File No.022
マスタケ
Laetiporus sulphureus (Fr.) Murrill var.
miniatus (Jungh.) Imaz.
(ヒダナシタケ目タコウキン科)
私の使っているきのこの本は、べにてんぐの会の他の人が使っているものよりも数は少ないけど、きのこ料理や著者のエピソードが入っていて、読み物としてもなかなか楽しいものです。この本に、珍しく2ページ分の使って説明が出ていた内の1つがこのマスタケ。
「…鉄板にサラダ油をたっぷりぶってヤマメと粗くきざんだマスタケをならべ、まわりを味噌で囲んだ。…焦げめがつくまで焼いて、アツアツをほぐしながら食べた。その味の調和は絶品。(菅原光二著:きのこ:小学館)」
しかも、その写真に映っているマスタケの姿はまさに魚のマスの色をしています。ああ、どんな味なんだろう。一度でいい、食べてみたい。まるで、写真でしか見た事のないアイドルに恋した女子高校生。
実は、この6月に森林総研の合宿にお邪魔した際、マスタケを見つけたのです。しかしその姿は、前を歩いていた人たちに踏まれて、土まみれな惨めなものでした。(というより、料理できる状態でなかった。)もちろん嬉しさのあまり、そのマスタケを拾って総研の方々に、「これ、マ、マスタケですよね!」と確認したのは言うまでもなかったのですが、返ってきた答えが「そうだけれども、そんなに珍しいものじゃないよ」え?他の人の前には出てくるのに私の前には現れないなんて…余計に切ない想いが私をかき立てたのです。
夏合宿、いつもとは違う道を選んで散策を始めました。塩平から手塚小屋へと続く観察道に入ったところできのこを探し始めたそのとき、私は見たのです。堂々たる姿で切り株に生えているマスタケの姿を!
その風格、肉厚なボディ、しかも2つも。あまりにも大きなものだったので、結局1つだけもって帰る事にしました。それでも十分。
ああ、これで私はあの憧れのマスタケを思う存分みんなと堪能できる。私は期待と感動に打ち震えていました。
ロッジに戻ってからマスタケの料理方法を調べます。上記のような食べ方ではとても食べきれる量ではありません。そこで、一度湯通ししてシチューとバター炒めにすることにしました。湯通しも終り、さあいよいよ調理しようとざるにあげたときふと、より生に近い新鮮なマスタケを味わいたくなったのです。
ちょっとだけはじっこをちぎって食べようとしました。ところが、なかなかちぎれません。私の脳裏に不安がちらっとかすめました。
とりあえず気を取り直して、ひとくちその味を味わおうとじっくり噛み締めました。長年の私の憧れの味に会える!
次の瞬間、私は自分の舌の感覚を疑いました。す、すっぱい?
しかも、にじみ出て来るその味はどこをどう贔屓目に見ても(味わっても)まずい。それでもなお今までの思い入れが強い分、現実を受け入れられなかった私は、その場にいたIさんとKさんにこう頼みました。
「あんまりおいしくない気がするんだけども、食べてみてくれる?」
あとはもう、味見大会です。すぐ隣で料理を作っていらした管理人さん家族にまで、「え、そんなにまずいんですか。それはぜひ食べさせてください。」と大人気(?)でした。
べにてんぐの会のどなたかの、「これスポンジ噛んでるみたい。」の一言で、湯通ししたマスタケを搾ってまた水で膨らましたり、しょうゆを染み込ませておにぎりに塗ったり、はてはブーメランにして飛ばしたり、完全にみんなのおもちゃになってしまいました。
夏合宿にいらしていた方々には「マスタケはまずい」という認識を持たれてしまったようです。
しかし、私の希望の光はけっして消えてしまったわけではありません。だって、「幼菌は食。」と山渓フィールドブックスのきのこにもあるのですから…。
[データ]
採集日:1999年8月28日
発生地:山梨県牧丘町