新世紀エヴァンゲリオン After Story



 

 GLORIA



 

 第三話 RHYTHM EMOTION





 「・・・と言うことなんですが?」

 「ふう、・・・」

 加持は部下の報告を受けて椅子に深く座り込んだ。

 「解った、この件は俺が動く」

 「解りました」

 男は軽く頭を下げると部屋を出ていった。

 加持は胸のポケットからたばこを取り出すと愛用のジッポで火を付けた。

 ふー・・・。

 「こりゃ大変だ・・・」

 苦笑いしながら加持はこれからのことを考えていた。
 

 




 シンジとリツコは一緒に近所のスーパーに買い物をしに来ていた。

 端から見てると新婚夫婦のような感じである。

 実際ほとんどそうなんだけれど・・・。

 背が高く優しい感じの夫と可愛くて綺麗な奥さん。

 すれ違う人たちは二人を見て羨望と嫉妬の眼差しを送っていた。

 そんな廻りを気にしないで二人は買い物を済ませていく。

 「余りたいしたものはできないけれど・・・」

 「そんなことないです、楽しみにしてますから」

 どうやら今日はリツコが夕食を作るらしい。

 いつもシンジに料理をしてもらっているからたまには自分で作りたいと言い出した。

 「リツコさんの手料理を食べられるなんて嬉しいな」

 いつにもましてニコニコしているシンジ。

 「シンジ君・・・」

 シンジの笑顔を見つめてぼーっとするリツコ。

 二人の周りにはATフィールドならぬラブラブフィールドが発生していた。

 誰もが邪魔できないと思ったその時、あれが襲来してきた。

 「ちょっと二人とも何こんなところでラブラブしているの?」

 そう、葛城ミサトその人であった。

 その顔はまるで獲物を見つけたかのようにニヤニヤしていた。

 その後ろには両手にスーパーのカゴを提げた加持が立っていた。

 「よう二人とも、こんばんは」

 「こんばんは加持さんミサトさん」

 軽くお辞儀をして挨拶をするシンジ。

 反対にリツコはミサトを睨み付けていた。

 「ミサト、来るところ間違っているわよ」

 「なんで?」

 「酒屋さんは道路をわたって反対側よ」

 リツコのセリフにミサトの眉がピクピクしている。

 「あ、あたしだってスーパーに買い物に来ることだってあるわよ!」

 「買い物ね・・・」

 リツコは加持の持っているカゴの中身を見て軽く頭を振って手をこめかみに当てた。

 カゴの中身はおつまみとインスタント食品で溢れていた。

 「な、何よ、このスーパー安いのよ!」

 「加持君も苦労するわね・・・」

 ミサトの返答にもため息で答えるリツコ。

 「いや、ははは・・・」

 苦笑いの加持。

 そしてミサトが聞く久しぶりのセリフはトドメの一撃。

 「無様ね・・・」
 

 




 スーパーの帰り道、リツコはとても嬉しい顔をしてシンジと手を繋いで歩いていた。

 その後ろを両手に荷物を持った加持と、なにやらぶつぶつ言っているミサトがいた。

 「どうせあたしは家事不能女ですよ・・・」

 「いい加減機嫌なおせって・・・」

 「加持君もそう思っているんでしょ?」

 「そんなことないって・・・」

 俯いていた顔を上げてきっと加持を睨むミサト。

 「じゃああたしの良いところってどこ?」

 「えっ?あ、そ、そうだな・・・」

 一瞬真面目に考える加持・・・。

 「そう、やっぱり加持君もそう思っているんだ・・・」

 後ろの様子を気にしていたシンジが最悪な状況になりつつあることを察知した。

 「ミ、ミサトさん、落ち着いて・・・」

 今まで加持を睨んでいたミサトの視線がシンジの方に移る。

 「じゃ、答えてシンジ君、あたしの良いところってどこ?」

 「えっ、そ、そうですね・・・ほら、ミサトさんが居ると明るくなって楽しいし・・・」

 「それから?」

 「僕なんかのために本気で怒ってくれたり泣いてくれたり・・・」

 「時にはお姉さん、時にはお母さんみたいだなと思っています」

 「だからそんなに卑屈にならないで下さい、ミサトさん」

 いつの間にか俯いて、シンジの言葉を聞いていたミサトの肩が震えていた。

 次の瞬間ミサトはシンジを抱きしめた。

 「ありがとうシンジ君、私のことそんな風に思ってくれて・・・」

 ミサトの目に涙が滲んでいた。

 「泣かないでミサトさん・・・ミサトさんの涙はもう見たくないから・・・」

 「いつも笑顔でいて欲しいんです、ミサトさんには・・・」

 シンジはいつものように笑顔でミサトに言った。

 シンジ達を見ていたリツコの顔は微笑みながら心なし引きつっていた。

 すっかり気を取り直したミサトはここぞとばかりにリツコに反撃を試みた。

 「ねえシンちゃん・・・また一緒に暮らしましょう!そう、それがいいわ!!」

 「はい?」

 「なっなに言ってるのミサト!?」

 「おいおい葛城・・・」

 「こーなったらシンちゃんと愛の駆け落ちよ!」

 リツコと加持をその場に残して、ミサトはそのままシンジの手を引いて走り出した。

 「待ちなさいミサト!!」

 「バイバイリツコ!あたし達幸せになるわ!!」

 「リ、リツコさん〜」

 「やれやれシンジ君、お互い苦労するな・・・」

 その三人を追いかけて加持も歩き出した。
 

 




 「「「「いただきます」」」」

 やはりいつものように四人で食事をすることになった。

 テーブルの上にはリツコの作った料理が並んでいた。

 それは取り立てて珍しい料理ではなく、母親が作る惣菜そのものであった。

 「てへへへ、ごめんねリツコ」

 ミサトがビール片手に頭を下げて謝る。

 「いいわよもう・・・」

 まだ少し怒っているリツコ。

 「しかし葛城がマヤちゃんと同じ趣味とは驚いたな・・・」

 加持がいたずら好きの子供みたいに笑う。

 「同じって?」

 「ああ、シンジ君みたいな少年が好きらしい・・・」

 そのやり取りを聞いていたリツコは内心穏やかではなかった。

 『まさかあの子・・・』

 この間の一見以来シンジを見るマヤの目つきが気になっているリツコだった。

 何かにつけてシンジの世話をしたがる・・・。

 『これは注意した方が良いわね・・・。』

 リツコはふとシンジを見るとなにやら驚いた顔をして、その目には涙が滲んでいた。

 「どうしたの?口に合わなかった?」

 「い、いえ・・ただ・・・」

 「うん?」

 シンジは目元を軽く拭うといつもの笑顔でリツコに言った。

 「何か懐かしい味がしたのでつい・・・」

 「懐かしい?」

 「それはお袋の味ってやつじゃないかな?」

 加持がシンジの言葉を肩代わりした。

 「母さんの味・・・」

 「まあ、正確に言えばおばあちゃんの味かな・・・」

 「そうね、リツコの面倒見てたのっておばあちゃんだったわね・・・」

 心の中で今は亡き母を思いだして、シンジは一つ一つゆっくりと味わって食べた。

 「ごちそうさまでしたリツコさん!」

 「どういたしまして」

 「本当に美味しかったです、ありがとうございました」

 「シンジ君が喜んでくれたなら嬉しいわ」

 シンジの笑顔にリツコも笑顔で答えた。
 

 

 


 翌日・・・。

 昼休みにシンジは屋上で加持と会っていた。

 昨日、食事の後リツコ達に気づかれないようにシンジに耳打ちをしておいたのである。

 「あの、僕に話って?」

 「ああ、シンジ君覚えているかな?霧島マナのことを・・・」

 シンジの表情が強張る。

 かつてシンジが好きだった女の子・・・。

 しかし、彼女は戦自から送り込まれたスパイだった・・・。

 戦自のロボットがN2爆弾で破壊されマナもそののまま生死不明になった。

 しかし、彼女が生きていることを加持から聞かされた。

 そして加持の計らいで僅かな時間だったけど、シンジはマナと別れの挨拶をすることができた。

 「マナがどうしたんですか?」

 「いや、実は彼女のいる場所が解ってね身柄の保護ができたんだ」

 「よかった・・・無事だったんですね?」

 加持は少し言いにくそうに顔を歪めた。

 「そのことでシンジ君にお願いがあってね・・・」

 まじめな顔で加持はシンジの顔を見る。

 「マナは戦自の奴らがしたことが原因で記憶が無くなっていたんだ・・・」

 「そ、そんな・・・記憶が無いって・・・」

 「それでシンジ君の事を生き別れたお兄さんがいると話をしたんだ」

 「え、そうなんですか?」

 加持は頭を下げてシンジに頼み込んだ。

 「勝手な事をしてすまない、しかしあまりにも彼女が不憫でな・・・」

 「とりあえず彼女、マナの事を面倒を見てくれないかな?」

 シンジはちょっと考えてから話した。

 「解りました僕にできる事なら、でもどうしてリツコさん達の前で話さなかったんですか?」

 加持は苦笑いを浮かべて、胸のポケットからたばこを取り出すと火を付けて一服した。

 「りっちゃんてあれで結構焼き餅焼きだからさ、シンジ君から言ってもらう方が良いと思ってな・・・」

 「加持さんてずるいですね」

 「大人はずるい者さ・・」

 シンジも加持もお互いに苦笑いを浮かべていた。

 「ところで今マナはどこに?」

 「今頃シンジ君の部屋の隣に引っ越ししているはずさ」

 まるで返事が解っていたように事が進んでいるのでシンジはため息をついていた。
 

 

 


 部活を途中で切り上げて、シンジはまっすぐ家に向かった。

 加持が今日の訓練は休みでいいからマナに会ってくれと言ったからである。

 エレベーターを使わず階段を駆け上がるとマナが引っ越ししてきた部屋の前にきた。

 新しい表札には”霧島”の文字が書かれていた。

 シンジは少し緊張しながらベルを押した。

 ぴんぽ〜ん。

 「は〜い」

 中から返事が聞こえたのと同時にドアが開いた。

 そこに立っていたのは、あの日別れた頃より少し成長した少女”霧島マナ”だった。

 何も言わず自分を見つめている少年にマナは質問した。

 「あの、どなたですか?」

 シンジは我に返るとあわてて自己紹介をし始めた。

 「あ、ごめんね僕は碇シンジと言います、加持さんから話を聞いて・・・」

 マナはシンジの言葉を遮って抱きついた。

 「会いたかった・・・お兄ちゃん・・・」

 そのままシンジの胸に顔を埋めて泣き出してしまった。

 最初はあたふたしたシンジだがそっと肩を抱いて優しく頭を撫ででいた。

 しばらくそのままでいたがマナが落ち着いた頃にシンジが言った。

 「とりあえず家に入ろう」

 「・・・うん」

 シンジはマナの背中を押して自分の家のリビングに案内した。

 マナをソファーに座らせた後台所で紅茶を用意して戻ってきた。

 ティーカップを口のところに運んで紅茶を一口飲む。

 「美味しい・・・」

 「そう、よかった」

 自分も一口飲んでからマナに聞いてみた。

 「加持さん僕の事なんて言ったのかな?」

 マナは少し照れたように頬を染めて少し俯いて話し始めた。

 「施設にいた私の前にあの人が来てこういったの、”君にはお兄さんがいて会いたがっている”て」

 「で、どんな人か聞いてみたら、”優しくて温かくて笑顔が凄くいい人”だって」

 マナはシンジをちらっと見てから納得したように呟いた。

 「本当にその通りだった・・・。」

 そんなこと面と向かって言われたのでシンジも照れて俯いてしまった。

 「あの、お父さんとお母さんは?」

 「うん、二人とも亡くなったんだ・・・」

 「あ、あの、それじゃ独りで住んでいるんですか?」

 シンジは照れながらリツコのことを話した。

 「その・・・僕の大事な人・・・リツコさんて言うんだけど、その人と住んでるんだ・・・」

 マナの方を見ると目をきらきらさせながらシンジに詰め寄った。

 「会わせてお兄ちゃん!!あたし会ってみたい・・・」

 「うん、いいけど」

 少し体を引きながらシンジは答えた。

 「ただいまシンジ君」

 その時、玄関からリツコの声が聞こえた。

 そしてリビングに来たリツコはそこに居るシンジとマナを見て手に持っていた鍵が下に落ちた。
 

 
 「な、何で霧島さんがここに・・・」




 つづく


 エヴァ第三話をお贈りしました♪

 霧島マナの登場ですがとりあえずシンジの妹とという立場です。

 私、個人的に彼女は好きですから、なにかマナを主人公にしたお話も書いてみたいです。

 しかしマナはこのあと重要な役割を持っています。

 ちょっとづつシリアスになっていくかもしれないかな・・・。

 そう言えばペンペン出すの忘れてた・・・、次には出さないと、ははは・・・。

 さてこの次は誰が出てくるかな・・・。


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