おねいさんの家は燃えてしまう
ある世界の法則についてC
しょうがないのではないか、としか言いようがない。なぜならそんなものだからである。
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中原アヤ
『りんご日記@』 P.51 |
誰の家でも可燃物である以上、燃えても不思議はないのだが、おねいさんの家の火事は他の火災事案に比べて顕著な特色が見受けられる。おねいさんにとって何か大切なものが、必ず置き去りにされるのである。
それで、たまたま通りがかった知り合い男が、煙の中を突入する羽目になる。このお兄さんに対して、おねいさんは「軽薄、無愛想、いぢわる」等の印象をもっているのだが、この一件によって「案外いい奴」というパーソナリティが、お兄さんに追加される。つまり、お兄さんの人格は、おねいさんの家が炎上することによって、発見されるのである。
いけ好かないお兄さんが、人格の発見によって、好感の持てる人格に変異する物語は、少女まんがの有名な様式であり、すでに10年以上前に『さるまん』において指摘されている。あとは、具体的に何をもってすれば、人格が発見されるのかと言う点に集約されるだろう。とりあえず――、
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中原アヤ
『りんご日記@』 P.86 |
実は病弱な妹がいて、看病に精を出す男なのである。
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中原アヤ
『りんご日記@』 P.131 |
実は死んだ彼女がいたりするのである。普段は明るく振る舞っているが、暗い過去がぁ!ということ。
こうして、人格発見がある程度蓄積されてくると、おねいさんがお兄さんを決定的に好意を持ってしまうイベントが到来する[注1]。お兄さんが病気で倒れてしまうのである。
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中原アヤ
『りんご日記@』 P.137
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病気というのはたいへん使いやすいイベントらしく、『君が望む永遠』ではおねいさんを風邪で卒倒させたと思えば、今度は主人公の方を卒倒させ、主人公を邪険にするおねいさんを失墜させたりする。
もっとも、ギャルゲー主人公に関して言えば、こうした手法は適用しがたい面もある。主人公=鑑賞者であれば、その人格は鑑賞者にとってすでに発見されているものでなければならない[注2]。
だから、ギャルゲーと少女まんがでは、感情移入の対象が倒置される。少女まんがでは、いけ好かないお兄さんに鑑賞者の感情移入を誘うために、人格発見の手法が用いられるが、ギャルゲーでは、いけ好かない気の強いおねいさんに対する感情移入を誘引させるために、この手法が使われる。
気の強いおねいさんに実は病弱な妹や死んだ恋人がいて、しまいには病で倒れて陽光の中で笑顔で死んでいったらもうもうもう。
[注1]
『ラブひな』では景太郎の海外留学か。
[注2]
もっとも主人公が記憶喪失であれば別の話である。 |