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分岐のある系列


一つの核種が壊変して別の核種に変化し、それが壊変してまた別の核種に変化してというような、一連の核種の集まりを壊変系列とよぶ。 壊変系列においてはα壊変、β-壊変、核異性体転移(IT)が連なっていく。 原子がα壊変したとき原子番号が2減り、質量数が4減る。 β壊変したときは原子番号が1増え、質量数は変化しない。 核異性体転移のときは原子番号も質量数も変化しない。 したがって同一の壊変系列に属する核種では、質量数を4で割ったときの余りが同じである。 大きな系列をなすものが4種知られており、ウラン・ラジウム系列、アクチニウム系列、トリウム系列、ネプツニウム系列と名付けられている。 質量数を4で割ったときの余りは順に、2、3、0、1である。 それぞれ、4n+2系列、4n+3系列、4n系列、4n+1系列とよばれることもある。 ネプツニウム系列を除いて、系列の最後は鉛に落ち着く。 ネプツニウム系列は親核種の半減期が短いため、自然界には残存していない。

本稿 「ウラン・ラジウム系列」 で述べたように、ウラン系列では一つの核種が2種以上の壊変をすることはなかった。 正確にいうと別種の壊変を起こす度合いは非常に低いものでしかないが、 トリウム系列などでは無視できない割合で壊変の分岐が起こる。 以下に分岐の様子を示す。

ウラン系列
  核種 元素記号 形式 確率(%) 娘核種 半減期
1 ウラン238 238U,  U(I) α - 234Th 4.468 x 109 y
2 トリウム234 234Th,  UX1 β- - 234mPa 24.10 d
3 プロトアクチニウム234m 234mPa, UX2m β-
IT
99+
0.16
234U
234Pa
1.17 m
3-1 プロトアクチニウム234 234Pa,  UZ β- - 234U 6.70 h
4 ウラン234 234U,  U(II) α - 230Th 2.455 x 105 y
5 トリウム230 230Th,  Io α - 226Ra 7.538 x 104 y
6 ラジウム226 226Ra,  Ra α - 222Rn 1.600 x 103 y
7 ラドン222 222Rn,  Rn α - 218Po 3.824 d
8 ポロニウム218 218Po,  RaA α
β-
99.98
0.02
214Pb
218At
3.10 m
9 鉛214 214Pb,  RaB β- - 214Bi 26.8 m
9-1 アスタチン218 218At α
β-
99.9
0.1
214Bi
218Rn
1.6 s
10 ビスマス214 214Bi,  RaC β-
α
99.979
0.021
214Po
210Tl
19.9 m
10-1 ラドン218 218Rn α - 214Po 3.5 x 10-2 s
11 ポロニウム214 214Po,  RaC' α - 210Pb 1.643 x 10-4 s
11-1 タリウム210 210Tl,  RaC'' β- - 210Pb 1.30 m
12 鉛210 210Pb,  RaD β-
α
99+
1.9 x 10-6
210Bi
206Hg
22.3 y
13 ビスマス210 210Bi,  RaE β-
α
99+
1.32 x 10-4
210Po
206Tl
5.013 d
13-1 水銀206 206Hg β- - 206Tl 8.15 m
14 ポロニウム210 210Po,  RaF α - 206Pb 138.4 d
14-1 タリウム206 206Tl,  RaE'' β- - 206Pb 4.199 m
15 鉛206 206Pb,  RaG - - -


アクチニウム系列
  核種 元素記号 形式 確率(%) 娘核種 半減期
1 ウラン235 235U,  AcU α - 231Th 7.038 x 108 y
2 トリウム231 231Th,  UY β- - 231Pa 25.52 h
3 プロトアクチニウム231 231Pa α - 227Ac 3.276 x 104 y
4 アクチニウム227 227Ac β-
α
98.62
1.38
227Th
223Fr
21.77 y
5 トリウム227 227Th,  RdAc α - 223Ra 18.72 d
5-1 フランシウム223 223Fr,  AcK β-
α
99+
6 x 10-3
223Ra
219At
21.8 m
6 ラジウム223 223Ra,  AcX α - 219Rn 11.44 d
6-1 アスタチン219 219At α
β-
97
3
215Bi
219Rn
56 s
7 ラドン219 219Rn,  An α - 215Po 3.96 s
7-1 ビスマス215 215Bi β- - 215Po 7.6 m
8 ポロニウム215 215Po,  AcA α
β-
99+
2.3 x 10-4
211Pb
215At
1.781 x 10-3 s
9 鉛211 211Pb,  AcB β- - 211Bi 36.1 m
9-1 アスタチン215 215At α - 211Bi 1.0 x 10-4 s
10 ビスマス211 211Bi,  AcC α
β-
99.724
0.276
207Tl
211Po
36.1 m
11 タリウム207 207Bi,  AcC'' β- - 207Pb 4.77 m
11-1 ポロニウム211 211Po,  AcC' α - 207Pb 0.516 s
12 鉛207 207Pb - - -


トリウム系列
  核種 元素記号 形式 確率(%) 娘核種 半減期
1 トリウム232 232Th α - 228Ra 1.405 x 1010 y
2 ラジウム228 228Ra,  MsTh1 β- - 228Ac 5.75 y
3 アクチニウム228 228Ac,  MsTh2 β-
α
99+
5.5 x 10-6
228Th
224Fr
6.15 h
4 トリウム228 228Th,  RdTh α - 224Ra 1.913 y
4-1 フランシウム224 224Fr β- - 224Ra 3.30 m
5 ラジウム224 224Ra,  ThX α - 220Rn 3.66 d
6 ラドン220 220Rn,  Tn α - 216Po 55.6 s
7 ポロニウム216 216Po,  ThA α - 212Pb 0.145 s
8 鉛212 212Pb,  ThB β- - 212Bi 3.30 m
9 ビスマス212 212Bi,  ThC β-
α
64.1
35.9
208Po
212Tl
60.55 m
10 ポロニウム212 212Po,  ThC' α - 208Pb 2.99 x 10-7 s
10-1 タリウム208 208Tl,  ThC'' β- - 208Pb 3.053 m
11 鉛208 208Pb,  ThD - - -


9段目のビスマス212に注目していただきたい。 ビスマス212は 64.1% がポロニウム208に変化し、 35.9% がタリウム212に変化する。 平衡状態でポロニウム208とタリウム212がどの位の量になるかを推定したい。 親核種 (トリウム232) の初期量を N0 、壊変定数を λ1 とする。 第 k 段目の核種の壊変定数を λk 、核種の量を Nk とする。 分岐がない場合、平衡状態では次の関係式を満たしている。 どの子孫核種も親核種と同じ壊変定数 λ1 にしたがう。

N1 = N0 exp(-λ1t)
Nk = (λk-1/(λk1)) Nk-1   (k=2,3,...)

系列に分岐がある場合にも適用できるよう、これを修正する。 第 k-1 段の核種(i)から第 k 段の核種(j)に移るときの分岐確率を rk-1(i,j) (i=1,2,..) とすると、核種の量は次のように表すことができる。 Σ は第 k 段の核種 Nk(j) に至るすべての分岐について加えあわせる。

N1 = N0 exp(-λ1t)
Nk(j) = (1/(λk(j)1)) Σi(rk-1(i,j) λk-1(i) Nk-1(i))

これが分岐がある系列での、平衡状態における子孫核種量を求めるための方法である。 具体例で計算しよう。 ポロニウム208の量を NP 、タリウム212の量を NT とし、平衡状態において、これらの量がビスマス212の量 NB の何倍になるかを求める。 上の計算方法から次のように求められる。

┌ (64.1%) - Po
Bi  
└ (35.9%) - Tl
NP = (1/(λP1)) x 0.641 λB NB = 5.2755 x 10-11 NB
NT = (1/(λT1)) x 0.359 λB NB = 0.0181 NB
ネプツニウム系列
  核種 元素記号 形式 確率(%) 娘核種 半減期
1 ネプツニウム237 237Np α - 233Pa 2.14 x 106 y
2 プロトアクチニウム233 233Pa β- - 233U 26.97 d
3 ウラン233 233U α - 229Th 1.592 x 105 y
4 トリウム229 229Th α - 225Ra 7.34 x 103 y
5 ラジウム225 225Ra β- - 225Ac 14.9 d
6 アクチニウム225 225Ac α - 221Fr 10.0 d
7 フランシウム221 221Fr α - 217At 4.9 m
8 アスタチン217 217At α
β-
99+
0.012
213Bi
217Rn
3.23 x 10-2 s
9 ビスマス213 213Bi β-
α
97.91
2.09
213Po
209Tl
45.59 m
9-1 ラドン217 217Rn α - 213Po 5.4 x 10-4 s
10 ポロニウム213 213Po α - 209Pb 4.2 x 10-6 s
10-1 タリウム209 209Tl β- - 209Pb 2.20 m
11 鉛209 209Pb β- - 209Bi 3.253 h
12 ビスマス209 209Bi - - -


分岐したものがふたたび合流する例を考える。 ネプツニウム系列のポロニウム213はビスマス213からとラドン217の両方から生成される。 両核種ともアスタチン217から生成されたものである。 これらの核種 (ビスマス213、ラドン217、ポロニウム213) の量がアスタチン217の何倍であるかを確かめよう。 計算方法は上の例と同様である。 アスタチン217、ビスマス213、ラドン217、ポロニウム213、タリウム209の量を NA,NB,NR,NP,NT とする。

 (0.012%)    Rn    (100%) 
At     Po
 (99.988%)    Bi    (97.91%) 
 (2.09%)    Tl
NR = (1/(λR1)) x 0.00012 λA NA
   = 2.01 x 10-6 NA

NB = (1/(λB1)) x 0.99988 λA NA
   = 84700 NA

NP = (1/(λP1)) x (0.9791 λB NB + 1 λR NR)
   = (1/(λP1)) x (0.9791 λB x 84700 NA + 1 λR x 2.01x10-6 NA)
   = 1.27 x 10-4 NA

NT = (1/(λT1)) x 0.0209 λB NB
   = (1/(λT1)) x 0.0209 λB x 84700 NA
   = 85.4 NA

分岐確率を示す代わりに、部分壊変定数あるいは部分半減期を示すことも行われる。 ビスマス213がβ壊変する確率は 97.91 % 、α壊変する確率は 2.09 % となっている。 ビスマス213の全半減期は 45.59 分であるが、α壊変についての部分半減期は 36.36 時間であるというように用いる。 もしビスマス213がα壊変だけを起こすと仮定すれば半減期が 36.36 時間になるという意味であり、実際の核種量の時間的推移を表すものではない。 それぞれの値を示す。

λ = 2.534 x 10-4 (s-1)
T = 45.59 (m)

λβ = 0.9791 λ = 2.481 x 10-4 (s-1)
Tβ = T/0.9791 = 46.56 (m)

λα = 0.0209 λ = 5.296 x 10-6 (s-1)
Tα = T/0.0209 = 36.36 (h)

すでに分岐のある系列について、平衡状態における子孫核種の量を与えたが、その公式を部分壊変定数に置き換えた形を確認しておく。 分岐確率 rk-1(i,j) が不要になり、親核種(i)から娘核種(j)への部分壊変定数 λk-1(i,j) を用いるように改めた。

N1 = N0 exp(-λ1t)
Nk(j) = (1/(λk(j)1)) Σik-1(i,j) Nk-1(i))


Excelシート

引用・参考文献
理科年表
放射線取扱の基礎