新世紀エヴァンゲリオン After Story






 
GLORIA






 
第十一話 LAST IMPRESTION(前編)






 「こ、これは?」

 戦自の特殊部隊が突入した部屋の中には誰も居らず、コンピューターのモニターが何台も置かれていただけだった。

 かなり厳重に入り口からバリケードなどで封鎖してあったから期待していたのだが、苦労して中枢部まで進入した結果が

 芳しいもので無かった事に部隊の雰囲気は重くなっていた。

 そしてその事実がこれから起きる凄惨な事態を予測させていた。

 取り敢えず時田の確保が出来なかったがここで動いていたシステム停止させると、NERV本部に連絡を入れた。

 「そう、解ったわ・・・とにかくそこは厳重に封鎖して置いて頂戴」

 記念式典当日の朝、発令所でその報告を聞いたミサトは親指の詰めを噛んで眉をひそめた。

 「当てが外れたわね、まったく!」

 「そうカリカリするなって、奴らの目的は解っているんだからな」

 「それはそうだけど・・・こう後手に回るのはしゃくなのよ!」

 「それも時田博士の策略の内だぞ?」

 式典のため礼服に着替えたミサトの肩を軽く叩いて落ちつかせようと笑顔を見せて、加持は手に持っていたコーヒーを

 飲み干すと自分の仕事に戻ることにした。

 「司令の方は任せてよ!」

 「おうっ」

 背中に掛けたミサトの声に片手を上げて応えて部屋を出た加持の顔は、すっと笑顔が消えてその目は鈍い光りを放っていた。

 「戦いはもう沢山だよな、シンジ君・・・」

 加持は未だ目覚めぬシンジに問いかけるように呟くと、自分の仕事を果たす為歩いていった。






 ベッドの上で穏やかな顔で寝ているシンジの手をしっかりと握りながら、リツコは優しい目で見つめ続けていた。

 一向に起きない痛々しいシンジの姿にリツコの心は苦しくて仕方がなかった。

 「シンジ君、早く起きて・・・そして私に笑顔を見せて・・・」

 漸く本音を言えたリツコの目から今まで止めていた涙が堰を切ったように次から次にと溢れて、

 頬を伝ってこぼれ落ちた。

 その様子を後ろから見ていたアスカは、初めて見たリツコの涙に正直驚いていた。

 昔もそうだけどシンジがケガをした時も涙を見せなかったリツコが、今あたしがいるのに気にせず泣いている。

 やっぱり好きな人が出来るとこうも変わるのかなと思い、そしてそれが自分も同じだと気が付いてアスカは

 リツコの背中を見て苦笑いを浮かべてしまった。

 そっとリツコの首に腕を巻いて背中に覆い被さると、アスカは元気づけるように耳元で呟いた。

 「大丈夫よリツコ、それにあんたまでそんな顔してたらシンジに嫌われちゃうわよ?」

 「そ、そうね・・・」

 「まっ、あたしとしてはその方が都合がいいんだけどね〜♪」

 「アスカ!?」

 「ふふん、それが嫌ならいつまでも泣いてないでね!」

 驚いて振り向こうとしたリツコのほっぺたに、アスカは派手に音を立ててキスをするとにこっと笑った。

 そんなアスカの気持ちが解ったのか、リツコはアスカの腕に自分の手を重ねて目を閉じるとぎこちないけど

 ちょっとだけ笑うと目を開けて横目で見つめ返した。

 「でも、そうね・・・アスカなら許してあげてもいいわよ?」

 「えっ!?」

 リツコの返事に今度はアスカの顔が真っ赤になり狼狽えだしてしまう。

 「そ、それってまさか?」

 「ふふっ・・・冗談よ」

 自分がからかわれたとリツコの微笑みから理解すると、アスカはいやらしくニヤリと笑うと反撃に出た。

 「さ〜て、リツコも公認したからいっちょがんばるかな〜♪」

 「ちょ、ちょっとアスカ? 今のは冗談だって・・・」

 「だ〜めだめ、もう聞いちゃったもんね〜♪ さあシンジ、早く起きてあたしとデートに行くわよ!」

 そう言ってシンジの方を向いた瞬間、そのベッドの脇の枕元にある機械から覚醒を知らせる音が鳴った。






 シンジの瞼がぴくっと痙攣してゆっくりと瞼を開けていく。

 「うっ・・・」

 「シンジ君!」

 「シンジ!」

 二人が呼びかけると顔を横にして何かを探すように瞳を動かした。

 「ここは・・・?」

 「NERV本部内の病院よ」

 「そうですか・・・アスカ、アスカ怪我してない?」

 「バ、バカッ、あたしは平気よ!」

 「良かった・・・リツコさんは大丈夫ですか?」

 「ええ、大丈夫よ・・・」

 「もうっ、ケガしたのはシンジじゃない」

 「あ、うんそうだね・・・」

 シンジが苦笑いを浮かべたのでリツコとアスカはほっとしてその顔には笑顔が浮かんだ。

 だが、しかし。

 「リツコさん」

 「何? シンジ君?」

 「部屋の電気付けてくれませんか?」

 「シンジ君!?」

 「シンジ!?」

 その言葉に、二人の顔から笑顔が消えた。

 「病院から連絡がありました、シンジ君が気が付いたそうです」

 「ホント? 良かったぁ〜」

 「でも・・・」

 マヤの顔が俯いたのでミサトは怪訝な顔で側に近寄った。

 「どうしたの? シンジ君目が覚めたって・・・」

 「・・・視力が無いそうです」

 マヤはそれだけ呟くと黙ってしまう。

 「リツコ・・・」

 自ら行って確かめたいミサトだったが、記念式典の時間が迫っていた。






 「どうやら頭に受けた衝撃で視力障害が出ているみたいね・・・」

 リツコはシンジのカルテを見ながらアスカに説明をした。

 「治るの?」

 「解らないわ・・・すぐに見えるのか、それとも・・・」

 「それとも?」

 「このままずっと見えないかもしれない」

 「そんな!?」

 「アスカ・・・」

 唇を噛んで俯くアスカをリツコは抱きしめる。

 「まだそう決まった訳じゃないの、だから元気を出しなさい」

 「で、でも・・・あたし・・・」

 「私信じているの、きっと見えるようになるって」

 「リツコ・・・」

 はっとして顔を上げると、リツコの目にも涙が浮かんでいた。

 それを見たアスカは気が付いた、本当に心配しているのに精一杯強がっているリツコの姿を・・・。

 アスカは顔をごしごしと擦り、きっと引き締めた表情をリツコに見せる。

 「うん、あたしもシンジの事信じるわ!」

 そしてアスカとシンジの病室の前で分かれると、リツコは記念式典の会場に足を運んだ。

 中に入ると見えない瞳でこちらを向いたシンジが笑って出迎えた。

 「アスカ?」

 「うん」

 「リツコさんは行ったんだね?」

 「そうよ・・・ってシンジ!?」

 上半身をゆっくりと起こすシンジをアスカは慌てて支える。

 「アスカ、頼みがあるんだ・・・」

 「な、なに?」

 「僕を、僕をケージに・・・エヴァの所まで連れて行って欲しいんだ」

 「そ、そんな体でなにする気なの?」

 真剣な表情で光を失ったシンジの目に見つめられて、アスカははっと息を呑んだ。

 「一番安全な場所がどこだかアスカには解るよね?」

 「それって・・・あたしの事信じて無いんだ・・・」

 「違うよ、アスカ!」

 その言葉に、俯きかけたアスカにシンジが力強く答える。

 「違うんだアスカ、今の僕は何もできないどころかただの足手まといなんだ」

 「そんな!」

 「ううん・・・例えばアスカが誰かと戦う事になった時、僕がいたら気にして満足に戦えないよね?」

 「シンジ・・・」

 「それに僕を狙って来るんだったら他の人の迷惑を掛けたくない、だからこそ行くんだ・・・エヴァの所にね」

 逃げている訳じゃない、目が見えなくても前を向いて戦おうとするシンジの横顔にアスカは見とれていた。

 確実に、しかも一緒に暮らしていた頃の優しさを失わずに成長したシンジの姿にアスカの心はユニゾン

 をした時のような高揚感が満ち始めていた。

 やっぱりあたしはシンジが大好き! 世界の誰よりもシンジが好き!

 シンジが誰を好きだって構わない! あたしはシンジだけを見つめればいい!

 「なにより、絶対にエヴァが必要な気がするんだ・・・そして今エヴァのパイロットは僕だけなんだ」

 その表情はもう子供じゃない、愛する者を守ろうとする一人の男の顔変わっていたシンジだった。

 「ひとつ良いかしら?」

 「なに、アスカ?」

 「あんたの今の顔、碇指令にそっくりだったわ」

 「仕方がないよ、だって父さんの息子なんだから・・・」

 父親のことを話したアスカに微笑んで返すシンジの方に手を回すと、ベッドから立たせた。

 「ふふっ、行くわよ!」

 「くすっ、出撃」

 笑いながら廊下をゆっくりと歩く二人は、人目に付かないように病院を抜け出してケージに向かった。






 その頃、平和記念式典会場では特に問題もなく進行していた。

 端的な挨拶の後、事実上日本の指導者でもある冬月は各国の代表者と歓談していた。

 その側でリツコも科学者と注目を浴びていたため、冬月と同じように科学者たちの質問責めに有っていた。

 淡々と答えるリツコだがその心の中は穏やかでは無かった。

 シンジの側に・・・誰よりも側にいたかったリツコだったが、時田シロウを捕らえない限り安心して過ごせない事を

 解っているので敢えてこの式典に来ていた。

 (早く来なさい時田シロウ・・・狙いはこの私なのでしょう?)

 手に持ったバッグの中には用意していた拳銃が忍ばせてあった。

 (シンジ君を傷つけた事は絶対に許すことは出来ない・・・そしてこれ以上傷つけさせない)

 リツコは自嘲的に笑った、それを使った結果が己の手を汚す事になると理解しても。

 そしてその笑顔は二年前の彼女に戻ってしまったかのように悲しい瞳を携えていた。

 「赤城君・・・」

 「司令、なにか?」

 「待ち人が来たようだよ?」

 冬月の視線を追っていったリツコの目に入ってきた人物は、綺麗なスーツに身を包んだ時田博士だった。

 だが、その目はどこか狂喜に満ちていたことにリツコは気がついていた。

 「これはこれは赤木博士、ご機嫌よう」

 恭しく頭を垂れる時田を殴りたい衝動に駆られながらもリツコは茶番に付き合う事にした。

 「いえ、そちらこそ御喧噪で何よりですわ・・・時田博士」

 「まあ前置きはともかく今日は是非見て頂きたい物が有りましていきなりですがパーティーに

 参加させて貰いました」

 「そうですか、それで見せたい物とは?」

 「その前に一つお聞きしたいことが有るのですが宜しいでしょうか?」

 「ええ、何でしょうか?」

 「あの日、私の作った『JA』の完成披露発表会の時あなたが言った言葉を覚えていますか?」

 「あの屑鉄の・・そうね、良く覚えていないわ」

 「そうですか・・・それでは私が言いましょう、あなたはこう言われたのです『せめて囮になるぐらいにしてから

 披露しなさい』と・・・」

 「言ったかもしれないけどそれが何か?」

 「あの日以来資金も底をついて研究が行き詰まっていた私に資金を提供してくれた人が居まして、

 おまけにエヴァの詳細な資料まで用意してくれました」

 「それで?」

 あくまで冷静に切り返すリツコを見る時田の目がいっそう危険な光を放っていた

 「二年も掛かりましたが漸く完成したのですよ、私の『JA』がね・・・」

 「そう、それで今度はどんな屑鉄なのかしら?」

 「ふっ」

 わざわざ微笑んで応えるリツコの挑発に時田は手の中に持っていたスイッチのような物を指で押した。

 「では見て貰いましょうか、究極になった私の『JA』をっ!」






 「第一警戒ライン内にパターン青検出、これはっ!?」

 「市内上空に進入してきた大型航空機を確認!」

 青葉、日向の言葉に続いてマヤも声を上げる。

 「解析終了、エヴァ量産機及びJAです!」

 モニターに映し出された忌まわしきエヴァ量産機と以前見た物とは大きさが一回りも大きくなったJAを

 睨みながらミサトは的確に指示を出した。

 「来たわね・・・総員、第一級戦闘態勢! 戦時に状況を通達、それと市民の避難を最優先に!」

 「了解」

 二年という短い平和の時間は悪魔の再来と共に終わりを告げ、再び第三新東京市にサイレンが響き渡った。

 その騒ぎの中リツコと時田は睨み合ったまま動こうとせず立ちつくしていた。






 そして時を同じく別の場所でも二人の少女がナイフを片手に同じように睨み合っていた。






 つづく。



 遅くなりました、第十一話です。

 この話もクライマックスに入りました。

 とうとう姿を現した時田博士と対峙するリツコは何を思うのか?

 未だ光が戻らぬシンジは現れた量産機とJA相手にどう戦うのか?

 そしてアスカは・・・。

 唇を噛みしめミサトの叫びが発令所に響き渡る・・・。

 そして零号機に眠る者が静かに目覚め始めていく。


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