「なんだと!……ああ、わかった。手は打つ。……ああ、判ってる。
   万事こちらに任せておけ……ああ、ご苦労さん、ゆっくり休んでくれ」

――チン。電話を置く音。

(早急に手を打たにゃあならん。しかし……)

電話を置いた男は物思いに耽っていた。
時間がない。一刻の猶予もならない。
それが判っていながら彼は打つべき手を打てなかった。
あの花組結成の時ですらこんなに悩むことはなかっただろう。

(手筈は整っている。後は……)

何かを振り切るように男――陸軍にその人ありと言われた米田中将は顔を上げると
おもむろに電話を掛けた。

「……ああ、俺だ、米田だ。あいつを……鳴滝(なるたき)を呼んでくれ。今すぐにだ。
 ……ああ、そうだ。頼むぜ、じゃあな」

――チン。再び電話を置く音。

一人、支配人室の椅子に腰掛けている米田は何か一仕事終えたかのようにため息をついた。

(賽は投げられた。あいつ以外に適任はいねえんだ。何よりこのままで良いはずがねえ……)

それが自分への弁解か、自分の決断への賞賛か……米田自身にも判らなかった……
 
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