「この世の中に満足している奴はみんな敵だ」 (石橋蓮司)
『俺達の勲章』('75)
『太陽にほえろ!』では、七曲署捜査一係が理想的な共同体として機能しており、そこで様々な人情話が繰り広げられた。また、少しぐらいひどいお話であっても、最後の「ボスの顔アップ+ストップモーション」を見れば自然と納得してしまえることが、『太陽にほえろ!』の奥深いところである。しかし、本当にひどい事件が起こった場合には、一係の共同体機能にも限界が見えてくる。
例えば、前述した「第101話 愛の殺意」において、島刑事は犯人を射殺してすごく落ち込んでしまうのだが、そんな彼に対してボスはただただ見守るしかないという事態が生じてしまう。
『俺達の勲章』の荒廃はさらに凄まじく、七曲署捜査一係が持っていたような暖かな職場環境が全く存在しない。お話はいっそう熾烈で悲惨なものになった。最後に中野刑事(優作)が発狂し、五十嵐刑事(中村雅俊)が挫折気分満点で刑事を辞めてしまうのも無理のないことである。
第1話 「射殺」 (監督:澤田幸弘 脚本:鎌田敏夫)
同じ工場で働いている恋人と幸福な生活を送っていた高橋は、デート中にその恋人をチンピラ連中に強姦されてしまった。怒り狂った高橋はチンピラ連中を射殺し、恋人の家に現れるが、中野達に見つかり逃走する。
追いつめられた彼は、警官隊に向かってライフルを乱射し、駆けつけた恋人に向かって「俺と一緒に死んでくれ〜」と絶叫。最後は彼女の目の前で中野刑事に頭を吹き飛ばされる。
第3話 「愛が哀しい」 (監督:山本迪夫 脚本:鎌田敏夫)
病気がちでわがままな父親を妹に押しつけ家を飛び出した過去を持つ良子は、家に残してきた妹のことが気がかりであった。田舎を脱出するために乗ったバスを「お姉〜ちゃん、いかないで」と泣きながら追いかけてくる妹の姿を良子は忘れられなかったのだ。
一方で妹の方は、父親と二人で苦労して生きているうちに、金の亡者になってしまった。彼女は会社の金を横領し、自分の焼身自殺死体に見せかけるためにラーメン屋の店員を燃やし、さらにはそれを目撃した男まで殺害してしまう。
良子は極悪非道な妹をかばい、全部自分がやったと言い張った。そして中野刑事が妹を見つけて連れてきても、お互いに知らないと言うばかりである。
そこで中野は良子を完全に犯人扱いし、パトカーに乗せて車を走らせた。すると妹は突然走り出し、「おねいちゃ〜ん」と叫びながらパトカーを追いかけてくるのであった。
第6話 「撃て!アラシ」 (監督:澤田幸弘 脚本:鎌田敏夫)
ごく普通のOLであるのり子は、会社員の北川と婚約し、幸せのまっただ中にあった。だが北川は、サラリーマンなどではなくてプロの恐喝屋であり、人を殺して警察に追われる身である。そしてのり子は、単に安全な隠れ場として利用されているだけであった。
自分が利用されているだけだと知ったのり子は、失意のどん底に陥ってしまう。一方で北川は追いつめられ、のり子の目の前で五十嵐刑事に射殺されてしまう。
第7話 「陽のあたる家」 (監督:山本迪夫 脚本:桃井章)
ひどい移住環境の中で苦労して育った純子は、2800万のマンション購入に異常な情熱を燃やすスリの常習犯である。ある日、すってきた財布の中に1000万円分の麻薬を見つけた純子は、財布の持ち主にゆすりをかけマンションの頭金を手に入れようとするが、逆に腹を刺される。血まみれになりながら純子は自分の欲しがっていたマンションのモデルルームへと向かい、途中のエレベーターの中で絶命してしまう。
第8話 「愛を撃つ!」 (監督:山本迪夫 脚本:畑嶺明)
素直で善良な青年・溝口は、家出して風俗で働いている自分の恋人を救おうと必死になっていた。溝口は恋人が強制的に働かされていると思っていたのだが、本当は彼女は自分の意志で働いており、溝口は彼女に嫌われていた。
やがて溝口は暴走を開始して、自分の恋人を不幸にした人間達を殺そうとする。しかし風俗店の社長を追い回している最中に、溝口は五十嵐刑事に射殺されてしまった。
第9話 「重い拳銃」 (監督:降旗康男 脚本:桃井章)
老刑事の丸山は、その昔、国体の県代表に選ばれるほどの射撃の名手であったが、大会出場寸前に追跡中の犯人に発砲され、そのショックで銃が持てなくなった。
「青春は輝いていなければならない」と嘆く丸山は、息子の和彦には自分が送ったような暗い青春を送ってほしくないと懸命になっていたのだが、和彦はそんな父親に嫌気がさして家出をしてしまった。
ところが和彦は、家出先でチンピラに暴行され、やむを得ずその一人を刺し殺してしまった。和彦は自分の恋人に会うため実家に戻ってくるのだが、警官に見つかりこれを殺害。拳銃を奪って逃走。しかし追いつめられ、通りかかった人間を人質に取った。
息子の行動に完全にキレた丸山は、ライフルで和彦の頭を撃ち抜いてしまう。