ビッグボディ VS ソルジャー (4)
 ゴーレムマン VS ヘビー・メタル
──姫路超人病院。
 ここには、ゼブラ率いる技巧チームとの闘いで負傷した、キン肉マンチームのウォーズマンとテリーマンが、ベッドから王位継承サバイバルマッチの模様をテレビ観戦していた。
 画面では、ラーメンマンがバイクマンを破り、二人抜きを決めたところであった。
「…なんという感動的な試合だったんだ」
「ああ、このラーメンマンの闘いは、我々正義超人の心に、深く焼き付けられたことだろう」
 感動の涙を流す二人。
 そのときテリーマンは、不意にウォーズマンにたずねた。
「ところでウォーズマン、一方の名古屋城の試合はどうなっただろう?」
「テリーマン! 仲間があれだけ一生懸命闘っているというのに、お前は簡単にチャンネルを変えられるのか?」
「そうではない。まだ副将戦の開始までは時間がある。その間に、次の対戦相手の調査をして、ひとつでも多く弱点を見つけておくのが、オレたちの仕事ではないだろうか?」
「それもそうだな。すまなかったテリーマン」
 テレビのチャンネルを、名古屋城の中継に変えるウォーズマン。
「こ、これは…!」
 そこに映っていたのは、傷だらけの姿で戦う、ヘビー・メタルの姿であった。



「ゼエ、ゼエ…」
 ヘビー・メタルは、大きく肩で息をしている。
「……」
 対して、ゴーレムマンは全くの無傷である。

「…だあああっ!」
 ヘビー・メタルは雄叫びを上げてつっかかる。

「チューリップ・パンチ!」

 しかしその鉄拳は、ゴーレムマンのボディの前に、逆にはじき返される。
「な、なんという頑丈なボディだ…」

「グオオ、もともとオレ様は、古代パレスチナで難攻不落を誇った、ジェリコの壁の化身なのだ」

「くそう、それなら!」
 ヘビー・メタルは飛び上がる。

「オランダ風車キック!」

 しかし、そのキックは、あっさりとゴーレムマンに受け止められる。

「グオオ…ジャイアントスイング!」

「うわあーっ!」
 ゴーレムマンの怪力に、ヘビー・メタルの体は、軽々とコーナーポストまで投げつけられた。
「う、うう…」



 ヘビー・メタル大苦戦のさまを、テレビで見ているウォーズマンとテリーマン。
「重量級のレオパルドンとの闘いに続いて、超重量級のゴーレムマンとの闘い。中量級ヘビー・メタルには、辛いものがあるな」
「いや。ウォーズマン、それだけではない」
「どういうことだ、テリーマン?」
「超人には、体格によって表される身体能力のほかに、超人強度と呼ばれる戦闘能力を表す数値がある。ヘビー・メタルを見ていると、ゴーレムマンに対して、体格よりもむしろ、超人強度において不足が感じられるのだ」



「ち、ちくしょう…」
 ふらふらになりながら、立ちあがるヘビー・メタル。
「グオオ…」
 それを不敵な表情で眺めているゴーレムマン。
「ヘビー・メタルよ。オマエの超人強度は何万パワーだ?」
「な、72万…」
「72万パワー? そんな程度のパワーで、オレ様と対等に戦おうと思っていたのか?」
「そういうお前は、いくらあるんだよ!」
「不明だ」
「不明だぁ? あまりにも低すぎるから隠してるんじゃないのかよ!?」
 ヘビー・メタルは再びキャンバスを蹴って飛び掛る。

「オランダ風車キック!」
「フンッ」
 ゴーレムマンは、その足を再び掴もうとする。
「違うぜ! これは囮だよ!」
「!」
 ヘビー・メタルは、ゴーレムマンの体を巧妙に駆け上がる。
 そして、がっちりとその頭蓋骨を掴み取った。
「食らえ! スカルクロー!」
「グオオッ!」
「どうだ! これがオレの必殺技だ!」

 しかし。

「…本当にこれが、レオパルドンを倒した必殺技か?」
 スカルクローを完全に極められながらも、ゴーレムマンは平然としていた。

「スタミナが切れている。握力がなくなっている。これでは、子供だって倒せやしない」

 ゴーレムマンは、スカルクローを極められたまま、ヘビー・メタルの首を抱え込む。
「こいつ、力だけでオレのスカルクローを…!」
「オマエの体力では、しょせん連戦などムリだったんだよ!」
 そのままヘビー・メタルの体を、高く持ち上げ、後方へ投げる。

「フロント・ネック・チャンスリー・ドロップ!」

「ぐわっ!」

 さらに、ダウンしているヘビー・メタルの腹に、トップロープからフライング・ニードロップの急降下爆撃が投入される。

「ぐわぁぁぁっ!」

「ヘビー・メタル!」
 ソルジャーはリング下から、必死で呼びかける。
「ソルジャーの大将…」
 その呼びかけに、ヘビー・メタルはようやく返答をかえす。
「大将…日頃の不摂生が、祟っちまいましたよ…オレ、ソルジャーさんにこのチームに誘われる前は、すさんだ食生活してたからなあ…」
「立つんだ! ヘビー・メタル!」
「すみません、オレ、そろそろ本格的にダメそうです…」
「おまえ……」

「ヘヘッ、超人は死ぬとき、今までの人生を思い出すっていうけど、本当にそうだな…」
 ヘビー・メタルは天井を見上げながら、かすれた声でひとり、過去を語り始めた。

「昔のオレは、歌が好きな、田舎のハイスクール・スチューデントだった。あるとき公民館で開かれたコンサートが忘れられなくて、友達とバンドを組んでインディーズ活動していた。そんなとき、都会の芸能プロダクションから、オレ一人だけ誘いがかかって、オレは長年一緒にやってきた仲間を見捨てて、都会へ出てしまったんだ。結局そのスカウトはただの詐欺師で、金だけ取られて捨てられちまったんだが…」

 キャンバスに寝そべるヘビー・メタルに、ゴーレムマンがゆっくりと歩を進める。
 ヘビー・メタルは、あきらめの表情で目を閉じた。

「できれば死ぬ前に、バンドの連中ともう一度会いたかった。あって、あのときのことを謝りたかったよな…」

 そのとき。

「…壊れかけの…盗んだバイクが…止まらないぜ…♪」

 ヘビー・メタルの耳に、かすかな歌声が聞こえてきた。
「こ、この歌は…オレが田舎でバンドをやっていたときのデビュー曲…」
 ヘビー・メタルはリングサイドに視線を移す。
「!」
「ヘビー! 俺たちはここにいるぜ!」
 そこにいたのは、ヘビー・メタルが田舎で組んでいた、バンド仲間であった。
「お、お前たち…!」

「ヘビーよ。俺たちは、お前が都会に出たことを、怒ってなんかいないぜ!」
「そうだ! ヘビーはいつだって、オレ達の自慢のボーカルだったんだから!」
 バンド仲間たちが声援を送る。
「だから立て! こんなところで死ぬんじゃない!」
「輝いていたあの時代を、思い出すんだ!」
 そう言うと、仲間たちはそれぞれの楽器を構える。

「さあ、歌おうぜ! オレたちのデビュー曲を!」
「1,2,3,4!」

 激しいドラムとギターの音が、名古屋城内を包み込む。

「………」
 イントロが終わって、ボーカルのないまま曲が進む。
「さあ、立て! ヘビー!」
「会場のみんなは、お前の歌声を期待しているぜ!」

「………」

 そして。

「…ギンギラギンの…ナイフみたいに…」

 つぶやくように、ヘビー・メタルは演奏に声を合わせはじめた。

「悪魔にも似た…川の流れのように…♪」

 その声はだんだんと大きくなって…

「オレのハートは〜♪ ギンギンに燃えてるぜ〜!!」

 ついにヘビー・メタルは、立ちあがった。

「ヘビー!」
「お前ら、変わってないぜ…その下手なギターも、リズム感の悪いドラムも…。だけど、やっぱりお前ら、最高のメンバーだぜ!」

 ところが、そのとき。
「グオオ…!」
 ヘビー・メタルの歌を聞いていたゴーレムマンは、突然苦しみはじめた。
「グオオオオ…ッ!」
「ハハハどうしたゴーレムマン? あまりの下手さに、耳が我慢できなくなったか…?」
 言いかけて、ビッグボディはハッとする。
「いけないゴーレムマン! お前はジェリコの壁だ! その歌を聞いてはダメだ!」



「どういうことだテリーマン? あれだけ優勢だったゴーレムマンが、ヘビー・メタルたちの歌を聞いたとたん、突然苦しみ出したぞ」
「そういえば、聞いたことがある」
 テリーマンは解説をはじめた。
「かつて難攻不落を誇ったジェリコの壁だったが、ユダヤの軍勢がそこを攻めたとき、六日間無言で城壁の周りを回りつづけて、七日目に一斉に鬨の声をあげると、いとも簡単に崩れ落ちてしまったという」
 それを聞いて、ウォーズマンは驚く。
「なに? それではゴーレムマンは、あの叫び声が鬨の声に聞こえるのか!」
「そうだ。まさかあれほど頑丈なボディが、声だけで崩れてしまうとは…巨大超人の、思わぬ落とし穴だ」



「オレの歌を聞けーっ!!」

 バックの演奏にあわせて、歌いつづけるヘビー・メタル。

「グオオ…! やめろ、その騒音を!」
 その声に、ゴーレムマンの体は、ガラガラと崩れてゆく。

「いいぞヘビー・メタル! 二人抜きまでもう少しだ!」
 諸手を上げて喜ぶソルジャー。

「がんばれゴーレムマン! ここまで闘ったのに、負けていいのか?」
 キャンバスをたたきながら励ますビッグボディ。

「グオオ…確かにビッグボディ様の言うとおりだ…こんな奴に、二人抜きを許すわけにはいかん!」
 そう言うとゴーレムマンは、ボロボロの体を引きずってヘビー・メタルに突撃する。

「いかん、奴は玉砕するつもりだ!」
「グオオーッ!」


 ドンガラガッシャーンッ!


 審判員がリングに上がって、ほとんどガレキとなったゴーレムマンの体を整理する。
 ヘビー・メタルは、その下敷きになって昏倒していた。
「……」
 審判員はマイクを持って、城内に告げた。

「両者ノックアウト! 引き分け!」

 カンカンカン!

 ゴングの鳴り響く中、ソルジャーはヘビー・メタルの体を抱き起こす。
「ヘビー・メタル…」
「すみませんソルジャーさん、結局中途半端でしたね…」
「いや。素晴らしい、歌声だったぞ」
「ソルジャーさん…」

 一方ゴーレムマンは、その半分くらいになった上半身を、ビッグボディに抱え上げられる。
「申し訳ありません、ビッグボディ様…ふがいないところを見せてしまって…」
「いや、引き分けに持ち込んだだけでも十分さ」
「ビッグボディ様…」



 タンカで運ばれていく両者を見送ったあと、ビッグボディはおもむろに、ソルジャーに向きなおった。
「キン肉マンソルジャーよ」
「どうした、キン肉マンビッグボディ?」
「この中堅戦が引き分けになったことで、オレ達とお前たちのチームは、それぞれ副将と大将の二人ずつを残すことになった。ここはひとつ、タッグマッチで決着をつけてはどうか?」
 それを聞いてソルジャーは、ニヤリと笑う。
「どうだソルジャー、オレの提案を受けられないか?」
「いや、俺には何の異存もない。俺はこのシャークマンと組み、キサマはそのキャノンボーラーと組んで、一気にカタをつけようじゃないか」
「よし、決まりだな」

 自慢の肉体を輝かせる強力の闘士、キン肉マンビッグボディ。
 その横に控える静かなる格闘家、キャノンボーラー。

 迷彩服に身を包んだ残虐の戦士、キン肉マンソルジャー。
 その傍らに立つ謎の男、シャークマン。

 4人がそれぞれリングの中央で睨み合い、そしてコーナーに戻る。

 世紀の一戦が、いま始まる!

(つづく)


知ったかぶりといえばテリーマンの専売特許。ということで、
当初出すつもりのなかったキン肉マンチームのキャラを出してしまいました。
ちなみエヴァでもおなじみ(でもないか)の「ジェリコの壁」は、
ゴーレムマンがイスラエル出身だから設定したのですが、
ちゃんと調べるとジェリコはヨルダン川西岸で、イスラエル領じゃないんですね。
まああの辺は今でもややこしいから、細かいこと気にする必要はないでしょうが。


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