chapter1-5:「和解」




あれから、場所を居間に移して数分。
テーブルを挟んで夕貴はサリスと向かいあって座っていた。

「……なるほど」

話を聞いていた夕貴はインスタントの珈琲を手に軽く頷いた。
夕貴がサリスから聞いた話をまとめると、こうなる。

18年前、サリスが幼い頃に殺されそうになったことがあった。
その時の恨みを晴らそうと画策していた所、つい最近親しい友人から『手がかり』を掴んだので 遠い日本まで家族の反対を押し切って来たらしい。

(ったく、誰だよその友人とやらは……)

事態の全容を理解した夕貴がまずはじめにやったのは、大きなため息をつくことだった。
この件の発端が自分の父親が原因となっていることもあるが、 能力を行使したことによる疲労も相まって怒ろうにも元気が出ない。

二人とも喋る気配がないため、その場にしばらく静寂が訪れた。

反省しているらしく、顔を俯かせたままサリスは動かない。
夕貴はしばらく目を泳がせるようにしていたが、その口元がニヤリと形作る。
目の前に持ってきた手を重ねるように叩くと、さも思い出したように喋り始めた。

「おお、そういえば"魔"同士の私闘は禁止されていないんだが――
あいにく俺は退魔庁に退魔士として登録されていたりするんだ」

今はフリーだがな、と付け加える。
何を思いついたか一転して嬉しそうに語りだした夕貴。
夕貴の科白に顔をあげたサリスを一瞥して続ける。

「ちなみに『退魔士への不当な敵対行動』に抵触する」

とたんにサリスの顔色が見た目にもわかるくらい青くなる。

夕貴が述べた退魔士への不当な敵対行動とは、 退魔庁に正規登録してある退魔士への攻撃行為を罰する規約である。
しかし、当人達の間に正当な理由があればその限りではない。
もちろん、サリスの勘違いと早とちりで起こった今回の事件はその理由にあたらないが。

日本において異能力者を管理する立場にある退魔庁が定めた規約は、 違反者への罰則がとてつもなく厳しい。
軽いものには謹慎措置から、酷くなると一族もろとも根絶やしなんてものもある。

「わ、わざとじゃないのに?」

さきほどまで冷静な声色だったものが、幾分上ずった様子で尋ねる。

「ああ。しかも今回のような場合、その関係者への処分は現場の裁量に委ねられたりする」

ちなみに、ここでいう現場とは夕貴の事である。
おもむろに立ち上がりながら言っていることは至極まともなのに、その口調は楽しそうだ。

「んでもって、処分だが――」

そう言いながら先程から夕貴の言葉に聞き入っているサリスにゆっくりと足を進める。

「……処分は?」

己にゆっくり近づく夕貴に訝しげな視線を向けてサリスが問う。

(さてさて……どんな反応が返ってくるか)

ソファーに座っているサリスの横に来るといったん立止まる。
夕貴の顔を真剣な眼差しで見ながらサリスは息を呑む。

「……こういう処分でどうだ」

言うが早いか、そのままサリスをソファーの上に組み伏せる。
仰向けに倒れたサリスの身体に覆い被さるように上からソファーに片手をついて、もう一方の腕は床へ向かう。

「えっ!?ええっ!?」

予想もしていなかった事態に、遅れてサリスが慌てる。
続いて眼前に現れた夕貴の顔がサリスのそれとの距離を縮めてきた。

「いっ、やぁっ!!」

混乱したなかで夕貴の胴をどかそうとするが、それを事も無げに夕貴の腕が抑える。
まるで予測されていたかのような夕貴の手際の良さ。
妙な不自然さを感じたサリスは夕貴の瞳の色がおかしいことにはじめて気付いた。

(あ……)

ついさっきまで見ることのできた薄茶色の瞳は、底なしの闇のように黒く変化している。
ずっと見つめていると引き込まれそうな、闇色の瞳がそこにあった。

(なんて……綺麗……)

逃げることも忘れて、食い入るように見つめ続ける。
サリスはいつのまにか自分が見惚れていることに気付いていない。

「なんてな」

サリスが動かなくなったのを見た夕貴はそう言って身体を退かした。
しかし、サリスの反応は無い。

「……やり過ぎたか?」

夕貴がサリスの身体の上から立ち退いてそろそろ一分が経過した頃。


(……はっ)

ようやく起き上がったサリスは、にわかに顔を紅潮させてその視線を夕貴へ向けた。

「なっ、何するのよっ!!」

サリスは顔を赤く染めたまま怒鳴る。 それを平然とした顔をして受け止める夕貴。

「何って、冗談だ、冗談。」

悪びれも無く言い放つ夕貴は二杯目となる珈琲を入れるため台所へ向かった。
直後、その背にテーブルの上に載っていたリモコンが勢いよく飛来する。

「おっ」

頭に直撃するコースを取っていたそれを、夕貴は首を横に傾げて回避する。

「避けないでよ!」

背を向けたまま鮮やかに避けた夕貴を見てサリスは口を尖らせる。

「無茶苦茶言うなよ……」

己の顔の真横を通過した物体の末路を見届けた夕貴。
その胸中では自室でクローゼットを突き破り、大破した目覚まし時計の姿を偲んでいた。




ぼぉぉん。

居間の壁にかけられた時計の音が午後十時を告げる。

「本当に、いいの?」

「ああ。大した怪我もしなかったし」

あれから、二人は再び居間で向かい合って座っていた。
サリスも元の落ち着きを取り戻し、己の非礼を再度謝っている。

そして今、テーブルの上には開いたままのアルバムが置かれていた。
その表面も少し剥げかけており、古臭い感じがする。

「親父の写真って言ってもなあ」

言いつつ夕貴はページをめくる。
探す気があるのか無いのか、片肘をついて欠伸さえしている。

「これか?」

向かい側で同じように探していたサリスが夕貴の指す写真を覗きこむ。
そこには、無表情な青年の姿が写っていた。
その写真の下には武人・16歳と記してある。

「……やっぱり、似てる」

写真に写る青年と目の前の夕貴を見比べるサリス。
夕貴は怪訝な眼でサリスを見返す。

「そんなに似てるのか?」

夕貴は写真の青年と、ついこの間見た自分の父親とを頭の中で掛け合わせようとした。
無愛想に見える青年と、筋骨隆々の微笑む大男。

「……変わりすぎだ」

どこを如何したらそうなるのか、と心の中で突っ込んだ。




夕貴はしばらく眺めるように見ていたが、眉間を揉むような仕草をしてアルバムを閉じた。

サリスもアルバムを閉じると、テーブルの上にそっと置いた。
夕貴が居間の時計に目をやると、長針は真下を指している。

「もう遅いし、帰るわね」

同じように時計を見たサリスが立ち上がった。
夕貴も立ち上がり、玄関まで見送る。

外は既に帳を降ろしており、電灯の光が微かに揺れていた。
月でも出ているのか、ぼうっとした薄黒い闇が周りを包む。

夕貴が外の風景に気を取られていると、玄関を出たサリスが頭を下げる。

「あの、今日は、本当にごめんなさい」

「だから良いって。それとも、何か処分が欲しいとか?」

夕貴の言葉に居間での事を思い出したのかサリスの頬に朱が差す。

「――冗談だ。それじゃまた明日な、先生」

その姿に苦笑した夕貴は、サリスが二の句を告ぐ前に玄関のドアを閉じた。

表に残されたサリスは、しばらくプルプルと震えていた。
やがてため息をついて帰路へつく。

「覚えてなさいよ、古姫……」

途中で、焚きつけた友人の名を呟きながら。




サリスと別れた後に自室へ戻った夕貴は、空を眺めていた。

「満月――か。」

その眸に月を映しながら呟く。

「……疲れた。」

本日幾回目となる言葉とともにベッドへ身体を投出す。

そのまま、誘われるように眠りについた。








ひさびさとなる後書き

とりあえず夕貴とサリスの馴れ初めです。
かなり不自然なところがありますが(サリスが担任教師を務めていること等
あんまり気にしないでください。気にしちゃ負けです(何
それと、誤字や表現がおかしい所などがありましたら是非ともご指摘お願いします。


ソースは見ないで(ぉ




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