ATM / Asynchronous Transfer Mode
■ ATM。Asynchronous Transfer Mode。 非同期伝送モード。 高速なWAN回線向け規格(156Mbps)として開発されたデータ伝送・交換技術。 従来別々の通信網で提供されてきた 音声・データ・画像など、性質の異なる品質が要求されるトラフィックを 一元的に取扱えるネットワークを目指して開発された。 ATMの標準化は、ITU-TとATMフォーラムが中心となって推進してきた。 ITU-Tは、B-ISDNを提供するために必要な技術仕様全般の開発を行ない、 ATMフォーラムは、ATM製品とATMサービスの普及を目指して 製品の相互運用性を確保するための仕様開発を行なっている。 ATMは、回線交換とパケット交換の長所を融合を目指して設計された。 ATMは通信に先立って送信元と送信先の間にコネクションを設定する コネクション型のプロトコルであると同時に、 上位レイヤーから受け取ったデータを53バイトのセルに分割し、 非同期にこれを転送するパケット交換のような機能も併せ持つ。 ATMは当初、導入コストが非常に高く、むしろLANへの適用が進んだが、 現在は機器の低コスト化が進んだため、 本来のWAN領域で専用線サービス(いわゆるセルリレーサービス)として 多く利用されている。 → STMとATMの比較 ■ ATMのプロトコルスタック。 ATMのプロトコルスタックは、下から順に、 物理層、ATM層、ATMアダプテーション層(AAL)の3つの層から構成されている。 OSI基本参照モデルに対応させると、 物理層、ATM層、AAL層の一部がレイヤ1に、残りの部分がレイヤ2に対応する。 AAL層は、上位プロトコルから入力されるフレームを48バイトに分割する。 または、ATM層から受け取った48バイトのデータを連結して元のフレームを復元する。 ATM層は、AAL層から受け取ったデータに、 5バイトのヘッダを付加して53バイトのATMセルを生成する。 または、ATMセルから5バイトのヘッダを取りはずす。 VPI/VCIによるルーティングを行うのも、このATM層の役割である。 物理層は、ATM層からATMセルの転送要求を受け、ビット列を物理媒体上に送り出す。 (1) AAL層。ATM Adaptation Layer。 ATM層の上位に位置するデータリンク層プロトコル。 AALは、音声、データ、画像などといった 上位のアプリケーションに依存したプロトコルとなっており、 AAL1,AAL2,AAL3/4,AAL5の4種類がある。 AALの役割は、各種の上位プロトコルから送信すべきデータを受信し、 ATMのペイロードセグメントに適した48バイト形式にしてATM層に渡すことである。 あるいは、下位のATM層から48バイト形式のデータを受け取って、 元のデータ形式に復元し、これを上位プロトコルに渡すことである。 この機能は、上位プロトコルから受け取ったデータに エラーチェック用のトレーラを付加するCS副層と、 これを48バイト単位に分割するSAR副層の、 2つの副層構成により実現される。 - CS副層。Convergence Sublayer。 上位プロトコルから送られてきたPDUに対し、 エラーチェック等の制御を行うための8バイトのトレーラを付加する。 必要があれば、PDUの全長が48バイトの倍数になるように、 パディング(詰め物)を付加する。 こうして作られたPDUを、SAR副層に渡す。 - SAR副層。Segmentation and Reassembly Sublayer。 セル分割組立サブレイヤ。 CS副層から受け取ったPDUを、 複数の48バイトのペイロードデータに分割して、ATM層へ渡す。 あるいは逆に、ATM層から受け取った48バイトデータを、 もとのPDUに再構成してCS副層に渡す。 (2) ATM層。ATM Layer。 ATMの中心的な機能を担うデータリンク層プロトコル。 48バイトのペイロードをAAL層から受け取り、 5バイトのセルヘッダを付加して53バイトのATMセルを生成し、物理層に渡す。 上位プロトコルの違いはAAL層が吸収しているので、 ATM層は上位のサービスには依存しない動作をすることができる。 (3) 物理層。Physical Layer。 ATM層の下位に位置すえう物理層プロトコル。PHY層ともいう。 2つのATMデバイスを接続する物理メディア上でのセルの伝送を提供する。 PHY層は、PMD副層とTC副層の2つの副層から構成される。 - TC副層。Transmission Convergence Sublayer。 ATM層から受け取ったATMセルフローを、 安定したビットフローに変換して、物理媒体を介して伝送する。 送信するものがない場合には、意味を持たないアイドルセルを送信する。 また伝送時にはHEC(ヘッダエラーチェック)を作成する。 受信時には、受信したビットストリームから個々のセルを正確に復元し、 HECを使用してエラーを検出し、また修正する。 - PMD副層。Physical Medium Dependent Sublayer。 物理メディア依存副層。 ATMが使用する伝送メディアやコネクタの仕様について規定している。 最も単純かつ基本的なビット転送機能を提供する。 ■ ATMのセルフォーマット。 ATMでは、セルと呼ぶ53バイトの固定長フォーマットを使用する。 ATMは、こうして固定長セルの採用したことにより、 セルの交換をハードウェアベースで処理することが可能となり、 伝送遅延を低減することに成功している。 セルフォーマットとしては、UNIとNNIの2つが定義されている。 (1) UNI。User Network Interface。 ユーザ・網インターフェース。 通信事業者のATMスイッチと、 利用者のATM端末とを接続するためのインターフェース。 UNIのセルフォーマットは、 8ビット長のVPIフィールド、16ビット長のVCIフィールドを持つ。 図中のPT(ペイロードタイプ)は網から端末への輻輳通知等に使用する。 またCLPは輻輳時に廃棄すべきセルを区別するために使用する。 (2) NNI。Network Network Interface。 通信事業者の網内のATMスイッチを、 相互に接続するためのインターフェース。 または、利用者の私設ネットワーク内のATMスイッチを 相互に接続するためのインターフェース。 NNIのセルフォーマットでは、 先頭のGFCフィールドがなく、これをVPIフィールドとして使用するため、 VPIが16ビット長になる。 また、図中のHECはヘッダの誤り制御に使用する。 ■ ATMの論理回線。 ATMネットワークでは 1本の物理的な伝送路上に複数の論理的な通信路を形成する。 この論理的な通信路は、VPとVCで定義される。 (2) VP。Virtual Path。 ATMが使う複数の論理回線(VC)をグループ化したもの。 ATMセルヘッダに含まれるVPI値により識別される。 - VPI。Virtual Pass Identifier。 仮想パス識別子。 ATMセルヘッダに含まれる8〜16ビットのフィールド。 同じVPに含まれる全ての論理回線(VC)は、 このVPI値に基づいて、ATM網上で透過的にスイッチングされる。 (1) VC。Virtual Channel。 ATM機器間で用いる論理回線。 ATMセルヘッダに含まれるVPI/VCI両値により識別される。 - VCI。Virtual Channel Identifier。 仮想チャネル識別子。 ATMセルヘッダに含まれる16ビットのフィールド。 ATMスイッチは、このVCIフィールドを使って、 セルが最終的な宛先に到達するまでに通過すべき 次のあて先を識別する。 ■ ATMのQoS機能。 ATMは、複雑かつ強力なトラフィック制御機能を持っており、 伝送すべきサービスの特性に応じて、 コネクション単位でQoSを設定することができる。 具体的には、最高セルレート、平均セルレート、 セル遅延、セル遅延変動、セル廃棄率など、各種の QoSパラメータを管理することができる。 ATMフォーラムでは、これらの各パラメータの値に基づき、 CBR、VBR、ABR、UBR、GFRという5つのサービスクラスを定義している。 (1) CBR。Constant Bit Rate。 保証ビットレート。 ATMのサービスクラスの1つ。 最大セル速度(PCR)を指定し、帯域を完全に確保するため、 専用線のように使える。 最も低遅延で遅延変動も少ない。 一般に、航空予約や銀行オンラインなどの重要データの転送や、 映像や電話音声などのリアルタイム性に厳しいサービスに適用される。 (2) VBR。Variable Bit Rate。 可変ビットレート。 ATMのサービスクラスの1つ。 時間とともに伝送速度が変動するが、 平均セル速度(SCR)は保証されるというもの。 短時間のバースト的なセル転送がある場合に適する。 - nrt-VBR。Non Realtime VBR。 遅延の保証がない。 航空予約や銀行オンラインなどの重要通信に使われる。 - rt-VBR。Realtime VBR。 低遅延を保証する。 音声や映像などリアルタイム系の通信に使われる。 (3) ABR。Available Bit Rate。 利用可能ビットレート。 ATMのサービスクラスの1つ。 最低セル速度(MCR)のみを保証し、 あとは最善努力(ベストエフォート)により、 その時点の空いた帯域で得られる速度で転送する。 バースト性の高いLAN間通信などに適する。 ABRでは、フロー制御の考え方が導入されており、 複数の端末が残余帯域幅を公平に融通しあって輻輳状態を避ける。 このため、セル損失は少ない。 (4) UBR。Unspecified Bit Rate。 未指定ビットレート。 ATMのサービスクラスの1つ。 セル速度の指定を一切しない。 品質の保証は一切なく、残存する帯域幅のみ利用できる。 セル廃棄や遅延が起こりやすい。 メールなど優先度の低いアプリケーションに適する。 (5) GFR。Guaranteed Frame Rate。 保証フレームレート。 ATMのサービスクラスの1つ。 最低セル速度(MCR)だけを保証する。 ※ GFRは、トラフィックシェーピングをフレーム単位で行ない、 通信効率を改善しているという特長がある。 トラフィックシェーピングとは、 VPごとまたはVCごとに使用帯域幅を絞り込むことである。 ATM端末機器がバッファを利用して、 セルの送出間隔を制御することで実現する。 ふつうはセル単位でトラフィックシェーピングを行なうため、 同一フレームの一部セルだけが廃棄され、 フレーム全体をまた再送する必要が発生する。 しかしフレーム単位でシェーピング行なえば、 こうした非効率を、あらかじめ避けることができる。 ■ ATMのネットワーク機器。 (1) ATMスイッチ ATMスイッチは、ATMセルをスイッチングするために VPI/VCI ペアのテーブルをポート毎に保持・管理している。 ATMスイッチは、ATMセルを受信すると、 このテーブルを参照して適切な送信先ポートを判断し、 新たなVPI/VCI 値をつけて再び送出する。 このためATMスイッチにおいて、 VCI単位および VPI単位でテーブルの出力ポート先を変更すれば、 ATM網内の経路を容易に切り替えることができる。 (2) CLAD。Cell Assembly/Disassembly。 ATMインターフェースを持たない既存の通信機器を、 ATMネットワークに接続するための変換装置。 または、その変換を行なう機能そのもの。 ATMにおけるCLADは、パケット交換(X.25)におけるPADや、 フレームリレーにおけるFRADと、同様の位置づけである。 ■ ATMを利用したサービス。 - スーパーリレーCR。 NTTが1995年に開始したATMセルリレーサービス。 - ATMメガリンクサービス(ATM専用サービス)。 NTTが1997年に開始したATM専用線サービス。 帯域保障型サービスで、契約帯域は0.5Mbps〜600Mbps。 - ATMシェアリンクサービス。 NTTが1998年に開始したATM専用線サービス。 ATMメガリンクの低廉版。 ベストエフォートサービスで、 実効速度は保証速度(mBR)と最高速度(PCR)の間で変動する。 ■ その他。 (1) LANエミュレーション。LANE。LAN Emulation。 ATMネットワーク上で、 イーサネットLAN環境を仮想的・擬似的に実現する技術。 MACフレームをカプセル化して透過的に転送する。 TCP/IPやIPX/SPXは、 ブロードキャストを利用するLANアプリケーションであり、 ATM網上では利用できなかった。 このためイーサネットを間に挟む目的で開発された。 (2) IP over ATM。 TCP/IPやIPX/SPXなどの ブロードキャストを利用するLANアプリケーションを、 直接ATMネットワーク上で稼働させる技術。 ネイティブモードATM、クラシカルIP over ATM(CIA)とも呼ぶ。 RFC1577で規定されている。 以上。 2004/02/26 pm