日刊Piaキャロ

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11日目

 ・・・美奈ちゃんとの“撲針愚”勝負から3日後。
 俺はいつものようにPiaキャロ塾で授業を受けている。

 いつものように平穏な生活が戻・・・っては来なかった。

「お・に・い・ちゃ〜ん♪」
「な、何かな、美奈ちゃん」

 喜色満面で美奈ちゃんは俺のそばに寄って来る。

 あの対決の翌日、美奈ちゃんはPiaキャロ塾の研修生として入学してしまった。
 日野森は猛反対だったが、他ならぬ塾長が認めた事だったので撤回される事は無かった。

「三角関係は
男のロマ〜〜〜〜〜〜ン!!!

 とか、言ったとか、言ってなかったとか・・・

 それから美奈ちゃんは、休み時間など時間が許す限りこうして俺の所へやってくる。

「お兄ちゃん、今日は放課後、暇ですかぁ? 良かったら美奈に勉強教えて欲しいんですぅ♪」
「え、えーっと・・・」

 今日は特に予定は無いし、普通なら付き合ってあげるのだが・・・

「・・・で、また痺れ薬でも前田くんに仕込むつもりかしら?」

 俺と美奈ちゃんを引き離すように、日野森は身体を割り込ませてきた。

「チッ・・・またオジャマ虫が・・・」
「まったく・・・油断も隙も無いんだから・・・」

 舌打ちする美奈ちゃんを日野森は呆れたようにジト目で見る。

 そう・・・日野森の言うように、昨日俺は美奈ちゃんに今のように懇願されて美奈ちゃんの部屋に行った。
 そして美奈ちゃんが入れてくれた俺へのコーヒーの中に痺れ薬が入っており、俺はたちまち身動きが取れなくなった。
 そこから・・・美奈ちゃんは

「既成事実を作ってしまえばこっちのものですぅ!」

 と言って俺の服を脱がそうとした所で、日野森に発見されて俺の貞操は守られたのである・・・(汗)

「あれから大変だったのよ。前田くんは泡を吹いて意識を失うし・・・」
「あ、あれは・・・分量を間違えちゃって・・・えへ♪」
「えへ♪ じゃ無いわよ! 前田くんを殺す気なの!?」

 ああ、また始った・・・
 わずか3日で俺はこの姉妹喧嘩の仲裁は諦めていた。
 一度は仲裁を試みたが、二人に攻撃を食らってノックアウトされてしまったのだ・・・

 俺は目の前で繰り広げられる壮絶な姉妹の舌戦を傍観していたが、

 ガラガラ。

 扉の開く音に目を向けると、講師の涼子さんがこちらに手招きをしているのが見えた。

 日野森姉妹は気がついた様子はない・・・俺を呼んでるのか?
 俺は日野森たちに気がつかれないようにソッと席を立って涼子さんの下へ向かった。

「どうしたんですか? まだ休憩時間のはずじゃ・・・」
「・・・ちょっと前田くんに話があるの。来てもらえる?」
「はあ・・・別に構いませんが」

 俺は涼子さんに促されるままに教室を抜け出した。



 涼子さんは校舎を出て、グラウンドの隅の、卒業式の日に告白をされると永遠に幸せになれそうな大木にまで俺を連れて来た。

「平和なものね・・・3日前の騒ぎが嘘のよう」
「それは俺が言いたいですね・・・よくもまあ、あの大掛かりな施設を一夜にして片付けられましたね・・・」

 そう、あの闘技場はわずか一日にして消え去り、元の何も無いグラウンドに戻っていた。
 美奈ちゃんが壊した校舎の修繕もすでに完了しているらしい。

「まあ、ああいうイベント施設にはコツがあるのよ・・・と、まあそんな話は今度にしましょう。今は迫り来る嵐の事を考えないとね」
「迫り来る嵐?」

 涼子さんの物騒な言葉に俺は思わず問い返す。

「デリーズの刺客がここを狙っているわ」
「デリーズって・・・あのファミレスの?」
「そう、関東は言うに及ばず、全国1327軒のチェーン店を持つPiaキャロット最強のライバル店よ・・・未だ2店舗のPiaキャロットとはいえ向こうは黙っていないらしいわ・・・ここを潰してPiaキャロットを傘下に治めようと画策しているとの情報が入ったわ」
「・・・ここが潰れたらPiaキャロットは危ないんですか?」
「それはもう・・・Piaキャロットは2号店をオープンしてまだ日が浅く、従業員の数が足りないわ。ここが無くなったら従業員の指導ができなくなって、優秀な店員が育てられなくなるわ。ファミレスはサービスが命・・・粗悪な店員の店なんてあっという間にジリ貧よ」

 うーん、ここの授業が優秀な店員を育てているのか、かなり疑問だが・・・

「まあ、話はわかりましたが、何で俺に?」
「この話は前田くん、あなたを中心にあずささんと美奈ちゃんの3人で始末をつけて欲しいの。相手も正式な店員じゃなく見習いの子らしいわ。だったら私たち店員が手出しするのは筋違いだと判断しましたので」
「・・・つまり、店の人間が手を出したら問題だから、“まだ部外者”の者同士でやれと・・・」
「物分りが良くて助かるわ」

 俺の言葉に涼子さんはニッコリと笑みを浮かべて頷いた。

「はあ・・・また乱闘になるんですかね・・・キツイ学校ですね・・・まったく」

 俺はまたやってくるであろう厄介ごとに溜息をついた・・・



 その頃、日野森姉妹は・・・

「ハァ、ハァ・・・きょ、今日はこれぐらいで勘弁しておいてあげるわ・・・」
「ゼェ、ゼェ・・・こ、こっちこそ、これで許してあげるですぅ・・・」

 口喧嘩に疲れきった二人は引き分けのまま休戦と相成った。

「あれ? お兄ちゃんどこに行っちゃったんですぅ?」
「あれ? そう言えば・・・いつの間に?」

 喧嘩に夢中で耕治が出て行った事にまったく気がついていなかった二人であった。

「あ! あれ、お兄ちゃんじゃないですかぁ?」

 美奈はグラウンド側の窓から校門付近の人影を見つけて指差した。

「え?・・・いえ、あれは前田くんじゃ無いわ。でも、誰かしら・・・見たことの無い顔だけど」

 あずさは目を凝らしてその人影を見つめた。
 見たところ、自分と同じ高校生くらいの男の子だ。

「新しい講師・・・って感じじゃないわね。新入生が来るなんて聞いてないし・・・まさか不法侵入?」
「ええ!? じゃあ、即刻追い出さないといけないですぅ!」
「・・・ミーナ、あなた4日前はあなたも不法侵入者だった事、忘れてない・・・?」

 ダッシュで教室を出て行く美奈の後を追いかけるように走りながらあずさは小さな声で言った。



 ところ変わってここはPiaキャロ塾校門。
 さきほど日野森姉妹が見かけた青年は物珍しそうにグラウンドを見渡していた。

「この前来た時とは随分違うな。たいしたモノだな、Piaキャロットの力は・・・」
「あなた誰ですぅ!?」
「え!?」

 青年の目の前にいつの間にか美奈が立っていた。
 憤然とした様子で青年を指差している。

「え、えっと・・・お嬢ちゃんは確か、美奈ちゃんだっけ?」
「むぅ? 何で美奈の名前を知っているんですかぁ!?・・・・・・は! わかった、あなたストーカーさんですねぇ!?」
「ええ!? な、何で俺がストーカーなんだよ!」
「美奈のまったく知らない人なのに美奈の事を知ってる・・・ストーカーさん以外に考えられないですぅ!」
「だー! お、俺が君の名前を知ってるのは、3日前の・・・」
「ミーナ! なにやってるの?」

 誤解を解こうと青年が弁解を口にしようとした時、あずさがようやく校門に到着していた。

「あ・・・・」

 あずさを見た途端、青年は顔を真っ赤にして硬直した。

「ミーナ、どうしたの?」
「近づいちゃダメですぅ! この人ストーカーさんですぅ!」
「ええ!? ストーカーですって!?」

 あずさは汚い物でも見るような表情で青年を見つめた。

「な! だ、だからそうじゃ無いんだってば!」
「変質者は黙るですぅ!」

 ようやく硬直の解けた青年だったが、すでに弁解するキッカケを失ってしまった。

「だ、だから俺は別に・・・」
「近寄らないで、変態!!」

 
ガーーーーン!

 あずさの強烈な拒絶の言葉に青年は大ショックを受けて石化してしまった。

「う、う、うわーーーーん!!」

 青年は突如泣き出して、そのままダッシュで門の外へと帰っていってしまった・・・

「な、何だったのかしら、あの人・・・」
「ストーカーに常識なんて通用するわけないですぅ!」

 困惑顔のあずさとは対照的に美奈は吐き捨てるように言った。

「・・・あら? これ、さっきの人が落としていったのかしら?」

 あずさは足下に落ちていた封書を見つけて拾い上げた。

「なんです、それ?・・・ひょっとして美奈たちの隠し撮り写真とか・・・」
「こ、怖い事言わないでよ、ミーナ・・・」

 あずさは拾い上げた封書を見つめつつ裏を見ると・・・

 
決闘状

 と書かれていた・・・


 つづく・・・


12日目

「・・・で、その男がこれを落としていったのか?」

 デカデカと“決闘状”と書かれた封書を片手に俺は呟くような声を日野森たちにかけた。

「ええ・・・私たち、てっきり変質者かと思ったから・・・」

 申し訳無さそうに日野森が答える。

「そんなにおかしな男だったのか?」
「そうですぅ!」

 日野森の後ろで小さくなっていた美奈ちゃんが突然俺の前に飛び出してきた。
 どうやら、怒られないとわかって出てきたらしい。

「う〜ん、例えて言うなら・・・下着ドロの常習犯みたいな感じですぅ」

 ・・・いや、それじゃわかんないって。

 美奈ちゃんは一人納得したように頷いている。

「ミーナったら・・・特に普通の男の子だったわよ。そうね・・・前田くんと同じくらいの年齢じゃないかしら?」
「ふーん・・・じゃ、やっぱり涼子さんが言ってた刺客なんだろうな」
「刺客? 何のこと?」
「ああ、実はさっき・・・」

 俺は日野森と美奈ちゃんに涼子さんから聞いた事を話した。

「なるほど・・・それでこの決闘状の内容の意味がわかったわ」

 日野森は既に開封済みの封書から中の手紙を取り出した。

「Piaキャロ塾・最大名物
『驚羅大四凶殺』(きょうらだいよんきょうさつ)にて勝負を挑む・・・か。でも、これってどんな勝負なのかしら」


「それでは説明しよう!」


「「「うわぁ!」」」

 突如俺たちの囲んだ中央から突然現われた木ノ下塾長に俺たち3人は仰天して仰け反った。

「じゅ、塾長・・・どこから現われるんですか!?」
「『驚羅大四凶殺』とは・・・」

 駄目だ。語りモードに入ってる・・・

「場所は霊峰富士大観が原。かの地にてお互い4人づつ代表を選び闘う・・・ファミレス業界では雌雄を決する為に使われる古式ゆかしい戦闘方法なのだ!」

 ・・・・・・ファミレス業界って一体・・・(汗)

「あ、あのー、ただ闘うのに何故富士山まで行くんですか?」

 日野森がもっともな意見を塾長に質問した。

「うん・・・あの地には特別な闘いの舞台があるのだ。そこで双方闘う事に意味があるのだよ」
「特別って?」
「それは・・・参加者だけが知っている事だ。僕の口からは説明できないね・・・」

 それは知らないから説明できないのか、それとも説明してはいけないのか・・・塾長は答えぬまま教室を去って行った。

「まあ、勝負は受けないわけにはいかないみたいだけど・・・どうするの?」
「え? 何が?」
「もう! 鈍いわね! この闘いにはメンバーが4人いるのよ!? あたしたち3人しかいないじゃない!」
「ああ、そう言えば!」

 うーん、涼子さんも今回は“見習い”だけでやれって言ってたから涼子さんは無理だし・・・
 俺と日野森が頭を抱えていると、

「あのぉ・・・お兄ちゃん。ここの生徒なら良いんですかぁ?」

 会話の輪から外れていた美奈ちゃんがふと思い出したように話し掛けてきた。

「え? あ、ああ。そりゃそれが一番だけど、ここには俺たち3人しかいないし・・・」
「いますよ。美奈、見たことありますぅ」

「「ええ!?」」

 美奈ちゃんの思いがけない言葉に俺と日野森は驚きの声を上げた・・・



「え? ここの地下?・・・あなた達、あんな所に行ったの?」
「いえ、正確には俺たちじゃなく、美奈ちゃんだけなんですが・・・」

 俺たち3人は涼子さんの下に来ていた。
 美奈ちゃんの見た“生徒”はこの校舎の地下にいたと聞いたからだ。
 なんでもこの校舎を散策している間に地下への階段を見つけて、そこで会ったらしい。
 俺と日野森は地下があることすら聞いていなかった。
 そんな得体の知れない場所に勝手に入っていいものか・・・俺と日野森は相談した結果、涼子さんに聞いてみる事にしたのだ。

「ええ・・・確かにあそこには一人いるけどね・・・ただしあそこにいるのはここの生徒じゃないわ。一応、Piaキャロットの正式な店員よ」
「え? そうだったんですか?」

 当てが外れたか・・・店員なら参加は無理かな。

「ただ、ちょっと謹慎してもらっているのよ・・・ちょっと素行に問題があってね・・・」
「謹慎?」
「見に来る?・・・きっと見ればわかるわ」

 そう言うと涼子さんは引出しから鍵束を取り出すと俺たちを先導して地下へと向かった。


 コツーーン。コツーーン・・・

 地下への階段は電灯もなく薄暗い・・・注意して歩かないと足下を踏み外しそうだ。

「この地下はね・・・独房なのよ」
「ど、独房?」
「そう・・・あなた達も目に余る悪さをするようならここに入れられる事になるわ・・・肝に銘じておきなさい」
「りょ、涼子さん・・・そんなセリフ、懐中電灯で顔を照らしながら言うのは止めて下さい、怖過ぎます・・・」
「あら、そう?」

 ちなみに日野森と美奈ちゃんはそれぞれ。俺の腕にしがみ付いて着いて来ている。

「ちょっと、ミーナ。前田くんに近づきすぎよ」
「そういうお姉ちゃんこそ、怖くもないくせに美奈のお兄ちゃんにくっつかないで下さぁい」
「何で“美奈の”なのよ。そんな事前田くんは一言も言ってないわよ」
「ふふ〜ん、愛し合う二人は言葉にしなくてもお互いの気持ちがわかるんですぅ」
「・・・妄想もここまで来ると入院した方がいいかもね」
「ガルルル・・・!」
「フゥーーー!」

 ・・・相変わらず喧嘩をしている・・・

「さ、ついたわよ。ここでしょ?」

 涼子さんは地下の一つの扉を指差した。

「そうですぅ。美奈、ここから人の声を聞きましたですぅ」

 扉は頑丈そうな鉄製の扉で出来ており、扉についた小さな窓には鉄格子がついている。

「ここには仕掛けがしてあってね・・・部屋の全周囲から水が流れ出てくるようになってるの。つまり水攻めね」
「そ、それって・・・独房じゃなく拷問部屋なのでは・・・」
「まあ、そうとも言うわね」

 しれっとした口調で涼子さんは言った。

「でも、今回は反省させる為にも別のモノを流し込んでやったんだけど・・・少しは懲りたかしら?」

 涼子さんは鍵束から一つ、鍵を選ぶとそれで扉の鍵を開けた。

 ギィィィィィ。

 軋むような音をたてて扉がゆっくりと開くと・・・

「なっ・・・」

 涼子さんは部屋の様子を見て絶句している。
 俺たち3人も涼子さんの影から顔を出して覗き込むと・・・

 「スヤスヤ・・・」

 一人の女性が大の字になって眠っていた。
 水攻めの部屋だと聞いたが、水なんてどこにも無いが・・・

「信じられない・・・この部屋のお酒、全部飲んだの!?」
「お酒?」
「ええ・・・この部屋には水の代わりに部屋一杯にお酒を入れてやったのよ・・・こうすれば少しは酒に嫌悪感を覚えるかと思ったんだけど・・・」
「な、何でまたそんな事を・・・」
「この女はねえ・・・店で酔っ払ってお客様に大変な迷惑をかけたのよ・・・罰のつもりでやったんだけど、逆効果ふだったみたいね・・・」

 ああ、なるほど。
 しかし・・・この部屋一杯の酒って・・・子供用のプール並みの容積はあるのでは?

 改めて眠っている女性に目を向けた。
 女性は袖なしシャツにタンクトップとラフな格好だ。

 ・・・プルン。

 うわ、すっごい胸・・・ちょっと見えそうなんですけど・・・目のやり場に困る。

「葵! 起きなさい!!」

 涼子さんが女性を揺すって起こそうと試みている。

「う、うーん・・・あ、りょーこ・・・ねええ、お酒もう無いのー?」
「・・・あなた、まだ飲み足りないの・・・?」
「えへへー。一眠りしたからねー」

 えへへ、と女性が笑った。
 涼子さんは特大の溜息をついた。

「はいはい、それはまた夜にね・・・それよりもあなたをみんなに紹介しないとね」
「紹介?」

 そこでやっと女性は俺たち3人に気がついたようだ。

「あー、あんたたち、ここの生徒ね? あたしは皆瀬葵。葵って読んでねー・・・ってアタタタタ・・・」
「ど、どうしました?」

 突如頭を抱えて苦しみだした女性――葵さんはフラフラとおぼつかない足取りで前に進んできたので、俺は慌てて彼女を抱きとめた。

 
むにゅううう。

 うあ、あ、葵さんの胸が・・・や、やっぱ大きい・・・

「いや・・・ちょっと二日酔いみたいで・・・うっ・・・!」
「え?」
「ウォェェェェ!!!!」
「ぎゃぁぁぁぁ!!!!」

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ピンポンパンポーン。

大変見苦しいモノをお見せしてしまい、失礼を致しました。
続きは明日までお待ち下さい・・・

ピンポンパンポーン。
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 つづく・・・


13日目

「んぐ、んぐ、んぐ、んぐ・・・プハァー! う〜ん、この一杯の為に生きてるって感じよね〜」

 葵さんはビールを一気飲みしてご機嫌だ。

「まったく・・・さっきまで青い顔してたくせに、また飲んで・・・」
「あっはっは。出すもの出したらスッキリしちゃったわ。いくらでも飲めるわよ〜」

 涼子さんは呆れた表情で座り込んで飲んでいる葵さんを見下ろしている。

「そうですね・・・たくさん出しましたもんね・・・」

 俺は恨みがましい声で言った。

「あ、前田くん・・・着替え、終わった?」
「ええ、日野森たちに寮から服を持って来てもらったので」

 俺は汚れた服から私服に着替えていた。

「あ、アハハ、ゴメンねー耕治くん」
「いえ・・・幸いと言っていいのかわかりませんが、俺が浴びたのはお酒ばかりでしたから匂いはさほどでもないですし・・・」

 丸3日間、お酒だけを飲んでいた葵さんの胃袋の中にはお酒しかなかったのだ。
 ・・・酒臭くなったのは我慢するしかないか。

「しかしよく飲みますね・・・もうエリスビール500ml缶10本以上ですけど・・・」

 日野森は床に散乱した空のビール缶を数えながら呟くように言う。

「ま、これがアタシの栄養補給源だからねー。いくらでも入るわよー」
「・・・ビールばっか飲んでたらビール腹になっちゃうですぅ」

 美奈ちゃんがボソッとその言葉を言った瞬間、

 
ドゴォォォォォン!!

 「きゃぅぅぅ!」

 
ズガァァァァァァン!!

 美奈ちゃんは葵さんの目にも止まらぬ裏拳を食らって、吹っ飛ばされた・・・あ、壁にめり込んでいる。

「・・・なにか言ったかしら、美奈ちゃん?」

 葵さんはニッコリと美奈ちゃんに笑いかけているが・・・目は全然笑っていない。

「うう・・・な、何もいってないですぅ・・・」

 美奈ちゃんはベソをかきながら俺の背後に隠れて怯えている。
 やっぱ、この人も普通の人じゃないな・・・

「さて、これで代表4人は揃ったわね」
「え? 涼子さん。4人って・・・葵さんもメンバーに入って貰うんですか?」

 涼子さんの言葉に俺たちは驚いた。

「あなた達もそのつもりで葵を紹介して欲しかったんでしょ? メンバーは必要なんだし許可するわ」
「あ、あのー、涼子? アタシの意見は・・・?」

 葵さんは恐る恐る手を上げて涼子さんに質問した。

「・・・この勝負はPiaキャロット最大のライバル店、デリーズとの代理戦争・・・勝ったら店長は喜ぶでしょうね・・・」

 
ピク。

 ? 葵さん、どうかしたんだろうか? 小刻みに身体を震わせて・・・

「あーはっはっは! もちろんよ! このお姉さんが味方して上げるんだから絶対に負ける訳ないわ・・・いえ、なんとしても勝つのよ!!」

 葵さんは突然立ち上がると、高らかに勝利宣言をのたまった。

 その様子を見て涼子さんはフッ・・・と笑った。

(葵は単純で助かるわ・・・)

 ・・・この二人の関係って一体・・・(汗)


 
つづく・・・


14日目

 暗闇の中、炎が一つ、かすかに揺らめいた。

「来たか・・・みんな」

 蝋燭の炎の揺れと同時に背後に音も無く忍び寄る3つの気配を青年は気付いた。

「・・・で、Piaキャロ塾には話をつけてきたんですか?」

 おっとりとした口調の女性が青年に問い掛ける。

「あ、ああ。ちゃんとあの手紙を渡してきたよ」

 少しどもりながら青年は答える。

「渡した? それでちゃんと承諾の返事はもらってきたんだろうね?」

 少し低い声の女性が怪訝な表情で問い掛ける。

「え、あ、も、もちろんさ! 明日の深夜0時には富士山麓に来るってさ」

 更に焦った様子で青年は答える。

「あ・や・し・い・な〜? 真士くんな〜んか、隠してない?」

 子供っぽい口調の女性はビシッ! と青年――矢野真士に指差した。

「う・・・え、えっと、その・・・じ、実は・・・あの果たし状落としちゃって・・・」


「「「えええ〜〜〜〜!!?」」」


 三人は思わず大声を上げた。

「まったく・・・手紙を届ける事もできないのかい?」
「どーしてもって、真士くんが言うからこの役目を任せたのに〜」
「まったくもって、使えない人ですね・・・」

 
グサグサグサ。

 容赦の無い3人の罵倒に真士の“男のプライド”は3000のダメージを受けた!

「うう・・・ごめんよう・・・でも落としたのはあそこの生徒の前だと思うから多分伝わっているとは思うんだよ・・・」

 シクシクと泣きながら真士は弁解をしようとするが、

「あ、ちゃんと伝わってますよ。先ほどあちらの塾長さんから承諾すると電話を受けましたので」
「え?」

 意外な返事に真士はキョトンとした表情で今の言葉の意味を考えて、

「・・・あの、早苗さん。ひょっとして今の会話は・・・」
「はい、ドジでマヌケで最弱でオマケに虐め甲斐のある真士さんを虐める為にカマかけてみただけです」

 おっとりとした口調で、悪びれる様子も無く女性――縁早苗は言ってのけた。

「ううう・・・酷いよ早苗さん・・・どうしていつも俺を虐めるんだ・・・」
「素直に果たし状を落としたミスを告白しないからですよ」
「ぐっ」

 淡々とした口調ながら、早苗の的確なツッコミに真士の心には更にダメージを重ねていく。

「ま、まあまあ、早苗さん。真士くんを虐めるのは楽しいけど今日はそれくらいにしておこうよ」

 さすがに見かねたのか、少し低い声の女性――神楽坂潤が仲裁に入った。

「まあ、潤くんがそう言うなら止めますけどね・・・チッ」

(い、今の舌打ちは何なんだぁぁぁ!)

 真士は辛うじて心の叫びを表には出さなかった。

「あっはは♪ でもようやくPiaキャロットと勝負できるんだね〜♪ ボク心待ちにしてたんだよ〜」
「つかさちゃんはやる気満々だね」
「もっちろんだよ、じゅんじゅん♪」

 子供っぽい口調の女性――榎本つかさは嬉しそうにその場うで小さくジャンプしている。

「・・・そうですね。Piaキャロットは我々全員にとって憎むべき敵・・・あの屈辱を我々は決して忘れない・・・」
「さ、早苗さん。藁人形は止めて・・・」

 おもむろに取り出した藁人形を壁に打ちつけようとする早苗を真士は慌てて止めた。

「ブツブツ・・・そりゃ私だってちょっぴり太めかな、とは思いますけど制服のサイズが無いなんて・・・」

 早苗はブツブツと恨み言を呟いている。

「ボクだって〜! どーしてワンワンの着ぐるみじゃ駄目なのかなあ? 可愛いのに・・・」

(そりゃその格好で面接に行けば落とされるよな・・・)

 不満タラタラのつかさを真士は横目に思った。

「ボクだって・・・どうしてウェイトレスの制服を着たいって言っただけで退学なんだよ!」

(そりゃ“女装趣味の男”なんて嫌だよなあ・・・)

 ほっぺを膨らませている潤の声を聞きながら真士は溜息をついた。

「と・に・か・く! この闘いはボクらのPiaキャロットへの復讐だよ!」

 つかさが高らかに宣言し、

「ボクたちが受けた屈辱・・・何倍にもして返してやるんだ!」

 潤は拳を握り締めて気合を込めて、

「クックック・・・生きている事を後悔したくなるほどの生き地獄を味あわせてやりますね・・・」

 藁人形に何度も何度も五寸釘を突き刺しながら、早苗はブツブツと恨みがましい声で呟いた。

「「「ボク(私)たち3人の力を見せてやる!!」」」

「あ、あの・・・お、俺の存在は・・・」

 暗い闘志に燃える三人に、真士の遠慮がちな言葉は耳に届かなかった・・・

 つづく・・・


15日目

  ブロロロ―――

 深夜の山中を一台のRV車が入り組んだ山道を走っていた。

「あ、富士山が見えてきたですぅ!」
「夜の富士って不気味ね・・・昼間は綺麗なのに」

 窓の外を指差してはしゃぐ美奈ちゃんとは対照的に、日野森は少し怯えたように自分の肩を抱きしめる。

「見えてきたわね・・・もうすぐ目的地よ」
「あ、そうなんですか? このまま道なりで良いんですね?」
「ええ」

 助手席の涼子さんと運転中の俺はそんな会話をしていると、

「んー? 何かそこの二人、あーやーしいわねー。何からぶらぶ〜って感じー」
「な、何を言ってるのよ、葵!!」

 酔っ払って間延びした葵さんの声に涼子さんは何故かうろたえる。

「・・・意外なところにライバルがいたんですねぇ・・・やっぱり今のうちに殺っておくべきですぅ」
「ミ、ミーナ。車内でメリケンは止めなさい」

 何やら後方が騒がしいが、山道を運転中の俺に後ろの様子を窺う余裕は無かった。

「あ・お・い・・・本当ならあなたが運転するはずだったのよ。それなのに運転免許証を忘れるから・・・」
「アハハ、だからごめ〜んって言ってるじゃな〜い。お酒の買い込みに忙しくってさあ・・・ついね。別に免許証が無くても運転するって言ってるのに」
「駄目よ! 無免許運転で捕まったらどうするのよ!」
「んも〜、真面目なんだから、涼子は・・・」

 隣では涼子さんと葵さんが口論になってしまったようだ。
 しかし、免許取り立ての俺に周りの状況を気にする余裕は無かった・・・

 うう、まさか免許取得して最初の運転が、長距離&暗い山道という最悪のコースになろうとは・・・
 俺はとにかく安全運転を心がけながらゆっくりとしたスピードで車を走らせて行った。



 ・・・しばらくすると濃い霧が出てきた。

 マズイなあ、これじゃ前がほとんど見えないよ・・・

「あ、前田くん。ここら辺で良いわ」
「あ、はい」

 涼子さんの指示に従って俺は車を停車させた。

「さあ、ついたわよ。みんな下りて」

 涼子さんの言葉に従って全員が車を降りた。

「あ? 車は置いていっていいんですか?」
「大丈夫よ。他に誰も来ないから・・・」

 言われてみればそうか。

「うう、冷えるわね・・・んぐんぐ・・・」

 葵さんは体をすくめて・・・まだお酒を飲んでいる。

「?・・・あ、あれは何!?」
「え?」

 日野森の指した方向に俺たちが視線を向けると・・・

「「「おおっ・・・!」」」

 年季の入った迫力のある鳥居がそびえ立っていた。
 闇夜と濃い霧のせいか、まるで幽霊屋敷のような雰囲気がある。

「ここは富士山麓・宝獄大社・・・・・・千年もの歴史をもつ由緒ある神社よ。“驚羅大四凶殺”に出場する四人以外この神社の中に入る事は許されないわ」

 涼子さんは昔話でもするかのように静かに語っている。

「“驚羅大四凶殺”・・・その全権をつかさどるのはこの神社の巫女に委ねられてきたわ・・・・・・そのすさまじさ故に、あくまで中立的第三者の手によって闘いが運ぶようになっているのよ」

 涼子さんは語り終えると、少し息を吸って、

「たのもう!! Piaキャロ塾四勇士“驚羅大四凶殺”にはせ参じつかまつった!!」

 涼子さんの初めて聞く大声に俺たちが驚いていると・・・

「! 奥から誰か来るわ!」

 日野森の言葉通りゆっくりと足音が二つ、近づいてきた・・・・・・

 つづく・・・


16日目

 タッタッタッタッタ・・・!

「わ〜い、おきゃくさんだぁよ!」

「「「「「え?」」」」」

 鳥居の奥から飛び出してきたのは意外にも3〜4歳くらいの可愛らしい巫女装束の女の子だった。

「おにいちゃん、あしょぼ、あしょぼ〜♪」
「え、えーっと・・・」

 なぜか俺の足下を嬉しそうに駆け回る女の子に俺たちが戸惑っていると、

「こら、かおる。お客様を困らせちゃ駄目よ」

 そんな言葉と共に妙齢の巫女装束の女性が鳥居の向こうから現われた。

「すいません、ウチのかおるがご迷惑をお掛けしまして・・・」
「い、いえ、そんなこと・・・」

 女性は申し訳無さそうに頭を下げた。

「私、"驚羅大四凶殺”を司ります宝獄大社の巫女、山名春恵と申します」
「巫女見習いのかあるだお〜♪」

 丁寧な挨拶の春恵さんとは対照的に元気満々で、かおるちゃんは飛び跳ねている。

「さあ、代表の方はこちらへどうぞ・・・申し訳ありませんがそれ以外の方はこちらでお待ちください」
「ええ、わかっています・・・みんな、しっかりね」

 涼子さんの激励の声に軽く手を上げて応えて俺たち四人は春恵さんの先導で中へと入っていった・・・


 既に相手のチームは俺たちを待ち構えるように待っていた。

「ふふふ、遅かったな、耕治。怖気づいたのかと思ったぞ!」
「あ、お前は!」
「あの時のストーカーさん!!」

 
ズルッ!

 美奈ちゃんの言葉に真士は豪快に転んだ。

「だ、だからストーカーじゃないんだってばぁ!」
「はいはい、邪魔ですよ」

 
ドカァ!

 真士は後ろに控えていた三人の一人に側頭部を一撃されてその場にぶっ倒れた・・・ヒデェ。

「お初にお目にかかりますね。デリーズ三人娘(予定)の一人、縁早苗と申します」

 真士を一撃でKOした少女はその豪快な一撃とは裏腹に大人しい挨拶を済ました。

「・・・神楽坂潤です。よろしく」

 ショートカットの女の子は挑発的な視線で俺たちの値踏みながら言った。

「あっはは〜。榎本つかさだよ! “つかさちゃん”って読んでね♪」

 何が嬉しいのか最後の女の子ははしゃぎ回っている。

「で、この出来そこないが一応、リーダー兼雑用係の矢野真士です。まあ、忘れて貰っても構いませんが」

 早苗さんは気絶したままの真士を足で突きながら面倒くさそうに言った。

「ではこれより密行『驚羅大四凶殺』を開始します・・・美樹子さん」
「はい、これですね」

 春恵さんの言葉と共にもう一人の巫女装束の少女が何かを運んできた。

「あ、紹介が遅れました。こちらは篠原美樹子さん。アルバイトの方です」
「あ、よろしくねー」

 美樹子さんは照れくさそうに頬を掻いた。

 ・・・関係者以外は立ち入り禁止じゃなかったのか?

 俺の素朴な疑問をよそに美樹子さんは運んできた巨大な箱を開けた。

「各チームは全員これを足につけて下さい」
「これって・・・足枷?」

 箱から出てきたのは鎖で繋がった足枷だった。

「はい。各チームごとにあります。これでチーム全員は運命共同体となるわけです・・・そしてこれを外すのは闘いの場の代表選手のみです」

 なるほど、一対一の勝負の邪魔は出来ないという訳か。

 指示通り全員がそれぞれ自分の片足に足枷を取り付けた。

「では、第一の闘技場に参りましょう。皆さんついて来て下さい」

 俺たち八人は春恵さんたちの先導の下、山道を登り始めた・・・

 
ズルズルズルズル・・・

「ぬがぁ! ぎゃぁ! ぐはぁ!」

 あ、真士だけ引きずられてる・・・



 歩き始めておよそ1時間・・・一体どこまで登るんだ?
 そんな事を考えていると、日野森が鼻をひくつかせて言った。

「・・・ねえ? 何か匂わない?」
「え? 葵さんのお酒の匂いじゃ・・・」

 
パコ!

「失礼ねぇ。あたしはそんなに飲んでないわよ」
「そ、そうじゃなくて・・・」
「着きました。ここが第一の凶、
灼脈唐辛子関(しゃくみゃくとうがらしかん)です!」
「こ、これは・・・!?」

 そこはボコボコと泡立つ赤い池・・・いや湯気が上がってるから温泉か?

「両軍、代表一人を出して下さい」

 そ、そうだ。全然順番なんて考えてなかったが・・・

「美奈が行きますぅ!」

 美奈ちゃんが元気よく手を上げた。

「ミーナ? 大丈夫なの?」

 日野森が心配そうに声を掛ける。

「ふふん、久々にミーナのメリケンパンチをお見舞いしてやるですぅ!・・・それにここらで見せ場を作らないと最弱キャラ扱いにされちゃいますぅ

 うう、何か切実に言葉が混じってたような・・・

「じゃ、こっちはボクが行くよ」

 デリーズ・チームからは神楽坂潤がゆっくりと前に踏み出した・・・

 つづく・・・      
挿絵?(^^;


17日目

「まずはこれを見てください」
「あ〜、ねこさんだおー」

 春恵さんは、どこからともなく取り出した猫を赤く染まった温泉に放り込むと・・・

 
ザプーーン!

「ギニャーーーー!!!」

 猫は物凄い悲鳴を上げて温泉から飛び出し、いずこかへと走り去っていった。

「・・・この温泉には、唐辛子、タバスコ、ラー油・・・その他、あらゆる刺激物が溶かし込んでいます。ここに落ちた人はただでは済まないでしょう」

 うわあ、こ、こりゃ死なないまでも悲惨だな・・・

「よって、闘いの足場は温泉内に無数に点在する岩の上だけとなります」

 たしかに温泉の中には至る所に直径にして1mほどの岩がいくつも突き出していた。

「うんしょ、うんしょ・・・」

 春恵さんが説明をしている間に美樹子さんは長い平板を二つ、温泉内の岩に立てかけた。
 闘いの舞台までの渡し板らしい。

「さあ、双方の選手はその板を渡ってください」

 春恵さんは美奈ちゃんと神楽坂の足枷を外して厳かに言った。

「ミーナ、気をつけてね・・・」

 日野森は不安げに美奈ちゃんに声を掛けるが、

「ケッ、お姉ちゃんみたいな弱っちい人間に言われたって仕方ないですぅ」

 美奈ちゃんはどこまでも美奈ちゃんだった。

「・・・あのクソガキゃあ・・・」
「わ、わ、日野森、止めろって!」

 途端に怒りモードに表情を一変させて そこらの岩を投げつけようとする日野森を慌てて押さえつけた。

「あ、み、美奈ちゃん。でも油断しないようにね。相手の実力がわからないんだし」
「ハーイ♪ 美奈、お兄ちゃんの為に頑張ってきますから見てて下さいね〜♪」

 俺の声に“天使の微笑み”とも言うべき愛らしい笑顔を振りまいて、美奈ちゃんはスキップで渡し板を渡って行った。

「・・・美奈ちゃん、苦戦するかもね」
「え?」

 独り言のように言った葵さんの言葉に、俺は驚いて葵さんに顔を向けた。

「ど、どうしてです? 俺は用心の為にあんな事を言いましたけど美奈ちゃんは本当に強いですよ?」
「美奈ちゃんって、戦闘方法はボクシング・スタイルよね? あの足場では本来の彼女のフットワークはできないわ。それに・・・」
「それに?」
「相手の神楽坂くんを見てみなさい」

 葵さんの言葉に神楽坂を見ると・・・彼女はまだ渡し板を渡ろうとせず、ジッと闘いの舞台を見つめていた・・・



「・・・・・・」

 潤はジッと闘技場を見下ろしていた。

「んん・・・あ、あれ? こ、ここはどこだ!?」
「ああ、真士さん。起きたんですね」

 目を覚ました真士を見下ろす形の早苗が初めに気がついた。

「ここはもう、第一の闘技場ですよ。今から潤くんが戦います」
「え? そ、そうなんだ」

 慌てて真士は状況を把握しようと周囲を見渡した。
 目の前の凶悪な赤色の温泉の向こう側に、耕治たちPiaキャロ塾の面々の姿が、温泉から立ち昇る湯気越しに見えた。
 そして、池の向こう側の岩の上は既に対戦相手、日野森美奈の姿が見て取れた。

「お、おい。もう向こうは待ってるじゃないか。神楽坂は何でいかないんだ?」
「そんな事もわからないのですか? 潤さんは岩場の間合いを記憶しているんですよ」

 早苗が馬鹿にしたような口調で言った。

「間合いを記憶?」
「ええ。この闘いでは足場の確保をしつつ闘わなければいけません。潤さんの記憶力は私たちの中でもNO.1・・・伊達に役者志望じゃないですよ」

 早苗は自分事のように誇らしげに言った。

「・・・だからって、男が女の子を待たせるってのはなあ・・・」
「はあ?」

 真士の言葉に早苗は呆れたような口調で真士を見下ろした。

「な、なんなの早苗さん。俺、なんか変な事言った?」
「・・・・・・そうですか。まだ気がついてなかったとは・・・まあ、時期にわかりますよ」
「え、な、なんだよ。それ! 気になるから教えてよ!」

 真士の言葉をまったく無視して早苗は潤に視線を向けた。

「・・・うん。覚えた」

 潤は小さく頷いた。

「それじゃ、ちょっと行って来るよ」
「頑張ってね〜、じゅんじゅん♪」

 つかさの応援に軽く手を上げて潤は渡し板を下って行った。



「・・・彼女、只者じゃないわ。もうきっとこの闘技場のすべてが頭の中に入ってるわよ。本能のみで闘ってきた美奈ちゃんみたいなタイプには一番嫌な、計算づくで闘いを進めるタイプよ」

 葵さんの説明を聞けば聞くほど、美奈ちゃんの勝ち目は無いように聞こえてくる。

「後は・・・相手の獲物次第ね。相手が徒手空拳の近接戦闘タイプなら良いけど・・・長距離攻撃タイプならなす術がないわ」
「あ、葵さん。な、何かミーナに良い材料は無いんですか!?」

 さすがに心配になったのか、日野森が切羽詰った様子で葵さんに詰め寄った。

「そうね・・・しいて言うなら計算高い相手は、計算が崩れた時が脆いって事かしら。美奈ちゃんの潜在能力が相手の常識を上回る事が出来たなら・・・勝機はそこでしょうね」
「常識を打ち破る力ですか・・・」

 俺と日野森は、不安げに美奈ちゃんの自信満々の後姿を見つめた。



「ふふん、遅かったですねぇ・・・怖気づいたのかと思ったですぅ」
「・・・ボクは無謀な闘いはしない。勝つ算段すら考えない君とは違うんだよ」
「ムカ・・・
上等ですぅ。アンタなんか逆にズタズタのボロボロのゲドゲドのギタギタにしてやるですぅ!」

 一気に逆上する美奈を見て、潤はほくそ笑んだ。

(そうだ・・・そうやって冷静さを失ってくれればくれるほど君の攻撃は単調になる)

「勝負、始めい―――――っ!!」

 春恵の言葉を合図に死闘の第一幕は切って落とされた!

 つづく・・・


18日目

「一撃で決めてやるですぅ!!」

 開始の合図と同時に美奈が仕掛けた。

 
ブゥゥン!

「・・・」

 フワッ。

 潤は軽く後方の岩に飛び移って美奈の右ストレートをかわす。

「はあぁぁぁぁ!」

 潤を追って美奈が更に攻撃を仕掛ける。

 
ブゥゥン! ブゥゥン!!

 フワッ。

「なっ!」

 美奈の放った左、右の連続パンチを潤は空高く飛び上がり、美奈の頭の上を飛び越してかわす。
 ご丁寧に着地までに宙返りをしてみせる余裕ぶりだ。

「くぅぅぅぅ!!」

 素早く反転した美奈は、更に潤を追いかけて岩を渡っていく。

 
ブゥゥン! ブゥゥン! ブゥゥン!!

 美奈の続けざまに放った三連続パンチを上体だけを左右に振ってかわし、最後に後方に飛んで5メートルほど距離をとった。



「な、なんなの、あの子・・・凄い身の軽さだわ」
「美奈ちゃんも足下を気にして本来のパンチ力を失ってるな」

 日野森と俺は不安が的中したと感じていた。
 対戦相手の神楽坂の身のこなしの鮮やかさは、想像を遥かに越えていた。

「それだけじゃないわ。神楽坂くんは一度も美奈ちゃんを攻撃しようとしてないわ・・・美奈ちゃんの攻撃を観察してるのよ」

 厳しい表情で葵さんが付け加えるように言葉をはさんだ。

「・・・でも、それももう終わりのようね」



「ううぅ、ちょ、ちょっとは出来るみたいですねぇ・・・でも、逃げてばっかじゃ勝負にならないですよぅ!」
「・・・じゃ、お言葉に甘えさせて貰うよ」

 美奈の悔しげな言葉に、潤は薄く笑みを浮かべて初めて構えの体勢に入る。

「フッ!」

 一息、気合いをいれると潤は、不安定なはずの足場を平地を歩くようにスムーズに、正面から美奈へと突撃する。

(そっちから向かってくるならこっちのものですぅ!)

 足場を踏みしめて美奈はカウンターを狙って構える。

 
ダッ!

 美奈の手前1mほどの岩場から潤は高く跳躍する!

「くっ!?」

 
ビュゥゥン!!

 飛び上がった潤の足を目掛けて美奈はパンチを打ち込むが、

 
シャァッ!

 足を抱えて美奈の拳をかわした潤はそのまま美奈の頭上を越えて背後へと回り、

「チイッ!」

 慌てて反転しようとした美奈だったが、

「宝塚流・鳳鶴拳っ!!」

 
ビリィィィィィィィィ!

「きゃあぁぁぁ!!」

 潤の足が美奈の背中に触れた瞬間、美奈は激しい痛みを覚、思わず悲鳴を上げてその場にしゃがみこんだ。




「美奈ちゃん!」「ミーナ!」

 俺と日野森が片ヒザをついた美奈ちゃん姿に思わず声を上げた。

「何があったんだ? そんな強い蹴りには見えなかったけど・・・」
「どうやら、あの靴に細工があるようね」
「え?」

 葵さんは、何かに気がついたようだ。

「一瞬だけど、美奈ちゃんに触れた神楽坂くんの足から火花が散ったわ。おそらく・・・あの靴は大量の電流が流れている・・・言わばスタンガンみたいな代物なんでしょうね」
「なんだって!?」

 葵さんの説明に慌てて俺は神楽坂の靴を凝視した。

「・・・あの細見の身体にしてはやけに大きな靴ね。何か細工をしていてもおかしくないわ」

 日野森も葵さんの言葉を肯定した・・・間違いないんだろう。

「まさかあの子があの宝塚流の遣い手とはね・・・」

 葵さんは厳しい表情で爪を噛んだ。

〜宝塚流〜
 
かつて、大正時代。時の日本国政府は、国家転覆を企む非合法組織を秘密裏に殲滅させるべく、秘密部隊を結成した。
 部隊の秘匿性を高める為、その部隊は平時に置いては歌劇団に扮し、舞台稽古に見せかけた特殊戦闘術を習得していたと言う。
 その戦闘術は部隊発祥の地である宝塚の名を冠したと言われている。
 尚、後にこの部隊は秘密裏に解散。しかし、意外にも娯楽に飢えた市民より愛された歌劇団は存続、戦闘術は捨て、純粋な歌劇団として今なお宝塚歌劇として人気を集めている。

(人参書房刊『大正の闇と光』より)



「うぅ・・・な、何ですかぁ、今の痺れは」

 美奈は半泣きで潤の足が触れた背中をさすっている。

「え・・・す、凄いね。もう動けるなんて」

 痛みを堪えながら立ち上がった美奈を潤は意外そうな表情で見た。

「100万ボルト電流が身体に流れたってのに・・・君、本当に人間?」
「へ、へへ〜んだ! そ、その程度の小細工、美奈には通用しないんですぅ!」

 強がって得意げに潤に啖呵を切った美奈だったが、さすがに身体のあちこちに痺れは残っていた。

「ふん・・・その強がりがいつまで続くかな・・・」

 潤は再び美奈に対して攻撃の構えをとった・・・

 つづく・・・


19日目

「「はぁぁぁぁ!」

 潤は再び美奈に向かってくる。

 
ダッ!

 潤が再び岩を蹴って跳躍する。

(今度は当ててやるですぅ!)

 美奈は潤の上からの攻撃に備えて身構えた、が!

「ふんっ!」

 潤の今度の跳躍は小さかった。
 潤は、美奈の手前にある足場に両手をつき、手を軸足にして蹴りを放った!

 
ビリィィィィィィィィ!!

「うきゃあああ!」

 かわそうとした美奈だったが、潤の蹴りは美奈の胸をかすめて激しい電流を浴びせた。

「こ、こんのぉぉぉぉ!!」

 痛みを堪えて潤へと拳を叩き込むが、潤は軸足にした両手で後方に飛び、それをかわした。

 ダッ!

 今度の潤は攻撃の手を休めずに高く跳躍し、かかと落としが美奈の頭部を狙う!

 
ビリィィィィィィィィ!

「うあぁぁぁぁ!!」

 頭こそ避けた美奈だが、左肩にまともに食らい、かかと落としの衝撃と電流の二重のダメージに美奈は苦悶の表情で絶叫した。



「ウフフフ・・・押しよせる波のように、押せば引き、引けば押す宝塚流鳳鶴拳・・・・潤さん、今日は絶好調みたいですね」

 一方的な試合展開を見下ろしながら早苗は不気味な笑みを浮かべた。

「あっはは♪ じゅんじゅんの足技って相変わらず凄いね〜。一発 技を決めては離れるヒットアンドウェイ♪ ここまでずっとじゅんじゅんの距離で戦ってるね。あんな動きじゃ、じゅんじゅんは捕まらないよ〜」

 不気味に笑う早苗とは対照的に、つかさははしゃぎ回っている。

「う〜ん・・・でも相手は仮にもあんな小さな女の子なのに・・・神楽坂も容赦ないなあ。男だったら少しは手加減してやれよ・・・」

 真士は不満タラタラと言った感じだ。

「え〜? やだな〜、真士ちゃんったら何言ってるの〜? じゅんじゅんみたいな可愛い女の子を男扱いしたらカワイソウだよー」
「・・・・・・へ?」

 つかさの一言に真士は顎をガクーーーンと落とした。

「か、神楽坂が女の子!? だ、だってあいつウェイターじゃないか!」
「男装でしょ。どこから見ても・・・気が付いてなかったのは真士さんくらいですよ」

 ジト目で真士を見ながら早苗が言った。

「な、なんで男装なんて・・・」
「潤さんは舞台俳優・・・それも男役を目指しておられるんです。ですが、彼女は師匠から、

『このバカ弟子がぁぁぁぁぁ!! 貴様には“漢”(おとこ)の魂と言うものが足りんのだぁぁぁぁ!!』

 ・・・とか言う事を言われたそうで・・・」
「その師匠って、お下げ髪に白髪でチョビ髭の無闇に元気な親父かな?」

 
ドゴッ。

「おぎょごぁうぁううう!!」

 早苗の拳が真士のこめかみにヒットした。
 真士はあまりの痛みにのた打ち回っている。

「つまらないツッコミはしないように・・・で、なんとか“漢”の魂を学ぶ為に男装を押し通しているそうですが・・・」

 早苗はチラリと潤の方に視線を向けた。

「じゅんじゅんって、全然男の子って感じじゃないもんね〜。店の人みんな気がついてたんじゃないの〜?」
「・・・約1名を除けば、ですね」
「う・・・じゃ、じゃあ、なんで神楽坂はキャロットをクビになったんだよ」
「ちょっと考えればわかる事だと思うのですが・・・真士さん、昨日までウエイターだった少年が、次の日にウェイトレス姿で働いていれば、常連のお客様はどう思うのでしょうか?」
「そ、それはちょっと・・・」
「ま、そういう事です」

 怯んだ真士に、早苗はこれで説明はお終い、とばかりに首を振った。

「しかし・・・美奈ちゃんもタフですね。あれほど潤さんの攻撃を受けて立っていられるなんて・・・」

 呆れたように早苗が呟く。

「潤さん! 先はまだまだ長いです。そろそろ勝負を決めて下さい」
「やっちゃえ〜、じゅんじゅん!」




「・・・ああ、わかった」

 早苗とつかさの声に潤は小さく応えた。

 潤は美奈に視線を向けた。
 潤の猛攻の前に美奈はすでにボロボロの状態だった。
 未だにファィティングポーズこそ構えているが、立っているのがやっとの状態だ。

「ここまでよく耐えたね・・・でも、これで終わりだよ!」

 
ダッ!

 潤は止めを刺すべく、美奈に向かって跳躍した・・・!

 つづく・・・


20日目

(あうう・・・身体が痺れるですぅ・・・)

 身体に染み付いたファイティングポーズを構えていたものの、すでに美奈の意識は半分飛んでしまっていた。

(美奈・・・また負けちゃうんですかぁ・・・?)

 負け、敗北、敗戦、敗退・・・・・・

「・・・・・いや」

 俯いた美奈の顔がゆっくりと前を向く。

「これで終わりだよ!」

 止めを刺すべく潤が美奈に向かって跳躍する!

「戦士は二度は、負けられないんですぅぅぅぅ!!」
「なっ!?」


 
ビリィィィィィィィィ!



「美奈ちゃん!!」

 耕治は叫ぶ。

「ミーナ!!」

 あずさは悲痛な声を上げる。

「決まりですね・・・」

 早苗は当然、とばかりに呟いた。

「まず1勝〜♪」

 つかさははしゃいでいる。

「・・・やるねぇ・・・・・・美奈ちゃん」

 グシャリ、と葵は飲み干したビール缶を潰してニヤリと笑った。



「ば、バカな・・・」
「ぶぶぶ・・・やっどづがまえだでずぅ」(ふふふ・・・やっと捕まえたですぅ)

 美奈は震える身体をものともせず、潤の右足を掴んでいた。
 そう・・・美奈は潤の繰り出した右足を左手で捕まえたのだ。
 高圧電流を物ともせずに。

「ひゃ、百万ボルトの電流だよ・・・一瞬でも食らったらタダじゃ済まないはずなのに!」

 高圧電流を受けながら平然と足を掴んで放さない美奈を、潤は恐怖に引きつった顔で見つめている。

(に、人間じゃない!)

「ぶぶぶ・・・じゃ、じぶんでぐらっでみまずがぁ!?」(フフフ・・・じゃ、自分で食らってみますかぁ!?)

 潤の足を掴んだまま、美奈は右の拳を掲げると、

「メリゲンバーーーーーーーーーンヂ!!!」

 
ドグォォォォォォォン!!

 必殺のメリケンパンチを潤の顔面に叩きつけた!
 その拳には高圧電流も加わり、その威力はおよそ、2.155倍!

「はぅ・・・」

 潤はその一撃を気を失い、

「はぅ・・・」

 さすがに電流のダメージが堪えた美奈もまた気を失い、

 二人は共に赤く染まった池に落ちて・・・

 
ガシッ。

「くぉぉ・・・」
「ま、前田くん!?」

 今、正に地獄の温泉に倒れこまんとした二人を救ったのは耕治だった。

「は、春恵さん・・・勝負、あったよね?」

 二人を両腕の力だけで支えている耕治は苦しげに春恵の判断を窺う。

「ええ・・・この勝負、引き分けです」

 春恵さんは穏やかに微笑みながら宣言した。

「はあ・・・良かった。これでこっちの負けだったら美奈ちゃんに申し訳ないから・・・」

 耕治は安堵の溜息をついた。

「うぅ・・・え? う、うわわ!」
「うわっ、危ないから暴れないでくれ、神楽坂!」

 目を覚ました潤は、目の前にあった耕治の顔を見て驚いて離れようとしたが、耕治が腰にまわした手はしっかりと潤を掴んで放さなかった。

「悪いけど、ちょっとこのままでいてくれ。美奈ちゃんを抱えなおして、足場を確保しないと危ないから」
「う、うん・・・」

 耕治の言葉に潤は何故か赤くなって俯いた。

(・・・男の人をこんな近くで見たのって初めてだな・・・)

 
バクバクバクバク・・・

(敵なのに、私も助けてくれたんだ・・・)

 
バクバクバクバクバクバクバクバク・・・・・・

(な、なんでこんなに心臓がドキドキしてるのよ!)

 支離滅裂な考えが、潤の頭の中でグルグルと渦巻いている。
 ・・・そしてその結果、潤はある一つの考えに至った。

「決めた・・・ボク、前田くんに着いて行く!」
「はぁ?」

 突然の潤の宣言に耕治は頭に“?”を浮かべていた。

「ボク、演劇で男役を目指してるんだ。だから、男らしい前田くん――いや、耕治を見て“漢らしさ”を研究するんだ」
「な、何を勝手に・・・俺はそんな」

「ゆ〜る〜さ〜な〜い〜ですぅ〜〜!」

「うわっ!」
「きゃっ!」

 地獄の獄卒がごとき恐ろしげな声は、いつの間にか目を覚ました美奈のものだった。

「そんな見え透いた嘘で、美奈のお兄ちゃんを独占しようだなんて図々しいにもほどがあるですぅ!」
「う、嘘なんかじゃないよ! ボクは本当に男の」
「でも、一石二鳥くらい思ったに決まってるですぅ!」
「う・・・・・・」

 ちょっと図星を突かれて潤は言葉を詰まらせた。

「お兄ちゃんは美奈のご主人様ですぅ!」
「い、いや、美奈ちゃん。それは止めようって言ったじゃない」
「ふふん、美奈ちゃんも別に耕治の“特別”ってわけじゃないみたいだね」
「キィィィーーー!!」
「う、うわ! 美奈ちゃん暴れないで! ば、バランスが崩れる!!」



「やれやれ、何だか妙な事になってるけど、丸く治まったみたいね」

 葵は危ういバランスで右に左にヤジロベエのように傾く三人を楽しそうに見下ろしている。

「あれが治まったように見えますか・・・?」

 あずさは呆れた様子で葵を見た。

「他人の修羅場は蜜の味ってね〜♪・・・ああ、あずさちゃんは他人事じゃないから楽しくないっか?」
「ば、バカな事言わないでください!! だ、誰があんな奴!!」

 葵の一言にあずさは、顔を真っ赤にして反論する。

「まあまあ、素直になれないのはわからなくもないけど、ぼやぼやしてると他の子に取られちゃうわよ? 耕治くんって、モテるタイプだし・・・」
「う・・・」

 葵の忠告に、あずさは複雑な表情を浮かべて、大騒ぎする三人を見下ろしていた・・・

 つづく・・・

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