過剰人情人格としての海原雄山の誕生

第4集/第7話「板前の条件」は、海原が初めて「臭すぎて爆笑」型キャラクターとしての魅力を爆発させた回である。ちなみにこの話数は、『美味しんぼ』の中でも傑出して不幸ぶりと駄目ぶりを周囲にまき散らしていくことになる岡星良三の記念すべき初登場の回でもある。

大きなへまをやらかし美食倶楽部を追われた良三に、山岡が救いの手をさしのべることが、「板前の条件」の大筋である。具体的には、雄山を唸らせるような料理を山岡が考案し、それを良三が作り雄山の夕食に忍び込ませることによって良三の有能さを海原に思い知らせるという手法がとられ、一応は成功した。しかしその後、雄山は良三の兄貴の料理屋に足を運ぶことになるが、そこで彼は山岡の姿を目撃する(P.167)。

目撃される最愛の息子

これまでに明らかになった海原の気性から見て、良三の料理が山岡の考えた物だと知った彼が激怒することは明らかだと思われた。しかし、海原は「良三にしては出来すぎたと思ったわ・・・・・・」(P.167)と少し不満そうにいうと、そのまま引き返し微笑しながら(P.167)車に乗り込んだのであった。

微笑する海原


そして、車中でその微笑はついに「わあっはっはっはっ」(P.167)という豪快な笑いに変わってしまう。

おやぢめっ

この瞬間、初めて読者は今まで士郎を憎んでいる素振りを見せながら、実は山岡の成長を喜んでいるという海原の屈折した心情に出くわすことになる。つまり、この時点で、「臭すぎて爆笑」型キャラクターとしての海原の基本形ができあがったのである。

さらに、海原の渋みを補強するお話は続く。第5集/第6話の「牛鍋の味」である。この話では、山岡が作った改良版魯山人風スキヤキ”シャブスキー”のうまさを素直に認める海原の度量の深さが魅惑的だが、問題はこの後である。一人で晩酌しながら「士郎の奴・・・・・・・・・・・」(P.150)とまんざらでもない表情を見せるのだ。

士郎らぶ

海原のこの絶妙な微笑みは、後に数多くの狂信的海原ファンを悩乱させることになる。


この二つのエピソード以降、一転して海原の行動は人格性を帯びた物になっていく。それに伴いこれまでの山岡完勝路線はもろくも崩れ去り、「海原=最強」という構図ができあがる。このことをまさに決定づけたのが第5集/第8話「もてなしの心」である。

最強モードに入った海原に勝てる奴は誰もいなく、山岡は敗北を喫するのだが、その際、山岡は海原に「美食を芸術の域まで高める条件は、それは唯一、人の心を感動させることだ」(P.197)と説教をされてしまう。いつもは自分が海原にしているような説教を逆に自分がされてしまった(P.200の大原発言を参照)山岡は、競馬をやめるほどのショックを受けてしまった。

こうして海原の人格的完成が、この3つのエピソードの中でなされ、ここから海原雄山の爆走が始まることになる。同時にそれは『美味しんぼ』全盛期の始まりでもあった。



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