「アダムの呪い」 を読んで
このページは「アダムの呪い」 (ブライアン・サイクス)を読んで思ったことを日記に綴ったものをまとめたページです。
目次
1. Y染色体
2. 姓とY染色体の関係 ちょっと注意
3. 姓
4. マクドナルド姓について
5. 増殖したY染色体
6. もっと増殖したY染色体
7. それはジンギスカンのもの
8. ヨーロッパ人のY染色体
9. いよいよ「性選択」について
10. クジャクの雄の尾羽
11. メスに選択権あり
12. ゾウアザラシのオス
13. ヒトの性選択
14. ヒトの性選択のポイントは経済力
15. 経済力が「アダムの呪い」の元凶
16. 農耕の開始と「アダムの呪い」
17. 農耕の開始で何が起こったか
18. 「アダムの呪い」とは?
19. 冨と「アダムの呪い」
20. 有史以前の「アダムの呪い」
21. 戦争
22. Y染色体の暴走は止められない
23. ヒトは危険な生物
24. 性選択のしくみが変われば
25. 貧富の差
26. 地球の破滅
27. 「アダムの呪い」を解くには
28. 精子が衰えている
29. 精子の姿もひどいことに
30. 精子減退の原因
1. Y染色体
Y染色体が遺伝という現象の中で何が特別なのか見てみましょう。
Y染色体は本当に特別な染色体なのです。なんと言っても男性しかもたず女性はもたないのですから。同じ性染色体でもX染色体は男性にも女性にもありますからこちらは男女共通と言えます。違うのは男性がX染色体を1本もち女性が2本もつということです。X染色体は男女どちらにもありY染色体は男性にだけある。これが肝心な所です。
そして、Y染色体は男性から男性へと伝わって行くのみです。ある人が男子を一人もつくらなければ、その人のもつY染色体はそこで消滅してしまいます。逆に言えば、現在存在しているY染色体は太古から途絶えることなくずっと伝えられてきた染色体なのです。
しかも、他の染色体と違って他人の染色体と混ざり合うことなくほぼそのままの形で子孫代々男子が受け継いでいくのです。
子孫代々男子が受け継いでいくというとあることが頭に浮かぶと思いますが、果たして何を思い浮かべますか?
では、今日はこれまで。また会いましょう。
2. 姓とY染色体の関係 ちょっと注意 目次へ
子孫代々男子が受け継いでいくというとあることが頭に浮かぶと思いますが、果たして何を思い浮かべますか?
そうです。それは姓なのです。姓のことを苗字または氏と言うこともあります。
姓は大抵は男性から男性へと伝えられます。ただ、養子を迎えたり妻が不義密通(ずいぶん大層な言葉を使ってしまいました。)などをする場合もあるので姓は直系の男子が途絶えてもあかの他人に伝えられることがあります。でも、Y染色体は違います。これは完璧に男系相続で、ある人が男子をもうけずに途絶えてしまえばもうそれきりでその人が先祖から受け継いできたY染色体は消滅してしまいます。
姓とY染色体の関係。これについて次回お知らせします。
3. 姓 目次へ
姓とY染色体の関係について述べる前に、少し断っておかなければならないことがありますのでそれをまず記します。
日本の場合、明治時代になってこれまで姓を持てなかった武士階級以外の多くの人たちが急に姓を持つようになりました。そのため、血縁と姓の関係が大幅に狂うことになってしまい、同じ姓の男性であるから多少の血縁関係があり同じY染色体を持っているとはなかなか言えなくなりました。これと同じことがイングランドでもおこり1300年ごろ農民が領主の姓をもらったり自分の職業を姓にしたりという大変動が起こりました。ですから、姓とY染色体の関係は日本ばかりではなく少なくとも英、米でもあまりはっきりした関係がなくなっています。
4. マクドナルド姓について 目次へ
12世紀にスコットランドからバイキングを追放した英雄とされるサマーレッドという人物からマクドナルド、マクドゥーガル、マカリスターの氏族が別れてきたそうです。
マクドナルドとういう姓は我々日本人にもなじみのある姓です。この姓にサイクス博士は興味を持ちました。
サイクス博士はこれらの姓を持つひと100人ちかくからサンプルを提供してもらいY染色体を調べ、Y染色体指紋が一致する19人を見つけました。しかも、その19名には3つの姓が全て含まれていたのです。さらにそのY染色体指紋はこの姓の創始者サマーレッドにつながる5氏族の当主たち全てからも検出されたのです。
5. 増殖したY染色体 目次へ
マクドナルド、マクドゥーガル、マカリスター姓に共通する創始者のY染色体にたどりついた画期的な研究について前回触れました。
800年以上も前の男系祖先のY染色体を見つけることができたなんて驚きである上に、サマーレッドという一人の英雄のY染色体が姓とともに800年もの間に受け継がれ、多くの男性の体に増えているということにも驚かされます。100人に19人という割合でサマーレッドのY染色体が見つかったのだから、世界中に何百万人もいるこれらの姓を持つ男性の19%、何十万人という男性がサマーレッドのY染色体を持っていることになります。
6. もっと増殖したY染色体 目次へ
スコットランドの12世紀の英雄サマーレッドという一人の男性(私たち日本人にはあまり知られていいませんね。)のY染色体を現代の何十万人もの男性がもっているということでしたが、ずいぶん増えたものです。英雄色を好むといいますがそのためでしょうか。実はこのことがサイクス博士の「アダムの呪い」の本題になるところの性選択という話になっていきますが、このことについてはおいおい書き込んでいきます。そのまえに増殖したY染色体についてもうひとつ、サマーレッドのY染色体よりももっと際だった例があります。こちらの英雄は日本人もよく知っている人物です。
7. それはジンギスカンのもの 目次へ
オックスフォードの研究者が発見したところによりますと、東アジアから西はカスピ海までの広範囲に分布しているY染色体があるそうです。サンプル中の割合をこの地域の人口に当てはめるとその数は一千六百万人にのぼり、サマーレッドのY染色体の比ではありません。なんとも膨大な数ではありませんか。そして、突然変異の出現頻度などから計算するとこのY染色体の起源は約千年前の男性にあるとわかりました。それではこのY染色体は誰のものでしょうか?
千年ほど前にアジアの広い範囲で活躍した男性といえばジンギスカンしかいません。ジンギスカンであれば中国から西アジアまでを駆けめぐり征服した場所の女性たちに自分の子供をたくさん産ませることは可能です。サマーレッドの場合と違い直系の子孫がいないのではっきりと言えないのですが、このY染色体はジンギスカンのY染色体である可能性がかなり高いのです。
最近、日本の研究チームがジンギスカンの墓を発見したという新聞記事がありました。もしそれが本当にジンギスカンの墓でそこに骨などが残っていればDNAを調べることも可能になり、このY染色体の正体をはっきりさせることができるでしょう。ただ、ジンギスカンの墓発見ということを中国側はあり得ないと批判しています。今後の進展が楽しみです。
8. ヨーロッパ人のY染色体 目次へ
ジンギスカンのY染色体が増えたことを述べましたが、Y染色体を調べると特定の男性のY染色体だけではなくあるグル−プのY染色体が勢力を拡大したことも分かります。そのグループとはヨーロッパ人です。
サイクス博士がミトコンドリアDNAの研究を始めるきっかけとなったのがミクロネシアのラロトンガというところです。博士がそこの男性のY染色体を調べたところ、三分の一のY染色体はヨーロッパのものであるという結果になりました。女性たちのミトコンドリアDNAはほとんどミクロネシアのものなのにY染色体だけはヨーロッパのものが大量に入り込んでいました。
また、南米ペルーでの調査では、自分たちが純粋なアメリカインディアンと思っているパスコーとリマの住人を調べたところ彼らの95%のミトコンドリアDNAが明らかにアメリカインディアンの末裔である一方でY染色体の半分はヨーロッパのものであることが判明しています。
ヨーロッパ人のY染色体は世界中に広がりました。恐るべしヨーロッパY染色体!
9. いよいよ「性選択」について 目次へ
ヨ ーロッパ人やジンギスカンそしてサマーレッドのY染色体が何百年前から今日まで消えることなく生き延びてきました。それだけではなく何倍にも増殖してきました。自然界には生存競争という厳しい掟があり、そのときどきで適さなければ消え去り適すれば生き延び、もっと運が良ければ繁栄します。これは人間社会もそうでヒトも会社もそうですよね。Y染色体も例外ではありません。ある適さないY染色体は消えてゆきジンギスカンのY染色体などのように適したものは大増殖するのです。これはダーウィンのいった適者が生き延びるという適者生存の一例と言って良いでしょう。
自然選択と同じことがY染色体にも当てはまるわけです。さらに、この場合は男、女という性が関わっており、女性がY染色体をもつ男性を選んだ結果なのです。また、必ずしも女性が男性を選んだだけではない場合もあります。ジンギスカンのように征服した土地の美女を独り占めして子供を産ませると言うこともありました。それでもこの男性という性が女性という性をたくさん集めることが出来たのですから性に関係していることには変わりありません。Y染色体が女性に選んでもらえるか、あるいは女性を集めることが出来るかによってそのY染色体が滅びるか繁栄するかが決まります。このようなことを「性選択」というのです。
いよいよ、本題である「性選択」とアダムの呪いについて触れることになりましたが、きょうはここまで。それではまた次回お会いしましょう。
10. クジャクの雄の尾羽 目次へ
「性選択」は動物をユニークなものにするようです。クジャクの雄の尾羽やゾウアザラシの雄の巨大さなどをみれば皆が納得するでしょう。
クジャクの雄の尾羽はその美しさ、見事さによって自分をアピールし雌を引きつけるためにあります。北海道の旭山動物園がいま非常に人気がありますが、私も10月に行ってみました。(実は小生、札幌の人間です。札幌からは車で2時間もあれば着きます。)アザラシ、シロクマ、ペンギン、オランウータンがメインで次に、トラ、ライオン、ヒョウ、猿山などにも展示方法の工夫が凝らされていて賞賛すべきものです。その他の動物たちは、そのうち次々と奇抜な展示方法をあみだして私たちを楽しませてくれると思いますが、今は従来道理に飼育されています。その中にクジャクもいました。運がいいことに、そのクジャクたちはちょうど一生懸命に雄が雌にアピールしている時で、きれいな尾羽を大きく広げ雌に視線を集中している雄の姿は実にすばらしいものでした。
11. メスに選択権あり 目次へ
クジャクの雄の尾羽がなんでこんなに美しく長く立派になって人間を感心させるようになったかといいますと、メスが長くて立派な尾羽をもつオスを選択してきた「性選択」の結果です。メスは尾羽がより大きく美しいオスとのみ子をつくりますが、そうでないオスとは子をつくりません。それを長年繰り返しているうちに現在の雄の尾羽は非常に長いものとなったのです。概して鳥の場合、メスに選択権がありオスはなんとかメスの気を引こうと一生懸命アピールするだけです。メスが見向きもしなければ全てが無駄骨になってしまいます。
それに対して、哺乳類の場合は、選択権が一方的にメスにあるとは言えないようです。
12. ゾウアザラシのオス 目次へ
鳥類では一方的にメスが選択権をもちオスを選んでいますが、哺乳類では少し違ってきます。哺乳類のオスはオスどうしで争ってライバルを排除してしまうことが多いのでメスには選択の余地があまり無いようです。
オスどうしの争いが激しいため、姿、形にその結果が現れた例としてゾウアザラシのオスが挙げられます。ゾウアザラシのオスはライバルのオスをけ落とすための巨大なからだをもち、相手を威嚇するかメスへのアピールに使う大きな鼻をもっています。その姿は我々ヒトにとっては怪異にしか見えませんが、体が巨大でゾウのような大きな鼻を持っているオスほど他のオスを追い払いハーレムを作り子孫を残すことができます。昔はそんなにオスも大きくはなかったのでしょうが、より大きなオスが子孫を残していくうちについに今のように巨大な体となってしまったようです。これも「性選択」による結果です。
13. ヒトの性選択 目次へ
ヒトの「性選択」のポイントは何でしょうか。それは、なんといっても男性の経済力でしょう。経済力があれば権力も付いてきます。経済力と権力は付いて回るものですから切り離すことはできませんし、どちらかについて言うだけで十分かもしれません。
男性に強い経済力があればあるほど子孫を多く残すことが出来ます。サマーレッドやジンギスカンは土地を支配し大いなる経済力と権力を得てY染色体をものすごく増やしたのです。彼らをみればわかるように、ヒトは経済力をつけるように進化したと考えられます。
石器時代は狩りが上手にできたり獲物をうまくしとめられる道具を発明したり作ることのできる男性がより健康で子育ての上手な女性を獲得し子をつくりY染色体を増やせたのでしょう。農耕が始まってからは、作物をよりたくさん収穫できたり家畜を増やすことのできた男性がY染色体を増やせたのです。ヒトは知能を自然と高めてきたように思われていますがその原動力は性選択です。性選択によってヒトはより経済力を付けるために知能を発達させてきました。これはクジャクが大きな尾羽を持つようになったりゾウアザラシが巨大になってきたのとまったく同じです。
14. ヒトの性選択のポイントは経済力 目次へ
前回、ヒトの性選択のポイントは男性の経済力であるといいましたが、経済力ということばは少し使いづらい感じがします。人類が誕生したときに経済などという大それたものはなかったのですから。経済力というよりも獲物のような生活の糧を多く手に入れる力と言うべきでしょうか。ただし、経済力といった方が短くて済むのでこのまま使うことにします。
初期の人類の男性は家族から遠く離れ仲間と共同して狩りをし家族を養う必要がありましたから、ゾウアザラシのようにただ巨体で力があればメスを獲得できるというものではありません。逆に巨体であれば狩りのための移動が出来ないし粗暴で攻撃性ばかりが強いと仲間と協力しあうことが出来ません。また、クジャクのようにただ美しく派手であれば、獲物を狩る前に見つかり逃げられてしまいます。(このことが、男性が派手な服装を嫌う理由なのでしょう。小さな男の子に赤い服を着せようとしてもいやがりますね。)
15. 経済力が「アダムの呪い」の元凶 目次へ
経済力がヒトの性選択のポイントですが、これがサイクス博士によって「アダムの呪い」と言われるものの元凶なのです。それはどういうことか。これからボチボチと述べていきましょう。
今から300万年前に現れた人類から始まるヒトの初期は、狩りをしても獲物はそんなに捕れるものではありませんでした。そのため、「アダムの呪い」も目に見えるものではなかったのです。その状態はネアンデルタール人が現れた数十万年前も同じで、我々ホモ・サピエンスが現れた15万年前でもたいした変わりはありません。火を使うようになったとか、石器を使いだしたとかの違いはあっても狩りをするという生活は300万年の間、ほとんど変わっていません。どの時代も獲物となる動物には限りがあり、周りの動物の数に左右されていたのです。この時は、まさにヒトは「自然に生かされている」という表現がぴったりだったのです。
ところが、今から1万3千年前になると状況が違ってきたのです。
16. 農耕の開始と「アダムの呪い」 目次へ
1万3千年前、氷河期が終わってまもなくの頃です。何が起こったかといいますと、中近東のチグリス・ユーフラテス川の近辺で農耕が始まったのです。人類はここで初めて小麦の種子を自分たちの集落にある土地にまいて栽培を始めました。これは人類に食料を安定に供給してくれる大変すばらしいことでした。しかし、この時から「アダムの呪い」がだんだんと目立つようになってくるのです。
農耕の開始と「アダムの呪い」がどうして関係があるのか?次回お話ししましょう。
17. 農耕の開始で何が起こったか 目次へ
農耕が始まった頃はまだ収穫物に余裕は無かったでしょうが、栽培技術がだんだん向上してくると作物は増えます。そうするとさしあたり生きていくための食料は確保され、収穫物に余りが生じます。
栽培技術の向上につれて余る作物もどんどん増えていきます。この余った作物はどうなるでしょうか?そうです。これは富となって蓄えられるのです。作物そのものが倉に蓄えられたり、物物交換で当時貴重であるとされた物に変えられて蓄えられたりしたのでしょう。
初めは1つの集落の中で皆のものとして蓄えられたかもしれませんが、そんなユートピア的な状態は長くは続きません。家族を十分養っていけるようになるとそのうちに家族の人数が多いというような有力な家族が現れだし、その連中が自分たちがつくった物は自分たちの物だと言いだして私有化が始まります。富が蓄えられ始めると欲もでてきます。せっかく自分がつくった物を皆の物にするより自分の物にしたいと考えるのも当然です。ヒトの「性選択」のポイントは経済力ですから、男性は富を得て女性を獲得しようという気持ちを押さえられないのです。この男性が富を得て女性を獲得したいという衝動が実は「アダムの呪い」となるのです。
さて、農耕時代に入っていよいよ「アダムの呪い」が目立ってきたようです。次回はこの「アダムの呪い」についてお話しします。
18. 「アダムの呪い」とは? 目次へ
サイクス博士が言う「アダムの呪い」とはいったい何を指すのか?何を意味するのか?これについてはしばらくの間、後回しにしてきましたが、ここで明らかにしておきましょう。
それは、Y染色体によって引き起こされる男性(アダム)がもつ欲望のことです。経済力と権力を高め女性を獲得しようという欲望です。この欲望はヒトという種の「性選択」のポイントですから男性がこれを持つのは当然至極なのです。
しかし、それが暴走し手がつけられなくなると人類に不幸をもたらすことになります。人類だけが不幸になるならまだいいかもしれませんが、現在の状況は地球全体(ガイアともいいます。)の環境を破壊し生態系をめちゃめちゃにし他の多くの種までも絶滅させようとしています。
地球を滅ぼすものとして男性がもつこの欲望は呪われているとういうことから「アダムの呪い」とサイクス博士は名付けたのです。
19. 冨と「アダムの呪い」 目次へ
農耕が始まり、余った作物による冨が生じると「アダムの呪い」が次第にはっきりと姿を現してきます。男性は己の経済力が優れていることをアピールし女性を得ようとする性選択の虜ですから、富というものが生じたらどうなるかは火を見るよりも明らかです。それは富を横取りしたり一人占めをしだす者が現れるということです。
富とはそういうもので、奪ったり自分だけのものにすることができるものなのです。この富をめぐり「アダムの呪い」がいろいろな悪さをするのです。富などなかった農耕以前は、男性は自分の知恵で限りある獲物を少しでも多くとって女性の気を引こうと努力する程度だったのですが、富などというものができたおかげで大変なことになってしまいました。
20. 有史以前の「アダムの呪い」 目次へ
富というものが生じるとヒトの男性は、ゾウアザラシの雄が巨大化しクジャクの雄の尾が派手になったのと同じように、富をもっともっと自分の物にしようと躍起になります。 そしてついには自分がつくった作物だけではたりなく他人の物をも自分の物にする個体が現れます。
それは力で奪いとる場合もあり、合法的に奪いとる場合もあり様々な方法があります。合法的な場合とは何らかの契約をし、他のヒトが収穫した作物なり他の富などを差し出させるやり方など様々です。具体的にいうと利子を取るなどといった場合がそれに当てはまります。ただ、大昔に利子などという言葉も概念もなっかったでしょうから、あまり良くない例でした。にたような場合としては、何か困っているヒトに便宜を図ってあげその見返りに収穫物をいただくなどというものが当てはまるのではないでしょうか。そのとき強引な人間ほど法外な見返りを要求し富を増やしたのでしょう。
富を増やすことは次第に他人を犠牲にすることに変わっていきます。一方、富を得た者はその経済力で女性を獲得しY染色体をどんどん増やしていったのです。
この後、文明が生じ有史時代に入りますが、文明が生じても「性選択」を原動力とした「アダムの呪い」は衰えることなくますます深刻さを増していきます。
21. 戦争 目次へ
文明が生じ有史時代になると、歴史が示すように強大な支配者が次々に現れてきます。彼らは富を得ようと支配地の人間を働かせ収奪し、支配地を広げるための戦争を繰り返しました。その規模はどんどん拡大し人類を幾たびも苦しめてきました。これはすべて「アダムの呪い」のなせるわざです。
多くの人間は支配され戦争に狩り出され被害に遭うだけですが一部の暴走したY染色体が己の欲望を満たそうとして戦争を仕掛け、うまくいったものだけが富を得てハーレムをつくりY染色体を増殖させたのです。エジプトのファラオや中国の皇帝たちなどなど数え切れませんが、その代表格がジンギスカンでしょう。
戦争は近年も相変わらず続いていますが、最近では戦争の他に「アダムの呪い」による環境破壊というものが起こりこれまた大変なこととなっています。
22. 市場経済と「アダムの呪い」
20世紀になると資本主義が発達し、その後半には社会主義のソビエト連邦が崩壊し、中国が事実上社会主義を捨て資本主義に移るなどの変化が起こり(これら社会主義の壊滅もY染色体がもつ本性からすれば当然な結果に思われます。)ました。そしてついに世界中が市場経済の波に飲み込まれてしまいました。そうするとこんどは資源を開発し、大量に物をつくり売りつけた人間が大金を手にすることになります。
こうなると経済力がポイントとなる「性選択」にかりたてられたY染色体は市場経済のなかで富を得ようとして暴走を続けることになります。そして巨万の富を手にした成功者が思うように女性を獲得できるのです。ある大富豪は「女性がいなければ金は何の意味もない」と言うほど、この種の男性の中のY染色体にとっては金は女性のためにあるのです。ただし、このごろはおおっぴらにハーレムなどをつくれはしないし、「不倫をしている」とバッシングされたりするので不自由さはあるようですがそれでも、彼らはこれでもかこれでもかと金を儲けています。富を築いている人たちはそれでいいでしょうがその陰でどのようなことが起こっているのか、Y染色体の暴走がどんな「アダムの呪い」を引き起こしているのか少しは考えてもらいたいと思います。
22 Y染色体の暴走は止められない 目次へ
富を得たい裕福になりたいと思うあまり、まわりがどんな犠牲を強いられるかなど考えなくなるのは戦争の場合のみではありません。資本主義社会の金儲けもそうです。
大量に物をつくるために、海を埋め立て山を削り工場を建て、大量の二酸化炭素や工業廃水を垂れ流し地球温暖化や水質汚染・大気汚染などの環境問題を引き起こしています。なりふり構わず、後先を考えない経済活動によりどれだけの森林が破壊されどれだけの環境ホルモンのような有害物質がつくられ排出されたことでしょうか。
資本主義社会の先頭を走るY染色体たちは、環境が破壊されようがどうなろうが利益を上げることで頭の中はいっぱいです。環境のこと地球のこと子孫のことなど考えている場合ではありません。ちょっと手を抜こうものなら競争相手に利益を持っていかれ、倒産の憂き目にあいます。政府や国際機関が規制し環境を守ろうとしても利益を上げられなくなるなら大変だと介入し抵抗します。このとき彼らの最大の武器である経済力を使ってくるのでこれを防ぐことは至難の業です。
環境が破壊され幾多の生物が絶滅し地球生態系は瀕死の状態です。それでもY染色体の暴走は止められません。
23 ヒトは危険な生物 目次へ
ヒトはもはや地球生態系の一員ではなく、それを破壊する危険な生物と化してしまいました。これもY染色体にしくまれた「アダムの呪い」のせいです。知恵を働かせ少しでも強い経済力で女性を引きつけようとする「性選択」が現代にいたってこのような結果をまねいてしましました。
「性選択」は度が過ぎるとその生物の存続をおびやかします。ゾウアザラシの巨体はメスを確保しライバルを追い払うには適しますが、余りにも大きいと陸に上がって身動きがとれなくなります。クジャクの尾羽もそうです。大きく派手であればそれだけメスを引き寄せることはできますが、天敵に襲われた場合は飛びたてなくなり食べられてしまいます。
ヒトの場合は、知恵を使い強大な経済力を身につけましたが、その知恵はまわりの状況や将来を見渡すほどのものではなく、おのれの欲望のためにのみはたらく中途半端な物であるために自分を生かしている自然そのものを破壊していることに気付かないのです。たとえ気付いても何もできないのです。「アダムの呪い」を先頭を切って実践している男性たちにはそれほどの知恵は備わっていません。
24 性選択のしくみが変われば
性選択の暴走列車をだれも止められなくなっています。知恵を働かせ経済力を身につけ女性を引きつけようとする欲望をどうしたら止められるでしょうか。
いまのところ、知恵を働かせ経済力を身につけ女性を引きつけようとする欲望を正面切って悪だと指摘する人はいません。いないどころかチャンスがあれば自分も一攫千金を得たいと思っている男性ばかりです。宗教でやんわりとたしなめ「浄財をしなさい」とか教えている場合もありますが、あまり「アダムの呪い」の歯止めにはならないようです。
性選択のしくみが変われば「アダムの呪い」は解けます。女性が金持ちに見向きもせず、富や権力に無縁な男性のみに興味を持つようになればすべての問題は解決されるでしょう。でも、これも期待できるものではありません。やはり性選択の暴走列車をだれも止められないようです。
25 貧富の差 目次へ
現在、「アダムの呪い」が抜き差しならないところまできており、Y染色体の欲望が招いた環境破壊はとどまるところを知りません。
環境破壊のみではありません、貧富の差も拡大しています。日本にいるとあまり分かりませんが世界中には貧困に苦しんでいる人たちが大勢います。世界の人口の5分の1にあたる12億の人々が1日1ドルで生活しているのです。
富は富のあるものへと流れていきます。いや富のあるものがその力を利用して富をかき集めているのです。これも「アダムの呪い」のせいです。富を奪われた人たちは極貧の生活をせざるを得なかろうが何であろうが、自分だけは富をできるだけ集めようとY染色体が欲求しとめられないのです。
富を集めすぎることは「悪である」という認識は人間にはありません。
26 地球の破滅 目次へ
地球の破滅は刻一刻と着実に近づいています。
女性による性選択のしくみが変わったり、富を集めすぎることを犯罪であるとし取り締まらなければ、「アダムの呪い」は地球を破壊してしまうでしょう。でも、どちらも不可能です。前者については、女性はイケメンに惹かれるよりも現実には経済力の方により強く惹かれるという本能は変えられません。後者については、知らず知らずに不況になるならいざ知らず、経済活動を権力で止めることはこれまた不可能です。
本当にどうしたら「アダムの呪い」を解き放つことが出来るのでしょうか?
27 「アダムの呪い」を解くには
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性選択が暴走し「アダムの呪い」が恐ろしい事態を招いており、今のところそれを押さえることが出来ないでいます。どうすれば「アダムの呪い」を解くことが出来るのでしょうか。
サイクス博士によると「アダムの呪い」を解くにはY染色体を消滅させる以外方法はなく、さらにY染色体は消滅させるというよりも自滅していく運命にあるそうです。
Y染色体がなくなれば当然「アダムの呪い」は消え去ります。でも、Y染色体が自滅するとはどういうことでしょうか?われわれヒトのY染色体がどういう状態になっているのか見ていきたいと思います。
28 精子が衰えている 目次へ
Y染色体が自滅する兆しの一つは精子が衰えているということです。精子がなくなればY染色体も消滅してしまい「アダムの呪い」がなくなるのは当然です。ただし、この場合、受精も出来なくなりヒトが絶滅するおそれもあります。でもそれは今後、生殖医療技術が発展すればどうでもいいことになってしまいます。精子などなくても女性だけは誕生させることができるようになるからです。これについては後でお知らせすることにしまして、現在の一番の関心事は精子が消滅すればY染色体がなくなるということです。
コペンハーゲンの科学者チームが調査したところによりますと、精液1ml中に1億以上の精子をもつ男性の割合は1940年代では全男性の50%だったのに1990年代では16%までに落ち込んだそうです。たった50年くらいで3分の1に急減したのです。急激な衰えといわざるを得ません。一方、精液1ml中に2000万以下の男性は6%から18%へと3倍にふえています。
このような結果は地域に関係なく世界的に見られることだそうです。いったいヒトの精子はどこまで減っていくのか分かりませんが、着実に減少しているようです。
29 精子の姿もひどいことに 目次へ
ヒトの精子数が急減しているとお知らせしましたが、ヒトの精子が危機的状況であることを示すのは数の減少だけではありません。
精子の姿も他の動物に比べるとひどい状況になっているそうです。1930年代からすでに知られているのですがヒトの精子の3分の1から2分の1が解剖学的に異常で奇妙な形をしておりちゃんとした方向に泳いでいけなくなっています。
少ない精子のそのまた半分近くが異常であるとするとすると本当にえらいことです。精子の衰えは確実に進んでいるようです。今は人口増加に歯止めはかかっていませんがそのうち急激に出生率が低下し人口増加の心配がなくなってくるかもしれません。
日本ではすでに人口が減っています。日本の場合は社会的な原因もありよくわかりませんが、ひょっとして日本男性の精子が異様に衰えているのかもしれません。
30 精子減退の原因 目次へ
ヒトの精子が衰えていると紹介しましたが、その原因のひとつに化学物質があります。
人間は新しい商品を作り出すため様々な物質を合成し使っています。作られた物質は、まず役立つか役立たないかで利用価値が判断されます。市場経済の世界ではそれが最優先です。害があるかないかは二の次です。もちろん青酸カリのように劇毒物であればいくら何でも使いませんが、死なないことが分かれば多少の害には目をつぶり「使える」ということになって大量にでまわりだすのです。そのあとしばらくして、様子が変なことに気づいて、遅ればせながら調査し実は思わぬところに害をおよぼしていることが明らかになります。こんなことがどれだけ行われてきたことでしょうか。このことを初めて気づかせてくれたのが、レイチェル・カーソンの「沈黙の春」です。その後、水俣病、薬害そして環境ホルモンなどと合成された物質によって様々な問題が起きていることが明らかになっています。これも「アダムの呪い」のひとつなのです。
サイクス博士は精子減退の原因の一つとしてジブロモクロロプロパン(略してDBCP)を上げています。この化学物質にさらされた男性の精子はすべて、大幅に減少したため、この化学物質の使用はすぐに禁止されたそうです。こんな物質をはじめ精子に悪影響をおよぼす化学物質はおそらくたくさん放出されているのでしょう。それを確かめる手段がないので事態は改善されないままです。