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第1節「死後の生命」と「生まれ変わり」に関する実証的研究の系譜

 人間の死後存続に関する科学的研究は、大きく2通りに分けることができる。第一に、「物理的肉体を失った後にも、意識(いわゆる魂)として存在し続けること」を研究する場合。そして第二に、「物理的肉体を失った後にも意識(魂)として存在し、再び肉体を持って生まれ変わってくること」を研究する場合である。前者は「死後の生命」に関する研究であり、後者は「生まれ変わり」、あるいは仏教的観念を借りて「輪廻転生」と呼ばれるものに関する研究である。厳密には、研究者によって観点や姿勢が異なっているが、本稿の目的はそれらの相違を整理することではない。むしろ、「観点や姿勢が異なるにも関わらず、数多くの研究者達から同様の研究成果が報告されている」という興味深い事実に着目するため、混乱を避けて、上記2分類の紹介にとどめておきたい。

 これらの研究は、19世紀以前にも、いわゆる幽霊や死者との通信などの研究として行われており、中には説得力を持つものも見受けられるが、往々にして、宗教的動機や通俗的興味と結びつきがちであった。私が見るとこと、宗教的動機や通俗的興味を持たない純粋な学術研究であり、しかも客観的データの蓄積と分析という科学的方法論を伴う研究は、臨床医学の領域から始められたと言ってよい。それが数多くの研究者へと拡がり、真に実証性を高めてきたのは過去10年から20年くらいの間であるが、その端緒は、前世紀の終わりにまでさかのぼる。

 その始まりは、1890年代にアルベール・ド・ロシャが行った、退行催眠(詳細は後述)を用いて被験者(患者)たちの過去の人生を思い出させる研究であった。被験者たちは、過去に存在したと思われる場所や家族の名前をあげて信頼できそうな証言をしたが、その人生が実際にあったものかどうかを証明できなかったため、ロシャは、新しい科学の黎明期に誰もが直面する暗中模索状態に陥ってしまった。ロシャの驚くべき試験的研究の成果について、当時の精神科医や心理学者たちは、被験者が過去生を思い出したのは精神の錯乱が原因だと考えたのである。

 しかし、20世紀の中頃になると、アレクサンダー・キャノン博士によって、再び、生まれ変わりの科学的研究が始められた。催眠を用いて、1,300人以上の被験者を、紀元前何千年という昔の記憶にまで退行させることに成功したキャノン博士は、1950年にこう結論づけた。

 「何年もの間、生まれ変わり仮説は私にとって悪夢であり、それを否定しようと、できる限りのことを行った。トランス状態で語られる光景はたわごとではないかと、被験者たちとの議論さえした。あれから年月を経たが、どの被験者も信じていることがまちまちなのにもかかわらず、次から次へと私に同じような話をするのである。現在までに1,000件をはるかに越える事例を調査して、私は生まれ変わりの存在を認めざるを得なかった。」

 キャノン博士は、過去生への退行催眠によって、被験者たちの精神症状(原因不明の恐怖症など)が治癒されることに着目し、1970年代から80年代にかけて、何千人もの恐怖症患者を治癒した。この事実が、「過去世療法」として知られるようになり、臨床心理学者のイーディス・フィオレ博士によって「もしも誰かの恐怖症が、過去の出来事を思い出すことで即座かつ永久的に治癒されたら、その出来事が実際に起きたに違いないと考えるのが理にかなっている」と支持されたように、生まれ変わり仮説の信憑性が徐々に研究者たちからも認められていったのである。

 同じ時期に、ヴァージニア大学医学部精神科主任教授のイアン・スティーブンソン博士は、過去世の記憶を偶発的に語った幼児の事例を世界中から収集していた。例えば、身体のどこかに「あざ」を持つ200人以上の子供が過去生の記憶を持っており、彼らは一つ前の過去生(前世)において、あざと同じ箇所に弾丸や刀剣などの武器が貫通して殺されたのだと証言したのである。そのうち17の事例について、子供たちが「前世ではこの人物だった」と主張する実在の人物が、実際に証言通りの死に方をしたことを証明するカルテを入手することができた。その後の長年に渡る研究の末、スティーブンソン博士は、1987年に発表した著書において、次のように言明するに至っている。

 「私たちがこれまでに入手している生まれ変わりの証拠からすると、生きている人間には心、あるいは、そう呼びたければ魂というものがあり、この世ではそのおかげで活動でき、死後にも生存を続けることができるということのようである。これまでに蓄積されてきた死後生存の証拠を、他の分野の科学者が先入観抜きで検討すれば、『人間は肉体以外の何者でもない』というような憶測を除いては、失うものは何もないと思う。少なくとも私が考える生まれ変わりは、進化論や遺伝学の知識を無にするものではない。」

 また1978年には、モーリス・ネザートン博士も、生まれ変わり仮説を認めざるを得なくなった経緯を告白し、「自然は一千万年かかってグランドキャニオンを創りあげたのに、人間の魂が70年や80年で形成されるとは信じられない」と述べた。

 1979年になると、臨床心理学者のヘレン・ウォムバック博士によって、生まれ変わり仮説を統計的に実証する画期的な研究結果が発表された。何百人もの被験者に退行催眠を行い、現在の性別には関係なく、紀元前二千年にまでさかのぼって退行したときのいくつもの人生の記憶に基づいて性別を記録してみたところ、50.6%が男性、49.4%が女性として生きた時の記憶であることが判明したのである。このように、互いに無関係な多数の被験者たちの過去生の記憶の総和が、男女比にしてほぼ同数であったことは、彼らの記憶が各人によって創作された嘘ではないことを物語っていた。

 しかも、ウォムバック博士の被験者たちの多くは白人の中流アメリカ人であるにもかかわらず、過去生の記憶の数々は、世界における人種や階級、人口分布と言った歴史事実を正確に反映するものであった。さらに、被験者たちが報告する、当時の人生で使用していた衣服、履物、食器などは、どの時代のものについても、みな歴史的事実と一致していた。この統計的研究の結果、ウォムバック博士は、「道路の脇のテントにいるあなたに、1,000人の通行人が『ペンシルバニア州の橋を渡った』という話をしたならば、あなたはペンシルバニア州には橋があるという事を納得せざるを得ないでしょう」という例え話を用いて、生まれ変わり仮説の客観的実証性を認めたのである。

 人間の心には、本人が認識できない無意識の領域があり、心の傷(トラウマ)が抑えつけられたままで無意識の領域に蓄えられ、神経症の症状という隠れ蓑を被って表面に現れる。従来の精神分析では、自由連想法や夢分析などによって無意識下に記憶された幼児体験を探って治療に役立ててきたが、過去生療法ではこれを一歩進め、催眠を用いて過去の人生にまでさかのぼらせて原因を探る。ただし、被験者を過去生にまで退行させるためには相当な力量の催眠技術が必要であり、しかも、被験者全員が過去生の記憶を思い出すほど深いトランス状態に入ることのできる体質を持っているとは限らないため、誰もがどこでも気軽に過去生療法を受けるところまで一般化するには至っていない。

 しかし、1980年代には、過去生療法を専門に研究するAPRT(アメリカ過去生研究治療協会、American Association For Past Life Research and Therapy)がカリフォルニアに設立され、機関誌として"The Journal of Regression Therapy"が発行されるに至り、研究者の注目を集めるようになった。

 そして1986年に、それまでの過去生研究の成果を集大成したのが、トロント大学医学部精神科主任教授のジョエル・L・ホイットン博士である。詳細は後述するが、すでに他分野で高い評価を受けていたホイットン博士は、生まれ変わり現象の存在を「証明された事実」として公然と認めたうえ、長年の実証研究によって明らかにした「中間生」(あの世)の存在や、生まれ変わりの仕組みに関する膨大な情報を公開した。

 また1987年には、アイスランド大学助教授のエルレンドゥール・ハラルドソン博士らによって、アメリカとインドから収集した1,000件もの臨死体験の比較研究が公表され、「両国の患者の体験した臨終時のビジョンに見られる現象の間に、死後生存仮説を裏づけるに足る明確な類似点を観察することができた」と明言された。

 翌1988年には、マイアミ大学医学部精神科教授、シナイ医療センター精神科部長のブライアン・L・ワイス博士によって、生まれ変わりなど全く信じていなかった博士が、その信憑性を認めざるを得なくなった体験の数々が発表された。本書は全米でベストセラーとなったばかりか、同じ結論に達していながらも科学者としての地位を失うのを恐れて公表を控えていた世界中の研究者たちに勇気を与え、生まれ変わりの研究が広く認知されていく起爆役を果たした。ワイス博士は1992年に続編も出版している。

 やがて1990年代に入ると、インド国立精神衛生神経科学研究所助教授のサトワント・パスリチャ博士によって、空想、不正行為、遺伝的記憶、潜在的記憶、記憶の錯誤、偽装などの従来の仮説では説明のつかない「生まれ変わり事例」が確かに存在することが明らかにされ、生まれ変わり仮説の正当性が重ねて実証された。

 また1992年には、国際トランスパーソナル学会の初代会長であったスタニスラフ・グロフ博士が、催眠という方法以外に、薬物を投与しトランス状態へと導くことにより、被験者を過去生の記憶にまでさかのぼらせることができるという研究結果を発表した。自らも実験台となり、過去生を体験したグロフ博士は、「非日常的な意識状態(催眠状態や薬物を投与された状態)において過去生の体験をした人々を長年観察してきた結果、私はこの魅惑的な分野の正当性を確信するようになった。過去生という現象がきわめて妥当なものであること、過去生の知識が我々の葛藤を解決し、現在の人生をより良いものにすることを確信させてくれる事例を、いくつも紹介できる」と明言している。

 そして1994年には、臨死体験の代表的研究者の一人であるレイモンド・ムーディ博士による、5年間に渡る驚くべき研究成果が発表された。ムーディ博士は、ある手法を用いて、この世を去った魂たちとの相互のコミュニケーションが可能であることを、実験室において科学的に実証したのである。「本書で説明されているテクニックを使えば、かなりの方が実際に愛する故人との再会を果たすことができるだろう。被験者は死者とじかに接触でき、その体験の真実性を自分で評価することができる」と語るムーディ博士の言葉からもわかるように、弁護士や大学院生など信頼できる300人以上の被験者の半数以上が、一回目の実験で数分から数十分に渡って死者の魂との具体的な会話に成功し、4回目の実験までには、被験者のほぼ全員が、目前に存在する魂を自分の目や耳で確認したと証言している。

 被験者の中には、自分自身がそれまで決して知らなかった情報や知ることのできない情報を死者の魂から教えられ、後日その情報の正確さを確認したものも少なくなかった。さらに、被験者たちが実際に会うことができるのは、被験者自身が「この人に会いたい」と願った人物とは限らず、むしろ先方(現在は他界して魂の状態でいる故人)が再会を強く望んでいる場合に現れてくることがわかった。しかも、まだこの世に生きている人物や、かつて一旦は他界したのだが現在再びこの世に生まれ変わっていると思われる人物は、当然ながらいくら願っても現れてくれず、代役の魂がその旨を伝えてくれた。これらの事実から、被験者たちが故人に会った体験は、決して精神の錯乱やくうそうではないことが証明された。

 被験者たちは異口同音に、「確かに生身の母がいました」「彼の姿はとても明瞭で、60センチほど離れたところにいました」「しっかり実体があって、透き通ったりはしていません。彼は動き回り、立体感がありました」「夢ではありません。私は完全に目覚めていましたし、一瞬のことでもありません」「自分で体験しなかったならば、信じられなかったでしょう。でも、その出来事が現実だったのは間違いありません。私の目の前には、確かに死んだ叔母たちがいたのです」などと語る。つまり、死んだ魂が、生きている被験者に、何らかの方法で生前の姿を立体的ビジョンとして見せてくれ、様々な会話をしてくれたのである。典型的な実験例の一つを上げると、ある40代後半の女性被験者は、このように証言する。

 「部屋(実験室)に入ったときは、少しびくびくしていました。父はいきなり現れ、私の顔をまともに見つめていました。父は、生前と変わらないひょうきんな口調でこう尋ねました。『おやおや、いったい父さんに何の用だい』と。父は最初私から1メートルほど離れたところにいましたが、その後もっと近づいてきました。父は私のすぐ前にいたんです。私と父は、そこで極めて個人的な話をしました。ほとんどは母の話でしたが、家庭内のほかの問題についても話しました。父の姿は全身ではなくて、頭から腰のあたりまでしか見えませんでしたが、いまムーディ先生を見ているのと同じくらいはっきりと見えました。父はなんだか面白がっているようでした。『私の寿命がつきてあの世に行けば父とはいくらでも話せるのに、それが待ちきれなかったんだな』と思ったらしいんです。そうやって30分くらいでしょうか、かなり長い間話し込みました。父は最後に、『これからも楽しい人生を送りなさい』といってくれました。」

 このように、「あの体験は想像ではありません。何から何まで現実です」と300人以上の被験者たちが語るのを受けて、ムーディ博士はその実験施設を「精神の劇場」と命名し、現在では世界中から訪れる多くの人々を、愛する故人と再会させている。

 以上、「死後の生命」と「生まれ変わりに」に関する科学的研究について、その発展の系譜を追ってみた。ここで紹介しなかった数多くの有力な研究者たちについても、次節以降で、その研究成果を随時引用していきたい。

 いずれにしても、このテーマに携わる研究者たちは、もともと他の分野で高く評価されていた真面目な研究者であり、「死後の生命」や「生まれ変わりに」など信じていなかったばかりか、興味さえも抱いていなかったと語るものが多い。しかも、彼らの多くは、生まれ変わりを認めないキリスト教徒であるため、自らが子供の頃から教え込まれてきた教義に反する研究結果を、勇気を持って公表しているのが実態である。

 現在このテーマに携わる研究者たちの関心は、すでに「死後の生命」や「生まれ変わり」の存在の証明から離れ、その具体的仕組みの解明や、肉体を持たない魂たちとのコミュニケーションの方法へと移っている。彼らの多くが医学者や臨床医であるためか、既存の価値観に凝り固まった唯物論者や物理学者を説得するという労多くして益の少ない行為よりも、死を目前に控えて怯える人々の心を救ったり、人生に悩む人々へのカウンセリングで活用するための、実用的な知識の解明が重視されているのである。

 その意味では、本稿の目的も、まさに彼らが解明した、「人生を過ごすにあたって役立つ知識」の紹介と検討にある。それでは、その驚くべき、しかし心洗われるような、数々の研究成果を整理してみよう。


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