Pia・きゃろっとへようこそ!!2 Side Story






 Pia・キャロットへようこそ!!2 DASH






 Menu1 そして再び・・・






 「ここに来るのも久しぶりだな・・・」

 

 

 店の前に立つ彼、前田耕治が見つめるもの・・・Pia・キャロット〜中杉通り店〜

 数ヶ月前、親友の誘いで一夏の間耕治はこの店でいろんな人と出会い楽しい時を過ごした。

 ほんの軽い気持ちで始めたバイトではあったが、それは大切なことを学びまたこれから先の

 事を考えるきっかけにもなった。

 それから数ヶ月後、今年が終わるまで後少しという時に再び耕治はこの店に戻ってきた。

 お店のの裏に回って従業員用出入り口から中に入り事務所のドアをノックした。

 こんこん。

 「どうぞ〜」

 ドアを開け中にはいると、あの夏の時と変わらない人が笑顔で耕治を出迎えてくれた。

 「いらっしゃい、待っていたわよ耕治君」

 「お久しぶりです、涼子さん」

 耕治の目の前で椅子に腰掛けて挨拶をしてくれたのは、マネージャーの双葉涼子さんである。

 メガネを掛け、長い髪を首の後ろあたりで一つにまとめている綺麗な女性だ。

 「本当に戻ってきてくれたのね、耕治君」

 「そう約束したじゃありませんか? 涼子さん」

 頷き、笑顔で当然のように返事をする耕治を見て、自分の思っていた答えを聞けて涼子も微笑んだ。

 「そうだったわね」

 「ですから遠慮なく使って下さい」

 涼子はいたずら好きの子供のように目を細めて耕治の顔をのぞき込む。

 「それじゃ・・・さそっく倉庫整理でもしてもらえるかしら?」

 「もちろん! 任せて下さい」

 そう言って席を立とうとする耕治に向かって涼子は呼び止める。

 「あ、待って耕治君・・・」

 「何ですか涼子さん?」

 涼子は大好きな人を見るように笑うと、心に思っていた言葉を口にした。

 

 「お帰りなさい耕治君、そしてPia・キャロットへようこそ♪」

 「ただいま涼子さん」






 耕治はロッカールームで着替えるとすぐに倉庫整理を始めることにした。

 久しぶりの仕事はきつかったが、それ以上に心の中は充実していた。

 「やっぱりここに帰ってきてよかったな・・・」

 荷物を片づけながら自分の気持ちを確認すると耕治の顔は満足そうに笑顔が浮かんだ。

 ひとしきり片づけた後、時計を見ると休憩時間になっていたので何か飲み物を貰いに休憩室に来た。

 「失礼します」

 声を掛けてから、ドアを開け中に入ると一人の少女がジュースを飲んで休んでいた。

 そして部屋の中に入ってきた耕治の顔を見るなり、彼女は笑顔になって思いっきりその胸に抱きついた。

 「耕治! 帰ってきたんだ♪」

 「久しぶり・・・制服似合ってるよ潤!」

 神楽坂潤、以前は男の振りをして働いていたけど耕治に気づかれて自分のことを話した後、正直に

 店長達にも事情を説明をして今では女の子の姿でお店で働いている。

 もちろんキャロットにとっても可愛いウエイトレスが増えたので店長を始め反対する人はいなかった。

 「ところでいつまで抱きついているのかな、潤?」

 「いいじゃない♪ 久しぶりに会えたんだから・・・」

 潤は胸から顔を上げ見つめると自分の思いに気づかない鈍感な耕治にほっぺたを膨らませて抗議した。

 しょうがないなと思いつつも苦笑いを浮かべて潤の好きなようにさせている耕治だった。

 でもすぐに落ち着いたらしく耕治から離れた潤は再び耕治の胸にぴったりと寄り添い甘えていた。

 「女の子に戻ったらずいぶん甘えん坊になったな潤?」

 「うん、自分の気持ちを素直に表現してるだけだよ♪」

 「すると今の姿が本当の潤てとこか・・・」

 自分を見てくすくす笑っている耕治から離れると潤は再びほっぺたを膨らませて赤くなる。

 「なんだよ、耕治も意地悪なのは変わらないんだから!」

 「はは、ごめんごめん」

 「駄目だね、もう怒ったんだから!」

 ぷいっとそっぽを向いてしまう潤。

 「本当にごめん、なあ許してくれよ潤?」

 拝むように両手を会わせて潤を上目使いで見る耕治に、頭を少し傾けるとにこっと笑顔になって言った。

 「そうだ! また遊園地に連れていってくれるんなら許してあげる♪」

 「わかったよ、それでいいんなら」

 「それじゃ約束だよ♪」

 そう言いながら潤は自分の可愛い小指を耕治の顔の前に差し出した。

 潤が何をしたいのか理解した耕治は自分の小指を絡ませた。

 「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲〜ます指切った♪」

 満足して指を離すとドアを開けて仕事に戻ろうする潤が振り向いた。

 「耕治、約束したからね♪」

 「ああ、仕事がんばれよ!」

 「うん♪」

 元気いっぱいに耕治に笑いかけてからドアを閉めて仕事に向かった。

 一人残され静かになった部屋の中で耕治は天井を見上げて思いに老けていた。

 「潤の奴、可愛くなったよな・・・」

 それが自分に対する思いのためとは全く気づかない鈍感な耕治だった。






 休憩が終わった耕治は再び倉庫整理に精を出した。

 「まあ、こんな処かな?」

 かたずける前と違って綺麗に分類された倉庫の中を見て耕治は一人で頷いていた。

 額の汗を拭うと、腕の時計を見ると閉店時間まで後わずかだった。

 フロアの方に様子を見に来ると耕治に気がついた二人のウエイトレスが早足で側に寄ってきた。

 「耕治お兄ちゃん!」

 「耕治ちゃん!」

 「二人とも久しぶり、元気だった?」

 「えへへ、もちろん美奈は元気でした〜♪」

 耕治に嬉しそうに頭を撫でられてるのは日野森美奈。年下だけど仕事では先輩である。

 「うん、ボクも元気だよ♪」

 耕治の腕に抱きついているのは榎本つかさ。キャロット一号店から移ってきたコスプレ大好き娘。

 「また一緒に働くことになったからよろしくね」

 「耕治お兄ちゃんなら美奈は大歓迎ですぅ〜♪」

 「ボクも耕治ちゃんなら嬉しいな〜♪」

 二人が耕治の両腕にぶら下がって甘えていると、いつにまにか側に来ていた潤が二人の襟首を持って

 強引に引き離した。

 「まだ仕事中だよ? 二人とも離れて!」

 「あ〜んひどいですぅ〜!」

 「じゅんじゅんひどいよ〜!」

 すっごく幸せな時間を邪魔された二人は、潤に向かって抗議の声を挙げた。

 「まあまあ・・・そんなに怒るなよ、なあ潤?」

 ちょっぴり険悪なムードの三人の中に耕治が入ってみんなを宥めた。

 「耕治お兄ちゃん優しいですぅ〜♪」

 「ほら、耕治ちゃんだっていいって♪」

 「もう、耕治は甘いんだから!」

 腕を組んで一人ほっぺたを膨らませている潤を引き寄せて耕治は頭を撫ででやる。

 「怒っていると可愛い顔が台無しだぞ、潤?」

 「こ、こんな事で、誤魔化されないんだから・・・」

 ほっぺたを赤く染めて抗議しつつも潤の顔はすぐにふにゃぁ〜となって、そのまま耕治の胸に抱きついた。

 こうなると残された二人もメラメラと対抗心を燃やしてまたしても耕治の腕に抱きついた。

 「潤さんずるいですぅ〜!」

 「じゅんじゅん独り占めは駄目だよ!」

 「ちょ、ちょっと三人とも苦しい〜」

 三人に抱きつかれて困っている耕治の前に、もう一人のウエイトレスが現れた。

 「あら〜♪ あたしも混ぜてもらおうかしら?」

 「笑ってないで助けて下さいよ、葵さん!」

 耕治達を笑いながら楽しそうに眺めているのはフロアリーダーの皆瀬葵である。

 キャロット一のせくしぃだいなまいつ、別名”宴会大魔王”とも呼ばれている酒豪で耕治も以前に何回も撃沈されている。

 「今日の夜、あたしにつき合ってくれるなら助けてあげてもいいわよ?」

 「それって・・・」

 耕治の脳裏に在りし日の惨劇が所狭しと渦巻いていた。

 「さ〜て、どうする耕治君♪」

 ニンマリして耕治の顔をのぞき込む葵。

 前門の虎、後門の狼、まさに進退窮まった耕治に救いを差し伸べてくれる女神様が現れた。

 

 ばしっ!

 

 「いい加減にしなさいよ〜、葵!」

 「涼子さん!」

 葵の頭をファイルで叩きながら涼子が助けにきた。

 「ちょっと涼子! 今のは痛かったわよ〜」

 頭を押さえて痛がっている葵を無視してみんなに話しかける。

 「ほらほらみんなも耕治君が困っているから、とりあえず離れてね」

 「ごめんね耕治」

 「ごめんなさい耕治お兄ちゃん」

 「ごめんなさい耕治ちゃん」

 涼子に諭されて、各々耕治に謝りながら離れた。

 「ありがとう、涼子さん」

 「ううん、それよりこれから寮の方で歓迎会をしようと思っていたんだけど・・・」

 「えっ、そうなんですか?」

 するとさっきまで痛がっていた葵が耕治の頭をその自慢の胸に抱きしめながら言った。

 「さっすが涼子♪ その考えにあたしも乗った♪」

 「もががが・・・」

 胸の中で耕治が窒息しそうになってもがいているが、そんなことにお構いなしに葵は叫ぶ。

 「そうと決まれば急いでいくわよ〜♪」

 そしてそのまま耕治を胸に抱きしめたまま店のドアを開けて出ていってしまった。

 「ちょ、ちょっと葵待ちなさい!」

 「葵さんずるい!」

 「耕治ちゃんを独り占めしないで!」

 「あ〜ん待って下さい〜」

 あまりにも素早い葵の行動に唖然とした涼子達だが慌てて後を追いだした。






 しばらくして、静かになったフロアに店長の木ノ下祐介がやってきた。

 「あれ? 誰もいないのかな・・・」

 一人寂しく呟く祐介だった。






 こうして止まっていた耕治の時間は再び動き始めた。






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 ど〜も〜、じろ〜です。

 ぴあ・きゃろの連載SS第一弾を書きました。

 一応あずさのBAD ENDから数ヶ月後の12月からの話です。

 研修旅行の最後の夜に耕治の部屋でKISSをして離れていったということになりますが

 真士とはつき合っていません。

 その辺の理由もSSの中に書き込んでいきます。

 ちょっぴりシリアスでせつない話にできると良いなと思っています。

 でも、私が書くからきっと誰かとHAPPY ENDになることは間違いないです。

 今はとにかくこの話を書き上げることに力を込めてがんばります。

 では、Menu2で会いましょう!

 1999/9/5 加筆修正


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