「「!!」」 鳴滝の顔を見て二人は同時に声を詰まらせた。 ソレッタ・織姫と、レニ・ミルヒシュトラーセ。 見る見る顔色が変わっていく。青く、そして赤く。 特にあまり感情を露わにしないレニの表情の変化に『花組』の団員が驚きの表情を浮かべた。 「……よう、元気そうだな」 鳴滝が織姫とレニに気さくに声を掛けた。 「……まだ、生きてたのでーすか、あなた」 かすれた声で織姫が言い返す。 鳴滝が薄く笑う。まるで嘲弄したように。 「くっ……!」 堪えきれずに織姫が鳴滝に向かって駆け出す。右の拳を振り上げて。 「お、織姫さん!」 さくらが慌た声を挙げる。 ガシッ……織姫の動きが止まる レニだ。レニが織姫の左手を掴んで止めていた。 「離しなさーい、レニ! こいつは……!」 「……帰って」呟くレニ。 「早く帰ってよ!」 今度は絶叫とも言える声で。 滅多に、いや聞いた事のないレニの大声に一同が驚き、動きが止まる。 「ああ……邪魔したな」 そのまま鳴滝は静かに背を向けるとその場を歩み去った。
「織姫、レニ。どういうことなの?」 騒然とした場から一瞬にして虚脱状態に陥った一同の沈黙を破ったのはマリアだった。 織姫は俯いたまま答えようとしない。 ただ事ではないことは判る。言いにくい事なのも。 それでもこのままと言う訳にはいかなかった。 「あの人は……」 レニが苦しげに口を開く。 「レニ、『あの人』なんて呼ぶ事はありませーん!」 織姫が顔を挙げて訴えるように叫んだ。 「元『星組』の隊長なんだ……」 レニが言った。 『星組』。その名は一同全員が知っていた。 『花組』結成前に作られた実験部隊。以前に織姫とレニが所属していた部隊である。 知り合いなのは判った。しかしあのお互いの態度、確執は何なのか? とても元隊長と元隊員の会話とは思えない内容。 (これ以上は無理ね……) マリアは視線をさくらに向けて、 「……もういいわ。部屋に戻りなさい織姫、レニ。さくらとアイリスはレニを部屋まで送って。 すみれと私は織姫を…」 「わ、わかりました」 さくらとアイリスはレニを促すと一緒に部屋へと戻っていく。 それを確認してからマリアは織姫を促した。 「さあ、織姫。貴方もすこし休みなさい」 俯いたままの織姫の表情を覗きこんだマリアは息を呑んだ。 憤怒。体裁を気にする織姫が普段は決して見せない表情がそこにあった。 「許さない……アイツだけは絶対に……!」 呟くような声に秘められた憎しみの深さがマリアには痛いほどよく判った。 (一体『星組』で何があったのだろう……?) 疑問はある。だが織姫たちに聞いてもまともな返事は期待できそうにない。 (後で米田支配人に尋ねてみるか?……) 考えを巡らせながらマリアはすみれと共に、暗い表情のままブツブツと呟く織姫を部屋まで送った。
米田は事のすべてを聞いていた。 盗み聞きしてた訳ではない。支配人室前の廊下であれだけ声を挙げれば聞こえないはずがない。 「はあ……」 ため息をつく。 織姫とレニ。二人が鳴滝に会えばこうなることが判っていた。 判っていたが、反面何とかなる、いや、なって欲しいと思っていた。 (俺の考えは甘すぎたか……) 正直言って織姫とレニの怒りの程は予想を遥かに越えていた。 時間は解決どころか更に憎しみを育ててしまったらしい。 ふと、写真が目に入った。 4人の戦友との写真。特に一人の女性に眼を向ける。 「なあ、あやめくんよ……やっぱり俺たちは間違っていたのかもな……」 力のない米田の声は静まり返った部屋に吸い込まれていった…… つづく
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