70年代型刑事ドラマ その後 怨念の脚本家・扇沢延男の世界
70年代型刑事ドラマとは、同情すべき動機を持つ犯人が、最後に決まって凄惨な末路を辿ることになる暗黒な作品群の総称である。これらのハードな物語は、60年代末期における学生運動の挫折やカウンター・カルチャーの敗北を背景にして、生まれた物であった。
しかし、重苦しい70年代が終焉を迎え80年代に入ると、反動から時代はお気楽な路線を突き進むことになった。人々の身の回りには怨念のかけらもないなお洒落なドラマがあふれ返り、70年代型刑事ドラマによって己の暗い青春を癒していた不幸な人々は、80年代というソフトな時代に精一杯の憎悪をぶつけるしかなかった。だが、一方で、時代に反抗し孤高に悲惨なお話を作り続けた勇気ある人々もいた。
われわれの目的は、80・90年代という明るい世相に逆行した脚本家・扇澤延男の作品を中心に取り上げ、勝ち目のない闘いを繰り広げた彼らの軌跡をたどることにある。
なお、本稿で扱われるのは『特捜エクシードラフト』『特捜ロボ・ジャンパーソン』『刑事追う!』の3作品である。
『特捜エクシードラフト』 ('92〜'93)
子ども向け特撮ヒーロー物の表層にだまされてはいけない。その内実では古き良き刑事ドラマそのままの暗い人情劇が繰り広げられているのだ。しかも、一時間の刑事ドラマと違い、30分で強引に不幸を濃縮してしまうからたまらない。
第9話 「危険な家族ごっこ」 (監督:蓑輪雅夫 脚本:扇澤延男)
妻と子どもを交通事故でなくし、人生に希望を持てなくなった長井は、宝石強盗を働き警察に追われる身である。そんな彼の夢は、生前彼の家族が行きたがっていたオーストラリアに、その遺骨を持っていくことだった。だが、オーストラリアへ逃亡する寸前、彼はあえなく御用となり、その夢は費えてしまう。
第16話 「絶体絶命の愛」 (監督:蓑輪雅夫 脚本:山田隆司)
隕石に衝突し、日本上空に近づきつつある人工衛星。危険ということで撃墜されるが、それに乗っていた宇宙用ロボ・デュークは生き残り、自分を破壊しようとした人間に恨みを抱き発狂。自衛隊駐屯地から奪った自動小銃を乱射して大暴れ。最後は大気圏突入の際のショックで作動した起爆装置によって、自爆してしまう。
第23話 「死をよぶ愛の説得」 (監督:小西通雄 脚本:扇澤延男)
本庁のエリートコースを邁進していた乾刑事は、違法のおとり捜査を行いしかも失敗。所轄署に左遷される。ぐれた彼は、拳銃密輸組織に情報を流すようになるが、同じ署の老刑事・高田に悪行がばれてしまい、高田を殺害する。
ところが殺害後に、高田が、自分の奥さんと娘をひき殺した青年を未来ある若者として、裁判の際に弁護した超善人だったことを乾は知り、「死なせてくれ〜」と絶叫。その場に泣き崩れるのであった。