「破邪奉願!……神祈天翔!!」

神楽の鈴を手に白い霊子甲冑が舞う。膨れ上がる霊気が!……突如、霧散する。

「駄目か……」

指揮車のモニターを見つめながら無念そうに米田が呟いた。

『長官。今日はここまでにしましょう』

ノイズ混じりの鳴滝の通信が聞こえてくる。

「……ああ、判った。あやめ君、撤収だ」

「はい」米田の脇に立つ女性――藤枝あやめが撤収を隊員たちに通信する。

(駄目だ……このままじゃあ……時間が、時間がねぇんだってのに!)

内心の苛立ちを隠そうと米田は試みた。
しかし強く握り締めた拳の震えを止めることはできなかった……
 
大地にうずくまる白の霊子甲冑に茶色の霊子甲冑が手を差し伸べる。

「明子君。今日はここまでにしよう。撤収だ」

労わる様に優しい声を掛ける鳴滝

「……はい。すみません」

言葉を詰まらせながら涙声で明子が応じる。

「ダイジョーブヨ、アキコ」

近づいてきた濃いピンク色の霊子甲冑が声を掛ける。

「今マデダッテ最後ニハ上手クイッテタデース!今度モキットダイジョーブデース!」

「……ありがとう。織姫さん」

涙を拭いながら少し明るい声を明子は発した。

「……撤収、手伝おうか?」

青い霊子甲冑のレニが声を掛ける。レニなりに気遣ってくれているのだろう。

「ううん、大丈夫よ。ありがとう、レニ」

「わかった。隊長、先に撤収します」

「ああ、そうしてくれ。お疲れさん、レニ」
 
「後、もう一息だったのですが……」

あやめが残念そうに呟く。

「……あやめ君、明子は後どれくらいで『奥義』を使えるかねえ……?」

「私よりも鳴滝君の方に聞いたほうが良いのでは?
 私も長官もあまり実験演習には参加していないので…」

ふぅ――米田が息をつく。

「花小路伯爵も、神崎翁も痺れをきらし始めてる。
 そろそろ実戦配備の具体案を出せとうるさくてな……」

『帝国華撃団』結成の為に米田は慣れない政財界との交渉を1人で行ってきた。
計画がスタートしてから1年半。霊子甲冑は『星組』の運用テストによって、
9割方の実験は終了していた。

最後のテスト――『奥義』の霊子甲冑による具現化。それが最後のテストだった。
『奥義』の具現化――それは各個人の得意とする『奥義』を霊子甲冑で使えるようにすることだ。
普通に霊力を使って動かす時とは使用される霊力も何倍にも高くなる。
それ故に、霊子甲冑の調整も難しく、また搭乗者も消耗が激しい為、
テスト回数も休憩を取りながらでも、1日5回が限度だった。
もっとも、霊力の高い鳴滝、織姫、レニは5回以上の使用が可能であったが……問題は明子だった。

明子の『奥義』だけが具現化できないまま1ヶ月が過ぎていた。
鳴滝、織姫が1週間、レニが10日間でクリアした為、明子1人の演習実験となってしまったのだ。

元々、明子は『星組』の中では劣等生だった。
入隊直後から考えれば飛躍的な進歩を遂げていた明子だが、
それでも他の優秀な3人には及ぶべくも無かった。
常にテストを最後にクリアしていたのが明子だった。
当然、その事を明子が気にしていないはずがない。
初めは何度も脱隊を申し出ていた。自分が隊の足を引っ張ってると……
しかし、度重なる米田、鳴滝、織姫たちの説得により、脱隊だけは言い出さなくなった。


「あやめ君、『花組』の候補者には会って来たのだろう? どうだった、来てくれそうか?」

話を変えて、米田はあやめに彼女の仕事の成果を尋ねた。

「はい。今のところマリア・タチバナ、イリス・シャトーブリアン、
 神崎すみれの三人は結成に間に合いそうです。桐嶋カンナは個人の事情で遅れます。
 李紅蘭は霊子甲冑の開発を手伝って貰ってるのでやはり遅れることとなりますが……」

「『星組』の4人を加えれば発足時に7人。十分だよ、よくやってくれた、あやめ君」

「……真宮寺家のお嬢さんはどうなさいます……?」

「ん、ああ、さくらか……今のところはやめておこう。9人もいれば今は十分だろう」

米田の脳裏に戦友、真宮寺一馬と共に幼い少女の姿の姿が浮かんだ。

「今は……真宮寺家には酷だろう。一家の主を失ってまだ日が浅い。
 それに真宮寺家はつまらない誇りなど持たない家だからな……」

その事を考えると、伊勢宮家の程度の低さは米田には目に余る。
明子を『星組』に無理やり送り込んだのも『名誉の戦死』を遂げた真宮寺家当主に負けまいという
思惑からだろう。

(明子の事を思えば脱隊したほうが幸せかもしれねえな。
 明子はとても戦いに身を置く人間じゃねえんだが…)

しかしここで彼女が脱隊すれば、彼女は伊勢宮一族から『恥さらし』の烙印を押され、
二度と本家には戻れなくなるだろう。
その事が、米田が『戦場には向かない』明子を『星組』に留めている理由だった。


「……長官。これ以上は待っては貰えないのですか? 明子さんも後一歩まで来ています」

「そうだな……政財界は……苦しいが、何となるだろう。だがな……あやめ君」

厳しい表情を浮かべながら米田はあやめに顔を向ける。

「敵は待っちゃくれねえんだぜ……」

あやめの顔に緊張が走る。

「……確認できたのですか?」

「いや、まだ加山が調査中だ。しかし、俺は間違い無いと思っている」

米田は自分の人差し指を眉間に当てる。

「あやめ君は感じねえか? この辺がむず痒いような、
   おぞましいような……この感覚は忘れねえ。あの時……降魔と向き合った時と同じなんだ」
 
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