前頁へ
〜 『山出し』 〜
ちょうど朝飯もちゃんと食べていなかったので、この差し入れは非常に有難かったのだが、一つ問題が生じた。“ちょっと”参加してみるつもりが、どうやら号令係として最後まで責任もって引かなくてはならなくなったのだ！(笑)。
まあ、こっちの方がどう考えても面白いし、下でただ見ているのも芸がないからちょうど良いのだけれど、そう言えば朝のうちに確保した場所はどうなったのだろう。ゴザ代わりにそこらで拾った薄っぺらいビニールシートをひいておいたのだけれども…。結局最後までそこに戻ることはなかったのでわからずじまいである。勿体なく無人の空き地が出来ていたのか、それともちゃっかりした輩が、主が居ないと見るや横取りしてくれただろうか。今となってはまったく確かめようもない。
『山出し』は３、４ｋｍの行程を進むだけなのだが、ただ引きずるだけなので当然速度は遅いなんてものじゃない。しかもずっと引き続けるのも根性が持たないからちょくちょく休憩が入るわけだ。休憩時間が終わると消防隊のラッパの音と女衆の甲高い声の奇妙な歌(？)と共に再び引き始めるのだけれどもやっぱり遅々として進まない。しかも前後８本の御柱をそれぞれ数百人で引っぱっているわけだから、当然渋滞が起こる。一時間で何百ｍ進めるのだろうか、先の道のりを考えると考えたくない速度である。
ニセ岡谷市民の号令はまだまだ続いていたが、だんだんいいかげんになってきた。なんせもう４、５時間は号令のかけっぱなしなのである。しかも木落し坂はまだまだ先だ。知り合った小学生と一緒に『イチ、ニ、サン、シ(三枝)、いらっしゃ〜い』となどとくだらない掛け声までやっている始末だ。ただ、観客が多かったりTVカメラがあったりするとまじめにやる。しまいには観衆に向けて手振りをして「さあごいっしょに！」てなかんじで号令をあげている。困ったものだ。
ちなみに、後で色々とTVのオンエアを確認してみたが自分達の姿はどこにも確認できなかった。当然だ！ハッピ姿でもないただの飛び入りがいくら声を張り上げたところで絵にならないのである！
木落し坂を上から見たところ。
見えないが途中石垣などの段差もある。
ここを一気に駆け降りるのだ
ちゃっかりと岡谷市の休憩所で昼食を頂いている時に事件は起こった！なんとちょっと目を離したすきに“切り込み隊長”佐藤の綱が何者かに持ち去られてしまったのだ。
始まる様子を見せない『木落し』に業を煮やした観衆のいくらかが上まであがって来ており、御柱の綱を見た人が自分もひこうと持っていってしまっているのだ。佐藤のほかにも持っていかれた者が結構あり、さらにその上まであがってきた観衆のためにさらに渋滞する始末で、みんな結構腹を立てていた。下でおとなしく待ってろっての！
しかしよくよく考えると我々も似たようにどこからか綱を調達してちゃっかり『山出し』に加わった人間である。文句を言える立場でないはずなのだが、すでに我々はニセ岡谷市民として本物の岡谷市民との結束を固めている。佐藤の綱がなくなったというので急いでワラをよりあげて新しい綱を作ってくれる人までいる。すでにニセ岡谷市民ということは自分らで喋ってしまって判っているのにだ。実に有難い。ニセ岡谷市民も捨てたもんじゃあない(笑)。
そしてついに木落し坂上部にたどり着いた。いよいよである。
〜 『木落し』 〜
女性や子供は危ないから止めろという指示の後、消防団による進軍ラッパと｢木遣り（きやり）」と呼ばれる甲高い女衆の掛け声の後、一気に木落し坂に飛び出した！
もうむちゃくちゃである。石垣をジャンプして飛び降りたり、つまづいて引きずられる人がいたり。必死に縄につかまり、それに体を預けて突進する。
自分はというと、なんだか余裕で楽しんでいて、坂を駆け降りながらかばんからカメラを取り出しシャッターを押している。使い捨てカメラだったから大急ぎでフィルムを巻きながらである。ナメたもんだ。
〜 あとの祭 〜
木落し坂の下を埋め尽くした観衆
この時点ではまだ御柱本体は坂を下りていない。この後、下から綱を一斉に引くと同時に綱が斧で切られ、御柱が氏子と共に坂を駆け降りるというクライマックスが待っているのだが、それを待たずして我々の御柱祭はこの時すでに終わっていた。
予定通りの本数の木落しも行えず、翌日に持ち越しと決まったころにはすでに日も暮れかかり、何の用事があったかは忘れたが、急いで家路に向かおうとした自分を待っていたのは、車に積んだまま忘れさられ、熱でひしゃげてしまったレコード達だった。
1999.7.20 Itoh Akira
アホアホ探検記索引へ
