ビッグボディ VS ソルジャー (3)
レオパルドン VS ヘビー・メタル
残虐VS強力の闘いは、レオパルドンの一人抜きによって、強力チームが一歩リードした。
「残虐チーム中堅、ヘビー・メタル、前へ!」
「おうっ!」
「頼んだぞ、ヘビー・メタル!」
ソルジャーの声援を受けながら、リングに上がるヘビー・メタル。
191cm、102kgの体格は、人間の格闘家とするなら立派であるが、230cm、776kgの超人レオパルドンを前にしては、やはり小さく見える。
(ブルドーザーマンさん…)
ヘビー・メタルは、コーナーの隅で靴ひもを結びながら、次鋒戦の前に控室で交わした、ブルドーザーマンとの会話を思い出していた。
・
・
・
「あれ、ブルドーザーマンさん、このお写真は?」
ヘビー・メタルが、ウォーミングアップをするブルドーザーマンのかたわらに、一枚の写真が置いてあるのを見つけた。
小さな、機械型超人の写真だ。
「ああ、それはオレの息子だ」
「息子さんですか?」
ヘビー・メタルは、その写真を凝視する。胸についているのは排土板ではなく2本のリフトだが、それ以外は面影がある。
「名前はフォークっていってな。フォーク・ザ・ジャイアント。いい名前だろ? もっとも、まだ生まれたばかりで、ジャイアントにはほど遠いがな」
ブルドーザーマンはうれしそうに笑う。
「息子さんのこと、お好きなんですね」
「まあな」
「…ですが、そんなかわいい息子がいるってのに、どうしてこんな危険なトーナメントへ参加されたんですか?」
「だからだよ」
ブルドーザーマンは真剣な目をする。
「息子がいるからこそ、ソルジャーさんの誘いに乗ったんだ。息子が強い男に育つために、小さいうちに父さんのかっこいいところを見せてやりたいと思ったんだ」
「ブルドーザーマンさん…」
「もっとも、ぶざまな負け方をしたら、とんでもない不良息子になるかもしれないがな。お前みたいな」
「わ、それはないッスよ〜」
あはは…
・
・
・
「ブルドーザーマンさん…」
ヘビー・メタルは、形見の写真を握りしめる。
「あんたの仇は、オレが討つ!」
カーンッ!
「グオゴゴゴ…!」
ゴングと同時に、ヘビー・メタルに突進するレオパルドン。
「誰がテメエと相撲なんか取るかよ!」
レオパルドンの突進を、ヘビー・メタルはさらりとかわす。
「グオゴ…」
すぐに向き直るレオパルドンだが、ヘビー・メタルはすかさずその場から動く。
「へっ、自慢の超人相撲も、正面に立たなければ意味がないだろう!」
キャンバスの周りをひたすら走り回るヘビーメタル。
しかし。
ビシッ!
「うわっ!」
突然、ヘビーメタルの足元のキャンバスが、銃で撃ち抜かれた。
「これは…?」
銃弾の発射された方向を見やると、レオパルドンが左手のサイコガンのようなものを、ヘビーメタルのほうへと向けていた。
「お前が相撲をするつもりがなければ、俺も相撲をしないだけだ」
「くっ…」
「背中の砲弾と比べれば威力はないが、連射が可能な左手の銃。いわば、地獄の機銃だ」
「そんな武器も、あったのかよ…」
ビシッ! ビシッ!
逃げ回るヘビー・メタルの足元に、機銃が連射される。
「うわっ! うわっ!」
「ククク、逃げてばっかりじゃ試合にならないぜ!」
(確かに奴の言うとおりだ、何か作戦を立てねえと…)
ビシッ! ビシッ! ビシッ!
調子よく、銃声を放ちつづけるレオパルドン。
(これだ!)
「ちくしょう、ここはイチかバチか…!」
そう言いながら、ヘビー・メタルは、フェイントをかけてレオパルドンの左にまわる。
「その動きはお見通しだ!」
すかさずレオパルドンは、左手の銃を向ける。
ヘビー・メタルの眼前に、筒先が伸びた。
「バァカ、オレが待っていたのはそれだよ!」
レオパルドンの伸びきった左腕を、ヘビー・メタルは掴み取る。
「銃にこだわりすぎた、お前のミスだぁ!」
そのまま左腕を刈って、後ろへ倒す。
ズーンッ!
「やった、相撲超人のレオパルドンを、小兵のヘビー・メタルが倒した!」
「グオゴ…つ、痛恨のミスだ…」
ヘビー・メタルの腕ひしぎ十字固めが極まっている。
この状態では、左腕の機銃を発射することも、背中の砲弾を発射することもできない。
「見たか! これがブルドーザーマンさんの恨みのパワーだ!」
「恨み?」
「幼い息子を遺して、お前に殺された恨みだ!」
「…ほう」
「ほう、って…罪の意識はないのか?」
「…あるわけがない!」
レオパルドンは、そう言うと足をたたんで背中を丸めた。
「何をするつもりだ!?」
そして、逆向きになった砲塔を支点にして、猛回転をはじめる。
「これがレオパルドン秘技! 地獄の砲塔スピン!」
「うわっ!」
強力な遠心力に、ヘビー・メタルの体はコーナーポストまで弾き飛ばされた。
「ヘビー・メタル! リングの上では、誰もがたった一人きり。どんな事情があっても、全力で闘わなければならない!」
「ぐうっ…」
ヘビー・メタルは、背中からポストに叩きつけられて動けないでいる。
「俺はリング上では相手を倒すことしか考えない。それでどんな恨みを受けても、後悔はしない!」
レオパルドンは蹲踞の姿勢になり、背中の砲塔が伸びる。
照準が、ヘビーメタルへと定まる。
「食らえ! 地獄のほう…」
しかし、どうしたことか。
必殺技を叫んだところで、レオパルドンの動きが止まる。
「……チャンスだ!」
ヘビー・メタルは、態勢を立て直して突進する。
「オランダ式風車キック!」
強烈なキックで、レオパルドンの砲塔を曲げる。
「そして、これがオレの必殺技、スカルクローだ!」
大きな右手で、レオパルドンの頭を掴むヘビー・メタル。
「ギャアアアーッ!」
レオパルドンは、頭から血を流してダウンした。
カンカンカンッ!
ヘビー・メタルの勝利を宣告するゴングが鳴る。
担架で運ばれようとするレオパルドンに、ヘビー・メタルは声をかけた。
「レオパルドンさん…」
「フ、負けちまったよ」
「いや、あの時に地獄の砲弾を撃たれていれば、確実にオレが負けていた。どうしてあの時、撃たなかったんだ?」
「あれさ」
レオパルドンは、ヘビー・メタルの飛ばされた、コーナーポストを指差した。
「!」
その直線上の客席に、遠足で王位継承サバイバルマッチを観戦に来た、幼稚園児たちの集団があった。
「もしもお前が地獄の砲弾をかわしたら、客席に被害が及ぶ可能性があった。リングの上では非情にならなければならない俺が、ついリングの外のことを考えてしまった…」
「…そういえばあんた、地獄の機銃を撃つときも、足元ばかり狙っていた。あれも…」
「ま、そうさ」
レオパルドンは笑う。
「ブルドーザーマンの息子のことは、奴が超人墓場から出てくるまで、俺が面倒を見るつもりだ。お前も一度会ってやれ。もっとも、次のゴーレムマンと闘って、お前の命があればの話だがな」
「レオパルドンさん…」
医務院たちに運ばれていくレオパルドンの姿を、ヘビー・メタルは、リングの上からじっと見つめていた。
「あんた、素晴らしい戦士だったぜ」
「ヘビー・メタル、一人抜き!」
さあ、今回の無茶なオリジナル設定です。
今回は2世キャラのフォーク・ザ・ジャイアント。
残虐チームのブルドーザーマンの息子だったんですねえ。
正史において彼がノーリスペクトの悪行超人になったのは、
父親がアタルに、あまりに無様に闇討ちされたからということです。
もっとも、データでは超人年齢25歳とあって、
王位継承戦が28年前という設定では、矛盾が生じてるんですが、
いいですよねえ、このくらいは。