ビッグボディ VS ソルジャー (6)
 最終決戦!
 ビッグボディ VS ソルジャー(前)

 長かった闘いも、ついに残ったのは二人だけ。
 ビッグボディとソルジャーが、最後のシングルマッチのリングに立つ。

「さあビッグボディ、お互いに悔いのない闘いをしようぜ」
「もちろんだ、ソルジャー」

 カンッ!

 仕切りなおしのゴングが鳴る。

 大歓声に包まれて、しばしの間睨み合う二人。
 ビッグボディを誘うように、両手を前に差し出すソルジャー。
「ふんっ!」
 ビッグボディは、その誘いに乗って手を組み合わせる。
 先ほどのタッグマッチの序盤戦と同じように、力比べの展開となった。

「ふ…」
「何がおかしい、ソルジャー」
「うれしいねぇ、こんなにも簡単に有利な形がつくれると」
「バカな。さっき組み合った感じでは、パワーで上回るオレのほうが、有利なはず体勢のはず…」
「パワーでは、もちろんそうだろうが、な」
「え…?」

 ガクンッ。
 突然、ビッグボディのバランスが崩れる。
 ソルジャーが、ビッグボディの強力をテクニックで操作したのだ。
 そのままバックを奪いに行くソルジャー。
「っ!」
 取られまいと、ビッグボディは慌てて体を振ってソルジャーを弾き飛ばす。
「くそっ!」
 すかさずビッグボディは、ソルジャーの足元へ飛び込もうとする。
 しかしソルジャーは沈着に、ビッグボディのタックルを切る。
「ぐっ!」
 上から押しつぶしたソルジャーは、グラウンドからビッグボディの腕を取ろうとする。
「ちいっ!」
 腹ばいのビッグボディは、ソルジャーの寝技をなんとか振りきって、ロープへと逃れる。
「くっ…浅かったか」
 残念そうに、起き上がるソルジャー。
 ようやく、お互いの体が離れ離れになった。

「はぁ、はぁっ…」
 コーナーへと戻って、大きく息をつくビッグボディ。
 自慢のパワーによる攻撃を見事に封じられて、内心は激しく動揺している。
「おや、ビッグボディ君、息が上がってるねえ」
 対するソルジャーは、いたって落ち着いている。

「さっきのタッグで、本気を出しすぎたのかい?」
「ソルジャー、まさか、さっきのタッグマッチでは、自分の実力を隠していたというのか?」
「ふ…。あれは、ジョーズマンに働いてもらうための芝居にすぎない」
「だが、もしあれが芝居だったとしても、オレ達が知る限りの情報では、ソルジャーは残虐ファイトを売り物にする超人で、こんなテクニックを持っているとは…」
「それは、つい先週までの情報さ」
 ソルジャーは、不敵に笑う。
「俺は、素晴らしいコーチに鍛えてもらったんでな」
「コーチ、だって…?」

 初めて耳にする情報に、驚くビッグボディ。
 ソルジャーは、静かに語り出す。

「お前たちが1回戦を闘っていたころの話だ」

「メンバーと一緒に、富士山の麓で特訓をしていた俺たちの前に、一人の超人が現れた」

「準決勝の前のいい腕だめしになると思って、挑んでいった俺たちだが…」



「グ、グウ…」
 激しく雪面に叩きつけられたソルジャーが、うめき声をあげる。
 残る4人のメンバーも、同じように謎の超人にKOされている。
「ふ、他愛もない…まさか残虐の神の実力が、この程度のものでしかなかったとは」
 謎の超人は、まるで問題にならないというように5人を見下している。
「キサマ…」
 絶え絶えの息で、ソルジャーは尋ねる。
「何のために…こんなことを」
「お前には悪いことをした。だが、フェニックスの魔の手からスグルを守るためには、こうするしかなかったのだ」
「フェニックスの魔の手、だって…?」
「そうだ。これまでのスグルの闘いは、どれだけ相手が強くとも、必ず乗り越えられると信じることができた。だが今回は相手が悪すぎる。知性の神とフェニックスの策略からスグルを守るためにも、私がソルジャーの名を借りて、フェニックスと──」
 謎の超人はソルジャーのマスクに手をかけようとする。
「ちょっと、待て」
 その手を、ソルジャーが止める。
「フェニックスなら、負けたぜ」
「は?」
「お前は知らないのか? フェニックスなら、敗けたぜ」
「何ぃ!?」
 驚く謎の超人。
「ちょうどニュースの時間だろう。ラジオで結果を聴いてみたらいい」
 ソルジャーから手渡されたラジオに、耳を傾ける謎の超人。
「まさか……」
「これで、次の試合の相手はビッグボディに決まった。もっとも、オレが闘うんじゃなくて、お前が闘うんだろうがな…」
「……」
 謎の超人は、しばし考えたあと、無言でその場を立ち去ろうとした。
「オイ、待てよ! オレのマスクを剥ぎ取って、偽ソルジャーになるんじゃなかったのかよ!」
「理由が、なくなった」
「何だとぉ?」
「決勝の相手がお前かビッグボディなら、スグルは自分の力だけでも、容易に乗り越えることができるだろう。わざわざ王位継承問題をこじらせてまで、私が助太刀をする必要はない」
 謎の超人は振りかえって、言い放つ。
「ハッキリ言う。今のお前では、スグルの足元にも及ばない」
「……」
 謎の超人はもう一度背を向けて、歩き始める。
「せいぜい、ビッグボディチームと潰しあっているんだな…」

「待ってくれ! いや、待ってください!」

 ソルジャーの声が、謎の超人を振りかえらせる。
「キン肉マンの味方であるあんたに、こんなことを訊くのは馬鹿げているかもしれないが…」
 ソルジャーは、正座して居住まいを正す。
「オレは、いったいどうしたら強くなれる?」
 真摯な目で、謎の超人を見つめるソルジャー。
「オレがキン肉星の国王になれるかどうかなんて、よくわからない。ただ、与えられたチャンスを、思いっきり暴れまわりたいだけなんだ!」
「……ひとつだけ、教えてやろう」
 ソルジャーは少し思案したあと、言う。
「お前は残虐の神からもらった1億パワーを持て余しているのだ。超人パワーの効率が、あまりにも悪いのだ」
 それだけを伝えて、謎の超人は立ち去ろうとする。
「待ってください!」
 その足をソルジャーの声が止める。
「もし良かったら、具体的に教えてください!」
「ふ…」
 仕方ないという表情で、謎の超人は振りかえる。
「少しくらい敵に強くなってもらわないと、スグルの成長にも役立たないからな」
「あ、ありがとうございます!」



「──数時間のコーチだったが、あの人のおかげでオレは強くなれた。そして必殺技としてオレが盗んだ技が……」

 ソルジャーは、すばやくビッグボディの懐に入り込む。
 大きなビッグボディの体を抱え上げ、投げ上げるソルジャー。

「うわっ」

 空中に上がったビッグボディを、ソルジャーは追いかける。
 そしてビッグボディの腕をチキンウイングに捕らえ、足に足をからめる。

「食らえ! ソルジャー最大の必殺技、ナパーム・ストレッチ!!」
「うわぁぁぁっ!」

 しっかりと両手両足を固められて、胸から落ちていくビッグボディ。

 ズガーンッ!

 リングに砂埃が舞う。
「ちっ、バカ力が」
 悔しそうに舌打ちするソルジャー。
「ううっ…」
 砂埃の消えゆくリングの上で、ビッグボディは右腕のロックを外して、直撃だけはまぬがれていた。
「だがダメージは十分だろう。10カウントまで、眠っていてもらうぜ」

 技をといて、ニュートラルコーナーに戻るソルジャー。
 倒れ伏したビッグボディに、カウントが数えられる。

 ワーン…

(ここは、どこだ…?)
 ビッグボディの意識が、真っ暗な闇に浮かんでいた。

 ツー…

(体が、動かない…)
 痛みか快感かすら分からない感触が、体中に波打っている。

 スリー…

(眠りてぇ…)
 混濁する意識の中で、目を閉じようとするビッグボディ。

 フォー…

 そのとき。
(フェニックス…!)
 ビッグボディの目の前に、浮かび上がった超人の顔。

 ファイブ…

(そうだ、オレは…!)
 ピクリ。

 シックス…

(オレは、フェニックスと約束したんだ…)
「なっ…」
 驚くソルジャーの前で、ビッグボディの体が動き始める。

 セブン…

(オレは…)
 立てるはずのない体を、起こし始めるビッグボディ。

 エイト…

「オレは…!」

 ナイン…

「フェニックスとの約束を守るためにも、オレは敗けるわけにはいかないんだ!」
(つづく)


立った、立った! ビッグボディが立った!
ちなみにソルジャーの入れ替わり時期についてですが、
私は1回戦の途中、熊本城での中堅戦から会津での大将戦の間だと考えてます。
フェニックスのビデオを取っていたのはアタルだと思われますが、
ずっと前に入れ替わっていたとすれば、ミキサー大帝のパワー分離のときに、
ソルジャーが協力していたのは不自然ですし。
まあ、なんでもいいんですが。


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