ビッグボディ VS ソルジャー (1)
 ペンチマン VS ウールマン
 残虐チームのコーナー。
 ソルジャーとヘビー・メタルが、試合前のウールマンに指示を与えている。

「いいかウールマン。相手のペンチマンは、前の試合では負けているが、マンモスマンの顔を傷つけた唯一の男だ」
「ウールマンさん、鋼鉄のパンチはかなり重いですよ! まともに食らわないように気をつけてくださいっ」

「……」
 しかしウールマンは、返事をしない。

「おい、ウールマン」
「ウールマンさんっ!」

「…だ、大丈夫だ」
 はっと振り向いて、答えるウールマン。
 しかし、どことなく顔色が冴えない。

「両者セコンドアウト。セコンドアウト」

 不安を抱えながら、ソルジャーとヘビーメタルはリングから離れる。
「とにかく頑張ってください、ウールマンさん!」
「……」

 一方、強力チームのペンチマンへの指示は、たった一つ。
「前回のような負け方はするな、ペンチマン!」
「オウッ!」


「先鋒戦、はじめっ!」

 カーンッ!!

 名古屋城特設リングに、ゴングが打ち鳴らされた。

「……」
 前回のマンモスマン戦の轍を踏まないように、慎重に間合いを詰めていくペンチマン。
「……」
 ウールマンはその間合いを嫌い、じりじりと後退する。

「……」
「………」

 しばらくにらみ合いが続く。
 そして、ウールマンの異変に気付いたそのとき。

「!」
 ペンチマンは猛然と突っかかった。

「おい、どうした! 相手の誘いには乗るな!」
 ビッグボディが不安の声を上げる。
「違いますよ大将! こいつ、本当にビビッてるんですよ!」

 ペンチマンの豪拳が、ウールマンの顔面に向かって繰り出される。
「おらあっ!」
 しかしウールマンは、その拳をかがんでかわす。
「ひいっ!」
 ウールマンの羊毛が、数本宙を舞う。
「おらっ、おらっ!」
 ペンチマンは、さらに連打。
「ひいっ、ひいっ!」
 ウールマンはその攻撃をなんとかかわす。しかしその様は、防御というより、避難というような表現がより近い。

「ウールマンさん! 逃げてばっかりじゃダメだ! 反撃しないと!」
 ヘビー・メタルのアドバイスが飛ぶ。
 しかしウールマンは、その指示など耳に入っていないように、リング上をひたすらに逃げ回る。

 ペンチマンの拳は、クリーンヒットは無いものの、ウールマンの体の毛を徐々に削ぎ落としていき、リングはさながら毛刈りシーズンの羊牧場のような様相になった。

「残虐チームが聞いて呆れるぜ! こいつ、ただのヒツジじゃねえか!」

 ペンチマンは笑う。

「ヤロォ! 言わせておけば!」
「待て、ヘビー・メタル」
 侮辱に耐えかねて立ち上がろうとしたヘビー・メタルを、ソルジャーが制する。
「ソルジャーさん…」
「大丈夫だ。あいつの祖国ニュージーランドで、あいつがどう呼ばれているか知っているか?」
「?」

 しかし、話の最中にウールマンは、いつの間にやらコーナーに追われていた。

「ああっ! ウールマンさんが追い詰められた!」

 逃げ場をなくして、震えているウールマン。
 ペンチマンは、じりじりと詰め寄る。

「よし、そろそろ仕上げと行くか」
「やれ、ペンチマン」
「おおっ!」
 ビッグボディの指示を得て、ついに必殺技を繰り出すペンチマン。

「食らえ! ペンチ・クロー!!」

 ガキィッ!

「ああっ!」
 ヘビー・メタルは目をそむける。
 ところが、次の瞬間、リング上に映ったものは。

「ああーっ! ペンチクローが、途中で止まっている!」

「ぐっ…どういうことだ、ペンチが動かない…」
 戸惑うペンチマン。
 それを見て、ウールマンは笑みを浮かべる。
「ふっ。いままで何のために、俺の貴重な羊毛をお前に刈らせてやったと思う?」
「え…?」
「お前の手の付け根を、よく見てみろ」
「……」
 自分の腕に、視線を落とすペンチマン。

「ゲエーッ!! ペンチの留め金の部分に、羊毛が絡まっているーっ!」

「そうさ、ペンチマン! 今まで攻撃を避けつづけていたのは、お前の腕に羊毛を噛ませて、ペンチの噛み合わせを悪くするためだったのさ!」

 ウールマンは自由の利かなくなったペンチマンの腕を後ろに回し、そのまま倒れこむ。。
 そして足を絡めて、ペンチマンの胴を高く、宙吊りの状態にした。

「決まったーっ! ロメロスペシャルだーっ!」
「これで終わりじゃねえぜ」

 ウールマンは、腕をさらに手前に引き絞る。
 ロメロスペシャルの形から、ペンチマンの腰がさらにギリギリと浮かび上がっていく。
「ああっ! ウールマンさんの体を底辺に、ペンチマンの体が丸みを帯びた三角形を形作った!」
「見ろ! これがウールマーククラッチだ!」

「う、うあぁぁぁっ!」

 興奮するヘビー・メタルに、ソルジャーが背後から声をかける。
「そういえば、ウールマンが祖国ニュージーランドで呼ばれている異名、まだ教えていなかったな」
 ソルジャーはニヤリ、と笑う。

「羊の皮をかぶった狼、だ」


「く、くうっ…」

 完全に極められ、苦しむペンチマン。
「脱出しろ、ペンチマン!」
 ビッグボディの指示に、ペンチマンはもがき始める。
「無駄だぁ!」
 しかしウールマンの手足は、まるで丹念に編みこまれたニットのように、ペンチマンの四肢をしっかりとホールドして離れないのだ。

「うはははっ! もう少しで腰の骨が砕けるぞ! どうするペンチマン!?」
「く、くそう…またも俺は、先鋒の役目を果たせないまま負けちまうのか…」

 ペンチマンの脳裏に、会津若松でのみじめな記憶がフラッシュバックする。

「いやっ! 俺は負けん! わざわざトリニダード・トバゴまで、俺をスカウトに来てくれたビッグボディさんの恩に報いるためにも!」

 その瞬間、ペンチマンに気迫がよみがえった。
「ま、まさかペンチマン、あの技を使う気ではっ!」
 ビッグボディが動揺する。

「技? いったい、この完璧に極められた状態で、何の反撃が出来ると言うんだ?」
「…頭さ」
「あたまぁ?」
「この頭のペンチが、ただの飾りだと思っていたか?」

「や、やめろペンチマーン!」

 ビッグボディの叫びを振り切るように、ペンチマンの頭頂部が左右に開き始める。
「な、なにぃ? まさか、頭のペンチが動くなんて!」
 そして、ペンチマンの開いた頭が、ウールマンの顔面を挟み込んだ。

「食らえ! これがペンチマンの最終奥義! ヘッド・ペンチ・クローだ!」

「ぎゃ、ぎゃあぁぁっ!!」

 ウールマンは顔面を締め上げられて、悶絶する。
 しかし、ウールマンはしっかりとロックした手足のせいで、なかなか逃げられない。

「へっ、皮肉なもんだな…自分の掛けた技が、逆に自分にとっても脱出困難になるなんて…」
 ガクッ。
 ウールマンは捨てゼリフをはきながら、ついに気を失った。



 カンカンカンッ!



 試合終了のゴングが鳴り響いた。

 その瞬間、レオパルドンとキャノンボーラーが、リングに駆け上がる。
「よくやったぞペンチマン!」
「みごとな逆転勝利だ!」
 しかし。
「ペ、ペンチマン…?」
 ペンチマンも、ウールマンと同じように、顔面から血を流して気を失っていた。
「こ、これは…」
「いったいペンチマンの顔に、何が…?」

「てこの原理だ」
 背後からビッグボディが声をかける。
「レオパルドンよ、てこの原理において、支点・力点・作用点のうち、最も負荷がかかるのはどの点だ?」
「し、支点ですか?」
「ではキャノンボーラー、ペンチマンの頭のペンチ、支点はどこにあった?」
「鼻…というか顔の中央部分!」
「そうだ。頭のペンチで物を挟むということは、自分の顔に自分でアイアンクローをかけるようなもの。ペンチマンはそれを承知の上で、ヘッド・ペンチ・クローを繰り出したのさ」
「……」
「なんという、勝負根性…」
 ビッグボディは、満足そうな笑みをこぼしながら倒れているペンチマンを、担架に抱え上げた。
「ペンチマン…素晴らしい闘いを、ありがとう…」

 一方、ウールマンのサイド。
「すまない…ツメを誤っちまった…」
「いや、ナイスファイトだったぞ、ウールマン」
「あとは俺達に任せておいてください、ウールマンさん!」
「ありがとう…」

 担架に乗せられてリングを去る、ペンチマンとウールマン。
 審判員が、リングの中央に立ち、試合の判定をくだす。


「両者ノックアウト! 引き分け!」

(つづく)


ちょっと補足。
残虐チームのヘビー・メタルが敬語を使っているのは、
彼が最年少の17歳だからです。
ちなみに彼の詳しいプロフィール。
ヘビー・メタル
 オランダ出身
 身長:191cm
 体重:102kg
 超人強度:72万パワー
(偽者の)ソルジャーチームにおける、ブロッケンJr的ポジションに相当します。


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