Pia・きゃろっとへようこそ!!2 After Story






 Pia・キャロットへようこそ!!2 DASH






 Menu5 あずさの思い






 「日野森・・・」






 耕治は入り口でドアを開けたまま動けなかった。

 彼女を見つめるその顔には再会を喜ぶと言うより、困った様な悲しい様な表情を浮かべていた。

 「前田君、その・・・久しぶり」

 どこかぎこちなく笑うあずさの言葉に我に返った耕治は視線をずらすと、店長に声をかけた。

 「あ、あの用事ってなんですか?」

 「ん? ああそうだった、実は業者の都合で納品が早まって今日になってしまったんだ」

 「解りました、それじゃ今日は倉庫整理に廻ります」

 「済まないな、前田君」

 「いえ、それじゃ」

 「あ、前田君」

 呼びかけるあずさに振り返りもせずに、耕治はドアを閉めて倉庫の方に早足で行ってしまった。

 「前田君・・・」

 耕治がいなくなっても暫く閉まったドアを見つめていたあずさの背中に、店長は遠慮がちに

 声をかけた。

 「何かあったのかい、前田君と?」

 「え、いえ・・・」

 言いにくそうに顔を背けたあずさに、店長はこれ以上の追求は止めて話を切り替えた。

 「それじゃ今日からよろしく、あずさ君」

 「は、はい、こちらこそ急にお願いしてすいませんでした」

 「いや、こっちとしても人手が欲しかったところだから、気にしなくても良いよ」

 「解りました」

 ぺこっと頭を下げてお辞儀をした後、夏休みの時と同じようにロッカーで着替えると

 フロアの方に向かった。






 「あ〜らあずさちゃん、久しぶりね〜」

 「またよろしくお願いします、葵さん」

 ぺこっとお辞儀するあずさを見て葵はニンマリと笑った。

 「じゃあ早速今日は飲み会だわ〜♪」

 「ええっ? そ、それは・・・」

 冷や汗流して笑顔を浮かべているあずさの側に寄ってきたつかさが声を掛けた。

 「あ〜っ、あずさちゃん久しぶり〜元気してた?」

 「うん、つかさちゃんも元気みたいね」

 「もちろんだワン♪」

 「あははは〜」

 「あ、あずさお姉ちゃん」

 「ミーナ、よろしくね」

 「はい、美奈はここでは先輩ですから♪」

 「あらミーナ、言ってくれるわね」

 小さくガッツポーズを取る美奈に笑いながらあずさ達はお互いに再会を喜び合った。

 「ところで今ここにいるのがウェイトレス全員ですか?」

 「ううん、あと留美ちゃんともう一人かな?」

 「これが今凄いんだワン♪」

 「そうなのあずさお姉ちゃん」

 「何が?」

 怪訝な表情で聞くあずさに葵はニヤァ〜っと笑うとその質問に答えてあげた。

 「そう、まさに恋のバトルロイヤル! で、賞品はなんと耕治君なのよ〜♪」

 「えっ?」

 あずさの表情が一瞬固まるがすぐに詳しい事を葵に聞こうと思った時にその話題の二人が

 やって来た。

 「耕治君〜、留美を置いていくなんて酷いよ〜!」

 「耕治! どこに行ったの?」

 しかしそこで目にしたのは、二人の最大のライバルとなるかもしれないあずさがみんなと一緒にいた。

 「あ〜!? あずささん」

 「え? ホントだ、でもどうして・・・」

 留美とは面識はあったがもう一人はどう見ても男の神楽坂が女装しているのにあずさは面食らった。

 「な、何で神楽坂君がウェイトレスの格好しているのよ〜?」

 「あ〜そうでしたぁ、あずさお姉ちゃんは知らなかったんですよね」

 美奈の言葉を引き継ぐ形で葵が潤の紹介をすることになった。

 「あのねあずさちゃん、本当は潤君は女の子でお芝居の勉強のために男の子の姿をしてたのよ」

 「ごめんなさい、あずささん」

 「ううん、そう言うことなら仕方ないし私も全然気がつかなかったから」

 「うん、お店で気がついたのは耕治だけだったんだ」

 「え、前田君だけ?」

 「あっ!」

 慌てて口を押さえる潤をみんなは見逃さなかった、特に留美は潤の肩を掴んで逃がさない様にしていた。

 「潤君、私もその話し聞いたこと無かったわ、葵に教えて〜♪」

 「神楽坂潤さん、留美もその話じっくりとお聞きしたいわ〜」

 「ははっ、二人ともなんだか怖いんですけど・・・」

 潤にとって二人は禿げ鷹の様に目をぎらぎらと光らせて、今にも襲い掛かろうとしている様に見えた。

 でも、葵は好奇心から酒の肴になると思ったのだが留美の方はライバルに出し抜かれていると思った

 焦りからであった。

 実際、一歩リードしているのは間違いないから潤としては内心ちょっとだけ嬉しかった。

 「そう言えば研修旅行の時、耕治君と同じ部屋だったわね・・・」

 そこに葵が火に油を注ぐようなことを思い出して口に出してしまった。

 「あ、葵さん!?」

 「ま、まさか・・・」

 留美の頭の中に最悪な事が思い浮かぶと、力を込めて潤の肩を掴んでキスしそうなくらい顔を

 近づけて睨んでいた。

 「じゅ、潤君まさか耕治君と・・・」

 「えっ、その、別に・・・」

 さらに両脇からつかさと美奈が潤の腕をしっかりと掴んで聞いてきた。

 「なになにじゅんじゅん、教えて教えて〜」

 「美奈もとっても知りたいですぅ〜」

 「あ〜ん、みんな離して下さいよ〜」

 「「「「だ〜め、ちゃんと言ってくれなきゃ離しませ〜ん!!」」」」

 「そんな〜」

 みんなに囲まれて逃げ場所が無くなった潤は額に冷や汗をかきながら笑って誤魔化していた。

 しかし、あずさだけは少し離れた所でみんなの様子を一人浮かない顔で眺めていた。






 そんな賑やかなフロアと違って静かな倉庫で耕治は荷物の整理もせずに、壁に寄り掛かったまま

 呆然と虚ろな目で床を見つめていた。

 「どうして・・・どうして戻ってきたんだ、日野森・・・」

 会いたかった、もっと話がしたかった・・・でも。

 俺は・・・俺は日野森と笑って話すことは出来ない。

 あんなに見たかった日野森の笑顔が今は見るのがつらい・・・。

 苦しい・・・。

 耕治は胸を掴む仕草をしたまま、崩れ落ちるように腰を落とすと項垂れてしまった。

 誰もいない倉庫の片隅で小さな嗚咽が止まることはなかった。

 しかし、わずかに開いた倉庫のドアの所に店長の祐介だけが静かに寄り掛かって様子をうかがって

 いたことに耕治は気がつかなかった。

 「ふむ・・・」

 頷いた後、ドアをそっと閉めると事務所の方に足音を立てずに歩いて行った。

 それと入れ替わるように厨房から早苗が倉庫のドアをノックすると開けて中に入った。

 「あの耕治さん? すいませんけど材料を厨房に・・・」

 そこまで言って早苗は言葉を止めてしまった。

 彼女の目の前に力無く項垂れている耕治がいたからである。

 「耕治さん、大丈夫ですか? どこか調子が良くないんですか?」

 「あ、早苗さん・・・いえ何でもないです」

 顔を上げる前に目元を拭った仕草を早苗は見てしまい、そして耕治の顔を見て思ったことを確信した。

 「耕治さん・・・」

 「えっと・・・なんの材料でしたっけ?」

 心配そうに見つめる早苗に耕治は無理に笑顔を作って立ち上がると、注文の材料を棚から集め始めた。

 「耕治さん、無理しないで下さい」

 その背中に早苗は小さく呟き掛けた。






 それからの耕治は仕事を表と言うより裏方と言った仕事ばかりをするようになった。

 倉庫整理は言うに及ばず、仕込み、調理、掃除など自分から涼子に言ってそうさせてもらっていた。

 そうなると当然あずさとも顔を会わす機会も少なく、仕事の行き帰りの挨拶ぐらいだった。

 初めの内は誰も気にしなかったけど、こうも偏った仕事ばっかり選ぶ耕治にキャロットのみんなも

 おかしいと思い始めた。

 そんなある日、ピークも過ぎて落ち着いてきたお店の片隅で二人の年長者が声を小さく話していた。

 「ねえ葵・・・」

 「耕治君のことでしょ?」

 「うん、それなんだけど・・・」

 「う〜ん・・・このままじゃちょっとまずいわよね〜」

 「でも、この間までこんなに酷くはなかったのに・・・」

 「そうね急に変わったわ、しかもあの日から」

 二人は視線を追っていくとその先には、窓の外をぼんやり眺めているあずさが一人立っていた。

 「まるであずささんと顔を会わせたくない様に見えるんだけど」

 「私も涼子と同じよ、多分理由はそれだと思うわ」

 「でも、個人的なことに口出しするわけにはいかないし・・・」

 「それはそうなんだけど・・・」

 「そう言うことなら私にお任せ〜♪」

 と、二人が顔を突き合わせて悩んでいると、後ろから聞こえてきた明るい声に振り向くとそこには

 ニコニコしながら腰に手を当てて胸を張っている留美が立っていた。

 「留美さん、何かいい方法でもあるのかしら?」

 「もっちろん♪ すべて留美に任せて任せて〜」

 「なんとな〜く不安なんだけど・・・」

 「そうね」

 「酷いんだぁ二人とも!」

 葵と涼子に面と向かって本音を言われた留美はぷぅ〜と風船見たいにほっぺたを膨らませて怒りだした。

 

 

 

 仕事が終わり私服に着替えて帰ろうとして店の裏口から出てきた耕治の前に、あずさが思い詰めた顔で現れた。

 「前田君」

 「日野森?」

 一瞬驚いた顔をしてあずさを見たが、すぐに視線を逸らしてその横を通り過ぎ様とした。

 「待って前田君」

 「ごめん、疲れてるから」

 振り向きもせずにそれだけ言うとそのまま寮の方に歩いて行ってしまった。

 去っていく耕治の後ろ姿を見つめながらあずさは呟いた。

 

 

 

 「どうして、どうして私を見てくれないの・・・」

 

 

 

 あずさの頬を伝って一粒の涙がこぼれ落ちた。  

 



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 遅れましたが第五話です。

 ようやくキャロットにヒロインの登場です♪

 でも、耕治はあずさと顔を会わせようとしません。 

 逃げている耕治の心はどんどん疲れていってしまう。

 耕治の思いをよそに、潤に負けじと留美が大胆に耕治に迫ります。

 果たして留美の行動は耕治に何をもたらすのか?

 Menu6で会いましょう♪

 1999/9/8 加筆修正(それも二回目)


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