「やっほ〜、さくらはん。久しぶりやなあ〜」

箱の中のおさげに眼鏡の少女――李紅蘭は明るく答えた。

「こんにちわ、紅蘭。元気そうでよかったわ」

箱――キネマトロンに映る映像を見ながら真宮寺さくらは微笑みながら答えた。

「ところで、どないしたんや? 珍しいやんか、さくらはんからウチに連絡くれるなんて」

「え、ええ…紅蘭、ちょっと時間あるかな?」

「ああ、かまへんよ。今は特に忙しいことないし…何かウチに頼み事かいな?」

「ええ、そうなの。実は…」

さくらは昨日の織姫たちの騒動の事を話した。

「…へ〜、ウチがおらん間にそないな事があったんか。それで、ウチにして欲しい事っちゅうのは?」

「この騒ぎの発端は『星組』にあるみたいだから、紅蘭の機械で何か調べられないかしら?」

「う〜ん、機械は万能とはちゃうんやからなあ…ああ、でも少しは何とかなるかもしれんで」

「どういう事?」

「公式記録くらいは調べられるちゅうことや。その鳴滝っちゅう人の経歴や、
 過去の事件の記録とか、そう言う事なら調べられるんや」

「…そうね、何か判るかもしれないし…お願いして良いかな、紅蘭?」

「任しとき!そしたら、まずこの鳴滝っちゅう人から調べよか…ちょっと待っといてな、さくらはん」

画面から紅蘭の姿が消える。カチャカチャと音だけが聞こえてくる。

「…うん! 判ったで」

「は、早いわね…それで?」

「ああ、今から読むで…鳴滝鉄幹。年齢25歳。水戸出身。両親は23年前に自動車事故により死亡。
 養育者は母方の祖父となっとるな…この爺さん、旧政府の元大臣らしいな」

「旧政府?……ああ、江戸幕府のことね」

「ええとこの生まれなんやな。まあ、続けるで。学歴は陸軍士官学校、初等部、中等部、高等部、
 大学部全て主席卒業。頭もええみたいやな」

「顔も二枚目だったわよ」

「はあ〜、世の中二つも三つもええとこもっとる天才はおるんやなあ…あれ?」

「どうしたの?」

「この兄ちゃん、大学部卒後に陸軍に入ってはらへんわ。変わり者やなあ」

「ええ!?どうして?」

富国強兵の当時、陸軍は花形の職業である。まして、この学歴ならば将来の幹部候補生である。
入隊の義務があるわけではないが、普通はそのまま仕官するものである。

「えーと、大学部卒後は欧州(ヨーロッパ)に行っとったらしいな。留学かいな?
 それから帰国して間もなく『星組』に参加しとるわ」

「…欧州であやめさんにスカウトされたのかな?」

「せやろな。『花組』のスカウト組のパターンから考えるとそれが妥当な線やな」

「それじゃあ、『星組』のことはどうなってるの?」

「ああ、一番肝心なところやな…あれ?」

「どうしたの、紅蘭?」

「入隊後の事はあまり書いてへんな。極秘事項なんかな?
 1年半後に降格処分を受けたことしか書いてへんわ」

「降格処分?なんで?」

「それが書いてあらへんのや。ウチの勘やけどこの『降格処分』がクサイな」

「そうね…」

「ふふふふ…」

突然不気味な声で紅蘭が含み笑いをしだした。

「ど、どうしたの、紅蘭?」

さくらはちょっと怯みながら画面の紅蘭に話しかける。
何故か瞳の見えない眼鏡がキラリと光ったように見えた。

「ふふふふ…ウチに隠せる事実なんかあらへんで〜!」

突然猛烈な勢いで機械に手を走らせる紅蘭。

「こ、紅蘭!何を…」

「ハッキングや!」

「は、はっきんぐ?」慣れない外来語にさくらは怪訝な声を上げる。

「簡単に言うたら隠しとる情報を盗み見る作業や!」

「ええ!そんな事していいの!?」

「バレなんだらええんや〜♪」

「そんな訳ないでしょう!お願いだから止めて、紅蘭!」

さくらの言葉懸命の嘆願をあっさり聞き流した紅蘭はなおも手を休めないで作業を続けている。

「ふふふ…もう少しやあ〜♪もう少しやあ〜♪」

「だから止めてって言ってるじゃない、紅蘭!」

「ふふふ…ここなんかアヤシイな〜、ほれほれ、隠さんとはっきり見せや〜」

「…紅蘭…なんか言ってる事が下品よ……」

赤くなるさくら。

「はあ?何を言うとるんや、さくらはん……あ、これかいな!?」

ガー、ガー、ピキューーン…

「? 何の音、これ」

「どうやら音声記録みたいやな…何やろか?」

『…せ!…こ!…き!…』

「ねえ…紅蘭。これって、米田長官の声じゃない?」

「ああ、言われてみればそんな気するな。ちょっと待っててや…」

再び機械に指を走らせる紅蘭。

「…よし! これでちゃんと聞こえるやろ!」

紅蘭が声を上げた時、

『馬鹿言うな! 責任を取るのは長官である俺だ! どうしてお前が責任を取らなきゃならねえ!!』

米田の絶叫の声にさくらと紅蘭は凍りついた。
 
サクラ大戦外伝〜星屑の記憶〜

第3話(最終話) 星の歌・心の歌
作:御巫吉良(KIRA・MIKANAGI)
 
 
第2話に戻る  SSの部屋に戻る  次ページへ

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル