二年連続の新人王

二年連続の新人王
日本プロ野球の最優秀新人(新人王)の規定は以下のとおりだ．

・入団5年以内
・投手は通算30投球回数以下，打者は通算60打席数以下
・外国のプロ野球に所属していた選手は対象外

この規定の網をかいくぐって，二年連続して新人王に輝いた選手がかつていたという．

その選手の名はH・ジョーダンという．

ジョーダンは高校時代からたぐいまれな身体能力でプロのスカウトも注目する存在だった．
推薦で進んだ大学では野球とアメリカンフットボールを兼任し，
そのどちらでも輝かしい成績を残した．

ドラフト1巡目での指名も確実だったが，彼はプロ入りを拒否した．
そして卒業と同時に突然来日した．
それは在学中に入信したある宗教団体の布教活動のためだった．

日本では信者たちと集団生活をしながら布教活動をしていたが，
偶然通りかかったファームの練習場でコーチとキャッチボールをするうちに，
とんとん拍子に入団が決まった．
教団も日本での知名度を上げるために彼の入団を許したという．

ファームでは格の違いを見せつけ，あっという間に一軍へ昇格．
一軍初試合は満塁での代打．
ここで2塁打を放ち3打点をあげる．

翌日は2本塁打で6打点．
さらに次の試合は代打満塁ホームラン．

6試合目からはスタメン出場を果たす．
いきなり4安打（うちホームラン3本）で6打点．
翌日もホームラン2本で6打点．
その次の試合も2本塁打と手がつけられない活躍．

その後も2試合連続して3ホームランなど，
とてもプロ未経験の若者とは思えないパワーとテクニックを見せた．

17試合目も2本塁打を放ちロッカーへ引きあげたところ，
母国から連絡が入っていた．
それは教団の内紛にかかわって母親が殺害されたという知らせだった．

彼は急きょ涙ながらに帰国．
ここまでの成績は，打率.614　24本塁打　68打点．
しかもわずか17試合の出場でこの記録を打ち立てたのだった．

シーズンが終わり，出場試合こそ少ないものの，
驚異的な記録を残したジョーダンが新人王を獲得した．

翌年，球団は宗教がらみというマイナスイメージを気にし，
彼との契約をためらったが，昨年の活躍は忘れられず，
ジョーダンはふたたび日本でユニフォームを着ることになった．

プロの水になれた2年目．
デビュー時の衝撃こそ薄れたものの，ほぼ全試合に出場し，安定した成績を残した．

ここで問題が生じた．
1年目，ジョーダンは59打席しか立っていない．
ということは今年も新人王資格を有するのではないかと彼が主張したのだ．

これに反論できるものはいなかった．
選考者たちはなにか腑に落ちないものを感じながらも，
前代未聞の二年連続新人王を誕生させたのだった．

ジョーダンは成田空港で，
「来年はもう新人王はねらわないよ」と冗談を言い帰国した．

それが日本での最後の笑顔となった．

ジョーダンは母国でも教団施設で集団生活を送っていたのだが，
日本で得た資金を背景に，教団内での発言力を高め，
たびたび教祖と衝突するようになっていた．
やがて口論のすえ教祖を銃殺してしまう．

さらに教祖派の信者数十人を殺害し，教団施設にたてこもった．
そして包囲した警察の説得もむなしく，
同調者数人とともにみずから施設に火を放った．

事件を知った球界は震えあがった．
これほどの不祥事はない．
彼らはジョーダンが日本球界にいた証拠をすべて消そうとした．

新人王は剥奪．
投票で2位だった選手が繰りあがって新人王となった．
そしてジョーダンの2年間の成績は抹消された．
今や彼の名を知るものはほとんどいない．

当時の新聞から拾いだして計算したジョーダン（本名 Honno, Jordan）の成績は以下のとおりだ．