「……やっぱり、こうなったか」

米田は淡々とした口調で言った。

「ええ、やはり単純に霊力の強い人選になるのはやむを得ない事でしょう」

米田の前に立ち報告書を読み上げる妙齢の女性――藤枝かえでが確認の返事をした。

「確かにな……しかし我ながら難儀な事にしちまったかねえ……」

「昨日の一件の事ですか?」

「ほう、流石に耳が早えなあ……事情は知ってるのかい?」

「……はい。姉――あやめから聞いたことがあります」

「そうか……」

苦い表情で米田はため息を付く。

「私は当事者ではありません。
 しかし、今度の新部隊の件は良いキッカケになるのではないかと思います」

かえでは穏やかに米田に声を掛ける。

「う〜ん、相当な荒療治になりそうだがな……取り合えずマリアに話をしねぇとな。
 かえで君、マリアを……」

コンコン。

「支配人、マリアです。少しお話があるのですが……」

「何!?まったく噂をすればナントやらだな。おお、入ってくれ。俺も話があるんだ」

「失礼します」

ドアを開けてマリアが支配人室に入った。

「あ、かえでさん。こちらに帰ってらしたんですね」

「ただいま、マリア。そうそう、花やしき支部の紅蘭は元気にしてるわよ」

「そうですか。ありがとうございます」

「ま、紅蘭は機械作りしてる時が一番充実してるだろうからな〜」米田はおどけて言った。

米田の声を聞いてマリアは米田に向き直った。

「支配人のお話とは?」

「ああ、そうそう。実は今度『帝国華撃団』に新部隊が発足することになったんだ」

「新部隊……ですか?」

「ああ、まだ実験段階だがな。ところがまだろくにメンバーも揃ってない有様でな。
 実験の間だけ『花組』のメンバーを貸して欲しいんだ」

「『花組』全員ですか?」

「いや、とりあえず実験は2人だ。人選はこちらでしてある。織姫とさくらだ」

「……その新部隊は誰が指揮を取るのですか?」

流暢に喋っていた米田の口が一瞬固まった。

「……昨日会っただろ。あの男――鳴滝鉄幹だ」

「支配人!?昨日の出来事を知らないわけではないでしょう!」

マリアは机に平手を叩きつけて乗り出すようにして言った。

「私のお話も昨日のことです……一体、あの3人には、過去に何があったのですか?」

米田の顔が強張る。

「……彼らが霊子甲冑の実験部隊『星組』にいたことは知ってるわね?」

米田を見かねた、かえでが言った。

「はい。それはレニが言ってました」

「私は姉――あやめから聞いたことの説明になるけど、
 4年前『星組』結成時は隊長の鳴滝君と隊員の2人だけだったのよ」

「2人?もう1人はレニですか、それとも織姫?」

かえではゆっくりと首を振った。

「いいえ、レニと織姫は1年後に参加したの。
 もう一人の名は伊勢宮明子(いせみや・あきこ)と言う少女だったの……」
 
伊勢宮明子。参加時16歳。
伊勢神宮に代々受け継がれた『魔餓払いの巫女』の唯一の末裔。
古来より代々降魔退治を宿命付けられた一族で、さくらの真宮寺家とは遠縁に当たる。
本来ならば米田たち4人がいた『帝国陸軍対降魔部隊』に入るべきであったが、
明子の父は若くして亡くなっており、幼少であった明子の参加は見送られていた。
霊子甲冑の開発が始まると、実験部隊『星組』の参加は彼女の一族にとっては当然の事だった。

「……でも、彼女はただ一人の『巫女』の末裔であることが苦痛でしかない大人しい少女だったの」

明子は高い霊力を誇ってきた一族の中では下の下と言ってもいいほど低い霊力しか出せなかった。
それでも親戚は一族の誇りの為、彼女を無理やり『星組』に参加させたのである。

「やはり最初は霊子甲冑などわずかも動かせなかったらしいわ。
 でも、彼女は隊長の鳴滝君に出会えた……」

誰にも優しく、そして親身に協力してくれる鳴滝。彼女が鳴滝に恋心を抱くのに時間はかからなかった。

「恋する一念かしら。それから彼女は飛躍的に霊力を高めていったわ
   ……いえ、むしろ秘められていた力を解放しただけなのかもしれない」

そして1年後。海外でスカウトされたレニ、織姫も『星組』に参加した。

「初めはレニも織姫も過去に色々あったから……
 でも、次第に鳴滝君と明子さんとも打ち解けるようになったらしいわ」

特に鳴滝は人の心を読むのが上手かった。そしてその特性は交友関係に最大限に発揮された。

「当時の彼を嫌う人は皆無だったらしいわ。『帝国華撃団』結成の為、
   政財界との交渉に忙しかった米田支配人やあやめに代わって部隊をまとめてくれていたそうよ」
 
かえでは一旦、話を止める。マリアに今の話を整理し、含んでもらいたいからだろう。
『星組』の話はマリアの知らない、鳴滝と明子の話題が中心だった。

(ここまでの話を聞く限り、何ら問題はなかったようだけど……)

「続けて頂けますか?」

「……ええ。よろしいですね、米田支配人」

かえでの話をジッと眼を閉じて聞いていた米田が小さく首を縦に振った。

「レニと織姫が参加してから半年後。実験は最終段階に来ていたわ……」
 
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