新世紀エヴァンゲリオン After Story

 

 

 GLORIA


 

 第六話 Mind Education





 第28放置區域(旧東京都心)国立第3試験場。

 かつて日本重化学工業共同体の制作した”JA”と呼ばれたロボットの完成披露記念会が

 行われた場所だった。

 すでに人気がなく足形に抜けた天井を見上げて加持は呟いた。

 「まさかとは思ったが・・・」

 胸のポケットからタバコを取り出し、一服すると数人の男たちが加持の廻りに集まった。

 「主任、やはり誰か捜索した痕跡が残っています」

 「コントロールルームの資料も一切なくなっています」

 「格納庫の方も空っぽでした」

 「そうか・・・」

 加持は顎に手を当てて次の行動を思案し、それを部下達に指示した。

 「引き続き捜索を続けてくれ、特に”JA”の隠し場所を優先してくれ・・・」

 言葉なく頷いた男たちはそれぞれ散っていった。

 一人残った加持は自分がした事を思い出していた・・・。

 『俺も無関係とはいえないか・・・』

 加持は苦笑いしながらこの場所を後にした。

 




 リツコは音を立てずにそっと部屋から抜け出した。

 そしてキッチンに立つと朝食の準備を始めた。

 シンジがケガをしているので、この時ぐらいは自分が作ろうと思い早起きをした。

 テーブルに料理を並べて後はお湯が沸くのを待っている時、リツコはこれからの事を考えていた。

 『・・・とにかくシンジ君を襲った者達の正体を突きとめないと』

 その表情はかつて使徒と交戦していた時の顔に戻っていた。

 お湯の沸いた音で思考が中断したので、紅茶を煎れてからシンジを起こしにいった。

 リツコが部屋のなかに入るとシンジはまだ寝ていた。

 昨夜飲んだ鎮痛剤の所為らしい。

 まるで天使がそこに寝ているようだった。

 そしてこの天使を傷つけようとする者がいる。

 心も体もぼろぼろになっても他人を守ろうとする少年。

 そしてありったけの優しさで私を元気づけてくれた少年。

 そのシンジの寝顔を見てリツコは、改めて決意を固めていた。

 『絶対に許さないんだから!』

 そしてすぐに優しい顔に戻ると、いつもとは逆にリツコがおはようのキスをした。

 「シンジ君、起きて・・・もう朝よ」

 シンジは眉を寄せてから目を開けた。

 「あ、おはようリツコさん・・・」

 少し眠たそうに微笑む・・・。

 「あれ、今日は早いんですね?」

 「シンジ君がケガをしている時くらいはね・・・」

 リツコの気持ちが嬉しくてシンジは、リツコの体に手を回して抱き寄せてキスをした。

 「ありがとうリツコさん・・・」

 シンジが少し甘える感じがしたのでリツコはたまには良いわねと思っていた。

 「紅茶が冷めちゃうから・・・」

 「・・・うん」

 それからリツコの作ってくれた朝食を、シンジはゆっくりと味わった。

 




 玄関のドアを開けるとそこに加持とミサトが立っていた。

 「おっはようリツコ、シンちゃん、ケガの具合どう?」

 ミサトに続いて加持は手を挙げて挨拶を交わす。

 「おはようございます、大丈夫ですよ」

 そう言って軽く腕を挙げて見せるシンジにミサトも少し安心した。

 「ただ、今日はお弁当の用意ができなくて・・・」

 すまなさそうに苦笑いをするシンジ。

 「まあしかたないかぁ・・・」

 ちょっと残念そうに肩を落とすミサトを加持が慰める。

 「たまには外食も良いじゃないか」

 「そうね、ミサトのお弁当よりは良いわね」

 「ど〜ゆ〜意味かな〜?」

 リツコはミサトの顔に指を突きつけてハッキリ宣言した。

 「忘れた訳じゃないでしょうね・・・、あのおにぎりのことを?」

 ミサトは記憶の彼方に押しやったある事を思い出しこめかみに冷や汗が流れた。

 「思いだしてくれたかしら・・・、ミサト」

 「そ、そんなこともあったような〜」

 リツコとミサトの間には緊張した雰囲気が流れていた。

 「おっはよう!シンジお兄ちゃん!」

 そんな感じを吹き飛ばすように、隣からマナが元気に挨拶をして出てきた。

 「おはようマナ」

 「大丈夫お兄ちゃん?」

 マナは心配そうに包帯が巻かれた腕を見る。

 「うん、もうそんなに痛くないから・・・」

 シンジの笑顔にマナもホッとした。

 「ごめんね、マナに心配かけちゃって・・・」

 「今度は無茶しないでね!」

 「うん、そうするよ」

 素直に頷いていると、そこにトウジとケンスケがやって来た。

 「おはようさんシンジ、みんなしてどないしたん?」

 「おはようシンジ、ところでその包帯は?」

 シンジは多分聞かれるだろうと思っていたので苦笑いして答えた。

 「とりあえず学校に行く途中に話すよ」

 「おおそやな」

 シンジは振り向いてリツコに挨拶をする。

 「リツコさん、行ってきます」

 「うん、気をつけてねシンジ君」

 少し心配そうなリツコに笑いかけてからみんなと学校に向かった。

 


 

 シンジ達が行った後、リツコ達は表情を引き締めて話し出した。

 「加持君、シンジ君を襲った連中について何か解った?」

 加持はタバコに火をつけて一服してから話した。

 「どうやら俺にも関係してるらしい・・・」

 ミサトが加持の顔を見つめて話す。

 「それどういう意味よ?」

 「まあミサトやりっちゃんも知っていると思うけど・・・」

 「なにそれ?」

 「詳しくは本部に行ってから話そう」

 「そうね・・・」

 「そうしますか・・・」

 そしてリツコの申し出により、今日は加持の運転で車は動き出した。

 リツコは携帯電話をバッグから取り出すとボタンを押した。

 「もしもしマヤ?私・・・そう、司令室に召集をお願い」

 それだけ言うと電話を切った。

 後ろに座っているリツコの顔をミラー越しに見たミサトは振り向いていった。

 「リツコ・・・顔が怖いわよ・・・」

 「当たり前よ・・・絶対に許さないんだから・・・」

 リツコの目を見たミサトはシンジを襲った奴らに同情しそうになった。

 加持はその様子を見て苦笑いを浮かべながらハンドルを握った。

 駐車場に車を入れると三人はエレベーターに乗り込み、操作盤にあるテンキーを

 操作した。

 一部の者しか使えないコードを打ち込むと、エレベーターはどこにも止まらずに

 最上階に向かってのぼり始めた。

 ドアが開き三人は司令室の前で止まった。

 ミサトが脇にあるモニターに手を当てるとドアはすぐに開いた。

 「葛城、赤木、加持入ります」

 「うむ、早かったな・・・」

 そこには冬月が椅子に座り羊羹をつまみながらお茶を飲んでいた。

 その後にマヤ、日向、青葉の三人もやって来た。

 「すみません遅くなりました」

 マヤが頭を下げる。

 「私達も今来た所よ」

 リツコがマヤに声をかける。

 「みんな集まったようだな・・・、では始めるとするか」

 冬月の言葉に全員の表情が引き締まる、それは使徒と戦っていた時のように。

 




 まずは加持が調べてきたことから話し始めた。

 「昨日現地に行って調べてきましたが予想通りでした・・・」

 「どこに行ってきたの?」

 ミサトが加持の行き先について訪ねた。

 「第28放置區域と言えば解るだろ?」

 加持の答えを聞いてリツコはハッとした。

 「まさか・・・」

 「そのまさかさ・・・”JA”とその資料はすべて消えていたし、おまけに

 あれ以来の時田博士の消息もつかめない」

 「すると今回の首謀者は・・・」

 ミサトの想像を肯定するように加持が言葉を続ける。

 「時田博士が関与していると思って間違いないだろう」

 「あんにゃろめ!」

 ミサトは愚痴った後すぐにもう一つ考えていたことを話した。

 「とするとあのポンコツを使って何かしてくるわね・・・」

 「ああ、おそらく」

 ミサトは作戦部時代の顔に戻ってこれからについていろいろ考え始めていた。

 それから加持はリツコに向かって話し始めた。

 「それから昨日シンジ君を襲った奴らのことだけど気になることがある」

 「どう言うこと?」

 「奴らは元は戦時の諜報部のメンバーだった」

 それを聞いたリツコはあることに気がついた。

 「まさかマナは・・・」

 加持は珍しく苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。

 「考えたくないが・・・」

 リツコはもしそうだとしたらシンジがとても苦しむと思った。

 リツコが俯いて表情を暗くしたのを見た加持は元気づけるように肩に手をおいた。

 「シンジくんについては俺が手を打っておいたから大丈夫だよ」

 「それって・・・」

 「少なくとも学校に行っている間は大丈夫だ」

 加持の笑顔にリツコは少しだけ安心した。

 そして今まで黙っていた冬月がリツコにNERV総司令として命令をする。

 「葛城君、これよりNERVは第一級非常警戒態勢に移行する、速やかに職員の召集を行うように」

 「了解しました」

 「赤木君、現時刻を以て零号機の凍結を解除する、直ちに起動可能状態にするように」

 その言葉にリツコ達に緊張が走る。

 「パイロットにはシンジ君を」

 「そ、それは・・・」

 冬月は毅然とした態度で言葉を続けた。

 「我々はこの平和な時を守らねばならない、願いを託した者達のためにも・・・」

 そしてリツコに謝るように話した。

 「すまない赤木君・・・、しかし今の我々にはシンジ君しかいないのだ」

 みんなの心に又シンジを戦いに引き込まなければならないと思うとやるせなかった。

 そして誰よりもシンジに戦って欲しくなかったリツコだった。

 しかも今回の敵は同じ人間なのだから・・・。

 きっと彼の心は傷ついて仕舞うだろう・・・、顔では笑っていても・・・。

 でも、迷っている時間はなかった、いつ彼らが攻めてくるか解らないのだ。

 自分たちが出来る最前の手を考えなければならなかった。

 そしてリツコは辛い選択をしなければならなかった。

 リツコはいつもの穏やかな表情を隠して二年前の自分を呼び覚まさした。

 「十二時間以内に零号機を起動可能状態にします」

 「すまんな・・・」

 冬月が頭を深々と下げる・・・。

 リツコは軽く首を横に振るとマヤの方を見た。

 「マヤ、行くわよ」

 リツコの厳しい表情にマヤも背筋を伸ばして応えた。

 「は、はい」

 リツコはマヤと供に早足でケイジに向かった。

 それを見ていたミサトもリツコの気持ちを感じながら二人に声を掛けた。

 「日向君、青葉君、発令所に行くわ」

 「「了解」」

 ミサトも顔を引き締めて、二人を引き連れ司令室を出ていった。

 残された冬月と加持は手持ちぶたさにしていた。

 「鍵は零号機だな・・・」

 「今のシンジ君なら大丈夫だと思いますよ」

 「ユイ君の息子だからな・・・、付け加えるならあいつの息子でもあったな」

 「それに零号機には彼女がいますから・・・きっと応えてくれますよ」

 「歯がゆいな・・・見守るだけとは・・・」

 冬月はぬるくなったお茶を飲んで新しくポットからお湯を注いだ。

 「ところで例の話はしなくて良かったのか?」

 「後で驚かそうと思いまして・・・」

 冬月は静かにお茶をすすると一言言った。

 「赤木君に恨まれても私は知らんよ」

 加持は苦笑いで応えた。

 




 第三新東京市国際空港。

 今や日本の玄関になっていた。

 その滑走路にドイツからの旅客機が到着した。

 観光や仕事で訪れた人達の中をゲートを抜けて一人の少女が歩いてきた。

 抜群のプロポーションとその美貌に周りの人は立ち止まって彼女に注目した。

 まるで女神がそこに舞い降りたごとく気高い空気があたりを包んでいた。

 「二年ぶりか・・・」

 思わず口から言葉がこぼれた。

 かつてこの街で戦いに破れ心も体も傷つき果てた一人の少女。

 しかし母親のぬくもりの中で傷は癒され再び立ち上がった。

 そして少女の心の中は様々な思いで溢れていた。

 彼女は久しぶりに戻ってきた街を見渡しながら呟いた。

 「帰ってきたわ・・・この街に!」

 背中に靡く栗色の髪に輝く蒼い瞳。

 自信に満ちあふれた表情ですっかり元気になった少女。

 

 

 「行くわよ!アスカ!」

 

 

 戦いの女神、惣流アスカラングレーの復活であった。



 

 つづく


 第六話をお贈りしました。

 これからは物語は急速に進み始めます。

 再びエヴァに乗ることになるシンジ、心の葛藤と戦うリツコ、そしてマナは・・・。

 それになんと言ってもアスカの復活がみんなを勇気づける。

 暗躍する時田博士と戦時の諜報部の残党・・・。

 なんかシリアスになってきたぞ・・・

 それでは第7話までしばしのお別れです。

 じろ〜でした。


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