わたしと『水滸伝』

　集英社の『青春と読書』の二〇〇一年四月号から、「『水滸伝』よもやまばなし」を連載し始めたのは、まったく偶然的な出来事による予想外のことであった。『東京新聞』文化部にお勤めの親友と新宿の飲み屋で会合した際、たまたま北方謙三氏の新作『水滸伝』に話がおよび、子供のころから『水滸伝』の愛好者だったことを吐露したら、それなら書評を書いてくれと頼まれた。その結果、「書評：北方謙三著『水滸伝』（一、二）」が二〇〇〇年十二月三日付の『東京新聞』書評欄に載せられた。

　これで一件落着したと思ったら、思いがけぬ展開となり、新たな人間関係が築かれ、有益なお付き合いが始まったのだ。わたしが客員教授を務めていた国文学研究資料館も年末となるとたいそう忙しくなったが、突然、集英社『青春と読書』編集部より電話が入り、『東京新聞』の書評を雑誌に再録したいとのことだった。もちろん喜んで応じた。その結果、『青春と読書』二〇〇一年一月号に、書評が再録された。

　年が改まり、『青春と読書』の井田編集長が研究室に訪ねてきた。話が『水滸伝』に集中していた。北方謙三氏の『水滸伝』が好評を博し、集英社はその三巻目以後の出版を進めているという。『三国志』は日本でブーム、『水滸伝』はなぜ人気があまりないかと不満をこぼすと、「『青春と読書』に連載を書いていただき、『水滸伝』ブームを起こしましょう」と話が急展開。

　当時は、科研の代表としてブックロードの共同研究にいとまなく、なかなか応じられなかったが、外交辞令上「考えときましょう」と答えた。その後、編集部から時たま催促され、また北方謙三氏の続刊書を読んでいるうちに刺激を受け、夏休み中に帰国して、とうとう筆を起こした。『青春と読書』二〇〇一年五月から連載が始まり、最初は月に一回だったが、途中不定期の連載に変更、今まで十三回を書きつづけた。

　連載が始まったまもなく、編集部は北方謙三氏との対談のチャンスを設けてくれた。場所は明治大学近くの山上ホテルだった。北方謙三氏の堂々たる風貌、鋭敏な応答、膨大な知識量がとても印象的であった。対談も『青春と読書』に掲載されているから、ご参照されたし。

　ちなみに、北方謙三氏の続刊書に、わたしの書評を一部引用して、推薦の言葉として帯に印刷している。わたしとしては、光栄なことだと思っている。