File No.027
ムラサキシメジ
Lepista nuda (Bull.:Fr.) Cooke.
(ハラタケ目キシメジ科)
草木染めの授業のときのことだ。小学校の家庭科室で、なべやらバケツやら、染めと紙すきの準備をしていたら、
4年生くらいの男の子ふたりが近寄ってきた。手には大事そうに、白い植木鉢を持っている。
目の前に突き出されたそれを見てみたら、植わっているのはきのこだった。なんのきのこか教えてほしいという。
なぜ植木鉢なのか不思議に思いながら、裏から表からいろいろ見回すと、その茶色のきのこは、もうだいぶ日にちが経っているらしく、
傘の表面にしわがよってはいるものの、ひだの感じとか柄の感じとかは、色以外は原型をとどめているようすだった。
「信じてもらえないかもしれないけど」と前置きして、そのきのこの名前を教えたら、「最初はたしかにむらさき色だった」という。
2週間ばかり前に生えたきのこだったのである。
それにしても、ムラサキシメジが植木鉢にはえることは(たぶん)ない。あとで学校の先生に次のような話を聞かせてもらった。
近所の林できのこを見つけ、とってきたものの、”きのこ博士”が来るまではまだ2週間もある。それまでにひからびてしまったら、
名前がわからなくなってしまうだろう。というわけで、その子たちは植木鉢に移し替えて、毎日せっせと水をやりつづけていたのだそうである。
こういう熱意に応えるのに、名前を教えるだけでよかったのだろうか。他にも何かを伝えることがあったかもしれないなあというのが、
それ以来、心のどこかで気にかかっていることの一つである。
[データ]
採集日:1999年11月
発生地:兵庫県新宮町