サクラ大戦外伝〜星屑の記憶〜

第1話 星の欠片・心の欠片
作:御巫吉良(KIRA・MIKANAGI)
 
コンコン。扉をノックする音がする。

「だ〜れだ?」間延びした声で部屋の主――米田が訪ねる。

「……鳴滝です。お呼びとのことで」

「おお、入んな」

ガチャ。

扉が開き若い男が入ってくる。
部屋に一歩、歩を進めると男は陸軍式敬礼で挨拶をする。

「鳴滝 鉄幹(てっかん)、お召しにより参上致しました」

敬礼しているにも関わらず、男――鳴滝には何故かくだけた雰囲気があった。
もしこの敬礼を指導教官が見れば問答無用に鞭を加えて指導したかもしれない。

(こういう所が大神とは違うんだよなあ……)

堅物過ぎるもう一人の部下を思いだし米田は内心苦笑いをした。

「まあ、挨拶なんてどうでも言いから、とっとと入んな」

「はい……」

鳴滝は素直に従い、米田の前に立った。
こうして近づくと改めて判るが、鳴滝は長身だった。
この太正時代の日本人でありながら身長は190cmはあろう長身である。
加えて美男子でもあった。どこか中性的な顔立ちで、
この身長がなければ女性に扮することも容易であったろう。
髪型も背中の中ほどまであろう長髪で、これもまた当時の男性としては珍しい髪形であった。
普通の軍隊では決して許されない髪形である。

「どのような任務でありましょうか」

米田の鎮座する机の一歩前で立ち止まると鳴滝は切り出した。

「おいおい、逸るんじゃねえよ。今日はちょっと込み入った話があってな……」

苦笑しながら米田は(何故か)いつも机にある『とっくり』から『おちょこ』に酒を注いだ。

「どうだい、お前も一杯?」

「……生憎ですが、自分は下戸なもので」

「……おお、そうだったな。すまねえ、すまねえ」

おどけた様に詫びながら米田は『おちょこ』の酒を一気に飲み干した。

「ぷは〜、ウマイ!やっぱり酒は良い!」

「……」鳴滝は無言。

苛立ってる訳ではない。まったく関心が無いっといった風情である。

「……ところで鳴滝、おめぇ、今の仕事、満足してるか?」

「……さて、どうでしょうか。そのような事、考えた事もありませんね」

唐突に切り出した米田の質問を鳴滝は薄く笑みを浮かべながら淡々と答える。
まるでその質問が最初から判っていたかのように。
鳴滝の仕事は文字通り『隠密』である。
最近ではスパイという言葉の方が称にあっているかもしれない。
彼は『月組』所属の隠密である。
表舞台で活躍する『花組』の陰として裏から支える部隊。
そんな中でも鳴滝はただ一人で行動し、とりわけ危険な仕事に携わる男であった。
秘密結社、不穏な動きを見せる軍内部などへの侵入し、情報提供、情報操作、そして破壊工作。
その正体が露見した事も数多くある。
そのほとんどが捕まった別のスパイの自白によるものだったが……
それでも彼が帰らないことはなかった。何事もなかったかのように報告し、
再び声がかかるまで待機する。

「奴は死にたがっている」

そんな噂さえ『月組』内では囁かれる始末である。
もとより単独での任務を希望したのだが、その特異な存在ゆえに
他の『月組』メンバーの中でも浮いていたことは否めない。
もっとも『月組』隊長・加山だけは鳴滝にも明るく接していたが……
まったくもって反応のない鳴滝に米田は『作戦』を代えた。

「『月組』特務隊士・鳴滝鉄幹!」

「はっ!」

酔っ払いの声を一変させてまるで恫喝かと思うような声であえて鳴滝の役職を読み上げる。

「お前を『月組』特務隊士の任より解任する」

「はい」

「……理由は聞かねえのか?」

少し元の酔っ払い口調に戻った米田が鳴滝に尋ねた。唐突な内容にも鳴滝に動揺の色はまったく無い。

「米田支配人の命令です。十分なお考えあっての事であろうと思います」

言葉だけだと米田に対する世辞のようではあるが、その態度が違う。
この状況を楽しんでいるような、不謹慎な態度が明かだった。

「……やれやれ、かなわねえな、お前にはよ〜」

自分の額を平手で軽く叩きながらおどける米田。

「『月組』にはお前の解任は通達済みだ。お前にゃ、別の仕事に着いてもらいたい」

「はい」

米田は机の引出しを開けてゴソゴソと何かを探し始めた。

「……おお、あった、あった。これがお前の次の仕事の辞令書だ。受とんな」

無造作に突き出された紙を受け取った鳴滝はその内容に目を通した。

「……新部隊の隊長……ですか?」初めて鳴滝の顔に怪訝な表情が浮かんだ。

「ああ、そうだ。新部隊結成の話はお前も知ってるだろ?まだメンバーが揃ってないが、
 隊長ともなればそれなりに準備もあるだろ?」

鳴滝にとっては意外な仕事であった。
新部隊の参加。これはある程度予想していた。

(まさか隊長とは……)

「……米田中将」

「ここでは支配人だぜ」たしなめるように米田が言う。

「……何故、私が隊長なのです? 確か他に候補者がいたはずでは?」

「ああ、あいつのことか。さすがのお前の耳にもまだ届いてなかったか……」

残り少なくなった『とっくり』から直接酒を一気のみして米田は言った。

「……今日の訓練中に事故ったよ。体はまあ、一ヶ月もすりゃ直るが、こっちがな……」

コンコンと自分の頭を突つく米田。

「もう、勘弁してくれとさ。もうお前しかいねぇんだよ。あれに乗れる『男』はな……」
 
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