トップメニューもずのもろもろ/千日手考

千日手考

千日手とは

将棋における千日手とは何なのかご存じでしょうか。ご存じの方が多いと思いますが確認しておきます。
同一局面が4回生じると千日手」です。「同一手順3回」ではないことにご注意下さい。

以前は、千日手は「同一手順3回」でした。しかし、そうすると将棋が無限に続く可能性があるのです。



千日手改訂のきっかけ

「同一手順3回」から、「同一局面4回」に対局規程が改訂れたのは1983年4月1日のことでした。その直接のきっかけとなったのが、そのおよそ1ヶ月前、3月8日に行われた名人戦挑戦者決定リーグ(現在のA級順位戦)第8戦 米長邦雄−谷川浩司 戦でした。

ご存じの方はご存じのように、この将棋は谷川浩司が初めて名人に就いた年の順位戦ラス前の将棋です。ここまで、6勝1敗でトップを走る谷川でしたが、2敗で中原誠・桐山清澄が追っており予断を許さない情勢でした。一方の米長もここまで3勝4敗と、負けると降級の危機になる重要な一戦でした。
 結果は米長が勝利し、谷川は中原・桐山に並ばれたものの、その後最終戦・プレーオフでその2人を直接対決で破り加藤一二三から名人位を奪取することになります。

 同一局面 

右図で先手の米長は、ここで後手の攻めを受けきれば勝ちです。しかし、すでに秒読みの中で▲2七飛打 ▲2八飛打 ▲7四馬 などの手を読んでもはっきりとしません。普通の将棋ならあきらめて千日手にするという選択肢もあるのでしょうが、この非常に重要な将棋を先手で千日手にするわけにはいきません。そこで、米長は谷川の粘りにつきあいながら、微妙に手順を変えていくことで千日手にせず、考える時間を稼ぐという作戦に出ました。

右図からの千日手となる手順は、金銀を打つ順・取る順を入れ換えることで次の五通りが可能です。

  1. ▲8八金 △6七銀打 ▲8七銀 △7九金 ▲7八銀 △同金 ▲同金 △同銀
  2. ▲8八金 △6七銀打 ▲8七銀 △7九金 ▲7八金 △同金 ▲同銀 △同銀
  3. ▲8七銀 △6七銀打 ▲8八金 △7九金 ▲7八銀 △同金 ▲同金 △同銀
  4. ▲8七銀 △6七銀打 ▲8八金 △7九金 ▲7八金 △同金 ▲同銀 △同銀
  5. ▲8七銀 △6七銀打 ▲同銀 △同銀

どれを選ぶかは先手に権利があり、米長は1.2.1.3.2.5.3.1.という順に指しました。たしかに、同一手順3回にはなっていません。しかし、その間に右図は9回出現し60手が経過しています。谷川が手を変えなければ、米長は勝ち筋を見つけられるまで指し続けたことでしょう。実際、続けようと思えば何手でも続けることができたのです。


この将棋に限らず、ある局面で A,B という二種類の繰り返し手順があったとしましょう。すると、「ABBA」は同一手順3回にはなっていません。「ABBA」で A と B を入れ換えてみると「BAAB」となります。この二つをつなげて、「ABBABAAB」も同一手順3回になっていません。さらに、A,Bを入れ換えてつなげると「ABBABAABBAABABBA」となります。これも、同一手順3回になっていません。(ABABABのような3回繰り返しもないことをご確認下さい。)
このようすると、無限に指し手を続けていくことができるのです。

現在の「同一局面4回」というルールでは、無限に指し手が続くことはありません。この改訂によって初めて、将棋は必ず終わるということが保証されたのです。



プロ・アマの千日手

現在プロでは千日手になった場合、原則として当日のうちに、先後を入れ替えて指し直しということになっています。そのため、棋士によって差はあるものの、消耗する千日手はなるべく避けようとする傾向があります。特に、先手番を持つ棋士は多少不利でも千日手にせず勝負することがよく見受けられます。

アマチュアでは、互いに仕掛けを自重することはまずありませんし、中盤以降に千日手風の局面になっても打開すればあとは強い方が勝つというようなこともあって、千日手はあまり起こりません。

しかし、将棋倶楽部24の場合を考えてみましょう。ここでは、千日手は持将棋と同じで単に引き分けとなる扱いです。千日手になっても、すぐ指し直す義務はありませんし、指し直したとしても先後の決定は新たに振り駒で行われます。ということは、千日手にするかどうかをめぐって自分の手番が先手か後手かは無関係だということです。後手だから千日手でいいやと思っても次に先手が来る確率は半分でしかないのですから、純粋に現在の局面から勝つ確率が半分以上あるかどうかで判断するのが正解です。

24の棋戦の場合はさらに違ってくることがあります。24の竜王戦予選では、千日手になるとレーティング下位者が勝ち上がりとなります。振り駒で下位者が先手になったとしましょう。すると、先手は千日手に持ち込めば「勝ち」です。そこで、例えば角替わり腰掛け銀を選んだとすると、後手から仕掛けざるを得なくなります。ほかにも、定跡で「千日手なので無理」となっている局面は意外に多く、後手は作戦の選択肢が非常に狭くなる結果となります。

先手が千日手を目指すとき、先手はどんな作戦を採るのがよいでしょうか?ご意見をお聞かせ下さい。



持将棋との関係

将棋は無限には続かないと書きましたが、実際には何手くらいで終わるものなのでしょうか。コンピュータ同士でテスト対局をさせていたところ、一局が終わるのに1500手以上かかったことがあったそうです。しかし、人間同士の対局であれば、もっと早く見切りを付けて終わりにするでしょう。それが、持将棋です。

ご存じのように、持将棋とは互いの玉が入玉して(あるいは入玉が確実で)、大駒5点小駒1点と換算してどちらも24点以上あれば、互いの合意により引き分けとするルールです。(アマの大会では異なった規程で行われるものもあります。)片方が23点以下しかなければ、玉が詰まされる見込みがなくても、駒損している側の負けとなります。

なぜこのような規定が設けられているのか考えてみましょう。どちらも24点以上あり互いの駒数が接近していてすぐには詰ましに行くことができない場合、結局はどちらもひたすらと金を上下させるような手しかなく、手数がかかろうとも結果は同一局面4回の千日手による引き分けになることが目に見えているためだと、私は思います。相手が24点あっても、じりじりとと金の軍隊を接近させて交換を重ね、敵玉を討ち取ることができることもあるかもしれませんし、自分が23点しかなくても守りを固めて千日手になるまでずっと粘ることができることもあるかもしれませんが、そうやって勝負がつくまで何千手も指すことは現実には不可能なため、便宜上の基準を設けていると理解できます。

では、互いに入玉し片方が23点しかないとき、もし23点の側が勝つことができると思ったらどうでしょう。持将棋は通常両対局者の合意に基づいて判断されるため、その場合、指し続けることになるでしょう。指し続けた結果、どちらかの玉が詰めばもちろんそこで将棋は終わります。また、駒損していた側が駒をうまく取り返して24点になれば持将棋で引き分けとなるでしょう。しかし、指し続けても点数は変わらず詰む見込みも立たないときはどうするのでしょうか。

駒損している側が持将棋を認めず続行を主張するとき、プロではどう対処するのか私は知りません。23点というのは例えば角金交換の駒損ということで、その程度では何千手かけようとも駒得している側が相手玉を詰ますのは不可能だと思います。ということは、両対局者の合意以外に持将棋を認める方法がないとするなら、23点しかないにもかかわらず千日手の引き分けという結果になってしまいます。それはおかしいですから、プロでは第三者が介入して判断するルールがあるのでしょう。



将棋の可能性と持将棋

「将棋は先手必勝か?」というのはよく見かける話題です。将棋で出現しうる局面は有限で、一つの局面で選択可能な指し手の数も有限です。また、千日手の規程が変更されたあとは指し手が無限に続く可能性もなくなりました。したがって、両者が最善を尽くしたとき、将棋は先手勝ち・後手勝ち・引き分けのいずれかになります。ただし、局面数が有限といってもとてつもなく大きな有限のため、いくらコンピュータの速度が向上したとしても、すべての局面を検索して結論が下されることは永久にありません

というのが普通の話なのですが、上の文は持将棋の存在を考えていません。

持将棋はどの局面で決着がつくのか明確に定められていないという点で、不十分なルールです。(もちろんそれ以上に明確に定めることができないので仕方ないことですが。)したがって、将棋が先手必勝か後手必勝かそれとも互いに最善を尽くせば引き分けなのかは、持将棋がある限り、論理的にどれかに決まっているとは言えないことになります。持将棋になる可能性を避けながら先手が勝つ方法があるのかもしれませんし、どこで持将棋にするのかの判断の違いによって結論が変わってくるかもしれません。



おわりに

将棋のルールは、細かく見ていくと100%きちんと定められているとは言えない箇所がいくつかあります。以前は千日手がそうでしたし、持将棋はこれからもずっとそうでしょう。それらの不明確な箇所は実戦で問題になることはめったにありません。しかし、将棋の究極的な可能性を探っていくといずれは明らかになってくるものなのです。たまにはそんな「あや」を楽しんでみるのもいいかなと思っています。



付記

上の文章を書いたあと、2001年5月8日に第59期名人戦第3局が福岡県で行われました。この局で、先手の丸山 忠久 名人は後手の挑戦者 谷川 浩司 九段 の四間飛車に対して、89玉型の陣形からの仕掛けを断念して千日手となりました。この千日手という選択肢は、名人らしくないとか仕掛けるべきだったとかいろいろな反応を呼び起こしましたが、私は千日手も立派な作戦だと思います。しかし、私はそのことについて詳しく書くつもりはありません。問題にしたいのはもっと別の事柄です。

上が千日手部分の全手順です。しかし、一度見ただけではわからないと思いますが、上の手順で四回出てきた局面はありません。似たような手順の繰り返しですが飛車の位置や金の位置が微妙に違っているため、2回出てきた局面が6つある以外はすべて異なる局面です。

そのときの現場実況(毎日新聞社サイト内)によれば、同一局面4回が出現しなくても、両対局者の合意があれば千日手が成立するそうです。知りませんでした。これがそのときの特例的な措置なのか、名人戦に限っては合意のみでよいとされているのか、一般の棋戦でも認められているルールなのかはよくわかりません。

一方、 も見つけました。(新しいウィンドウが開きます。)1998年JT将棋日本シリーズ 準決勝第一局の千日手局 佐藤 康光 − 谷川 浩司 戦です。

この将棋では147手目で同一局面4回が成立したのにもかかわらず、その後さらに3手指されました。秒読みの中で誰も気づかなかったということでしょうか。それとも、同一局面4回というのはただの目安であって、両対局者が気づかなければそのまま指し進めることになっているのでしょうか。よくわかりませんが、ルールは難しいですね。

このページで紹介した三局は、すべて谷川浩司九段が後手番になっていますが、これは特に意図したものではありません。谷川の棋譜を集めているわけでもありませんし、他の棋士の千日手局の棋譜も同じくらい持っています。偶然なのでしょうが不思議です。


トップメニューもずのもろもろ千日手考

written by mozu