光ファイバ一般
■ 光ファイバ
変調された光信号を送ることができる伝送メディア。
変調方式としては、一般にデジタル2値変調が用いられる。
すなわち、デジタル信号の1と0を、光の明滅に対応させる。
光ファイバは数十GHzの広帯域で伝送することができるため、
大容量のデータでも高速に伝送可能であり、
また15km伝播して初めてエネルギーが半分になるなど
損失も非常に小さいので、長距離の伝送も容易である。
また光ファイバは、メタルケーブルと異なり、
電磁誘導の影響を受けない、浸水に強いなどの利点もある。
■ 光ファイバの構造
光ファイバは、
一般に石英ガラスやプラスチックで作られており、
小径(125μm)で軽量(メタルの1/4)な点が特長である。
構造的には、
内側からコア、クラッド、被覆の3層構造となっており、
光信号はコアとクラッドとの境界面を全反射しながら、
コア内を伝わっていく。
(1) コア
屈折率は比較的高く、1.463〜1.467。
外径は、SM型では10μm、GI型では50μm。
(2) クラッド
屈折率は比較的低く、1.45〜1.46。
外径は、ITU-T国際標準では、125μm。
(3) 被覆
UV樹脂製。
ファイバ強化のための1次被覆と
取扱性を高めるための2次被覆からなる。
■ 石英系ガラスファイバ
最も一般的に使われている光ファイバ。
POFと区別するため、GOFと呼ばれることもある。
石英系ガラスファイバの中で、
1つのモードのみを使用するものをシングルモード光ファイバ、
複数のモードを利用するものをマルチモード光ファイバという。
(1) SMF。シングルモード光ファイバ。
単一の伝播モードを使用する。
モード分散が起こらないため極めて広帯域を実現できる。
(2) MMF。マルチモード光ファイバ。
複数モードを使用する。
モード分散が起こるため余り広帯域は実現できない。
※ 伝播モードとは
光は波の性質を持っているため、
光信号がコア/クラッド境界で全反射する前後で、
入射光と反射光の位相が一致する場合は互いに強めあい、
位相が反対になる場合は、エネルギーを相殺しあう。
位相が一致するかどうかは、
光ファイバ芯端への光信号の入射角度によって決まる。
この位相を一致させることのできる角度をモードと呼ぶ。
モードは複数あるので、0次〜n次と表現される
■ プラスチックファイバ
ふつうはPOF(ポフ)と呼ぶ。
近年のギガビットイーサネット等の普及に伴い、
企業の構内LAN等で使用されるようになってきた。
FTTHの引込み線、宅内配線としても利用される。
POFの長所としては、
曲げや折れに強くメタルケーブル並みの扱いができること、
コア径が太いので融着接続が容易であること、
単価、施行費ともにGOFより低コストであること、などがある。
POFの短所としては、
損失が大きいので長距離の伝送ができないこと、
耐熱性が低いため屋外使用に向かないこと、などがある。
具体的な製品としては、旭硝子のlucinaなどがある。
■ 分散
光ファイバに入射した光パルスの
出射端までの到達時間にバラツキが生じる現象を、分散という。
分散の程度があまり大きくなると、
出射端で光信号を読み取ることが不可能になってしまう。
分散は、光ファイバの構造もしくは材料に起因し、
その発生要因別に、モード分散、材料分散、構造分散の3つに分けられる。
(モード分散>材料分散>構造分散)
分散の程度を抑えるためには、一般的には、
伝送速度を制限してパルス間隔を大きくするか、
信号を整形するための中継装置を設置する必要がある。
(1) モード分散
MMFにおいて、各モードの伝播経路が異なることにより、
出射端への到達時間が違ってくるもの。
これを減らすために、下記のような特殊なMMFが開発されている。
- SI(ステップインデックス)型光ファイバ
コア/クラッド間の屈折率が段階的に変化するMMF。
- GI(グレートインデックス)型光ファイバ
コア/クラッド間の屈折率が連続的に変化するMMF。
(2) 構造分散
波長ごとに、クラッド内へしみ出す距離が異なることにより、、
伝播経路に差異ができ、出射端への到達時間が違ってくるもの。
(3) 材料分散
光パルスごとに、パルス幅(波長)が微妙に異なることにより、
パルスごとの伝播速度が違ってくるもの。
※ ゼロ分散波長
構造分散(波長が短いほど早い)と
材料分散(波長が長いほど早い)が、互いに打ち消しあう波長。
この波長を使用すれば最も広帯域の伝送を実現できる。
通常使われているSMFでは 1.31μmがゼロ分散波長である。
これを1.55μm付近にシフトさせたDSF(分散シフト光ファイバ)も
開発されている。
■ 光ファイバの損失
光損失とは、光信号がファイバ内を伝搬するうちに、
そのエネルギーがどれだけ減衰するかを示す尺度であり、
具体的には入射光と出射光のパワーの比をデシベル表示したものである。
光信号を遠くまで送るためには、この値は小さいほど良いが、
0.8μm付近、1.3μm付近、1.55μm付近の3つの領域は、
比較的損失が小さいことが分かっている。
とくに石英系光ファイバでは、1.55μm付近で最小損失が得られる。
なお、光損失を生じる原因には、
レイリー散乱、吸収損失、構造不完全、マイクロベンディングクロス、
曲げ損失、接続損失などがある。
(1) レイリー散乱
光がファイバ材料の密度や組成の微小なゆらぎに衝突して、
散乱してしまうもの
(2) 吸収損失
光がファイバ内の不純物(特にOH基)などに吸収された結果、
熱に変わってしまうもの
(3) 構造不完全
製造過程に起因するコア/クラッド境界面の微細な凹凸により、
エネルギーの一部がコアの外に逃げてしまうもの
(4) マイクロベンディングクロス
ファイバ製造後の張力や側圧により発生する境界面の凹凸により、
エネルギーの一部がコアの外に逃げてしまうもの
(5) 曲げ損失
ファイバを小さい半径で曲げてしまった結果、
臨界角補角を超えることとなり、光がクラッド外へ漏れること。
(6) 接続損失
融着接続したファイバのコア径や屈折率に相互差があったり、
作業不良で軸ずれや間隙等があった場合に起こる。
■ 光ファイバケーブル
光ファイバ芯線は強度が弱いので、
通常は数十〜数百芯を束ねたケーブルの状態で扱われる。
光ファイバケーブルでは、
テンションメンバという抗張力体をケーブル内に配置して
丈夫な被覆を行なうことによって、強度を確保している。
芯線数が少ない場合はパイプ構造、
多い場合はスロット構造(テープ芯線を溝に収容)を使用する。
■ 光増幅中継器
光ファイバ伝送システムが登場した当初は、
減衰・劣化した光信号をいったん電気信号に変換して増幅し、
再び元の光信号に変換する方法で中継していた。
しかし現在は、光信号のままレベルを増幅する
光増幅中継器が主流となっており、
陸上ケーブルの場合で80〜160km、
海底ケーブルの場合で40km程度の間隔で設置される。
■ エルビウムドープ増幅器
EDFA:Erbium-Doped Fiber Amplifier
希土類イオンであるエルビウム(Er3+)をコアに添加した
特殊な光ファイバ(EDP:エルビウムドープファイバー)を用いて
光信号を増幅する方法。高い増幅性能(30dB以上)を持つ。
エルビウムドープファイバーは、励起レーザを入射すると、
固有の波長を持った強い光を放出する性質を持っており、
このエネルギーを入射光に伝達することにより、
光増幅を行なうことができる。
エルビウムドープファイバーは、SMFとの接続損失が小さく、
また放出波長域がSMFの最低損失波長の1.55 μmに一致している。
このため、SMFの増幅に広く利用されている。
■ ラマン増幅器
Fiber Raman Optical Amplifier
通常の光ファイバをそのまま利用して、光信号を増幅する方法。
光信号の進行方向とは逆の方向に強いレーザ光
(増幅したい光信号より波長が100nm短いもの)を入射すると、
誘導ラマン散乱による散乱光が発生し、信号光を増幅する。
■ 分散補償技術
増幅器は波長のピーク位置を高める機能しかもたず、
波形の劣化までは防止できない。
そこで、通常の光ファイバとは逆の分散特性を持つ光ファイバを
途中に挿入することによって、
全体として光信号の波形を保持する手法がある。
これを分散補償技術という。
■ 光スイッチ
光信号を電気信号に変換することなく
光のまま伝送経路を切替える光通信デバイス。
従来は、光信号を電気信号に直してからスイッチングし、
再び光信号に変換して送出する方法が主流であったが、
電気的なスイッチングは、すでに性能の限界がきている。
このため現在では、
光領域で経路のスイッチングを行う光スイッチの開発が進んでおり、
OADM、OXCになどの機器に搭載されている。
光スイッチには、
光ファイバやプリズム等の光学素子を機械的に駆動して
光路の切替を行うものや、可動部分を設けることなく
電気光学/音響光学効果を利用して光路を変更するものがある。
(1) 機械式
最も普及している方式、
受信側の光ファイバを機械的に駆動させ、
接続する送信側ファイバを切替える方式。
小型化が難しいのが欠点。
(2) 平面導波路式。 PLC光スイッチ。
平面上にメッシュ構造の光の通路を作成し、
交差する部分で光の経路を切り替える方式。
交差点をヒーターで加熱して光を屈折させる方法と、
交差点に液体を満たし泡の発生を制御して
光路を切り替える方法(微小バブル型)がある。
物理的に動く部分が無いため信頼性が高い、
スイッチング時間が短い、などの特長がある。
(3) 極小ミラー式。MEMSミラー型。
光信号を極めて小さな鏡で反射させて光路を切替える方式。
光路は2次元、または3次元型に配置する。
緻密な設計が必要だが大容量化しやすい。
■ 光分岐挿入装置。OADM。Optical ADM
波長多重された信号から特定の波長を分岐・挿入する装置。
WDMリングを構築するために使用する。
SONETリングのADMは、
信号の分岐挿入にあたり光電光変換を行なう必要があるが、
WDMリングのOADMは、光スイッチを搭載しているため、
光信号のままチャネルを操作できる。
■ 光クロスコネクト装置。OXC。Optical Cross Connect
光の波長を、任意の光ファイバから任意の光ファイバへ交換する装置。
WDM伝送網のメッシュ化を実現するもの。
■ 光減衰器
光信号に一定の減衰を与えるもの。
一般にアッテネータと呼ばれている。
減衰の度合いが固定されている固定減衰器と、
一定範囲で変更可能な可変減衰器がある。
(1) 固定減衰器
減衰の度合いが固定されている減衰器。
受光パワーが高すぎて受光素子が破壊されることを防ぐため、
光伝送路の損失値を調整するときに使われる。
(2) 可変減衰器
減衰の度合いを変更することができる減衰器。主に計測用。
受光素子の感度特性を計測するために、
光受信器への入力レベルを調整するときに使われる。
■ 光カプラ
1芯の光ファイバから入射した光エネルギーを複数に分岐したり、
複数の光ファイバから入射した光エネルギーを1芯に結合したりするもの。
FTTHのPONサービス等で使用される。
■ 光ファイバの接続方法
(1) 融着接続
放電エネルギーで光ファイバの先端部分を溶かして
永久的に接続する方法。
接続損失は比較的低い(約0.1dB)。
(2) 光コネクタ接続
光ファイバの専用コネクタを使用して接続する方法。
簡単に着脱可能。
接続損失は、比較的高い(約0.2dB)。
(3) メカニカルスプライス。Mechanical Splice。
V形の溝などのガイドに沿って光ファイバ先端同士を密着させ、
そのまま接着剤またはネジで固定して半永久的に接続する方法。
接続工具小型で作業も短時間で済む。
■ 光ファイバ用のコネクタ。
(1) SC(Mechanically Transferable)コネクタ
単芯用の角型コネクタ。
ワンタッチで着脱できる。広く使われている。
SCコネクタの例。
http://www.totoku.co.jp/products/optical_product/fiber/sc/index.html
SCコネクタを小型化して、
さらに高密度実装を可能にしたものを
とくにSC2コネクタと呼ぶ。
SC2コネクタの例。
http://www.totoku.co.jp/products/optical_product/fiber/sc2/index.html
(2) MT(Mechanically Transferable)コネクタ
単芯用の平型コネクタ。
ガイドピンを合わせて、外付けのクリップで止める。
MTコネクタの例。
http://www.totoku.co.jp/products/optical_product/fiber/mt/
■ 線路損失の計算
光損失値α(dB/km)を持つ長さL(km)の光ファイバを
nピース接続したときの線路損失(dB)は、
各ピースの損失と接続損失の総和で表される。
(α1L1+α2L2+・・・+αnLn)+(αs1+αs2+・・・+αs(n-1))
ただしαsi = i番目の接続損失(融着、コネクタ含む)のこと
■ 光ファイバの劣化
光ファイバは、経時劣化により、
機械特性や伝送特性が悪くなる場合がある。
たとえば、曲げや引張り、側圧等により破断しやすくなったり、
浸水や紫外線・放射線の照射が原因で光損失が増加する。
■ 光ファイバケーブルの故障位置の探索
故障位置の探索をおこなうときは、
パルス試験器やIDテスタなどの機器を用いる。
まず最初に接続部の故障なのか、ケーブル部の故障なのかを見分け、
少しづつ障害箇所を絞り込んでいく。
■ 光ファイバケーブルの応急復旧
光ファイバケーブルが破断した場合には、
両端にコネクタを取り付けた応急光ケーブルを用いて復旧する。
光ファイバケーブルの外被のみが損傷した場合には、
補修はテーピングのみで行う。
以上。
2004/02/27 pm