強力チームと残虐チームの最終決戦は、ビッグボディ&キャノンボーラー組VSソルジャー&シャークマン組のタッグマッチとなった。
ゴングを前に、ビッグボディとキャノンボーラーは、自分たちのコーナーで打ち合わせをしている。
「ビッグボディ様、残虐チームはどうやら、ソルジャーが先に出るようですね」
「キャノンボーラーよ。キン肉マンソルジャーは、人間凶器の異名を取る、実力派の超人だ。ここはひとつ、オレが先に出て様子を見るとしよう」
「しかし、それでは私の立場が…」
「いや、お前のマンモスマンと引き分けた実力を、過小評価しているわけではない」
ビッグボディは、対角のコーナーに視線を送る。
「オレがソルジャーよりも気になっているのは、ヤツらの副将、シャークマンのことだ」
「シャークマン…」
二人の視線の先に、ソルジャーと会話を交わしている、サメ超人が映る。
「キャノンボーラー、お前はあの超人について、何か知っていることはあるか?」
「いえ…」
キャノンボーラーはかぶりを振る。
「オレ達は、あのサメの被り物をした超人について、何も知らなさ過ぎる。シャークマンという名前でさえ、本当かどうか疑わしいくらいだ」
「……」
「そのだめ、ヤツがこのタッグマッチでどのような闘い方をするか、全くの未知数だ。だからこそ、お前にはシャークマンのリングサイドでの動きを、監視していて欲しい」
「はい」
「このタッグマッチ、もともとオレ達から提案したものだが、どうも向こうの方に分があるように思える。くれぐれも、気をつけていてくれ」
「はい!」
打ち合わせを終えて、ビッグボディはリングの中央に向かう。
「かわいい部下とのお別れの挨拶は済んだかい?」
「それはこっちのセリフだ、ソルジャー」
お互いに闘志を高めるように、言葉を交わすソルジャーとビッグボディ。
カンッ!
「ダアアアッ!」
「ウオオッ!」
ガシッ!
ゴングの直後、両者はすさまじい突進から、がっちりと手四つに組み合う。
「ヌヌヌ…」
「オオオ…」
地味ながら、ほぼ互角の力比べが続く。
(すごい…ビッグボディ様もソルジャーも、全く一歩も退いていない…)
その様を、リングの外で見守るキャノンボーラー。
そしてちらりと、向かいのコーナーに目をやる。
(おかしい…目の前であれだけの攻防が繰り広げられているのに、シャークマンは表情ひとつ変えていない…)
「ケッ…強力と聞いて気をつけていたが、お前のパワーはこんなもんかよ、ビッグボディ!」
「ウヌヌ、言わせておけば…!」
一進一退の力比べに、動きが生じ始める。
横への動きや旋廻の動きが加わり、組み合う二人の体勢はいつしか逆転し、ソルジャーの体は、強力チームのコーナーに背中を向ける形になっていた。
(…チャンスだ!)
キャノンボーラーは、フォローの絶好の機会であることに気づく。
(だが…)
もう一度、シャークマンの方向を見る。
しかしシャークマンは、こちらにはまるで注意を払っていない。
(いける!)
キャノンボーラーは、ロープを跳び越える。
「だああっ!」
そのまま、ソルジャーの背中へ向けてドロップ・キック。
「グアッ!」
ソルジャーの体勢が崩れた。
「ナイスフォローだ、キャノンボーラー!」
ビッグボディはすかさず、ソルジャーの背中に回りこむ。
そして、ソルジャーの手足を、あたかも楓の葉のように組み上げてゆく。
「食らえ! これが本邦初公開、メイプルリーフ・クラッチだ!」
「グアアアッ!」
「我が出身国であるカナダの象徴・メイプルリーフをかたどった、ビッグボディ唯一のオリジナルホールド!」
そのとき。
「カ・ナ・ダッ!」
残虐チームのコーナーから、まるで矢のように一直線に迫る影。
「ビッグボディ様、危ないッ!」
気づいたキャノンボーラーが、ビッグボディの体を突き飛ばす。
斬!
「ウワアアアッ!」
「キャ…キャノンボーラー!」
ビッグボディをかばったキャノンボーラーは、背中をざっくりと切り裂かれていた。
そしてその傷を負わせたのは、シャークマンの右腕に装着された、シャーク・カッター!
「チッ…とんだ邪魔が入ったか…」
無念そうに、右腕についた血をぬぐうシャークマン。
「だが、これでわかったろうシャークマン。あのビッグボディが、カナダ出身であるということが」
「ああ、ソルジャー。あんたには、復讐のチャンスを与えてくれて感謝している」
ソルジャーとシャークマンは、交代のタッチをかわす。
「ゆけぇシャークマン! そのカナダ超人の血を、吸い尽くすのだ!」
「キシャアアアッ!」
目の色を変えて、ビッグボディに襲いかかるシャークマン。
「ビッグボディ様!」
負傷したキャノンボーラーは、ビッグボディに呼びかけるのが精一杯。
ビッグボディは、シャークマンの猛攻の前に、防戦一方になっていた。
(しかし、どういうことだ…)
シャークマンの攻撃を眺めながら、キャノンボーラーは思う。
(まるで親の仇でも目の前にしたような、敵愾心を剥き出しにした攻撃だ…)
(だが、ビッグボディ様は開拓者ストロングマン時代を含めて、超人に恨みを抱かれるようなことなどなかったはず…)
そのとき、あまりの激しい動きに、シャークマンのマスクがずれる。
「ウオッ、視界が…!」
(チャンスだ!)
負傷をおして、再びリングに飛び出すキャノンボーラー。
「キャノン・ラリアート!」
必殺技のラリアートが、シャークマンの後頭部を捉える。
「ビッグボディ様、お願いします!」
「おうっ!」
そしてすかさず正面から、ビッグボディのラリアートが襲う。
「「掟破りのクロス・ボンバー!」」
超人レスリングのタッグマッチにおける定番が、シャークマンの頭を挟みこむ。
その衝撃に、シャークマンのマスクが舞い上がる。
「よくも…オレ様の正体をばらしてくれたな…」
シャークマンの素顔が、リング上で明らかにされる。
サメの被り物であるマスクの下から現れたシャークマンの正体は、またしても、鋭い歯を持ったサメ型超人だった。
「ど、どういうことだ…?」
「サメのマスクの下が、サメ…?」
どよめく観衆。
「そういえば! あの超人、テレビで見たことがあるぞ!」
観客の一人が、大声を上げる。
「第2回超人オリンピックに出場していた、ジョーズマンだ!」
「ええっ?」
どよめきがさらに激しくなる。
「ジョーズマンといえば、第3次予選の新幹線アタックで、新大阪までの記録を出した超人のはず…」
「だが登場はたったそれだけで、次の最終予選には一度も顔をあらわさなかった…」
「いったいそんな超人が、どうしてこの王位争奪戦へ?」
「…どうやら、説明が必要なようだな」
ソルジャーが、おもむろに説明をはじめる。
「第2回超人オリンピック第3次予選・新幹線アタック…。テリーマンのまさかの失格が有名なこの予選だが、彼のほかにも、高記録を出しながら失格になった2人の選手がいる…」
「それが、ジョーズマンとカナディアンマン」
「2人の因縁は、第3次予選の終了後から始まる…」
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・
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4年前。
予選終了後、委員長が全選手の前で、競技の結果を報告していた。
「今回の新幹線アタック、第一位がタイルマン君、記録は博多。第二位がカナディアンマン君、記録小倉…」
「待ってください、委員長」
「どうしたね、ジョーズマン君」
「先ほど委員長が読み上げられたカナディアンマンの記録ですが、私はその記録に、疑問を持っています」
「な、何じゃと…?」
「私は見ていました。カナディアンマンが試技に入る直前、自分が投げる新幹線の中に忍び込み、予備バッテリーの電源をONにしていたところを」
「ということは、カナディアンマン君の記録は、自分の力だけでなく電気の力を借りていた、ということになるのかの?」
「はい」
委員長はカナディアンマンに問い掛ける。
「本当かな、カナディアンマン君?」
「………」
カナディアンマンは、答えない。
「電源を入れていたか入れていなかったかはともかく、新幹線の中に入ったというだけでも、重大な反則じゃ。ジョーズマン君の言うことが真実なら、君を失格にせねばならん」
「………」
「正直に、答えたまえ」
「……それを言うなら、このジョーズマンだって、不正行為を行ってるぜ!」
カナディアンマンは突然、ジョーズマンに水を向けた。
「ど、どう言うことじゃカナディアンマン君?」
「ジョーズマンは、国籍詐称を行ってるんだよ!」
「な…なにっ…!」
「ジョーズマンのプロフィールには『オーストリア出身』となっているが、どうしてサメ型超人が、海のないオーストリアから出て来るんだよっ!?」
「そ、そんな、言いがかりだ…!」
「もしかしたら、オーストラリアは競争率が高いから、一文字ごまかしたのかい?」
「キサマァ!」
「やるかッ!」
「よさんか、2人とも!」
委員長からの喝が入る。
「お前らの主張が真実かどうかはともかく、今のお前らの行為は、スポーツマンシップに反する行為じゃ。事実確認は後のこととして、ここはケンカ両成敗ということで、2人とも失格じゃ」
「そ、そんな…」
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「ということで、この失格以来、ジョーズマンは正義超人の道を捨て、残虐超人へと転進したのだ」
「正義を貫きながら、わけのわからない言いがかりで足を引っ張られたこの無念、誰が知る!」
シャークマン改めジョーズマンは、立ちあがる。
「カナディアンマンへの恨み…同じカナダ出身超人である、ビッグボディを葬ることで、晴らしてくれるわ!」
ジョーズマンは腕を振り上げる。
「食らえ! シャーク・カッター改め、ジョーズ・カッター!」
ガシィッ!
「キャノンボーラー…またしても…」
ビッグボディを狙ったジョーズ・カッターは、キャノンボーラーの真剣白刃取りの前に止められていた。
「私が相手だ、ジョーズマン!」
キャノンボーラーは叫ぶ。
「お前のビッグボディ様への敵愾心が、ろくでもない言いがかりであることがわかった以上、お前をビッグボディ様の前に立たせるわけにはいかん!」
「チッ…!」
キャノンボーラーの手を振りほどき、もう一度距離を取るジョーズマン。
「どうやらキサマを倒さない限り、オレ様の復讐は果たせないということか…だが、その傷と出血で、何ができる…?」
「ハァ、ハァ……」
肩で息をしながら、考えるキャノンボーラー。
(確かに、私のスタミナはもう限界だ。攻撃できるとすれば、ただ一回…!)
「行くぞ、キャノンボーラー!」
キャノンボーラーめがけ、突進するジョーズマン。
「よけろォ、キャノンボーラー!」
(まだ、まだだ…)
ビッグボディの叫びを、キャノンボーラーは無視する。
「死ぬ気かッ!」
(まだだ…)
「食らえ、ジョーズ・カッター!」
「ここだァ!」
バキィ!
「スカッド・アタック!」
「グオオッ」
キャノンボーラーの渾身のヘッドバッドを食らって、ダウンするジョーズマン。
「よしっ、勝った…」
それと同時に、キャノンボーラーの体も、キャンバスに崩れ落ちる。
「キャノンボーラー!」
慌ててかけつけるビッグボディ。
「ビッグボディ様…私の仕事は、これでもう終わりです」
「よくやったぞ、キャノンボーラー。あとはオレに任せておけ」
「はい…」
ビッグボディは静かに、キャノンボーラーの体をリングサイドに横たわらせた。
「くぬう、無念…」
「だが、いい暴れっぷりだったぜ、ジョーズマン」
「やはりこの恨みは、本物のカナディアンマンに…」
「ああ、そうしろ」
ソルジャーも、ジョーズマンを医務室に引き上げさせた。
タッグマッチのパートナーを見送ったあと、ソルジャーとビックボディは、再び正面に向き直る。
「さあ…これで両者ともジャマ者は消えたわけだな」
「ああ」
「ついに1対1…」
「正々堂々と、決着がつけられる…」
「「これが、本当の最終決戦だ!」」