Pia・きゃろっとへようこそ!!2 After Story






 Pia・キャロットへようこそ!!2 DASH






 Menu7 美奈とつかさと






 「おっはよ〜ん♪」

 朝からハイテンションな雰囲気を振りまいて開店前のフロアに留美が笑顔でやってきた。

 「留美さんおはようですぅ〜何か良いことでも有ったんですか?」

 「ん〜そうね〜まぁ有ったと言えば有ったかなぁ〜♪」

 「え〜どんなことですか?」

 「ふふ〜ん知りたい美奈ちゃん?」

 「はい」

 「えへへ〜ナ・イ・ショ!」

 「あ〜ん教えてください〜」

 ニコニコしてくるくる踊っている留美に美奈は気分がいい訳を教えて貰いたくて、手を掴んでせがんでいた。

 「私にも教えてくれないかしら、留美さん?」

 「おっはよう〜♪ 潤君も気になる〜?」

 「ええ、特に昨日の事はね・・・耕治と何してたんですか?」

 「あれ〜どうして耕治君だって解るのかな〜?」

 「留美さんがそんなに喜ぶことは耕治の事しかないですから・・・」

 「なになに? 耕治ちゃんと何か有ったの留美さん?」

 「つかさちゃんも知りたいの〜?」

 「教えて欲しいわん!」

 「う〜んやっぱりだ〜め、留美と耕治君のひ・み・つ・・・やぁ〜ん♪」

 「留美さん!」

 「潤君こわ〜い♪」

 そんな騒ぎの中、あずさは一人離れたところからみんなの様子を見ていた。

 特に留美の笑顔にあずさの胸の中は複雑な気分で重たかった。

 前田君、留美さんとキスしてたわ・・・。

 そのシーンを思い出したらあずさの胸はきゅんと痛み出したので、手を握りしめるようにして押さえた。

 前田君・・・私、どうしたらいいのか分かんなくなって来ちゃった。

 どうしたらあなたは私を見てくれるの?

 どうしたらあなたは私に笑ってくれるの?

 教えてよ、前田君・・・。

 苦しいよ、前田君・・・。

 俯いて必死に涙がこぼれそうになるのを押さえているあずさに、美奈が近寄ってきた。

 「あずさお姉ちゃん?」

 「ミ、ミーナ、何?」

 「お姉ちゃん元気ないけど何かあったの?」

 「ううん、何でもないわよミーナ」

 そう笑うあずさの笑顔はどこか痛い痛しい、美奈の大好きな笑顔とは全然違ったものだった。







 「え、あずさちゃんの様子がおかしいの?」

 「そうなんです、つかさちゃん・・・」

 休憩時間の時、美奈はつかさにその事で相談を持ちかけていた。

 「だってお姉ちゃん、せっかくキャロットに戻ってきてくれたのに全然楽しく無いみたいなんです」

 「う〜ん確かに笑顔にも元気がないよね〜」

 「さっきも留美さんの事悲しそうな目で見ていたんです」

 「ふぅ〜ん・・・これは何かありそうだわん!」

 「つかさちゃん?」

 「よし、こうなったらボクたちで何とかしてあげようよ♪」

 びしっといつもの決めポーズで美奈に向かって指を指すけど、美奈の目が細くなってその笑顔のつかさを睨んだ。

 「つかさちゃん・・・もしかして楽しんでいませんか?」

 「そ、そんなことないんだわん、美奈ちゃんの気のせいだよ!」

 「ほんとうかなぁ?」

 「ほんとうだわん! 信じて欲しいだわん!」

 大きな目をきらきらさせて犬そのものになって犬好きの美奈のハートをくすぐって、なんとか自分の好奇心を

 誤魔化すつかさに一抹の不安を感じながらも信じてしまう美奈だった。

 「まずは情報を集めよう」

 「そうですね・・・じゃあ美奈は留美さんにいろいろ聞いてみます」

 「じゃあボクは耕治ちゃんに聞いてみるよ♪」

 「つかさちゃん、耕治お兄ちゃんに変なことしないでくださいね?」

 「ぶーボクって信用無いのかなぁ・・・」

 「耕治お兄ちゃんの事に関しては今一ですぅ」

 しばしじ〜と見つめ合う二人。

 「「あははは〜」」

 何故かお互いのこめかみからひとすじの汗がこぼれたのは見なかった事にした。

 「それじゃボクは留美さんの方に行くよ」

 「美奈はあずさお姉ちゃんの方に行きますぅ」

 「「ふぁいと、おー!」」

 知らない人が見たらどう見てもアイドルのコンサートに行く乗りみたいな感じは隠せていなかった。

 しかし当人達は至って真面目なのであるから、どことなく滑稽に見えなくもなかった。

 ここに「あずさお姉ちゃんの元気が無い原因を探せ〜! 作戦」・・・なんか妙に長い作戦名だが

 心配している二人によって開始された。

 そんな二人の様子を廊下で聞いていた店長の祐介は、一人肯くと静かにこの場所から離れていった。

 最近の祐介は裏で何やら暗躍することが男の浪漫だと一人感じているのは、みんなには内緒らしい。

 良くも悪くも大人の祐介だった。






 つかさの行動は早くしかも大胆だった。

 お店がピークを過ぎて暇な時を見計らって留美の手を引っ張るとそのまま休憩室に連れていった。

 「な〜につかさちゃん、聞きたい事って?」

 「うん、実は留美さん耕治ちゃんと何があったのか知りたいの!」

 「え〜でも〜・・・えへへ〜♪」

 赤く染まった自分のほっぺたを両手で押さえていやんいやんする留美の両肩を、つかさはしっかり掴んで

 思いっきり揺すって正気に戻そうとした。

 「あ〜ん自分の世界に行かないで説明してよ〜留美さ〜ん!」

 「ん〜・・・もう仕方がないなぁ〜じゃあ教えてあげる♪」

 「うん、はやくはやく〜!」

 「実はね・・・留美、耕治君とねぇ〜・・・しちゃったの、えへっ♪」

 「えーっ!?」

 「な、なんですって、留美さん!?」

 いつの間にかどこからか現れた潤が、つかさを押しのけて留美に食って掛かった。

 「あれ、潤君どうしてここに?」

 「そんなことはいーから! 今の話本当なの?」

 「うん、留美初めてだったけど・・・でもすっごく気持ちよかった〜♪」

 「なっ!?」

 驚愕の表情で硬直してしまった潤の代わりに、つかさが留美を見つめながら聞いてみた。

 「ねえねえ、その・・・痛くなかったの?」

 「ん、どうして?」

 「だって初めってその・・・あの・・・ねえ」

 モジモジして赤い顔で言いにくそうに話すつかさを留美はきょとんとした顔で見つめた。

 「大丈夫だったよ、歯も当たらなかったし」

 「「歯?」」

 「うん、留美初めてのキスだったけどちゃんと上手くできたよ♪」

 「「キス!?」」

 「うん、留美ファーストキッスだったもん♪」

 「「はぁ〜よかった・・・」」

 「んん? 何が良かったの?」

 つかさと潤が何と勘違いしたか解らないのは、単なるぼけなのか首を捻る留美からは伺い知ることは出来なかった。

 「と、とにかくこれ以上耕治に変なことしないでください!」

 「なんで潤君にそんなこと言われなきゃなんないの?」

 「そ、それは・・・」

 「留美が耕治君とキスしたから焦ってるの、潤君?」

 「わ、私だってそのくらいっ・・・はっ?」

 つい勢いにつられて耕治とキスしたと言いかけてしまった潤を、今度は逆に留美とつかさが詰め寄った。

 「えっ、もしかしてじゅんじゅんも耕治ちゃんとキスしたの?」

 「あ、あのその・・・」

 「ま、まさか耕治君のファーストキスって潤君だったの?」

 赤くなって俯いた潤に留美が眉毛をつり上げて逃がさないようにしっかりと潤を捕まえて、食ってかかった。

 初キッス同士だと思って喜んでいた留美だったが、潤に先を越されたと思い一気に気分は急降下だった。

 「ねえ、答えて潤君!」

 「えっ、あっ・・・」

 しかし二人は知らなかった、耕治と最初にキスした女の子がいたことを・・・。






 一方その頃、美奈はあずさとバックヤードで暇になったお店の中を見ながら仲良く話していた。

 美奈としては元気がない原因を聞きたいのだが、なかなか言い出せなくてたわいもない話で

 時間が過ぎていった。

 「・・・ふ〜ん、そんな事有ったんだ」

 「うん、もう可笑しくって笑っちゃった」

 朝より幾分笑いも普通になってきたように見えた美奈は、小さく肯いてからあずさを見つめながら

 思い切って聞いてみた。

 「あの、あずさお姉ちゃん・・・」

 「うん、どうしたのミーナ?」

 「お姉ちゃん最近全然元気ないよね?」

 「えっ?」

 「だってお姉ちゃん、いつもの笑顔じゃない・・・」

 「そ、そんなこと・・・」

 「キャロットに戻ってきたのに、美奈が大好きな笑顔してくれない・・・」

 「ミ、ミーナ・・・」

 美奈の少し潤んだ大きな目に見つめられて、あずさは言葉に詰まってしまった。

 「美奈、美奈じゃ頼りないかもしれないけど・・・」

 「ううん、そんな事無いわよ・・・だってこうして私の事、心配してくれるじゃない?」

 「でも、ならどうして・・・」

 「そうね・・・この気持ちはきっと自分で何とかしないといけないと思ったから・・・」

 「あずさお姉ちゃん・・・」

 「大丈夫、ちょっと苦しかったけどミーナの気持ちが嬉しかったから私、元気出たから・・・ね」

 「本当?」

 「うん、ミーナに嘘ついたこと無かったでしょ?」

 今日一番と言える笑顔を見せたあずさに、美奈も笑顔で答えて大きく肯いた。

 「じゃあ美奈あずさお姉ちゃんの力になれたのかな?」

 「もちろんよ、ありがとうミーナ!」

 「うん、よかった・・・えへへ〜あずさお姉ちゃん♪」

 「な、な〜にもうミーナったら・・・」

 急に抱きついて甘えてきたミーナにあずさは戸惑いながらも、可愛い妹の想いを嬉しく感じていた。

 ありがとう、ミーナ。

 美奈から貰った元気にあずさの心にあった不安が少し軽くなったのは間違いなく、そのお陰で

 改めて自分の気持ちを思いだしていた。

 そうよ、何を迷っているのよ。

 前田君が私をどう思っているかなんて関係ない。

 私が、日野森あずさがどう思っているかが一番大切なのよ!

 だから・・・だから私が今、自分にできる精一杯の事をやればいい。

 前田君が私を見てくれるように・・・。

 「ほら、お客さまが来たからがんばろう、ミーナ♪」

 「はい、美奈がんばります♪」

 お互い肯いてフロアの方に出ていくと、あずさはメニューを手に取りお客さまに近づいた。






 「いらっしゃいませ、ピア・キャロットへようこそ♪」






 そしてあの夏に見せたあずさの笑顔が、今確かにそこに戻ってきた。

 美奈が大好きで大好きで一番見たかった笑顔が、やっと戻ってきた。

 雲の切れ間から差し込む太陽の光のように明るく温かい微笑みを浮かべているあずさを影から見ていた祐介は、

 頭をかきながら奥に引っ込んでいった。

 「余計な事はしなくて良かったみたいだな・・・後は、二人に任せるか・・・」

 ちょっとだけ出番が無くなってしまったのは残念だったが、キャロットに無くてはならないものが戻ってきたので

 祐介は軽く肩をすくめて苦笑いをした。

 「ねぇ〜潤君、教えてよ〜」

 「べ、別に人に言う事じゃ・・・」

 「もう二人ともいつの間に耕治ちゃんとそんなこと・・・」

 休憩室から聞こえてくるかしましい声に、祐介は額を押さえて首を横に振った。

 「はぁ〜全く・・・頼むよ前田君、僕と同じ事をしないように・・・」

 自分の経験を思い出してため息をつくと、休憩室のドアを開けて中に入っていた。






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 ずいぶんお待たせしてしまったようで、すいません。

 これからはラストに向けてしっかり書いていきたいと思います。

 耕治もあずさも仲間に励まされ、自分を取り戻していったようです。

 でも、二人にとって避けられない人物が残っています。

 耕治の親友であずさに告白した男の子、矢野真士。

 耕治は彼に自分の気持ちをうち明けなければならない。

 その時、真士の心の中は?

 Menu8でお会いしましょう♪

 2000/3/20 初版





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