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第2節 過去生の記憶

 本節では、退行催眠によって導き出された記憶を中心に、研究者たちの手により過去生の存在をどのようにして確認し得るのかについて例示したい。

 

1.退行催眠の方法

 一般に誤解されがちであるが、催眠とは奇術でも魔法でもなく、意識を特定の一点に集中させることにすぎない。訓練を受けたセラピストの誘導によって、被験者あるいは患者の身体が十分にリラックスすると、忘れていた昔の記憶がよみがえってくる。それを思い出すことによって、不安症を軽くしたり、恐怖心を取り除いたりすることができる。例えば、「水」に対して原因不明の強い恐怖感を抱く患者に退行催眠を試みると、幼い頃にプールで溺れて死にかけたことを思い出す。また、「暗闇」に対して異常な恐怖を抱く患者は、幼少時に暗闇の中で何者かに襲われた記憶にたどり着くのである。

 ちなみに、出生前・周産期心理学協会副会長のデヴィッド・チェンバレン博士は、数多くの被験者たちを出生時や胎児の頃の記憶にさかのぼらせることによって、生まれる前の胎児がすでに母親の声を識別し、生まれたての赤ちゃんが両親の感情を理解していることを発見した。誕生直後に「何だ、男の子だったら良かったのに」などとがっかりする親の感情を敏感に受信し、赤ちゃんは心に深い傷を受け、その傷が後に心身症(例えば男性コンプレックス)の症状として現れることも多いという。

 また、催眠は眠っている状態とは異なり、被験者は自分の経験を全て意識し、被験者はセラピストの言葉に応じて、自分の意志で意見を述べたり、批判したり、自らの記憶を検閲することができる。催眠とは、心の秘密を強制的にしゃべらせるものではなく、記憶を無理やりに創作させることでもない。過去生を思い出す場合にも、映画を見るように自分の過去生を観察する場合もあれば、過去生の中に入り込んで感情的に反応したり、実際に物音が聞こえたり匂いを感じる場合もある。セラピストが催眠中の記憶を消す指示をしない限り、被験者は催眠から覚めた後にも催眠中の体験を全て覚えているし、本人が中止したいと思えば、いつでも自分の意志で催眠状態から抜け出すことができるのである。

 したがって、深い催眠状態で自分の過去生を次々と思い出している最中でも、被験者はセラピストの質問に答え、普段の言葉で喋り、思い出している事柄の場所や時代を知ることができる。そのため、例えば自分が中世ヨーロッパの戦争で戦っている農民だと発見した被験者が、その過去生の中に現在の知人(過去生でも知り合いであった)がいることを見つけ出したり、その過去生で使っていた原始的な武器を現在の武器と比較したり、当時の年月日を詳しく述べたりすることができるのである。言い換えれば、退行催眠の被験者は、過去生という映画の観客であると同時に、主人公でもあり、その映画の批評家であるとも言えよう。


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