謡 う 三 戦 板 シ リ ー ズ
1 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 01:49
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いつも漢詩やら漢文やらを勝手に改造しては投下してきた三戦板。
しかし、改造だけしといて元ネタを出さないのはあまりにも、身勝手というもの。
これから、元ネタになった漢詩をはじめとして、三国、戦国にちなんだ漢詩や短歌などを投下していきたいと思います。
ラジオも音楽も出来ない三戦板なりの不器用なDJと思ってくださいませ。

2 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 01:50
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まず一曲目は、三国志に登場する最高の詩人とされる、曹植の詩から。

『七哀詩』

明月照高樓 明月高樓を照らし    月の光が高楼を照らし
流光正徘徊 流光正に徘徊す     流れる光がまるで移ろうようだ
上有秋思婦 上に秋思の婦有り    高楼の上に婦人が独り
悲歎有餘哀 悲歎餘哀有り      悲嘆に暮れている
借問歎者誰 借問す歎ず者は誰ぞ   思わず聞く、「なぜ、そんなに嘆くのです?」
言是客子妻 言う是客子の妻     彼女は言った、「私は旅人の妻です」。
君行踰十年 君行きて十年を踰え   「あの人が旅に出て十年を数え
孤妾常獨棲 孤妾常に獨り棲み     私は独りここで待ってます

君若清路塵 君は清路の塵の若く    あの人は道に舞う塵のようで
妾若濁水泥 妾は濁水の泥の若し    わたしは水の中の泥のよう
浮沈各異勢 浮沈各勢いを異にす    同じようなものなのに浮き沈みは全然違う
会合何時諧 会合何れの時に諧わん   何時になったら逢えるのでしょう?
願為西南風 願わくば西南の風と為り  できるなら、西南の風になって
長逝入君懷 長逝して君が懷に入らん  遠くあの人の懐に抱かれたい
君懷良不開 君が懷良に開かずんば   でも、もしあの人が抱いてくれなかったら
賤妾當何依 賤妾當に何にか依るべき  私はいったいどうすればいいの?」

3 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 01:50
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 曹植は三国志の覇者の一人、曹操の三男として生まれました。
 彼は天才的な詩の才能と、明晰な頭脳によって曹操に愛されました。
しかし、曹操の後継者争いに敗れて、兄である曹操の後継者曹丕に憎まれ、
悲運の生涯を終えます。
 彼の詩は前半の皇太子時代は華やか極まりない歌を、曹丕に疎まれた後は
哀切極まりない詩を作りました。
 この『七哀詩』は旅人である夫に残された夫人の嘆きを、メランコリックに歌い上げています。
 メロメロの艶めいた歌ですが、こんな詩が日本がまだ弥生の時代だったころに作られていたんですね。

4 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 01:51
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続いては、その曹植の兄である曹丕の作品です。

『上留田行』    曹丕

居世一何不同 上留田   世に居て一に何ぞ同じからざるや
富人食稲与粱 上留田   富むる人は稲と粱を食らい
貧人食糟与糠 上留田   貧しき人は糟と糠を食らう
貧賤亦何傷  上留田   貧賤は亦た何ぞ傷ましきや
禄命懸在蒼天 上留田   禄命は懸かりて蒼天に在り
今爾嘆息         今なんじ嘆息し
将欲誰怨   上留田   将に誰を怨まんと欲するや


〔意訳〕

人間ってのはみんな同じじゃないのかよ
金持ちはいいモノを食い
貧乏人は麦を食う
ああ、貧乏なのはつらいね
みろよ蒼い空白い雲
いま君はため息をつき
誰のせいにしようってんだい?

5 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 01:52
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 曹植を後継者争いのライバルとして憎み、冷遇した曹丕ですが、
彼もまた偉大なる詩人でした。
 彼は彼で才能ある弟である曹植のために、いつ後継者から外されるかわからない
恐怖を味わいながら生きていたのです。そんな彼は、後に皇帝となったことが信じられないような、
なんとも侘しげな歌を好んで作りました。また彼は曹植とは一味違った冷徹な人間観察を行なう人物でもありました。
 先ほどの詩もなんとも人間というものを達観したような、そんな境地が伺えます。
 ちなみに“上留田”というのは、日本でいう“アソーレ”とか“コリャコリャ”というような合いの手だそうです。

6 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 01:53
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 さあ、続いてはその詩人兄弟の父である曹操の登場です。
 三国志のもう一人の主人公と言われ、実際『蒼天航路』などでは主人公になっている
曹操ですが、彼は卓越した武人であり君主であり政治家でもありました。
 そして同時に『孫子』を現在の形に編集するなど、学者としての面があり、
 さらに偉大なる英雄詩人でもあります。
 まさに当時の中国が生んだレオナルド・ダ・ヴィンチの如きマルチ人間だったのです。
 そんな彼を史書はこう描きます。
 『非常の人 超世の傑』
 そんな彼の代表作から『短歌行』

7 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 01:54
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『短歌行』 曹操

  對酒當歌 酒に対しては当に歌うべし 酒を飲んだら歌うしかないじゃないか
  人生幾何 人生幾何ぞ        人生なんてたいしたものじゃない
  譬如朝露 譬えば朝露の如し     例えれば朝露のようなものでしかない
  去日苦多 去日苦だ多し       苦い思いが浮かぶばかりだ
  慨當以康 慨しては当に以て康すべし まったく歌うしかないというものだ
  幽思難忘 幽思忘れ難し       それでも忘れられない思いがあるなら
  何以解憂 何を以て憂いを解かん   どうやって憂いを解こうか?
  唯有杜康 唯だ杜康有るのみ     なんだかんだ言っても酒しかない

青青子衿 青青たる子の衿      青々と衿を立てたる諸君
  悠悠我心 悠悠たる我が心      君たちを前に満足げな私
  但爲君故 但だ君が故が為に     今まで私は君たちのことを
  沈吟至今 沈吟して今に至る     ずっとこうして待っていたのだ
  幼幼鹿鳴 幼幼として鹿鳴き     悠々と鹿が鳴くように
  食野之苹 野の苹を食う       嬉しげに野のヨモギを食むように
  我有嘉賓 我に嘉賓有り       私は諸君らとともに宴に興じ
  鼓瑟吹笙 瑟を鼓し笙を吹く     琴と鼓を掻き鳴らして愉しもうじゃないか

  明明如月 明明たること月の如き   夜空に輝く月の光が
  何時可採 何れの時にか採るべき   手に取る事が出来ないように
  憂從中來 憂いは中より来たり    心の中の憂いもまた
  不可斷絶 断絶す可からず      取り去る事はできない
  越陌度阡 陌を越え阡を度り     たが、今諸君は方々から
  枉用相存 枉げて用って相存す    私の下へ訪れてくれた
  契闊談讌 契闊談讌して       さあ、久々に飲み語らい
  心念舊恩 心に旧恩を念う      旧交を温めあおうじゃないか

  月明星稀 月明らかに星稀に     月が明るく星は少ない
  烏鵲南飛 烏鵲南へ飛ぶ       カササギは南へと飛ぶ
  紆樹三匝 樹を紆ること三匝     木の周りを三度巡って
  何枝可依 何れの枝か依る可き    どこへ留まろうか考えている
  山不厭高 山は高きを厭わず     山は高いほうがいい
  海不厭深 海は深きを厭わず     海は深いほうがいい
  周公吐哺 周公哺を吐きて      昔周公旦が口の中のものを吐いて
  天下歸心 天下心を帰す       天下の人々を集めたように

8 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 01:54
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 曹操は自分も卓越した人物でしたが、それ以上に優れた人物が好きでした。
 そんな彼が、人々を宴の席に招いて、彼らを迎えた喜びを表し、
 さらにもっともっと自分の所にやって来いと歌い上げる、
まさに英雄詩人の名に恥じない稀有壮大な歌と言えるでしょう。
 酒に対しては将に歌うべし!
 なんとも正直かつ素直な歌だと思います。
 漢詩は決して難しくありません。
 いつだって人の心は似たようなものなのですから。

9 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 01:55
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 三国志の他の人物が好きな人には大変申し訳ありませんが、
少々、曹操びいきになってしまいます。
 というのは、三国志の時代は李白や杜甫らを生み出した唐代と並ぶ詩が盛んであった時代なのですが、
その詩の興隆は、曹操が自分の周りに詩人や文人を集めて文学サロンを作った事に始まるのです。
 ですから、どうしてもこの時代に残る詩は魏が中心となってしまい、呉や蜀などの人物の詩はほとんど残っていないのです。
 さて、そんな詩文の時代を作り上げた曹操から、もう一首。
 『苦寒行』。
 先ほどの明るい歌とは打って変わった雰囲気を味わってください。

10 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 01:56

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『苦寒行』 曹 操

  北上太行山 北のかた太行山に上れば   北へ太行山を越えよう
  艱哉何巍巍 艱き哉何ぞ巍巍たる     なんと険しい山道である事か
  羊腸坂詰屈 羊腸の坂詰屈し       羊腸の坂のなんと曲がりくねった事か
  車輪爲之摧 車輪之れが為に摧く     車輪は道の険しさに砕けるほどだ
  樹木何蕭瑟 樹木何ぞ蕭瑟たる      木々は寂しげに立つだけで
  北風聲正悲 北風声正に悲し       その間を北風は寂しげに吹く
  熊羆對我蹲 熊羆我に対して蹲まり    熊や羆が我々の前にうずくまり
  虎豹夾路啼 虎豹は路を夾んで啼く    虎や豹は道を挟んで唸りをあげる
  谿谷少人民 渓谷人民少なく       山の間に住む人もまれで
  雪落何霏霏 雪落つること何ぞ霏霏たる  雪は寒寒と降り積もる

  延頚長嘆息 頚を延ばして長嘆息し    首を伸ばして見渡せば思わず出る溜め息
  遠行多所懷 遠行して懐う所多し     思えば遠くまで来たものだ
  我心何怫欝 我が心何ぞ怫欝たる     私の心は不安でいっぱいになり
  思欲一東歸 一たび東帰せん思欲す    いっそのこと東に帰ろうと思いはじめる
  水深橋梁絶 水深くして橋梁絶え     谷川の水は深いのに橋もなく
  中路正徘徊 中路正に徘徊す       道を探して彷徨い続ける
  迷惑失故路 迷惑して故路を失い     迷った挙句に帰り道すら見失い
  薄暮宿棲無 薄暮宿棲無し        日が暮れても宿営すらままならない
  行行日已遠 行き行きて日已に遠く    行軍を続けてどれほど経ったろう

  人馬同時飢 人馬時を同じくして飢う   人も馬も同様に飢えてしまっている
  擔嚢行取薪 嚢を担い行きて薪を取り   袋を担いで薪を取り
  斧冰持作粥 氷を斧りて持て粥を作る   氷を割って粥を作る
  悲彼東山詩 彼の東山の詩を悲しみ    周公の東山遠征の辛苦を語る詩を思い
  悠悠令我哀 悠悠として我れを哀しましむ ますます私は不安に陥るのだ

11 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 01:56

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 曹操が偉大な詩人であったのは、こういう歌が描けるところだと思います。
 北方へ遠征したときの、兵士達の苦しみが肌に迫ってくるような寒々しい歌です。
 よく、三国志や戦国の時代に生まれ変わってみたいと妄想したりしますが、
ここに描かれる、なんとも寒いわひもじいわ道に迷うわ、熊がでるわという、
行軍風景を思い浮かべると、とてもじゃありませんが、
 (((((((( ;゚Д゚)))))))ガクガクブルブルガタガタブルガタガクガクガクガクガク
 ですね(笑)

12 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 02:17
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 三国志ばかりになってしまったので、今度は戦国から。
 戦国武将たちの辞世の句です。

露と落ち露と消えにし我が身かな 浪華のことは夢のまた夢   豊臣秀吉

極楽も地獄もともに有明の 月ぞこころにかかる雲なき  上杉謙信

おぼろなる月のほのかに雲かすみ 晴れて行くえの西の山の端  武田勝頼

浮世をば今こそわたれ武士の名を  高松の苔に残して      清水宗治

曇りなき心の月をさき立てて 浮世の闇を照らしてぞ行く  伊達政宗

今はただ恨みもあらず諸人の 命に替るわが身と思へば  別所長治

思いおく言の葉なくてついに行く 道は迷はでなるにまかせて 黒田如水

先に行くあとに残るも同じこと 連れて行けぬをわかれぞと思う 徳川 家康

13 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 02:18
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 こうして並べてみますと、それぞれの戦国武将たちのキャラクターが
浮かび上がってくるように面白いものです。
 さらに司馬遼太郎の小説で有名な伊達政宗の詩を挙げます。
 なんとも老境の英傑の達観した後生を思わせるカコヨイ詩です。

馬上少年過ぐ        戦い続けているうちに若き時代は過ぎ
世平らかにして白髪多し 天下は平定されて、私の頭も白髪交じりになった。
残躯天の許すところ    こうして生き残ったのは天が許してくれたのだろう
楽しまざるは如何せん  せいぜい楽しませてもらおうか。
 
        貞山 伊達政宗

14 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 02:18
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 一気にいきましょう。この辺、最近発売されたばかりの、
『蒼天録』などとあわせてみたりれするといいかもしれません。
どの歌も、それぞれの英傑たちが、生涯を刻んだものだと思うと魂が震えます。

五月雨はつゆかなみだか時鳥 わが名をあげよ雲の上まで 足利義輝

契りあれば六つの衢に待てしばし 遅れ先だつことはありとも 大谷吉継

捨ててだにこの世のほかはなき物を いづくかつひのすみかなりけむ 斎藤道三

夏の夜の夢路はかなきあとの名を 雲井にあげよ山ほととぎす 柴田勝家

流れての末の世遠く埋もれぬ 名をや岩屋の苔の下水
かばねをば岩屋の苔に埋みてぞ 雲ゐの空に名をとゞむべき 高橋紹運

朧なる月もほのかに雲かすみ 晴れてゆくへの西の山の端 武田勝頼

大ていは地に任せて肌骨好し 紅粉を塗らず自ら風流 武田信玄

根は枯れし筒井の水の清ければ 心の杉の葉はうかぶとも 筒井順慶

15 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 02:19
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 ここらで有名人を一発(笑)
 かつて週刊少年ジャンプの『花の慶次』で、今は大河ドラマで有名になった、
前田慶次郎利益の歌です。
 当代きっての風流人だった彼は、上杉家に従い京都から米沢へ移るときに、
道中でこんな歌を歌ったのでした。どれも彼の洒脱な性格がうかがえる、
ちょっとのほほんとした歌で、いいですねぇ。

誰ひとり うき世の旅を のかるへき のほれは下る 大阪関

けふまては おなしき路を こまにしき 立別れるそ なこりををかる

心あらん 人に見せはや みちのくの 浅香の山の のこるかつみを

世の中に ふり行物は 津の国の なからのはしと 我か身なりけり

16 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 02:19
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あまり長い間投票所に居座っていると、怒られそうですので、
最後にこの歌を投下して、ひとます、ここまでにさせていただきます。
23時間もの投票の中の一座興として楽しんでいただけたのなら、幸いです。

では、最後に日本の詩人が三国志の主人公とも言える諸葛孔明に捧げた詩です。

『星落秋風五丈原』
          土井晩翠

17 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 02:20
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星落秋風五丈原          土井晩翠



祁山悲秋の風更けて 陣雲暗し五丈原、
零露の文は繁くして 草枯れ馬は肥ゆれども
蜀軍の旗光無く 鼓角の音も今しづか。

丞相病あつかりき。

清渭の流れ水やせて  むせぶ非情の秋の聲、
夜は關山の風泣いて  暗に迷うかかりがねは
令風霜の威もすごく  守る躅弔粒世粒亜

丞相病あつかりき。

帳中眠かすかにて  短檠光薄ければ
ここにも見ゆる秋の色、 銀甲堅くよろへども
見よや侍衞の面かげに  無限の愁溢るるを。
 
丞相病あつかりき。

風塵遠し三尺の  劍は光曇らねど
秋に傷めば松柏の  色もおのづとうつらふを、
漢騎十萬今さらに  見るや故郷の夢いかに。

丞相病あつかりき。

夢寐に忘れぬ君王の  いまわの御こと畏みて
心を焦し身をつくす  暴露のつとめ幾とせか、
今落葉の雨の音  大樹ひとたび倒れなば
漢室の運はたいかに。

丞相病あつかりき。

四海の波瀾収まらで  民は苦み天は泣き<
いつかは見なん太平の  心のどけき春の夢、
群雄立ちてことごとく  中原鹿を争ふも
たれか王者の師を學ぶ

丞相病あつかりき。

末は黄河の水濁る  三代の源遠くして
伊周の跡は今いづこ、 道は衰へ文弊れ
管仲去りて九百年  樂毅滅びて四百年
誰か王者の治を思う。

丞相病あつかりき。

18 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 02:21


嗚呼南陽の舊草廬  二十余年のいにしへの
夢はたいかに安かりし、 光を包み香をかくし
隴畝に民と交れば  王佐の才に富める身も
たゞ一曲の梁歩吟。

閑雲野鶴空濶く  風に嘯く身はひとり、
月を湖上に碎きては  ゆくへ波間の舟ひと葉
ゆふべ暮鐘に誘はれて  訪ふは山寺の松の影。

江山さむるあけぼのゝ  雪に驢を驅る道の上
寒梅痩せて春早み、 幽林風を穿つとき
伴は野鳥の暮の歌、 紫雲たなびく洞の中
誰そや棊局の友の身は。

其隆中の別天地  空のあなたを眺めれば
大盗競ほひはびこりて  あらびて榮華さながらに
風の枯葉を掃ふごと  治亂興亡おもほへば
世は一局の棊なりけり

其世を治め世を救ふ  經綸胸に溢るれど
榮利を俗に求めねば  岡も臥龍の名を負ひつ、
亂れし世にも花は咲き  花また散りて春秋の
遷りはここに二十七。

高眠遂に永からず  信義四海に溢れたる
君が三たびの音づれを  背きはてめや知己の恩
羽扇綸巾風輕き  姿は替へで立ちいづる
草廬あしたのぬしやたれ。

古琴の友よさらばいざ、 曉さむる西窓の
殘月の影よさらばいざ  白鶴歸れ嶺の松
蒼猿眠れ谷の橋  岡も替へよや臥龍の名
草廬あしたはぬしもなし。

成算胸に蔵りて  乾坤ここに一局棊
ただ掌上に指すがごと、 三分のはや成れば
見よ九天の雲は垂れ  四海の水は皆立て
蛟龍飛びぬ淵の外。

19 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 02:21


英才雲と群がれる 世も千仭の鳳高く
翔くる雲井の伴やたそ、東新野の夏の草
南濾水の秋の波 戎馬關山いくとせか
風塵暗きただなかに たてしいさをの數いかに。

江陵去りて行く先は 武昌夏口の秋の陣、
一葉輕く棹さして 三寸の舌呉に説けば
見よ大江の風狂い 焔亂れて姦雄の
雄圖碎けぬ波あらく。

劒閣天にそび入りて あらしは叫び雲は散り
金鼓震ひて十萬の 雄師は圍む成都城
漢中尋で陥り 三分の基はや固し。

定軍山の霧は晴れ ベン陽の渡り月は澄み
赤符再び世に出でて 興るべかりし漢の運、
天か股肱の命盡きて 襄陽遂に守りなく
玉泉山の夕まぐれ 恨みは長し雲の色

中原北に眺むれば 冕旒塵に汚されて
炎精あはれ色も無し、さらば漢家の一宗派
わが君王をいただきて 踏ませまつらむ九五の位、
天の暦數ここにつぐ 時建安の二十六
景星照りて錦江の 流に泛ぶ花の影。

花とこしへの春ならじ 夏の火峯の雲落ちて
御林の陣を焚き掃ふ 四十餘營のあといづこ、
雲雨荒臺夢ならず 巫山のかたへ秋寒く
名も白帝の城のうち 龍駕駐るいつまでか。

その三峡の道遠き 永安宮の夜の雨
泣いて聞きけむ龍榻に 君がいまわのみことのり
忍べば遠きいにしへの 三顧の知遇またここに
重ねて篤き君の恩 躄Δ防磴蕃舛気譴
思やいかに其宵の。

邊塞遠く雲分けて 瘴烟蠻雨ものすごき
不毛の郷に攻め入れば 暗し濾水の夜半の月、
妙算世にも比なき 智仁を兼ぬるほこさきに
南夷いくたび驚きて 君を崇めし「辰覆蝓廚

20 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 02:23


南方すでに定まりて 兵は精しく糧は足る、
君王の志うけつぎて 姦を攘はん時は今、
江漢常武いにしへの ためしを今にここに見る
建興五年あけの空、日は暖かに大旗の
龍蛇も動く春の雲 馬は嘶き人勇む
三軍の師を隨えて 中原北にうち

六たび祁山の嶺の上 風雲動き旗かへり
天地もどよむ漢の軍 偏師節度を誤れる
街亭の敗何かある、鯨鯢吼えて波怒り
あらし狂ふて草伏せば 王師十萬秋高く
武都陰平を平らげて 立てり渭南の岸の上。

拒ぐはたそや敵の軍、かれ中原の一奇才
韜略深く密ながら、君に向はんすべぞなき
納めも受けむ贈られし、素衣巾幗のあなどりも、
陣を堅うし手を束ね 魏軍守りて打ち出でず。

鴻業果し収むべき その時天は貸さずして
出師なかばに君病みぬ、三顧の遠きのむかしより
夢寐も忘れぬ君の恩 答て盡すまごころを
示すか吐ける紅血は、建興の十三秋半ば
丞相病篤かりき。

21 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 02:23


魏軍の營も音絶て  夜は靜かなり五丈原、
たたと思ふ今のまも  丹心國を忘られず、
病を扶け身を起し  臥帳掲げて立ちいづる
夜半の正空雲もなし。

刀斗聲無く露落ちて  旌旗は寒し風清し、
三軍ひとしく聲呑みて  つつみ迎ふ大軍師、
羽扇綸巾膚寒み  おもわやつれし病める身を
知るや情の小夜あらし。

更に碧の空の上  静かにてらす星の色
かすけき光眺むれば  茶阿録爾渓犠櫃寮ぁ
あはれ無限の大うみに  溶くるうたかた其はては
いかなる岸に泛ぶらむ、 千仭暗しわだつみの
底の白玉誰か得む  幽渺境窮みなし
鬼辰里△箸鮹か見む。

嗚呼五丈原秋の夜半  あらしは叫び露は泣き
銀漢清く星高く  茶阿凌Г砲弔弔泙譴
天地微かに光るとき  無量の思齎らして
「無限の淵」に立てる見よ、 功名いづれ夢のあと
消えざるものはただ誠、 心を盡し身を致し
成否を天に委ねては  魂遠く離れゆく。

諸壘あまねく經廻りて  輪車靜かにきしり行く、
星斗は開く天の陣  山河はつらぬ地の營所、
つるぎは光り影冴えて  結ぶに似たり夜半の霜。

嗚呼陣頭にあらはれて  敵とまた見ん時やいつ、
祁山の嶺に長驅して  心は勇む風の前
王師ただに北をさし  馬に河洛に飮まさむと
願ひしそれもあだなりや、  胸裏百萬兵はあり
帳下三千將足るも  彼れはた時をいかにせん

22 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 02:24


成敗遂に天の命  事あらかじめ圖られず、
舊都再び駕を迎へ  麟臺永く名を傳ふ
春玉樓の花の色  いさほし成りて南陽に
琴書をまたも友とせむ  望みは遂に空しきか。

君恩酬ふ身の一死  今更我を惜まねど
行末いかに漢の運、 過ぎしを忍び後後計る
無限の思無限の情、 南成都の空いづこ
玉壘今は秋更けて、 錦江の水痩せぬべく
鐵馬あらしに嘶きて、 劍關の雲睡るべく。

明主の知遇身に受けて  三顧の恩にゆくりなく
立ちも出でけむ舊草廬  嗚呼鳳遂に衰へて
今に楚狂の歌もあれ  人生意氣に感じては
成否をたれかあげつらふ。

成否を誰れかあげつらふ  一死盡くしし身の誠、
仰げば銀河影冴えて  無數の星斗光濃し、
照すやいなや英雄の  苦心孤忠の胸ひとつ、
其壯烈に感じては  鬼辰瞋かむ秋の風。

23 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 02:25


鬼辰瞋かむ秋の風、 行て渭水の岸の上
夫の殘柳の恨訪へ、 劫初このかた絶えまなき
無限のあらし吹過ぎて  野は一叢の露深く
世は北?の墓高く。

蘭は碎けぬ露のもと、 桂は折れぬ霜の前、霞に包む花の色  蜂蝶睡る草の蔭
色もにほひも消去りて  有情も同じ世々の秋。

群雄次第に凋落し  雄圖は鴻の去るに似て
山河幾とせ秋の色、 榮華盛衰ことごとく
むなしき空に消行けば  世は一場の春の夢。

撃たるるのも撃つものも  今更ここに見かへれば
共に夕の嶺の雲  風に亂れて散るがごと、
蠻觸二邦角の上  蝸牛の譬おもほへば
世々の姿はこれなりき。

金棺灰を葬りて  魚水の契り君王も
今泉臺の夜の客  中原北を眺むれば、
銅雀臺の春の月  今は雲間のよその影、
大江の南建業の  花の盛もいつまでか。

五虎の將軍今いづこ、 探,ほひし江南の
かれも英才いまいづこ、 北の渭水の岸守る
仲達かれもいつまでか  感極まりて氣も遙か
聞けば魏軍の夜半の陣  一曲遠し悲笳の聲。

更に碧の空の上  静かにてらす星の色
かすけき光眺むれば  茶阿録爾渓犠櫃寮ぁ
あはれ無限の大うみに  溶くるうたかた其はては
いかなる岸に泛ぶらむ、 千仭暗しわだつみの
底の白玉誰か得む  幽渺境窮みなし
鬼辰里△箸鮹か見む。

嗚呼五丈原秋の夜半  あらしは叫び露は泣き
銀漢清く星高く  茶阿凌Г砲弔弔泙譴
天地微かに光るとき  無量の思齎らして
「無限の淵」に立てる見よ、 功名いづれ夢のあと
消えざるものはただ誠、 心を盡し身を致し
成否を天に委ねては  魂遠く離れゆく。

高き尊きたぐひなき  「非運」を君よ天に謝せ、
青史の照らし見るところ  管仲樂毅たそや彼、
伊呂の伯仲眺むれば  「萬古の霄の一羽毛」
千仭翔る鳳の影、草廬にありて龍と臥し
四海に出でて龍と飛ぶ  千載の末今も尚
名はかんばしき躋詢次

24 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 02:32
♪*∴。..゚゚:.。..。:゚・*♪謡 う 三 戦 板♪ *・゚゚:.。:*・゚゚・*♪
 質問がなかなかいらっしゃらないので、また昨日の続きで、
謡いましょう。今なら投票所もマターリしているようですので、
ふたたびお目汚しをば。

題不識庵撃機山図  不識庵 機山を撃つ図に題す

鞭声粛粛夜過河  鞭声粛々 夜 河を過る
べんせいしゅくしゅく、よるかわわたる

暁見千兵擁大牙  暁に見る 千兵の大牙を擁するを
あかつきにみる、せんぺいのたいがをようするを

遺恨十年磨一剣  遺恨なり 十年 一剣を磨く
いこんなりじゅうねん、いっけんをみがく

流星光底逸長蛇  流星 光底 長蛇を逸す
りゅうせいこうてい、ちょうだをいっす

25 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 02:33
♪*∴。..゚゚:.。..。:゚・*♪謡 う 三 戦 板♪ *・゚゚:.。:*・゚゚・*♪

 不識庵というのは上杉謙信のことで、これは川中島の合戦を描いた、
頼山陽作の漢詩です。
 キツツキの計略を見破った謙信が、粛々と武田軍に近付き、奇襲をかけ、
謙信は単騎で信玄に討ちかかります。
 流星 光底とは謙信の剣が信玄に向かう、剣の輝きの事。
 しかし、信玄はなんとか軍配で受け、その間に武田軍の援軍が来着。
 謙信は無念ながら長蛇、すなわち信玄の首を逸するわけです。
 史実ではない伝説の光景を描いた詩ですが、文句なしにカコヨイ詩ですね。
 この読みのリズムがとても好きなので、今回は読み仮名をつけました。

26 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 02:34
♪*∴。..゚゚:.。..。:゚・*♪謡 う 三 戦 板♪ *・゚゚:.。:*・゚゚・*♪

 またしても曹植の詩を挙げさせていただきます。
 彼は唐代以前でもっとも優れた詩人として評されていましたが、
それ以上に、なんとも表現や情景が現代でも感じられるような、
時代を超えた魅力を持っているように思えるのです。
 それでは曹植、から
  『野田黄雀行』

27 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 02:34
♪*∴。..゚゚:.。..。:゚・*♪謡 う 三 戦 板♪ *・゚゚:.。:*・゚゚・*♪
   野田黄雀行       曹植

 高樹多悲風  高い樹には風が容赦なく吹きかかり
 海水揚其波  海の水は広さとともに波も高い        
 利剣不在掌  鋭い剣を持たない私は       
 結友何須多  友を守ることすらできなかった       
 不見籬凌  見よ垣根にいる雀を       
 見鷂自投羅  鷹狩の鷹から逃げて自分で網に飛び込んだようだ       
 羅家得雀喜  網をかけた家は喜んでいるが
 少年見雀悲  少年はそれを見て悲しむ
 抜剣払羅網  少年は剣を抜き、網をたち斬ると
 黄雀得飛飛  雀はまた飛ぶ事ができた
 飛飛摩蒼天  蒼天を摩するように飛びながら
 来下謝少年  下りてきて雀は少年に礼を言った

28 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 02:35
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 この詩は後継者争いで、次々と盟友を追放されたり殺されたりして、
曹植が仲間を失っていく頃に書かれた詩です。
 網に捕まった雀と自分を重ね合わせ、悲嘆を表していますが、
最後に少年が雀を助け、少年にお礼を言う光景を合わせることで、
救いを見出しています。
 そんな微笑ましい光景ががかえって彼の悲痛を強調しているように思わせる名詩だと思います。

29 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 02:36
♪*∴。..゚゚:.。..。:゚・*♪謡 う 三 戦 板♪ *・゚゚:.。:*・゚゚・*♪

 日が落ち初めて来ましたね。仕事を終えた人、これから仕事の人、
みなさんお疲れ様です。
 ここらでひとつ、マターリとした詩をお送りします。
 李白より
『月下独酌』

30 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 02:36
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月下独酌 李白

花間一壺酒     花間 一壺の酒
独酌無相親     独り酌んで相親しむなし
挙杯邀明月     杯を挙げて明月を迎ええ
対影成三人     影に対して三人と成る
月既不解飲     月 既に飲むを解せず
影徒随我身     影 徒らに我が身に随う
暫伴月将影     暫く月と影とを伴いて
行楽須及春     行楽 須らく春に及べし
我歌月徘徊     我 歌えば 月 徘徊し
我舞影凌乱     我 舞えば 影 凌乱す
醒時同交歓     醒時は同に交歓し
酔後各分散     酔後はおのおの分散す
永結無情遊     永く無情の遊を結び
相期□雲漢     相期して雲漢はるかなり


 春の夜、花咲き香る部屋の中で一壺の酒を抱え、一人酒を飲む。
 語り合う親しい人とてもない。
 しゃあないので、杯を高く挙げ、明月を招き寄せ、月と私と影法師とあわせて、三人。
 月はもともと酒を飲む事は出来ないし、影は影でい私につきまとうだけ。
 だが、まあしばらくは、この月と影法師とをともにして、
 春が過ぎ去ってしまわないうちに楽しむとしよう。
 私が歌うと、月は天上をさまよい、私が舞えば、影は地上で乱れ動く。
 こうして醒めている時は、我ら三人はこもごも喜びを分かち合い、
 酔って眠ってしまうと、それぞれ別れ別れになってしまう。
 そこで私は君たち二人といつまでも、しがらみのないこのような交友を結び、
 やがてはるか遠い天の川で会う約束したいのだ。

31 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 02:37
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 月や影を相手に一人酒を飲む男の姿は、なんとも侘しくもあり、
それとともに風流で楽しそうでもあります。
 こんな粋な歌詞はそうはないでしょう、酒飲みの筆者の大好きな詩であります。
 さて、一人酒とは対照的な、古代中国の大宴会を活写した作品を一つ。
 曹植より
『名都篇』

32 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 02:38
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『名都篇』 曹植

名都多妖女 名都妖女多く        都に色っぽい女が多いように
京洛出少年 京洛少年を出す       粋なる若者たちも都から出る
寶劍直千金 宝剣、値千金        千金の宝剣を帯びて
被服麗且鮮 被服は麗しく且つ鮮やか   服は最新流行の粋っぷり
鬥?東郊道 鶏闘わす、東郊の道     東の郊外で闘鶏に熱中し
走馬長楸間 馬走らす、長鍬の間     並木道では乗馬を愉しむ
馳騁未能半 馳騁、未だ半ばせざるに   彼らが愉しんでいる最中
雙兔過我前 双兎、我が前を過ぐ     2匹の兎が現れた

攬弓捷嗚鏑 弓を取り鳴鏑をつがえ    素早く弓に鏑矢をつがえ
長驅上南山 長駆、南山に上る      一気に南山まで追い詰める
左挽因右發 左に挽き因って右に発し   右手で弦を引き右へ一発
一縱兩禽連 一度縦って、両禽を連ぬ   見事に一矢で二匹をモノにした
餘巧未及展 余巧、未だ展ぶるに及ばず  それでも物足りないので、
仰手接飛鳶 手を仰げ、飛鳶を接る    今度は飛んでる鳶も射止めたぞ
觀者咸稱善 観る者、みな善しと称え   観ていた者たちはやんやの大喝采
?工歸我妍 衆工、我に妍を帰す     周囲の腕自慢たちもかぶとを脱

歸來宴平樂 帰来して平楽に宴す     さあ、帰れば平楽宮で大宴会だ
美酒斗十千 美酒は斗、十千なり     美酒はなんと一万銭もする代物
膾鯉[月儁]胎蝦 鯉を膾にし、胎蝦を羹にし 鯉のなますに子持ちエビのスープ
寒?炙熊? ?を寒にし、熊?を炙る   スッポンの味噌漬けに熊の掌のステーキ
鳴傳嘯匹侶 ともに鳴き、匹侶と嘯き   大声の喝采と口笛が吹きながら
列坐竟長筵 坐に列して長筵を竟む    長い竹のむしろに並ぶ
連翩?鞠壤 連翩、鞠と壤を撃ち     宴の後は蹴鞠に独楽回し
巧捷惟萬端 巧捷、惟れ万端なり     何をさせても玄人はだし
白日西南馳 白日、西南に馳せ      やがて陽が西南に落ちる
光景不可攀 光景、攀むべからず     時の流れだけには逆らえず
雲散還城邑 雲散して城邑に還り     若者たちは三々五々と解散する
清晨復來還 清晨、復た来り還らん    また、明日も朝から愉しむために!

33 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 02:38
♪*∴。..゚゚:.。..。:゚・*♪謡 う 三 戦 板♪ *・゚゚:.。:*・゚゚・*♪

 トーナメントに参加しているみなさん、なんだか無理をなさっている方が多いようで、
なんとも心配な報がたくさん流れてきております。
 みなさん、体だけは気をつけて長生きしてくださいね。
 ここでは、そんな老境に入った一人の英雄の詩を捧げて励ましといたしましょう。
 曹操より、
『龜雖壽』(歩出夏門行より)

34 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 02:41
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『龜雖壽』 曹操(歩出夏門行より)

神亀雖壽 神亀は寿なりと雖も   神亀が長寿と言えども
猶有竟時 猶お竟る時有り     それでも死ぬときは死ぬ
騰蛇乗霧 騰蛇は霧を成せども   天の竜は霧を起こす力があっても
終焉土灰 終には土灰となる    最後は土塊となる
老驥伏櫪 老驥 櫪に伏しても   だが老いたる名馬は厩に倒れても
志在千里 志は千里に在り     その心は千里を駆け
烈士暮年 烈士 暮年にして    烈士は晩年になっても
壮心不巳 壮心已まず       その志を喪わない
盈縮之期 盈縮の期は       人の寿命というのは
不但在天 独り天のみに在らず   天命まかせではない
養怡之福 養怡の福は       いかに生きたかによって
可得永年 永年を得可し      寿命を越える事ができるのだ
幸甚至哉 幸甚だ至れる哉     幸い私はそれに気づく事ができた
歌以詠志 歌いて以って志を詠ず  だから私はこうして志を歌うのだ
老驥伏櫪 老驥 櫪に伏しても   だが老いたる名馬は厩に倒れても
志在千里 志は千里に在り     その心は千里を駆け
烈士暮年 烈士 暮年にして    烈士は晩年になっても
壮心不巳 壮心已まず       その志を喪わない

 生涯においてなんと80もの戦争を指揮して戦い続けた曹操の、
もっとも英雄詩人としての面が現れたフレーズだと思います。
 筆者にとっては、こう断言できるように年老いてみたいと思ったりしますね。
 ほのぼの板、三戦板、そして、それぞれに味方する烈士の皆様方も、
晩年(投票時間後半)になっても、その志を喪わずに戦ってくださいね。
 がんばれ! どちらも!

35 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 02:42
470 名前:某板漁業協同組合投稿日:02/07/02 19:10 ID:Y3c3DMY1
>>独立支援部隊 殿

酒がらみの漢詩といえば、『山中にて友(?)人と對酌す』も外せませんね。
「我酔うて眠らんと欲す君暫く去れ 
  明朝意あらば琴を抱きて来たらん」(うろ覚えで申し訳ない・・・)
このくだりがたまらなく好きです。

#「一杯、一杯、復た一杯」はウイスキーのCMにも使われてましたね

36 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 02:42
♪*∴。..゚゚:.。..。:゚・*♪謡 う 三 戦 板♪ *・゚゚:.。:*・゚゚・*♪
>>470
 その言葉を勝手にリクエストとして判断し、
謡わせていただきます(笑)
 李白より、
『山中対酌』

37 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 02:43
♪*∴。..゚゚:.。..。:゚・*♪謡 う 三 戦 板♪ *・゚゚:.。:*・゚゚・*♪
『山中対酌』  李白

両人対酌山花開 両人対酌して山花開く
一杯一杯復一杯 一杯、一杯、また一杯
我酔欲眠卿旦去 我酔うて眠らんとと欲す、卿しばらく去れ
明朝有意抱琴来 明朝意あらば琴を抱いて来たれ

りょうじん たいしゃく して さんか ひらく
いっぱい いっぱい また いっぱい
われ ようて ねむらんと ほっす きみ しばらく かえれ
みょうちょう い あらば きん を いだいてきたれ

花咲き誇る山中で二人きりで酒を飲む
一杯一杯、また一杯と杯を重ねるうちに、
私はいい気分で酔っ払い、いよいよ眠くなる。
キミはしばし帰ってしまっていいよ。
そうだ、もし気が向いたら琴を持ってきてくれないか?
そしてまた飲もうじゃないか。

38 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 02:44
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 よき友と花咲く山中でゆっくりと飲む。
 一杯、一杯、また一杯のリフレインがたまりませんね。
 そして、酔って友人に勝手に帰っていいよ、できたら琴を持ってきて、
また飲もうぜと誘うあたりの、気のおけなさがなんともいい詩です。
 こういう酒、飲んでみたいものですね(笑)

39 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 02:45
♪*∴。..゚゚:.。..。:゚・*♪謡 う 三 戦 板♪ *・゚゚:.。:*・゚゚・*♪

 19時30分を回りました。
 あまり長い間居座っていると、皆さんに迷惑でしょうし、
調子に乗り過ぎているのもよくありませんので、
 ここらで店じまいといたしましょう。
 それに、これからどちらの選対も激しくなってくるでしょうから。
 最後に、三国志の時代に描かれたもっとも華やかで勇壮な詩で、
これからいよいよ佳境に入っていく、三戦板とほのぼの板の激戦を、
見送るといたしましょう。
 やはり曹植より、
『白馬編』

40 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 02:45
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白馬篇 曹植

白馬飾金羈 白馬金羈を飾り      金糸で飾られた白馬が
連翩西北馳 連翩として西北に馳す   天を駆るように西北に駆けて行く
借問誰家子 借問す 誰が家の子ぞ   あれはいったい誰なのか?
幽并游侠兒 幽并の遊侠児       あれこそかの有名な幽州并州の伊達男!
少小去郷邑 少小にして郷邑を去り   若い頃に故郷を離れ
揚聲沙漠垂 名を沙漠の垂に揚ぐ    砂漠の周辺で勇名を馳せたお方よ!

宿昔秉良弓 宿昔 良弓を秉り     そんときゃ、いい弓を持たせれば、
[木苦]矢何参差 コ矢 何んぞ参差たる 長短いろんな矢を背負っては、
控弦破左的 弦を控きて左的を破り   弦を引いて左の的を抜いたと思えば、
右發摧月支 右に発して月支を摧く   たちまち右の『月支』的を砕く。
仰手接飛? 手を仰げて飛?を接ち   上をめがけて『飛猿』の的を射て、
身散俯馬蹄 身を俯して馬蹄を散ず   下を向いては『馬蹄』の的を貫く。
狡捷過猴猿 狡捷なる 猴猿に過ぎ   その早業は猿でもかなわず、
勇剽若豹? 勇剽なる 豹?の若し   勇猛さは豹や蛟も凌ぐってお方だよ!

邊城多警急 辺城 警急多く      辺境は警戒の報が多い。
胡虜數遷移 胡虜 數遷移す      「えびすの兵どもが襲ってきたぞ!」
巓從北來 巓 北從り來り     北から援軍の要請がくれば、
卩賄亶眥蕁’呂鴒劼泙靴胴眥蕕謀个襦 “爐陵士は長城へと馬を駆る
長蹈駆匈奴 長駆して匈奴を蹈み    「さあ、一騎に匈奴どもを蹴散らし、
左顧凌鮮卑 左顧して鮮卑を凌がん    その勢いで鮮卑も倒してくれよう。

棄身鋒刃端 身を鋒刃の端に棄つ     ひとたび、戦場に立つならば
性命安可懐 性命 安んぞ懐う可けんや  命などは惜しくはない。
父母旦不顧 父母すら旦お顧みず     父母ですら顧みぬのに、
何言子與妻 何んぞ子と妻とを言わんや  どうして妻子にかまけてなどいられよう。
名編壮士籍 名を壮士の籍に編せらるれば 軍に籍を連ね士と呼ばれたからには、
不得中顧私 中に私を顧みるを得ず    私情など挟むことはない。
捐躯赴國難 躯を捐てて国難に赴く    身を捨てて、国難に立ち向かう身なれば、
視死忽如歸 死を視ること忽ち帰するが如し 死すらも意に介するまでもない事だ

41 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/05(金) 02:46
♪*∴。..゚゚:.。..。:゚・*♪謡 う 三 戦 板♪ *・゚゚:.。:*・゚゚・*♪

 ご静聴ありがとうございました。
 投票云々は別にしても、少しでも三国志や戦国時代に、
親しみをかんじていただければ、と三戦板住民として願っております。
 では、引き続きほのぼの板と三戦板の決戦をお楽しみくださいませ。

42 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/12(金) 18:56
♪*∴。..゚゚:.。..。:゚・*♪謡 う 三 戦 板♪ *・゚゚:.。:*・゚゚・*♪

 おひさしぶりです。
 ずいぶんと暑いですね。
 今回は夏にふさわしい、さらに三戦板に深い関りを持つ詩を紹介しましょう。
 タイトルはその名も
『赤壁賦』
 宋代の詩人蘇軾が、七月に長江の赤壁に船を浮かべ、
船上でかつての戦場を想いながら歌った情景を描いた詩です。
 美しい韻律と、勇壮さと無常観が綯い交ぜになった世界を、
どうか味わってください。
 蘇軾より、
『赤壁賦』

43 名前: <削除> 投稿日: <削除>
<削除>

44 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/12(金) 19:00
『赤壁賦』  蘇軾

 壬戌之秋 七月既望 蘇子與客泛舟 遊於赤壁之下
 清風徐來 水波不興 
 擧酒屬客 誦明月之詩 歌窈窕之章
 少焉 月出於東山之上 徘徊於斗牛之間
 白露横江 水光接天
 縱一葦之所如 凌萬頃之茫然
 浩浩乎如馮虚御風 而不知其所止
 飄飄乎如遺世獨立 峅充登仙
 於是飮酒樂甚 扣舷而歌之 
 歌曰 桂棹兮蘭ショウ[將+木] 撃空明兮泝流光
 渺渺兮予懷 望美人兮天一方
 客有吹洞簫者 倚歌而和之
 其聲嗚嗚然 如怨如慕、如泣如訴
 餘音嫋嫋 不絶如縷、舞幽壑之潜蛟
 泣孤舟之リ[説明不可]婦

(訓み下し)
 壬戌(じんじゅつ)の秋、七月既望(きぼう)、蘇子客と舟を泛(うか)べ、赤壁の下に遊ぶ。
 清風おもむろに來たり、水波興らず。酒を擧げて客に屬(しょく)し、
明月の詩を誦(しょう)し、窈窕(ようちょう)の章を歌う。少焉(しばらく)して、
月東山の上に出で、斗牛(とぎゅう)の間に徘徊(はいかい)す。
 白露(はくろ)江に横たわり、水光(すいこう)天に接す。
 一葦(いちい)の如(ゆ)く所を縱(ほしいまま)にし、
 萬頃(ばんけい)の茫然(ぼうぜん)たるを凌(しの)ぐ。
 浩浩乎(こうこうこ)として虚(きょ)に馮(よ)り風を御(ぎょ)して、
其の止(とど)まる所を知らざるが如く、飄飄乎(ひょうひょうこ)として
世を遺(わす)れて獨り立ち、峅(うか)して登仙()するが如し。
 是に於()て酒を飮み樂しむこと甚(はなは)だし。
 歌に曰く、「桂の棹(さお)に蘭のかい[將木]、空明に撃(う)ちて流光(りゅうこう)を泝(さかのぼ)る。
 渺渺(びょうびょう)たり予が懷(おも)い、美人を天の一方に望む。」と。
 客に洞簫(どうしょう)を吹く者有り、歌に倚(よ)りてこれを和す。
 其の聲嗚嗚然(おおぜん)として、怨(うら)むが如く慕うが如く、泣くが如く訴えるが如し。
 餘音(よいん)嫋嫋(じょうじょう)として、絶えざること縷(る)の如く、
 幽壑(ゆうがく)の潜蛟(せんこう)を舞わしめ、孤舟(こしゅう)の離婦を泣かしむ。

45 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/12(金) 19:00
(意訳)
 壬戌(みずのえいぬ)の年(元豊五年、1082年)の秋、私はは友と舟を江に浮かべ、赤壁の下(もと)に遊んだ。
 すがすがしい風が吹き、水面には波も起こらない。
 酒を取り上げて友にすすめ、明月の詩をくちずさみ、窈窕(ようちょう)の一節を歌う。
 しばらくすると、月が東の山の端に現れ、斗牛(とぎゅう)の星座の間にゆらゆらとした。
 白露は水上に広がり、空と水と、ひとつになって光る。
 葦のひと葉のように行く先を定めず、ひろびろとはてしない流れに舟をまかせる。
 はるかに大空に上り風に乗って、行方も知らぬように、ひらひらと俗世を離れて自由の身になり、
 羽根が生えて仙人の世界に上って行くようだ。
 こうして、酒も楽しみも、はなはだ深くなる。
 船端を叩いて拍子をとり、即興で歌を歌う。「桂の棹に蘭の櫂、月の薄明かりに棹をさし、
 きらめく光の中をさかのぼる。私の想いははるかに広がり、天の一方の美人を望み見る。」
友人の中に洞簫(どうしょう・竹製の縦笛)を吹く者がおり、歌に合わせて洞簫を奏でる。
 その音色は低く響いて、怨むようで、慕うようで、泣くようで訴えるようだ。
 余韻は長く尾を引き、糸のように長く途切れず、深い谷に潜む蛟を舞い踊らせ、
一葉の舟に眠る未亡人を泣かせてしまうほどだ。

46 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/12(金) 19:01
 蘇子愀然 正襟危坐 而問客曰 何爲其然也
 客曰 月明星稀 烏鵲南飛 此非曹孟之詩乎
 西望夏口 東望武昌 山川相繆 鬱乎蒼蒼 
 此非孟之困周郎者乎 方其破荊州下江陵
 順流而東也、軸艫千里 旌旗蔽空
 レイ[酉+麗]酒臨江 横槊賦詩 固一世之雄也 
 而今安在哉。況吾與子漁 樵於江渚之上
 侶魚鰕而友麋鹿 駕一葉之扁舟 擧匏樽以相屬
 寄蜉蝣於天地 眇滄海一粟 哀吾生之須臾
 羨長江之無窮 挟飛仙以遨遊 抱明月而長終。
 知不可乎驟得 託遺響於悲風

(訓み下し)
 蘇子愀然(しゅうぜん)として、襟(えり)を正し危坐(きざ)し、
 客に問うて曰く、「何爲(なんす)れぞそれ然(しか)るや」と。
 客曰く、「月明かに星稀(まれ)に、烏鵲(うじゃく)南に飛ぶとは、此れ曹孟(そうもうとく)の詩に非ずや。
 西のかた夏口(かこう)を望み、東のかた武昌(ぶしょう)を望めば、山川(さんせん)相(あい)繆(まと)い、
 鬱乎(うっこ)として蒼蒼(そうそう)たり。
 此れ孟の周郎に困(くる)しめられし者に非ずや。
 その荊州(けいしゅう)を破り、江陵(こうりょう)を下(くだ)し、
 流れに順(したが)いて東(ひがし)するに方(あた)りてや、軸艫(じくろ)千里、
 旌旗(せいき)空を蔽(おお)う。
 酒を[酉麗](した)みて江に臨み、槊(ほこ)を横たえて詩を賦(ふ)す。
 固(まこと)に一世(いっせい)の雄なり。
 而(しか)るに今安(いず)くに在りや。
 況(いわ)んや吾(われ)と子と、江渚(こうしょ)の上(ほとり)に漁樵(ぎょしょう)し、
魚鰕(ぎょか)を侶(とも)とし麋鹿(びろく)を友とし、
一葉(いちよう)の扁舟(へんしゅう)に駕(が)し、
匏樽(ほうそん)を擧(あ)げて以って相(あい)屬(しょく)し、
蜉蝣(ふゆう)を天地に寄す、眇(びょう)たる滄海(そうかい)の一粟(いちぞく)なるをや。
 吾が生の須臾(しゅゆ)なるを哀(かな)しみ、長江の無窮(むきゅう)なるを羨(うらや)む。
 飛仙(ひせん)を挟(さしはさ)みて以て遨遊(ごうゆう)し、
明月を抱(いだ)きて長(とこしえ)に終えんこと、驟(にわか)には得べからざるを知り、
遺響(いきょう)を悲風に託せり」と。

47 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/12(金) 19:02
(意訳)
 蘇子は表情を変え、襟を正して座りなおし、友にたずねる。
「どうしてこのように悲しい音色を奏でるのか」と。
 友は言う。
「”月明かに星稀に、烏鵲南に飛ぶ”とは、曹操孟徳の詩ではないか。
 西に夏口を望み、東に武昌を望めば、山と川とが互いに一体となって、
 こんもりと茂っている。これは、曹操が周瑜に苦しめられた、
 赤壁の古戦場ではないか。曹操が、荊州を破り、江陵を下し、
 長江の流れにしたがって東に攻め下る様は、船は千里も連なり、
 旗じるしは空を覆い隠すようだった。
 酒を江にささげ、槊を横たえて詩を作る姿は、
 まさしく一代の英雄であった。しかし、今はどこに居るというのか。
 ましてや私やあなたは、江のほとりで漁やきこりをして、魚や鹿を友とし、
 一葉の小舟に乗って、ひょうたんの酒を酌み交わし、
 カゲロウのようなわずかな命を天地の間に保っている、
 はてしない大海原に落ちた一粒の粟のような身ではないか。
 この命のはかないことを悲しみ、長江の果てしなく尽きない様をうらやましく思う。 
 しかし、空を飛べる仙人と連れ立って遊び、
 明月を抱いて永遠の命を得ることはそう簡単にはできることではなく、
 ただ、この心の響きを悲しい風に託したまでである。」

48 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/12(金) 19:04
 蘇子曰 客亦知夫水與月乎
 逝者如斯而未嘗往也
 盈虚者如彼而卒莫消長也
 蓋將自其變者而觀之 則天地曾不能以一瞬
 自其不變者而觀之 則物與我皆無盡也
 而又何羨乎 
 且夫天地之間 物各有主
 荀非吾之所有 雖一毫而莫取
 惟江上之清風與山間之明月 耳得之而爲聲 目遇之而成色
 取之無禁、用之不歇 
 是造物者之無盡藏也
 而吾與子之共適 
 客喜而笑 洗箋更酌
 肴核既盡 杯盤狼籍
 相與枕藉乎舟中 不知東方之既白


(訓み下し)
 蘇子(そし)曰(いわ)く、
「客も亦(また)た夫(か)の水と月とを知るか。
 逝(ゆ)く者は斯(かく)の如(ごと)くして、
 而(しか)も未(いま)だ嘗(かつ)て往かざるなり。
 盈虚(えいきょ)するものは彼(か)の如くして、
 而も卒(つい)に消長(しょうちょう)する莫(な)きなり。
 蓋(けだ)し將(は)たその變ずる者よりしてこれを觀(み)れば、
 則(すなわ)ち天地も曾(すなわ)ち以て一瞬(いっしゅん)なること能(あた)わず。
 その變ぜざるものよりしてこれを觀(み)れば、
 則ち物(もの)と我(われ)と、皆(みな)盡(つ)くるなきなり。
 而(しか)るをまた何をか羨(うらや)まんや。
 且(か)つ夫(そ)れ天地の間、物各(おのおの)主(しゅ)有り。
 荀(いやし)くも吾(われ)の有(ゆう)する所に非ざれば、
 一毫(いちごう)と雖(いえど)も取ること莫(な)し。
 惟(た)だ江上の清風と、山間の明月とは、
 耳(みみ)これを得て聲(せい)を爲(な)し、
 目(め)これに遇(あ)いて色(いろ)を成す。
 これを取るも禁ずる無く、これを用(もち)うるも歇(つ)きず。
 是(こ)れ造物者(ぞうぶつしゃ)の無盡藏(むじんぞう)なり。
 而(しか)して吾(われ)と子(し)との共(とも)に適(てき)するところなり。」と。
 客喜(よろこ)びて笑い、箋(さかずき)を洗いて更(こもごも)酌(く)む。
 肴核(こうかく)既に盡き、杯盤(はいばん)狼籍(ろうぜき)たり。
 相(あい)與(とも)に舟中に枕藉(ちんしゃ)して、
 東方の既に白(しら)むを知らず。

49 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/12(金) 19:05
(意訳)
 私は答えた。
「あなたもまた、かの水と月のことを知っているでしょう。
 流れ去ってゆくものはこの水のようであるが、
 しかし去ってそれきり帰ってこないということはないのだ。
 満ち欠けするものはあの月のようであるが、
 しかし消えたり成長したりすることはないのだ。
 しかし、すべてが変化し続けるものとしてこれを見れば、
 この天と地さえも、わずかな時間でも変わらずにはいられない。
 そして、変化しないものとしてこれを見れば、物であっても私自身であっても、
 すべて尽きることのないものなのである。
 そうであるから、どうしてうらやむことがあろうか。
 しかしまた、この天地の間にある物すべてには、
 それぞれに所有者がいる。
 かりそめにも自分の持ち物であれば、
 たった一筋の毛であっても取ることはできない。
 ただ、この江を渡る清風と、山の端の明月だけは、
 私の耳に達すれば音楽となり、目に映れば美しい絵となってくれる。
 これを得ようとしても禁じる者はいないし、得たとしても尽きることはない。
 これこそ、天地の間のすべてを造りたもうた造物主の無尽蔵というもの、
 私とあなたとが、ともに心楽しんでいるものである。」
 友人は喜んで笑い、盃をすすいでまた酒を酌み交わす。
 酒の肴もなくなってしまい、盃や皿もあたりに散らかったまま。
 舟の上で互いに枕しあいながら眠ってしまい、東の空の白むのにも気付かなかった。

50 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/07/12(金) 19:05
♪*∴。..゚゚:.。..。:゚・*♪謡 う 三 戦 板♪ *・゚゚:.。:*・゚゚・*♪

 ご静聴ありがとうございました。
 長々と申し訳ありませんでしたが、季節が七月、
長江に船を浮かべて酒宴をするのはさぞかし涼しかろうとの思いを止めきれず、
せめて詩中にて味わいたいと思い投下させていただきました。
 また、是非とも三戦板としては紹介したかった詩でもあり、
長きも厭わず投下いたしました。
 どうも、ありがとうございました。

51 名前: 無名武将@お腹せっぷく 投稿日: 2002/09/12(木) 19:11
♪*∴。..゚゚:.。..。:゚・*♪謡 う 三 戦 板♪ *・゚゚:.。:*・゚゚・*♪

以上、2ch全板人気トーナメント・三戦板出場の三回戦・ブロック決勝戦において、
「三戦板独立支援部隊」の名義で地雷魚殿が作成・投下したものをまとめました。