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私立遠野高等学校(三時間目)

 

 

・・・・・・。

 

「志貴さん、大丈夫ですか?」

 

琥珀さんが心配そうに聞いてくる。

 

「・・・痛い」

 

素直に感じていることを口にする。

 

それは琥珀さんに向けてではなく、秋葉に向けて・・・。

 

「私が悪いっていうんですか?」

 

・・・当たり前だろう。

 

「だいたい、兄さんが早く事情を説明してくだされば良かったんです」

 

秋葉は言い訳する・・・しかしこれは何か間違っていないか。

 

「俺がこうなる前に事情を聞いてくれたことがあったか」

 

「それは兄さんの日頃の行いが悪いからです」

 

いや、それとこれとは関係ないだろう。

 

「申し訳ありませんでした、志貴さん。私が早く事情を説明すれば良かったんですけど」

 

「いや・・・そんなことは・・・」

 

あるな・・・でも、琥珀さん固まっちゃってたし。

 

「しょうがないよ、いきなり抱き止められてびっくりしただろうし・・・」

 

・・・あ、琥珀さんの顔が赤くなった。

 

「は・・・はい、あれは・・・その」

 

琥珀さんが狼狽してる・・・すごい珍しい。

 

「全く、人の場合だったら用意周到になるのにどうして、掃除になると周りが見えなくなるのかしらね」

 

秋葉が思いっきり皮肉を込めてからかう・・・。

 

「あ〜・・・秋葉さまそれは酷いですよ。そんなことないよね、翡翠ちゃん」

 

「・・・・・・・・・」

 

翡翠も秋葉に同感のようだ・・・まぁ俺もなのだが。

 

「・・・で、掃除の方は?申し訳ないけど俺たちの方があんまり捗らなかったんだけど」

 

疑問に思い口にする。

 

「それでしたら、大丈夫です。もう1人で何とかなるところまで片付きましたから」

 

翡翠が答える・・・確かに綺麗好きの秋葉と掃除のスペシャリストの翡翠が一緒にやれば掃除はかなり捗るだろう。

 

・・・そう考えると、あらかじめ俺と琥珀さんのペアは決まっていたのかもしれない。

 

何か複雑な気分だった。

 

「では、次は私の番ですね。先ほどの名誉挽回です。あっ、それと皆さん制服に着替えてエプロン着ておいて下さいね」

 

琥珀さんは意気込んでいってしまった。

 

さて・・・着替えてくるか。

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

エプロンつけるのも久しぶりだな。

 

俺もここに来てからあんまり自分で料理作るってなかったからなぁ・・・結構楽しみだったりする。

 

それに反して翡翠と秋葉は心なしか不安そうな顔をしている。

 

2人にしてみたら当然かもしれないけどな。

 

・・・さて、何て声をかければいいか。

 

「秋葉は、何が作れるんだ?」

 

「えっ・・・!?」

 

「いや、そんなにびっくりすることはないだろ」

 

「えぇ、そうなんですけど」

 

秋葉がもじもじとしている。

 

「兄さんは何が作れるんですか?」

 

逆に聞き返される。

 

どうやら先に俺が何を作れるか知りたいらしい。

 

「俺? そうだなぁ、ラーメンとか焼きそばとか麺類は結構作ってたな。麺は勿論市販のもだけどね。後、定番のカレーとか・・・こんなもんだよ」

 

間食や夜食用に作っていただけだからこの程度しか作れないけど。

 

「秋葉だって学校で調理実習くらいするだろ」

 

「いえ、家庭科は選択科目ですから私は選択していません」

 

「そうなんだ・・・じゃあ、何が作れるんだ?」

 

改めて聞き返す。

 

「え・・・その・・・」

 

もしかして・・・。

 

「料理したこと・・・ないのか?」

 

「・・・いえ、あることにはあるんですけど」

 

何か煮え切らない・・・。

 

「まぁ、琥珀さんがいるからな、そんなに料理する機会はないと思うけど」

 

「えぇ、そうですよね」

 

無理やり自分自身を納得させている気もするけど。

 

「翡翠は?」

 

「・・・・・・・・・」

 

顔を曇らせてしまう。

 

しまった・・・翡翠に料理の話は禁句だった。

 

「今回は、みんなと一緒に作るんだし大丈夫だと思うけど」

 

「はい・・・」

 

「はい、みなさんお待たせしました。では早速、台所の方へ行きましょうか」

 

琥珀さんがやってきた・・・いつもの割烹着を着て。

 

「でも、この四人であの台所を使うとなると少し狭いんじゃないかな」

 

「それでしたら大丈夫です。広い台所の方を解放しておきましたから」

 

そっか・・・俺が来る前はいろんな人達が逗留していたんだよな。

 

そっち使うのなら問題はないか・・・。

 

「さて、着きましたよ」

 

・・・思ったより大きな台所だった。

 

「では、これから調理実習を始めたいと思います。今回作るのはカレーライス。必要な材料はもう用意しておきましたので、皆さんで役割分担を決めて作ってください。後わからないことがあれば私に聞いてくださいね」

 

確かに、琥珀さんが加わってしまえば琥珀さんに頼ってしまいそうだからな・・・秋葉と翡翠の料理向上のためにはこのほうがいいかもしれない。

 

でも、こうなると役割分担は俺が決めないといけないのか!?

 

ちら・・・と琥珀さんを見る。

 

にこっと笑い手を振られた・・・あれは多分『頑張ってくださいね』という意を含んでいるのだろう。

 

とりあえず、役割分担を決めないと・・・。

 

「ちょっと2人に聞きたいんだけど・・・包丁を使ったことは?」

 

「「あります」」

 

一応はあるんだな・・・。

 

「でも、りんごの皮をむいていたらいつのまにか実の部分がなくなってしまいました」

 

「・・・・・・・・」

 

翡翠・・・包丁技量ゼロ。

 

「秋葉はりんごの皮はむけるよな?」

 

「えぇ・・・でも、よく包丁を落としてしまうんです」

 

「・・・・・・・・・」

 

秋葉・・・包丁技量計測不可能。

 

琥珀さん・・・この面子でどうしろと?

 

「ん〜じゃあ、どちらかでご飯を炊いて後は野菜の皮むきを出来る限り手伝ってくれ」

 

「じゃあ、私がご飯を炊きます」

 

翡翠が答える・・・しかし念のために聞いておく必要がある。

 

「ご飯は炊けるよね?」

 

「えぇ、これを使うんですよね?」

 

翡翠が取り出したのは・・・。

 

・・・飯盒だった。

 

ある意味渋い。

 

まさかとは思うが、琥珀さんはいつもこれ使ってご飯を炊いていたんだろうか。

 

だが、ちゃんと炊飯器はある・・・。

 

誰が使っていたんだろう。

 

「・・・わかった、ご飯は俺が炊くからその間、秋葉と一緒に野菜を洗っておいてほしい」

 

「わかりました」

 

何か凄い疲れる調理実習になりそうだな・・・とてもじゃないけど目が離せそうもない。

 

早くご飯洗って炊かないと。

 

・・・・・・・・・

 

早々にご飯を洗い、炊飯器のスイッチを入れ、秋葉と翡翠の方を向くと・・・。

 

包丁を持ち、野菜を切り始めていた。

 

しかし・・・絶対に間違っている・・・というか。

 

「秋葉、その人参・・・」

 

「どうかしましたか?」

 

うん・・・どんなに頑張っていても間違いは指摘してやらないと思う・・・。

 

ごく基本的なことなんだが・・・。

 

「皮むいたか?」

 

「え・・・人参って皮があるんですか?」

 

いや・・・真顔で聞き返されても。

 

「あぁ・・・」

 

俺は包丁で皮を向いてみせる。

 

「ほら・・・見た目はわかりづらいかもしれないが皮だろ」

 

「えぇ・・・そうですね」

 

意外なところで抜けている世間に名をはせる遠野家のご当主がここにいた。

 

翡翠はというと・・・じゃがいもを、むいていた。

 

そして案の定、身がほとんどないじゃがいもがあり、お約束通り芽が残っていた。

 

でも、俺は野菜を洗っておいてくれとは言ったが切っておいてくれとは言っていないと思ったんだが。

 

「翡翠・・・」

 

「はい・・・」

 

「じゃがいもに芽があるって知ってる?」

 

「はい・・・・・・ソラニンですよね」

 

良かった・・・知ってるんだ。

 

じゃあ、何で芽が残っているのか・・・そして、あまりじゃがいもの身の部分が残っていないのにご丁寧に芽が残っているのは何故なのか。

 

俺はじゃがいもを1つとり・・・。

 

「翡翠・・・」

 

「は・・・はい」

 

「ほら、怖いと思うけどなるべく皮だけをむいていくようにしないと、身の部分が減っちゃって勿体無いだろ」

 

「はい・・・」

 

「あと、芽の部分は包丁の根元のところでこうやってくりぬいてやらないと・・・」

 

説明しながら1つ1つ実践してみせる。

 

「志貴さま・・・凄いです」

 

「まぁ、切るだけならね」

 

本当にそれだけだが。

 

・・・・・・翡翠にあれこれ説明していると後ろから鋭い視線が向けられているのがわかる。

 

確認するまでもなく秋葉である。

 

どうやら自分にも教えてもらいたいらしい・・・。

 

「秋葉・・・」

 

「何でしょうか」

 

どことなく、嬉しそうな声である。

 

「人参の皮を向くのはちょっと難しいだろうから、これ使え」

 

取り出しのは皮むき専用の道具。

 

「ほら、これなら簡単に向けるだろ?」

 

「はい」

 

「次第に慣れていけばいいよ。誰だって最初は上手くいかないものだから」

 

「・・・・・・・・・」

 

秋葉黙ったままだ・・・何となく気持ちはわかるけど。

 

遠野の当主で、浅上では優等生・・・何でも完璧でなければならないと育てられた遠野秋葉・・・それを今でも引きずっているようだ。

 

でも・・・人間誰だって不得意なものもある。

 

そんな弱い部分・・・秋葉は絶対に見せたくはないだろうけど。

 

俺や翡翠、琥珀さんだけには見せてほしい・・・と思ってしまうのは我侭なんだろうか。

 

「俺でよければいつでも手伝うから」

 

「本当ですか?」

 

「あぁ、それに今は夏休みだし時間はたっぷりとあるさ」

 

「そうですよね、ではお願いします。その代わりに兄さんの勉強を見て差し上げますから」

 

とても嬉しそうに言う・・・いつもの秋葉らしさが戻ってきたようだ。

 

「ははっ、お手柔らかに頼むな」

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

コトコトコト

 

ほどなく野菜も切り終わり炒め・・・今はずっと煮込んでいる。

 

台所はカレー独特の良いにおいが立ち込めていた。

 

しかし・・・家でカレーを作るとは思わなかったな。

 

そう・・・カレーといえばあの人のことを思い出してしまうから。

 

あくをとりつつそんなことを考えてしまう。

 

どうせやるんならアルクェイドやシエル先輩も誘えば良かったかなと。

 

秋葉は怒るだろうけど、何とかして仲良くなってもらいたいしな・・・。

 

「さて・・・そろそろ隠し味のハチミツを入れるかな」

 

「カレーにハチミツを入れるんですか?」

 

翡翠が不思議そうに聞いてくる。

 

「あぁハチミツいれて煮込むと・・・コクが出ておいしくなるんだよ」

 

「そうなんですか、勉強になります」

 

「じゃあ、ハチミツ入れるのお願いできるかな。少なくていいんだけど、大体大さじで2杯か3杯でいいから」

 

「わかりました」

 

じゃあ、俺はサラダでも作るかな。

 

「秋葉、サラダ作るから手伝ってくれ」

 

といっても、野菜を適当に千切って並べるだけなんだけど。

 

「わかりました・・・でもいいんですか、翡翠を1人にして・・・」

 

「大丈夫だろ、ハチミツ入れてかき回すだけなんだから」

 

何も心配することはない。

 

「いえ、ちょっとだけ嫌な予感がするのですけど・・・翡翠は大さじとか小さじってわかりますよね」

 

「・・・いや、流石にわかっているだろ」

 

口ではこう言ったものの・・・不安は拭いきれない。

 

例えば翡翠に任せるときにかき回すときに使っていたおたまを大さじとまちがえていないかとか・・・。

 

俺は慌てて振り向いて・・・。

 

「翡翠・・・大さじって大丈夫だよね」

 

「え・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

遅かった・・・。

 

最後の最後でこんなお約束があろうとは。

 

カレーなのに、とてつもなく甘いカレーを食べることになろうとは・・・。

 

琥珀さん・・・全部頼ることになろうとも貴方が手伝ってくれた方が良かったです。

 

時間もお昼時・・・空腹感をおぼえながらこんなことを思った。

 

 

 

 

続く

 

 

 

 

あとがき

・・・お約束すぎですね。でもこんなことしか思いつかなかったので。前回こけたのが琥珀さんだったので今回は翡翠を狙ってみました。志貴くん疲れていますね♪♪ まぁこれもかなり狙って描いているのですが・・・。今回ふと思うのですが秋葉ちょっとかわいく書きすぎかなと、自分自身思っています。ほのぼのですから別にいいかなと思っていますけどね。でも秋葉が料理下手って誰が決めたんでしょうね。もう周知の事実になってしまっていますけど、本編では秋葉が簡単な料理を作ってくれるシーンがあるんですよね、さっちんのところだったでしょうか。でも、琥珀さんのルートで料理下手な部分もあり・・・どっちなんでしょうね、とりあえずは料理下手の方向で書いていますけど。そして次回に続く伏線をひっそりと張ってみたり♪♪ どうなるかわからないですけど、というかどこまで書きつづけられるかわからないですけど、ほのぼの系は書いてて楽しいので何とか書ききりたいですね(同じこと言っていますけど)♪♪ではまた次回で・・・次回はお昼休みということで。

 

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