新世紀エヴァンゲリオン After Story






 GLORIA






 第九話 Identity Crysis






 ジオ・フロント第一実験室。

 久しぶりのエントリープラグの中でシンジは昔のことを思い出していた。

 今となっては辛く悲しい思い出だが忘れようとは思わなかった、なぜならそれはリツコとの出会いも

 それに含まれているからである。

 手にクリップボードを持ったリツコがマイクに向かって話しかける。

 「シンジ君、そろそろ始めても良いかしら?」

 「どうぞ、準備OKですリツコさん」

 「うん、それじゃマヤ、零号機起動実験開始」

 「はい、零号機起動実験開始します」

 マヤの開始の言葉が伝わったその瞬間、実験室では緊張した空気が漂い始めた。






 その時、司令室には冬月とミサトと加持がマギにシュミレートさせた時田博士達の行動表を見ながら作戦会議をしていた。

 「ふむ、すると時田博士の本当の狙いは赤木君という訳か・・・」

 「はい、そして赤木博士に対する恨みでシンジ君を狙ったということです、しかもうまくいけば一石二鳥ですから」

 「そして次に狙ってくるのはおそらく三日後に控えている平和記念式典当日だと、マギは98%の確率で予測しました」

 「なるほど、式典の騒ぎを利用すると言うことか・・・」

 冬月はその報告を聞いて頭の中で判断すると、厳しい顔つきで自分の考えを口にした。

 「対応については二人に任せる、もちろん戦自の方にも協力を仰ごう」

 「了解しました、これよりNERVは第一級警戒態勢に移行します」

 「うむ、だがぎりぎりまで市民に対してはなるべく悟られんようにしてくれ、混乱は敵の思うつぼだからな」

 「了解しました」

 冬月に敬礼して司令室を出ていくミサトを見送った加持は会話を続けた。

 「所で彼女の方は何か動きが在ったかね?」

 「いえ、ただ動きが有るとすればおそらくそろそろかもしれません、まあその為にアスカを付けましたからね・・・」

 冬月は椅子に深く座り込んで天井を見上げると、深くため息を着いて呟いた。

 「私も碇と変わらんな・・・子供達に頼るしかないとは情けない」

 加持はたばこに火を付けると吸い込んだ煙を吐き出して冬月の呟きを消すように黙って佇んでいた。






 リツコの指令を、マヤが実行しながら応える。

 「始めるわよ、主電源コンタクト」

 「はい主電源コンタクト、臨界点到達まで後3,2,1,0、稼動電圧臨界点到達」

 「そのまま、フォーマットフェイスへ移行」

 「了解、フォーマットフェイスへ移行します、パイロット零号機と接合に入ります」

 「フォーマットスタート、シナプス結合にはいります」

 「全回路正常、初期コンタクト異常無し、パルス及びハーモニクス正常」

 「マヤ、絶対境界線確認して」

 「はい、絶対境界線まで後5,4,3,2,1,0」

 「絶対境界線突破・・・零号機起動に成功しました」

 「シンクロ率は?」

 「はい、シンクロ率は・・・82.75%です」

 それを聞いたスタッフの間に安堵のため息が漏れて緊張した雰囲気はだいぶ和らいだ。

 もちろんマヤの報告を聞いたリツコはほっと一息付くと、マイクに向かってシンジに語りかけた。

 「シンジ君、気分はどう?」

 「はい、特に問題有りませんただ・・・」

 「ただ?」

 「気の所為かもしれませんが、何か前に乗った時とちょっと感じが違う気がします」

 「どんな風に違うの?」

 「なんて言うのか・・・そう、例えるなら初号機に乗っている様な感じなんです」

 「初号機?」

 「ええ、こう温かいというか・・・今のシンクロも零号機の方が合わせてくれた様な感じが・・・」

 シンジの言葉を聞いたリツコはガラスの向こうに佇んでいる零号機を温かい眼差しで見つめた。

 そして心の中で今だ零号機の中にいる自分の母親に感謝する共に自分の愛しているシンジを理解して貰えたと

 感謝していた。






 予想以上のシンクロ率を得られた事がリツコにとって何よりも安心できる材料にもなった。

 取り合えず不安であった事が無くなった事で気持ちにも余裕が出来てきたので自然に笑顔が浮かんでいた。

 自分の私室で端末にデータを打ち込みをしていると、ドアが開いてマヤがファイルを持って来た。

 「先輩、最終調整終了しました、これならいつでもOKです」

 「ん、解ったわマヤ・・・とにかく一つクリアしたわね」

 マヤから貰った最終報告書を見ながら一息付くとシャワーを浴びて着替えたシンジが続いて入ってきた。

 「お疲れさまシンジ君、何ともない?」

 「はいリツコさん・・・ちょっとだけ緊張しましたけど何ともないです」

 「うん」

 シンジを見つめて微笑むリツコを見てマヤは思わず可愛いと思ってしまった。

 「あ〜熱いですね、先輩も思いませんか、ここ♪」

 「マ、マヤ!?」

 「あ、あの、そうだお腹空いてませんか二人とも?」

 マヤのからかいを誤魔化すように手に持っていたバッグからお弁当の包みを出すと二人の前に差し出した。

 「良かったらどうですか? もちろんマヤさんの分も有りますよ」

 「ありがとうシンジ君、でもマヤはダイエットしているから食べられないって」

 「ああっ!? そんな事言ってないですよ先輩!」

 せっかく作って貰えたシンジの特製弁当をお預けという報復にマヤは愕然としてしまった。

 「さあシンジ君も一緒に食べましょう♪」

 「そうですか、せっかくマヤさんの好きな物も作ってきたんだけどダイエットなら仕方ないですね?」

 いそいそとリツコはマヤを無視してお弁当を広げながら、シンジはお茶を入れる用意をし始める。

 「あ〜ん、先輩ごめんなさい〜許して下さい〜」

 リツコの肩に手を掛けて懇願するマヤを二人は声を合わせて笑い出した。

 それから三人で楽しい食事をしながら、リツコとマヤはシンジの温かい心遣いに内心感謝していた。

 そして二人は改めて思った・・・この温かい笑顔と心がいつまでも続くようにと・・・。






 「ふんふんふ〜♪」

 学校から帰ってきたマナは今日の夕飯の準備をしていた。

 いつもシンジに作ってもらっていたので、たまには私に作らせてとマナが自分から言い出した。

 そんなわけでがんばってシンジの好物など聞き出してそれに挑戦していた。

 「これで良し! 後は食べる前に温めればOKね♪」

 味見をして予想以上に上手くできたのかキッチンでくるくる回っているマナに、アスカが呆れかえった声を

 掛けてきた。

 「何がそんなに嬉しいのよ?」

 「あ、料理が出来ないアスカさんには解らないですよね? この感動が〜♪」

 「はん、別に料理が出来無くったって死にはしないわよ」

 「ん〜でもそれじゃあ嫁の貰い手有りませんよ?」

 「いいのよ・・・シンジの愛人にでもなれば問題ないわ」

 思わず手に持っていたお玉を落とすと、平然と変なこと言ったアスカに詰め寄った。

 「ア、ア、アスカさん!? い、今なんて・・・」

 「冗談よ」

 ニヤリと意地の悪い笑顔でマナの脇をすり抜けると、鍋の中を覗き込んでその匂いを嗅ぐ。

 「う〜んいい匂い、ねえちょっとだけ味見してもいい?」

 「はぁ〜どうぞお好きに・・・」

 からかわれたと理解したマナはリビングのソファに沈み込むように体を投げ出した。

 「・・・でも、案外本気だったりして?」

 いまいちアスカの真意が掴めないマナは何となく面白くなかった・・・。

 ピピピピッ。

 テーブルに置いてあった携帯から呼び出し音が鳴り出した。

 「はい、霧島ですが?」

 『山猫は眠らない』

 ブツッ、ツーツー。

 電話を持ったまま動かないマナの様子をキッチンから見ていたアスカの目が鈍く光っていた。

 「来たわね・・・」

 気持ちを引き締めたアスカは口の中で小さく呟いた。






 いつもの夕食の時間だった。

 ミサトがビールを飲んで騒ぎ、アスカが笑い、加持が苦笑い、リツコとシンジはからかわれて赤くなる。

 マナの楽しそうな笑顔と笑いが続いていた・・・。

 食事も終わりシンジが食器を洗い始めてみんなの気が緩んでのんびりした時間に、マナがキッチンに

 いるシンジの背後に静かに佇んだ。

 「ん、マナどうしたの?」

 「あのね、大事な話があるの・・・ちょっといい、シンジ?」

 「うん、いいけど話って・・・」

 そこまで言ってシンジは気が付いた、マナが自分の事を『シンジ』と呼び捨てにしたことに。

 笑顔のままだけどマナの瞳が何も写していないことにも。



 かしゃん。



 「シンジ!」

 アスカが投げたクッションに一瞬視界を塞がれたマナの動きが乱れた隙に、シンジがその手に握られていた

 細身のナイフを叩き落とした。

 怯みながらも身を翻したマナが玄関に向かって走り出した後を追ってシンジとアスカがキッチンを飛び出した。

 「マナ!」

 ドアの所で一瞬シンジの方を振り向いたマナは乾いた笑いを浮かべた次の瞬間、手に持っていた物を転がして

 走り去った。

 「アスカ!」

 「きゃっ?」

 いきなり振り向いたシンジに飛びかかられて、後ろにいたアスカは抱きしめられるように倒されて床に転がった。

 そして・・・。






 ドカン!






 深夜の街に爆発音が響いた。

 パラ・・・。

 煙が漂うリビングの中で誰かがゆっくりと立ち上がる。

 「二人とも大丈夫か?」

 「う〜頭ががんがんするぅ〜・・・」

 「うっ・・・私は大丈夫・・・はっ? シンジ君!?」

 頭を押さえながらリツコは立ち上がるとふらふらしながらも玄関の方に歩いていった。

 「シンジ君!」

 「うっ・・・」

 リツコの声にアスカが呻いてゆっくりと目を開けると自分が置かれている状況を何とか把握できた。

 そして自分を庇って抱きしめているシンジの顔を見上げると、アスカは自分の顔に何かが零れてくるのを

 感じて目を見開いた。

 シンジの頭から生暖かい血がぽたぽたとアスカの頬を赤く染めていった・・・。

 「シンジ!?」

 アスカの声にも反応しないシンジの顔は眠るように穏やかだった。

 「シンジ、シンジ!」

 「揺らしちゃだめ、アスカ!」

 二人の側にしゃがんでリツコは唇を噛みしめながらもシンジの様子を見ると、かなり深刻だと判断すると振り向いて

 加持とミサトに叫んだ。

 「加持君! 急いで車を用意して、それとミサトはマヤに連絡して!」

 答えるよりも素早く行動する二人から再びシンジに目を向けると、抱きしめられたままのアスカに呟いた。

 「今は動かさないで・・・シンジ君は大丈夫だから」

 「うっ・・・くっ・・・」

 リツコの言葉にアスカの顔が一瞬くしゃっとなって直ぐに目からは涙がこぼれ始めた。

 「バ、バカなんだから・・・あたしを、あたしを庇ってどうすんのよ?」

 止め処もなく流れるアスカの涙を見ながらリツコは温かい微笑みで見つめながらその涙を拭ってあげた。

 「シンジ君にとってアスカは一人の女の子なのよ、だから守ってしまったと思うの・・・」

 「ひっく・・・うっく・・・」

 「だからこそ私は好きなの、こんなにも温かい優しい心を持ったシンジ君が・・・」

 アスカはその言葉を聞いてますます泣き始めてしまったのを、リツコは母親の様に何回もそっと頭を撫でて

 加持達が来るまで待っていた。






 その笑顔とは逆にリツコの頭の中はすり切れるほどに目まぐるしく回り出していた。

 『楽には死なせないわよ時田シロウ、どんな手を使っても探し出して引きずり出してやるわ』

 リツコの瞳の奥にゆらゆらと青白い炎が確かに灯っていた・・・。






 つづく


 だいぶ間が空きましたが第九話です。

 とうとうシンジ君は傷ついて倒れてしまいました。

 リツコの心は時田に対する激しい怒りで燃え上がっています。

 アスカもガードする立場なのに逆に守られてしまい少し自己嫌悪になりますが、

 リツコに励まされてアスカは奮い立ちます。

 そして消えたマナの行方は?

 意識不明のシンジを見透かしたように、

 第三新東京市に時田一派の動きが目立ち始める・・・。


 戻る

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル