梁山泊の故地を訪ねて

王　勇

一、テーマパーク

　水滸好漢一〇八名が立ちこもって官軍と対抗していた梁山泊は、今の山東省南西部の梁山県にあるといわれる。そこの山脈は梁山・青龍山・鳳凰山・亀山・小黄山などからなっているが、主峰の虎頭峰は標高わずか百九十八メートル弱にすぎない。周りは『水滸伝』に描かれた「八百里の水泊」は跡形もない。

　ところが、ここ数年、地元は町おこしの目玉として、テーマパークの造営に力を注いでいる。「山上に砦を建て、山下に水を造る」という数十億円投資の大工事は、世論を賑わしている。黄河の水を引くかどうかで議論は賛否両論にわかれて実施する目途はいまだに立っていないが、陸上の関連施設は着々と工事を進められている。

　二〇〇三年八月時点の統計によると、観光客はすでに八四〇〇〇人を超えているから、地元の狙いはみごとに的中したと言えよう。

筆者は二十年ほど前に、梁山県あたりを通ったことがあるが、数ヶ所の遺跡のほか、別に見るべきところがなかったとうろ覚えしている。それが今はどうなっているだろうか。さっそく尋ねてみた。

二、摩崖石刻

　電車に乗って梁山駅で降りると、宋江（公明）に因んだ「公明大道」に出る。そこから観光バスに乗れば、十分くらいで梁山泊のふもとに着く。山は小高いけれど、平原に聳え立っているため、凛々とした威厳ぶりをみせる。

　山門を入ると、『水滸伝』の著者に擬せられる施耐庵の塑像が正面に見え、岩壁に刻まれた「水泊梁山」の四文字が視野に飛び込んでくる。書道大家こと舒同氏の落款があり、背丈二メートルほどにも達する大文字の気迫は、なかなかのものだ。

　摩崖石刻とよばれる巨大な岩壁には文人墨客の題字が刻まれているが、とくに目を引くのは、費新我氏と范曽氏のそれである。前者は「草莽名山」とあるが、「山」という字は「人」を三つ重ねて、下部に点を四つ打つという特異な格好をしている。人々が水滸から梁山へ上っていくことをイメージさせ、躍動感に満ちている。画伯として知られる范曽氏は「天羅を突き破って水滸に帰り、地網を引っくり返して梁山に上る」という詩句に、好漢らの気概と度胸を凝縮させている。

摩崖石刻を鑑賞してから、紆余曲折の石階段を登ってまず断金亭に至る。階段はちょうど一〇八あり、水滸好漢の人数に合わせている。「断金」は『易経』に出典があるが、金を断つほど友情の堅さを比喩するものである。

三、李逵と黒風口

　断金亭から南へ伸びる山道は宋江馬道といい、軍糧を運搬し、兵卒を移動させる攻防の要路である。途中、騎三山を通るが、その右側の�皖山峰に元宝形（船形）の石台があり、周囲に三十六個の石椅子をめぐらしている。水滸好漢はここで財産を山分けしていたという。

　騎三山を越えると、有名な黒風口に出る。山の背骨が浮き上がってなした細長い道で、両側は底知れぬ絶壁である。ここは山寨の本陣に通じる唯一の関門であるだけに、暴れ大将の李逵が守備にあたっていた。

名筆の誉れ高き沙孟海氏の書「黒風口」の三字は力強く、殺気森々たる雰囲気をかもし出している。関門の前に、六メートルにも達する李逵の立像が塑造されている。豹のごとき目をむき出すように前方をじっと見つめ、針のような髭を一本一本といからして立っている。顔色は黒く、両手には例の斧をしっかり握っている。

この魔王のような巨像を目の当たりにして、恐怖感に襲われるどころか、ある種の親近感さえ感じさせられるものである。記念写真を撮る観光客で通路が塞がりがちで、文字通りここは通りにくい「関門」となっている。

四、宋江と忠義堂

　黒風口を通ってさらに南へ登ると、宋江らの大本営を設けている虎頭峰にたどりつく。三面に険しい岩壁が聳え立ち、四周に石垣をめぐらした山寨は、威風堂々としている。

忠義堂は山寨のど真ん中に鎮座している。杏黄色の旗が青空を高々と掲げ、山風に翻弄されているが、「替天行道」の四文字をはっきり読みとれる。堂内には宋江と盧俊義それに呉用の塑像が安置されている。壁には水滸物語の名画面を再現した陶磁壁画「水泊英雄図」がはめ込んである。

東西の廂の間には三十六の天�奘星の肖像が生き生きと並べてある。等身大の彩色像であるだけに、迫力があり、臨場感をそそるものだ。

梁山県周辺には、水滸英雄の伝説が今も語り継がれているのみならず、宋江廟の遺跡や「宋江陣」の祭りなどがいだまに存在している。テーマパックとはいえ、宋代以後、蓄積してきた史実や風俗を下敷きにしているから、『水滸伝』愛好者にとって一度行ってみたいところであろう。