ガチャ……バタン。
支配人室のドアを閉めると廊下で鳴滝は立ち止まった。
頭に浮かぶ事は山ほどあった。しかしそれに固執してはいられない。
振り切るように首を振ると、鳴滝は玄関ロビーに向かおうとした。


「あ、こんにちは。……支配人のお客様でしたね?」

背後から声が掛かる。振り向くとそこには女学生のような振袖の少女が立っていた。

(真宮寺さくらか……)『花組』の一員だ。

『月組』隊員だった鳴滝は当然ながら『花組』メンバーを知っている。
 だが彼女たちは自分のことは知らないのだ。
『月組』はあくまで陰なのだから……(加山は例外だが……)

「こんにちは。お嬢さん」さくらに向き直り、穏やかな笑みを浮かべて頭を下げる。

「あ、ご、ご丁寧にど、どうも……」

何故か赤くなってさくらは声を詰まらせて再び頭を下げた。

「支配人にご用ですか?私はもう済みましたが」

落ち着いた物腰で鳴滝は言った。

「え、いや、そうじゃなくて……その……」

さくらは俯いて両手の人差し指の先をチョンチョンと付き合わせている。

(?……)

内心怪訝に思いながらも何か声を掛けようとしたその時、

「もーーー!何をやってらっしゃいますの!さくらさん!!」

「ああ!駄目だよ、すみれ〜」

さくらの後ろから金切り声が挙がると、また一人少女が出てきた。
その後ろには片足を両手で掴んで引き止めようとする愛らしい小さな異国の少女が引きずられていた。

「え、あ、すみれさん!」

「さっきから聞いてればじれったい!何時までそうしてるつもりです!」

「え、いや、あの……」

「それにしてもさくらさんったら赤くなっちゃって……少尉さんの事はもういいのかしら?」

「え、な、何でここで大神さんが出てくるんですか!」

「すみれ〜もうやめなよ〜」

「あら、焦るってことか図星かしら?おーーーーほっほっほっほ!」

「な、な、なんですってーーーー!!」

突然喧嘩を始めた二人の少女とそれを止めようとする小さな少女。
あっけに取られて見ていると、

「三人とも何をやってるの!」鋭い叱責が飛んだ。三人はピタッと固まる。

声の方に振り向くと、金髪の異人の少女が三人を睨んでいた。

「お客様の前で何をしてるの」

「え、あ、だって、すみれさんが」

「これは、さくらさんがあまりに」

「アイリスは止めたんだよ」

「黙りなさい!」

「「「はい…」」」

シュンとして三人が俯く。
金髪の少女はゆっくりと鳴滝に歩み寄ると頭を下げた。

「失礼を致しました」

「……あ、いえ、気にしてませんよ」

突然の事で失念していたが、彼女の名前を思い出した。
マリア・タチバナ。ロシア人と日本人のハーフだ。
隊長である大神一郎不在の間、副隊長の彼女が『花組』の指揮を取っている。
もっとも、最近では『華撃団』の出番はまったく無く、『歌劇団』のほうが中心なのだが……

「三人とも、お客様に謝りなさい」

「「「ごめんなさ〜い」」」

三人が頭を下げる。もっとも小さな少女だけは小さく「アイリス悪くないのに……」と呟いていた。
後ろの二人は神崎すみれとイリス・シャトーブリアン。愛称でアイリスと呼ばれている少女だ。

「は〜い、みんな何を騒いでるの〜?」

マリアの後ろから更に二人が現れた。
 
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