File No.014
シロコメバタケ
Hyphoderma setigerum (Fr.) Donk
(ヒダナシタケ目コウヤクタケ科)
冬の雑木林を歩くのはけっこう好きである。林の外で冷たい風が吹いていても、中に入ったとたん、寒さが和らいで、ほっとした気分になる。それに何より、のんびりした感じがいい。木は眠ったように突っ立っているし、落ち葉や、綿毛をふいた下草や、とうに巣立ったあとの小鳥の巣なんかが、時間に置き去りにされたように吹きだまっている。年は明けたけれど、去年の落し物がここにはあるようだ。
このきのこも、去年から出ていたのに、他のきのこが姿を消したために、今になってやっと人目に触れるようになったくちであろう。その証拠に、顕微鏡で見ても胞子がまるで見当たらなかった。なにしろコウヤクタケの仲間は純然たる「かわきもの」なので、きのこになって胞子を飛ばしたあとも、なかなか腐らないのである。いったいいつからこの森の一員になったのか、いくら眺めていても見当はつかないのだけれど、まずは落し物を回収できたようで、めでたしなのである。
[データ]
採集日:1999年1月9日
発生地:兵庫県新宮町。
クリ・コナラなどの混じる広葉樹林内の落枝上に発生。