれると嬉しいかな・・・。
呼び方が戻っているなとか・・・どうでもいいことに気付きながら目の前の恐怖に耐えようとしていた。
続く
あとがき
凄い時間がかかってしまいましたね・・・。ずっと構想は決まっていたはずなのですが何とも書き始めるまでに時間がかかってしまいました。書き始めたら結構早かったんですけどね。今回ヒロインが琥珀さんっぽい気もしますね。先生が翡翠ですから翡翠がヒロインでも良かったのですが、掃除に関しては翡翠はスペシャリストですから・・・後どちらかというと琥珀さんの掃除下手というのを前面に出したかったというのもありましたから。そして、ちょっと秋葉の母親の話が出てきて、シリアスっぽく話がなりましたけど、大した意味はないです♪♪ そして、今回書いてて楽しかったです、前回が何であんなに苦労したかわからないくらいに楽しかったですね。うん・・・ほのぼのはやはり良いということで♪♪ ではまた次回で・・・。