「人生ってそんなものよ。もうあきらめなさい」 栗田ゆう子 (第57巻・37頁)
父としての慟哭
栗田に対する海原の愛は、彼女には初めからわかっていたことだった。海原の敗北は、その時点で決定づけられていたのである。そこで、次第に海原は栗田への愛情を隠匿することをあきらめようとする。それが決定的になるのは、先に見た第57巻の「新聞戦争」である。50集から60集までは、いわば、海原が栗田に化けの皮をはがされる過程であるといえるだろう。
60集以降、公になってしまった愛情関係を振り切るかのように、海原の目は再び山岡へと向けられ始める。それは、感動的なフィナーレの始まりだった。
第63集/第4話「東西新聞の危機」
アメリカのメディア王・コドラムは、苦しんでいた。母親が早死にしたのは、父親が虐待したからだと、娘に誤解され憎まれていた。
極亜テレビの金上は、そんなコドラムと手を組み、東西新聞の乗っ取りを再度目指す。ついでにコドラムをそそのかし、彼に自分の買った雄山の作品が贋作であると裁判を起こすよう仕向けた。
山岡は栗田に泣きつかれ、渋々海原が偽物を作らないことを証明することになる。コドラムは、金上と手を切り海原と和解する。二人は自分たちの子どもへの想いを打ち明け合う(vol.63/P195)。
この光景を、我々は一生忘れることはないだろう。情熱的な愛を降り注ぐのに、子どもは憎しみを捨てようとはしない。絶滅を宿命づけられた父親という人種の悲哀が、そこにあった。
第69集/第3話「寿司に求めるもの」
海原は、妊娠中の栗田におじいちゃん呼ばわりされる。「お祖父ちゃん!?」(vol.69/P127)と驚愕し、必死に照れ隠しをしようと、苦々しい表情に努めるが、京極さんにも笑われる始末であった。
第75集/第1話「のれん分けの意味」
出産間近の山岡夫婦に、海原は試練を与える。出産日に近い期日に対決を設定し、山岡を試そうとする。山岡は、「ふざけるな!」(vol.75/P30)と怒りを露わにするが、いつものように栗田の口車に乗せられ、海原の挑戦受ける。山岡の決断を知った海原は、息子に対する想いをあらためて高ぶらせる(P39)。
第75集/第3話「双子誕生!!」
山岡夫妻に、双子が誕生した。祝賀の意を表する中川に対し、海原はいつものように強がり、「何がめでたい」(vol.75/P181)と言う。男・中川はこれを聞き、生まれて初めて海原へ反旗を翻す。
「先生と対抗できる人間が、士郎さんのほかにいますか!?」(P181)
その熱い言葉にほだされて、海原は「中川、今夜は私とつきあえ」(P182)と中川に杯をさしだす。おやじ同士の静かで熱い酒宴が始まった。