銀河警察機構(GPO)イースタン・メトロ・ポリス(EMP)分署 準捜査官(セミオフィシャルランサー)神城 潤殿

今年度、貴君の正規捜査官(オフィシャルランサー)昇格試験は、審議の結果、不合格と相成りました。
この結果に気を落とすことなく、貴君の更なる向上心に期待する。


銀河連邦暦300年 GPO本部捜査官適正審査委員会



プツン。
鈍い音と共に通信端末のスイッチが切れた。

「はぁ…」

端末の明かりの消えた暗い自室で少女――神城 潤は溜息をついてベッドに仰向けに転がる。
一年に一度の正規捜査官試験。筆記試験はモチロンだが、一年間の準捜査官としての働きも含めた実技も採点対象になる為、試験は一年に一度きりだった。

「これで3浪か……」

彼女に取っては二度目の落選だった。

(今回は……自信あったんだけどな……やっぱり筆記で駄目だったのかな……?)

彼女にとっての最大の難関は筆記試験だった。唯でさえ学業成績優秀とは言えない彼女だったが、地球を遥かに越える学業水準の銀河連邦のレベル試験である。
生まれて初めて本気で、勉強を続けた。それでいてランサーとしての仕事を怠った事も無かった。

(いや、違うな……アイツラはオレに気を使って仕事をあまり振ろうとしなかったな……)

しかし、結果は無残なものだった。

「クソッ!」

あお向けのまま、横壁に拳をぶつけようとして……止めた。
彼女の力を持ってすればこの程度の壁など一撃で大穴が開いてしまう。

「ランディは……たったの2年で上級捜査官(キャリアランサー)になったってのに……オレは」

わずか2年で自分を軽く飛び越えていった後輩の事を思い出し、握り締めた拳を震わせる。
ランディは元々優秀な男だった。捜査官養成校の次席卒業生であり、ある意味、当然の昇進かもしれない。
それでも、ジュンにとってはショックだった。
自分が今に、現状に甘えていた事を痛感させられたた。
ランディが研修を終えてEMPを離れてまもなく、ジュンは正規捜査官試験を志願した。
このままでいられない。

しかし……

「……やっぱり、無理なのか?……オレが、正規捜査官なんて……」

問い掛けるように発した言葉。当然返事は無い。自室には自分しかいないのだから。
ただ……その沈黙が自らの問い掛けを肯定しているようにジュンは感じた……



メルティランサー Side Story

IDENTIFY  第一話

作:御巫吉良(KIRA・MIKANAGI)



ウィーン。

「うぃーす!」

ドアの開閉音と共にジュンの元気のいい挨拶がこだまする。

「あ! お、おはよう、ジュン」

シルビィは慌てたようにジュンに振り向くと言葉を返した。

「あん?…お前ら、みんなして集まって何やってるんだ?」

ここはEMPのGPO分署内。怪訝そうなジュンの視線の先にはシルビィ、サクヤ、アンジェラ、ナナ、パティの5人が集まっていた。

「え!? な、何でもないわ、ね、ねえ、サクヤ?」シルビィは言葉を詰まらせながらサクヤに視線を向ける。

「え!? え、ええ。何でもありませんわ。ジュン」突然話を振られたサクヤまでもが言葉を詰まらせながらジュンにいつものにこやかな笑みを向ける。

「…ふーん」お世辞にも納得したようには見えない態度でジュンは自分の机に腰を下ろした。

「おい、パティ。今日のオレの仕事はなんだ?」

「え!?…あ、はい。今日は…えと、あの、ちょ、ちょっと待ってください!」

ジュンの問い掛けに慌ててパティは書類の束を大急ぎでめくり始める。

「え、えーと、ジュン先輩のお仕事は、ナナ先輩と住宅区のパトロールです!」

「そっか。じゃあ行こうか、ナナ」

「……」

「? どうした、ナナ」

「……元気、そうね」

「ナナ!」「ナナちゃん!」「ナナ先輩!」

ナナの言葉にシルビィ、サクヤ、パティが大きな声を上げる。

「…なるほど。そう言う事か」

ジュンはゆっくりと席を立つと潤はゆっくりと一同を見回した。

「その様子だと、結果は知ってるみたいだな。ああ、落ちたぜ。捜査官試験」

薄く笑みを浮かべてジュンは何でもない様子で言った。

「ジュン…」シルビィが遠慮がちに声を掛けようとして、

「おいおい、何て顔してんだよ……別に気にしちゃいねえよ。オレは出来が悪い事はみんな知ってんだろ? 別に今までと変わる訳じゃねえんだ。あんまし、気使うなよ……特にナナ。お前がオレに気を使うなんて、気味が悪いぜ」

「な、なんですって!」

ナナはたちまち険しい表情で潤に詰め寄る。

「ハン、そうよね。アンタみたいな脳ミソ筋肉女に落ち込む何てことあるはずないわね。心配して損したわ!」

「何だと、この……」

ジュンとナナはたちまち睨み合いになってしまう。

「ナナちゃん、ナナちゃん。お味噌汁は美味しいんだよ。お味噌を馬鹿にしちゃ駄目だよ」

「バカザルは黙ってなさい!」

「あ、あの二人とも、喧嘩はいけませんよ……」

アンジェラ、サクヤも加わって余計に騒がしくなってしまう。

「シルビィ先輩。やっと……普通になりましたね」

喧嘩の場から少し外れてパティは小声でシルビィに話し掛ける。

「うん。これがいつもの風景よね…」

シルビィも小声でパティに応えた。もっとも、あの場の罵り合いの声の中では普通に喋っても聞こえるとは思えないが……

「騒がしいな」

突然背後から声を掛けられてシルビィとパティは驚き慌てて後ろを振り向いた。

「「メ、メルビナ長官! いつこちらへ?」」

思わず声をハモらせながらシルビィとパティが声を挙げた。

「たった今sこのドアから入ってきたが……あの騒ぎでは気付かぬのも当然か」

メルビナは真顔で彼女の存在に気付かぬ4人を見ていた。その瞳がスッと細まる。
シルビィとパティは慌てて両手で耳を塞いだ。

「お前達、いい加減にしろ!!」

「「「「!!??」」」」

メルビナの強烈な怒声に4人の動きがピタリと硬直する。

「ジュン、スケジュールは変更してくれ。話がある」

メルビナの言葉に一同は再び表情を強張らせた。


「ここ……?」

メルビナに従って部屋の入り口に立ったジュンは戸惑った。
メルビナが自分を連れてきた場所……そこは訓練室だった。
本来はランサーである自分たちが日々、トレーニングを積む場所である。とても話をする場所ではない。

「おい、メルビナ。何でこんな所で……」

ゆっくりと部屋に入りながらジュンは訊ねようとすると……

パシュゥゥゥゥゥン!

突如、部屋の中央部で閃光が走った。

「な!?」

驚いたジュンの目の前には……戦闘モードに変身したメルビナがこちらを見ていた。

「ジュン、バトルスーツを着ろ。一本勝負だ」

「な、何だよ、急に」

「……どこからでもかかって来い。本気で構わない……いや、手加減をするようならば、私も容赦はしない」

ジュンの戸惑いを無視して、一切の感情を顔に見せないでメルビナは言葉を続けた。

「訳は、後で話す。とにかく、全力でかかって来い」

「……」

ビシュゥゥゥゥゥン!

軽い閃光と共にジュンの全身にバトルスーツが装着する。
ジュンは空手の構えを取ってメルビナを見据えた。
対するメルビナはまったく構えを取らない。自然体のままでジュンを見据えていた。

(流石に……スキがねえよなあ……ま、勝てるわけがないしな。どういう意味があるか知らねえが……)

「うぉりゃぁぁぁぁぁぁ!!」

ジュンは正面から突撃した。下手な小細工をしてもメルビナには通用しないと思ったからだ。
メルビナに迫りながら右の拳に力を込める。やがてジュンの拳に淡く光りだす。

「オーラナックル!!」

ジュンは拳に溜め込んだ気と共にメルビナに右の拳を打ち込んだ!

ギィィン!

金属音の擦れる音と共にジュンの身体が浮き上がるように伸びきってしまう。
メルビナはジュンが拳を打ち込むその瞬間に剣を抜き放ち、拳の下から切り上げてパンチの軌道を逸らしたのだ。
ジュンの右拳はメルビナの左肩をかすめて空を切る。身体は自然と伸びきってメルビナの前に無防備な姿をさらす事になる。

ビシィ!

「うわっ!」

メルビナは帰す刀でジュンの胸を突いた。
たまらずジュンの身体は吹き飛ばされ、仰向けに床に倒れ落ちた。

「…ここまでだな」

メルビナはジュンに近づくと、手を差し伸べた。
ジュンはその手を握って起き上がった。メルビナも手加減をしていたのだろう。ダメージは残っていなかった。

「……ふう、やれやれ。やっぱ強いな、メルビナは。全然かなわねえよ」

「……」

メルビナは一瞬表情を険しくした……が、すぐに元の無表情に戻った。

「で、何だったんだよ。この勝負の意味は?」

「……ジュン。お前は何を考えて戦っている?」

「え?」

突然の問い掛けにジュンは戸惑う。

「質問がわからないか? ならば、何の為に戦っている?」

答えられなかった。
自分の戦う意味……しいて言うなら仕事だからだ。
ジュンの家は母子家庭だった。
警察官にして空手の師範だった父親はジュンが幼い頃にテロで死んだ。
兄は数年前に失踪してしまい行方知れずだった。
女手一つで育ててくれた母親の為にすこしでも楽をさせてやりたい……たまたまある事件でパワードスーツを手に入れた為、GPOに入った。
だが、この答えでメルビナが納得するだろうか?
こんな答えでは仕事なら何でも良かった事になるのではないか?
GPOでなければならない理由……その答えがジュンには思いつかなかった。

「……ュン、ジュン! 聞いてるのか?」

「え?」

メルビナの声にジュンは我に帰った。

「今の質問は保留にしておこう。時間が無いからな」

「時間?」

「お前には特別任務についてもらう事になった。最近EMP市管内で起きてる連続殺人事件を知ってるか?」

「ああ、ニュースでやってたな。あれはEMP警察の管轄じゃないのか?」

基本的にGPOの仕事は異星人犯罪のみである。犯人が地球人、もしくはその判断がつかない場合はEMP警察が捜査する事になっていた。

「実は、市長の提案でな。今回のこの事件はEMP警察とGPOの共同捜査をする事になった。そしてその代表としてお前を派遣する事になったのだ」

「オレが……?」

「おそらくは政治ゲームだろうよ……半年後に迫った市長選挙への宣伝だろうがな……だが犯罪者がいる事は事実だ。捜査協力する事に問題はない」

「な、何でオレなんだよ。そういう派手な事はシルビィ辺りに任せれば……」

「ジュン。私の決めた事に不満があるのか?」

「……」

いつにも増して威圧的なメルビナの態度にジュンは口を噤んだ。

「今日から事件解決までの間、お前はこの事件に専念して貰う。私を含めた他の連中は基本的にはこの事件にはタッチしない。あくまでもお前と、EMP警察で処理するんだ」

メルビナの言葉にジュンは驚いた。これでは共同捜査と言うより自分がEMP警察に出向すると言う事ではないか。

「本来は向こうの仕事だからな。市長の命令とはいえ、あまり我々が関わっては良い顔はしないだろう。よって、協力するのは最低人数のみ。つまり、お前だジュン」

「メルビナ……これが、さっきの質問と関係があるのか?」

ジュンは訴えるようにメルビナを見た。
この扱いは……まるで、自分を追い出そうとしているように感じたからだ。
自分は……厄介者だったのかと。

「……あると言えばある。無いと言えば無い。答えは自分で探すものだ、ジュン」

突き放すような言葉を放つメルビナ……だが、その瞳はわずかな憂いを浮かべていた……


つづく



中書き

ここまで読んでくださってありがとうございます。御巫吉良です。

短くてゴメンなさい……本当はまとめて書き上げてから掲載しようと思ってたのですが、最近執筆が遅れ気味なのでこういう形でいくつかに分けて掲載する事にしました。すべて書き上げましたら一つにまとめたいと思っています。よって後書きでは無く、中書きです(笑)

今回のメイン・ヒロインは神城 潤。時代背景としては「メルティランサーRe-inforce」と、「メルティランサー The 3rd Planet」の間のお話、ランディが上級捜査官になって旅立ってから2年後。「3rd」の1年前のお話です。

「3rd」において激変していたジュンちゃんでしたが、その変化の理由を書けたらいいなと思っています。

まだ感想を頂けるほど書いてないので感想は結構ですが(苦笑)掲示板メールか、感想用フォームで「読んだよ」とだけでも教えて頂ければ嬉しいです。
それではまた次回も読んで頂けるよう頑張ります。それでは〜♪

99/11/14作成

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