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ウラン・ラジウム系列


壊変系列のひとつにウラン系列 (ウラン・ラジウム系列) がある。 ウラン238を先頭に鉛206にまで連なる系列である。 全ての核種が質量数を4で割ると2余ることから 4n+2 系列ということもある。 ウラン系列の壊変様式を次に示す。 それぞれの段階において、99%以上の確率でこの形式の壊変が起こる。 半減期の単位 y, d, m, s は 年,日,分,秒 である。

ウラン系列
系列 核種 元素記号 壊変形式 半減期
1 ウラン238 238U,  U(I) α 4.468 x 109 y
2 トリウム234 234Th,  UX1 β- 24.10 d
3 プロトアクチニウム234m 234mPa,  UX2m β- 1.17 m
4 ウラン234 234U,  U(II) α 2.455 x 105 y
5 トリウム230 230Th,  Io α 7.538 x 104 y
6 ラジウム226 226Ra,  Ra α 1.600 x 103 y
7 ラドン222 222Rn,  Rn α 3.824 d
8 ポロニウム218 218Po,  RaA α 3.10 m
9 鉛214 214Pb,  RaB β- 26.8 m
10 ビスマス214 214Bi,  RaC β- 19.9 m
11 ポロニウム214 214Po,  RaC' α 1.643 x 10-4 s
12 鉛210 210Pb,  RaD β- 22.3 y
13 ビスマス210 210Bi,  RaE β- 5.013 d
14 ポロニウム210 210Po,  RaF α 138.4 d
15 鉛206 206Pb,  RaG -


原子番号・質量数の配置
  206 210 214 218 222 226 230 234 238  
93  
 
                Np
92               234U
4
238U
1
U
91               234Pa
3(-1)
  Pa
90             230Th
5
234Th
2
  Th
89  
 
                Ac
88           226Ra
6
      Ra
87  
 
                Fr
86       218Rn
10-1
222Rn
7
        Rn
85       218At
9-1
          At
84   210Po
14
214Po
11
218Po
8
          Po
83   210Bi
13
214Bi
10
            Bi
82 206Pb
15
210Pb
12
214Pb
9
            Pb
81 206Tl
14-1
210Tl
11-1
              Tl
80 206Hg
13-1
               
 
Hg


本稿 「放射平衡」 を応用して、平衡が成立した後の核種の存在比率を求めることができる。 親核種・ウラン238がはじめに N0 個あり、原子数 N1 、壊変定数 λ1 とする。 娘核種・トリウム234は、原子数 N2 、壊変定数 λ2 とすると、核種数は次の条件を満たす。

N1 = N0 exp(-λ1t)
dN2/dt = λ1N1 - λ2N2

これを解いて次の N2 が得られる。

N2 = (λ1/(λ21))N0 exp(-λ1t) + (N2,0-(λ1/(λ21))N0) exp(-λ2t)

十分長い時間が経過して放射平衡の状態になると、娘核種も親核種と同じ壊変定数にしたがって変化し、 N1N2 の間には次の比例関係が成立するようになる。

N2 = (λ1/(λ21))N1

この導出過程を参考に、娘核種と孫核種の平衡関係を導く。 親核種と娘核種がすでに平衡状態にあり、孫核種・プロトアクチニウム234mが原子数 N3 、壊変定数 λ3 とすると、 N3 は次の条件を満たす。

N2 = (λ1/(λ21)) N0 exp(-λ1t)
dN3/dt = λ2N2 - λ3N3

これを解くと N3 は、

N3 = (λ2/(λ31))(λ1/(λ21))N0 exp(-λ1t) + (N3,0-(λ2/(λ31))(λ1/(λ21))N0) exp(-λ3t)

となる。 λ13 ならば孫核種でも放射平衡が成立して、十分な時間が経過した後では、比例関係 N3=(λ2/(λ31))N2 がなりたつ。 一般には次の関係がある。

Nk = (λk-1/(λk1)) Nk-1

これで放射平衡に達した核種の存在比が計算できるようになった。 ウラン238 (238U) の量を1とした場合のトリウム234 (234Th) とプロトアクチニウム234m (234mPa) の存在量は次式で計算ができる。

238U  = 1

234Th = λ1/(λ21)
     = (1/4.468x109 y) / ((1/24.10 d) - (1/4.468x109 y))
     = 1.477 x 10-11

234mPa = {λ1/(λ21)} x {λ2/(λ31)}
     = 1.477 x 10-11 x {(1/24.10 d) / ((1/1.17 m) - (1/4.468x109 y))}
     = 4.979 x 10-16

ウラン系列が放射平衡に至った場合の核種の存在比を下に示す。

平衡時の核種存在量
系列 核種 半減期 相対存在量 相対放射能
1 ウラン238 4.468 x 109 y 100 100
2 トリウム234 24.10 d 1.4768 x 10-9 100
3 プロトアクチニウム234m 1.17 m 4.97885 x 10-14 100
4 ウラン234 2.455 x 105 y 0.00549493 100
5 トリウム230 7.538 x 104 y 0.001687229 100
6 ラジウム226 1.600 x 103 y 3.58128 x 10-5 100
7 ラドン222 3.824 d 2.34344 x 10-10 100
8 ポロニウム218 3.10 m 1.31928 x 10-13 100
9 鉛214 26.8 m 1.14054 x 10-12 100
10 ビスマス214 19.9 m 8.46891 x 10-13 100
11 ポロニウム214 1.643 x 10-4 s 1.16536 x 10-19 100
12 鉛210 22.3 y 4.99141 x 10-7 100
13 ビスマス210 5.013 d 3.07209 x 10-10 100
14 ポロニウム210 138.4 d 8.48151 x 10-9 100
15 鉛206 - -
- 合計 - 100.0072185 1400


ウラン系列では平衡に至ると永続平衡になる。 系列のすべての段階で、親核種がもつ放射能と娘核種がもつ放射能は等しい。 この系全体のもつ放射能はウラン238だけが存在する場合の14倍となる。

次に、天然ウランにおける同位体の存在比率を表に示す。

同位体存在比率
質量数 存在比率(%)
ウラン
234 0.0055
235 0.7200
238 99.2745


放射平衡に至ったときのウラン238とウラン234の比が 100 対 0.00549493 となるのに対して、天然ウラン中の存在比は 99.2745 対 0.0055 とほぼ一致している。 天然ウラン中ではこれらの同位体は放射平衡の状態にあると推測できる。

精製した単体ウランがあるとき、どれくらいの時間で平衡に至るかを調べる。 ウラン238だけがあってトリウム234がない状態から開始して、トリウム234がどのように増加していくかを示したのが次の表である。 Th234/U238 の値を平衡値 λ1/(λ21) で除算した値を記してある。 平衡に達するとこれが100%になる。 もし親核種の壊変が非常に遅ければ (λ1<<λ2) 、この比率は次式のように表される。

1-exp(-λ2t) = 1-(1/2)t/T2
平衡成立までの日数
日数 Th234/U238
の比 (%)
日数 Th234/U238
の比 (%)
0 0 80.1 90
10 24.99 90 92.49
20 43.74 100 94.36
24.1 50 104.2 95
30 57.80 110 95.77
40 68.35 120 96.83
48.2 75 130 97.62
50 76.26 140 98.22
60 82.19 150 98.66
70 86.65 160 99.00
72.3 87.5 160.1 99
80 89.98 100


精製ウランを放置すると、約24日で平衡時の50%の量にまで増え、80日で90%、160日では99%にまで増加する。 これ位の日数でほぼ平衡に至ることがわかる。 トリウム234の娘核種であるプロトアクチニウム234も半減期が短いので、この段階まではすぐに平衡が成立する。 ウラン元素は大半がウラン238から成る (同位体存在比率の表参照)。 数十日放置した精製ウランはウラン238単独の場合と比べて、約3倍の放射能をもつと考えてよい。



Excelシート

引用・参考文献
理科年表
日本原子力文化振興財団

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