潤に引っ張られるままに倉庫に戻った耕治と潤は再び荷物整理を再開した。

潤はウキウキと楽しそうに作業を続けている。一方の耕治は・・・陰鬱な表情で作業をしていた。

「ねえねえ、耕治♪」

「・・・なんだよ」

喜色満面の潤とは対照的に耕治は疲れたように投げやりに答えた。

(完全に誤解されたよなあ・・・)

何とか誤魔化せると思った“ホモ疑惑”だったが、最後の潤の態度であっという間に周囲からの視線が変わってしまった事に
いつもは鈍い耕治でも気付いていた。

「・・・で、いつなの?」

「は?」

「だ・か・ら、遊園地だよ!」

「あ・・・」


『お詫びに遊園地に連れて行って上げるから許してくれないか?』


「ね、いつ?」

「え、えーと・・・」

まさか勢いで言ってしまったなどとは言えない。

「耕治、確か明後日はバイト無いよね? 僕もバイト無いからその日でどう?」

「え、あ、ああ」

「ホント!? じゃあ楽しみにしてるね♪」

「え?・・・あ、おい、神楽坂!」

曖昧な返事を承諾を取った潤は一層、晴やかな表情で微笑んだ。


ドキッ。


無邪気な笑顔に耕治は一瞬見惚れてしまった。

「それじゃあ、早く仕事を片付けて細かい打ち合わせをしようよ!」

「あ、ああ」

赤くなった表情を隠すように明後日の方向を向いたまま耕治は誤魔化すように生返事を返した。




しかし。何度も言うようだがここはピア・キャロットの倉庫である、だから誰が来てもおかしくなかった。

まして、先ほどの“騒動”の後なら尚の事・・・




「ふっふっふ・・・面白い事聞い〜ちゃった〜♪」

倉庫の入り口の影で一人の女性が立ち聞きしていた事に二人はまったく気が付かなかった・・・






 Project 「リレー小説☆ぴあぴあ」 Presents

 第十話 「見ているだけじゃつまらないでしょ♪」 

 Written By 御巫吉良(Kira Mikanagi)







「お〜い、神楽坂! ここだ、ここ」

「え?・・・あ、耕治!」

遊園地の門前でキョロキョロと辺りを見回していた潤に耕治が声をかけた。

「どうしたしたの、その格好? いつもと違うから気が付かなかったよ」

潤は不思議そうに耕治の姿を上から下へと視線を送った。
今日の耕治の服装はともかく、トレードマークとも言えるバンダナを付けずに、黒い野球帽を被っていた。

「ああ、これか?・・・昨日、俺の部屋に葵さんがまた襲撃してきて・・・なんか、明日はこれを被って行けって言われてね」

「・・・喋ったの? 僕との約束?」

「言う訳ないだろ!・・・葵さんに知れたらどんな騒ぎになるか・・・必死に誤魔化したよ」

「ふーん・・・僕はバレてもいいんだけど」

「・・・神楽坂、後生だから店でそう言う事は言わないでくれ・・・」

「アハハ・・・冗談だよ」

疑わしげに潤を耕治は見つめた。
今日の潤は夏の時同様に女の子の格好だった。
さすがに十二月とあって、オーバーコートとマフラー姿で、夏の時に見た服装とは違うが、確かに女の子の装いだった。

「あ、あんまりジロジロ見ないでよ・・・恥ずかしいよ」

潤は頬を赤らめて照れくさそうに言った。

「・・・ねえ、この格好・・・おかしくない?」

「いいや、よく似合ってて可愛いよ」

お世辞ではなくサラリと言ってのける耕治の言葉に潤はまた頬を赤く染めた。

「あ、ありがとう・・・耕治がそう言ってくれるのが一番嬉しいよ」

潤のか細い声に愛おしさを感じて耕治もまた頬を赤く染めた。

「そ、それじゃあ、中に入ろうか?」

「うん!」




「ふふ〜ん。良い雰囲気ね〜。二人とも・・・」

「・・・へ、変態よ、二人とも・・・!」

「ユ、ユキちゃん、大きな声を出したら見つかっちゃうよ」

「お兄さん・・・」

二人の世界を作っている耕治と潤を物陰より4人が窺っていた。

言うまでも無く発言順に、葵、ユキ、紀子、ともみの4人だった。

「ともみ! あんな変態もう止めなさいよ!」

「ユ、ユキちゃん・・・お兄さんを変態なんて酷いよ・・・」

「何言ってんのよ! 女装する男も変態なら、女装男といちゃつく男も十分変態よ!」

顔を真っ赤にして詰め寄るユキにともみはタジタジとなってしまう。

「まーまー、ユキちゃん、そう興奮しないで。それを確かめる為にここに来たんでしょ?」

悪戯っぽく諭す葵の声にユキは怒りの表情のままに葵に視線を戻した。

「ところで・・・皆瀬さん」

「葵、で良いわよ」

「・・・葵さん。どーして私達がこんな事に付き合わないといけないんですか?」

「モチロン、前田くんをアブナイ世界から救う為よ♪」

「それは聞きました!・・・そうじゃなくて、どうして私だけこんな格好しなきゃいけないんですか!」

そう言ってユキは見せびらかすように両手を左右に開いた。
男物の服装に、長い髪を収めた帽子・・・どこから見ても少年風のスタイルだった。

「ゴメンね〜。だってさあ、遊園地を歩くのに女の子四人連れじゃあ、ナンパしてくれって言ってるようなモノじゃない?
 だ・か・ら、一人は男の子のフリをしてもらわないといけないのよー」

「だからって、どうして私なんです!」

「うーん、ともみちゃんや紀子ちゃんじゃ身長が足りないでしょ? 本当はあたしがやるべきなんでしょうけど・・・」

葵はユキに向かって胸を張って見せ、

「この胸じゃ、男装はちょっとねえ・・・」

「う・・・」

小さいわけではないが、冬物の衣装を着ただけで目立たなくなる自分の胸と比べて、これでもか、とばかりに自己主張する
葵の胸にユキは少し悲しくなった。

「ね、ユキちゃ〜ん・・・前田くんが「やおい」の世界の人になっちゃ嫌でしょ〜? 今日は協力してよ、ね?」

両手を合わせて拝むように懇願する葵を見てユキは溜息をついた。

「わかりました、もういいです・・・でも! 私はともみの為に協力するんです、あんな男どうでもいいんですからね!」

「はいはい。話がまとまった所で行きましょう。二人が中に入っちゃうわよ」

ビシッと葵を指差して宣言するユキを葵は軽くいなすと、神妙な態度を一変させて嬉々とした表情で用意しておいた入場券を配り始めた。

(私・・・ハメられてる?)

ユキは疑わしげな視線で葵を睨んだ・・・




「こーじー! 早く、早くー!」

「そんなに慌てなくても、平日なんだから空いてるぞ」

はしゃぎながら前を歩く潤を耕治はゆっくりとした足取りで付いて行く。
耕治達は潤の希望のままに次から次へとたくさんのアトラクションを利用して楽しんでいた。

(たまにはこういうのも良いもんだな・・・近頃、バイト、バイトの毎日だったから・・・)

ふぅ、と少し息を吐く。吐いた息が白く立ち昇り・北風に巻かれて消えていく。
比較的暖かかった今年の初冬だったが、今日は北風の強い寒い日だった。

「おーい、神楽坂。少し休もうぜ。暖かい物でも買ってくるよ。何が良い?」

「あ・・・そうだね。今日は寒いし・・・ココアが良いな」

「ああ、わかった。それじゃあ、そこのベンチに座って待っててくれ」

耕治は近くにあった風除け付のベンチを潤に指し示すと、先ほど見掛けた自動販売機の場所へと引き返していった。




「あ、前田くんだけ戻ってきたわ。隠れて!」

後ろから二人を尾行していた男一人、女三人連れの奇妙なグループは慌ててベンチの裏に隠れると、引き返してきた耕治から身を隠した。
周囲の奇異の視線が四人に集まる中、耕治は気にせずにその場を通り過ぎた。

「ふう・・・どうやら気が付かれなかったみたいですね」

紀子が胸を撫で下ろした。

「あ、お兄さん暖かい飲み物買ってる〜。ともみも欲しいなあ〜」

寒さに両手を擦りつけながらともみは物欲しそうな瞳で耕治を観察していた。

「馬鹿! 今行ったら見つかっちゃうわよ。もう少し我慢しなさい」

「ううっ・・・くすっ・・・・・・」

ユキの怒声にともみが涙目になって体を引いた。

その時、三人は耕治を見つめる葵の口元が緩んだ事に気が付かなかった。

「そうね、今日は寒いし、飲み物くらい買ってきましょ。もう一つ向こうの自動販売機で勝ってくれば大丈夫よよ、きっと」

葵は視線を三人に向けた。

「じゃあ、ともみちゃんと紀子ちゃんっで買ってきてくれる? あたしとユキちゃんは見張ってるから」

「うん♪」「え? あ、ハイ」

喜んで応えるともみと指名された事に戸惑いながら返事をする紀子の二人は身を屈めて小走りでその場を離れて行った。




「さて・・・ユ〜キ〜ちゃん?」

「な、何ですか・・・急に変な声出して」

突然声色を変えて自分に詰め寄る葵にユキは怯んだ。

「それじゃあ、作戦を開始しましょう!」

「さ、さくせん!?」

戸惑うユキに葵はキャロットのお客を虜にした極上の笑みを浮かべて、鞄から荷物を取りだした。

「さ、ユキちゃん。これに着替えて」

「あれ?・・・これって」

葵がユキに差し出したのは紺色のジャンバーだった。それもユキには見覚えのある・・・

「これって・・・お兄さんのジャンバー?」

「と、同じ物よ。これからこのジャンバーに着替えて・・・前田くんのフリをして潤くんを連れ出すのよ!」

「ええっーーーー!! そんな無茶よ! 顔を見られたら一発でバレるわよ!」

「だ〜いじょうぶだって。幸いユキちゃんは女の子にしては身長が高いし、野球帽を被ってるんだから帽子のツバを
 深く被ってれば気が付かないわよ」

スラスラと答える葵の返事にユキは事の次第に気が付いた。

「・・・・・・葵さん。初めからそのつもりだったんですね・・・・・・」

瞳を三角にしてユキは葵を睨みつけた。

「そんなに怒らないでさ〜、前田くんの為でしょ?」

「だから私は別に・・・!」

「好きなんでしょ? 前田君くんのこ・と」

「な・・・!」

アッサリと言われた葵のセリフにユキは顔を真っ赤にして絶句した。

「そ、そんなことある訳無いじゃないですか! 私はただ、ともみの為に・・・!」

「あらあら、素直にならないとすぐに取られちゃうわよ。ライバルが多いの、わかってるんでしょ?」

「う・・・」

ユキの脳裏に美人揃いのキャロットの店員の姿が次々と浮かび上がった。
彼女達が耕治に向ける視線を知らないはずもなかった。

「このまま・・・よりにも寄って“やおい”の世界に前田くんが行っちゃっても良いもかなあ〜」

いつの間にかユキの背後に、回っていた葵はユキの両肩を持って耳元で囁いた。
それはさながら人をかどわかす悪魔の誘いのように・・・

「わ、わかったわよ・・・でも、お兄さんの方はどうするのよ」

「そっちの方も考えてあるから大丈夫よ♪ とにかくあの場から潤くんを連れ出して欲しいのよ。お願いね♪」

先ほどの真面目な表情から一変して陽気な表情に戻った葵を見てユキはまた溜息をついた。

(また・・・ハメられた・・・)




コーヒーを買って潤の下へに向かったユキを見送って葵はニヤリと笑った。

「さてと・・・次はともみちゃんたちを前田くんに差し向けて・・・」

「あれ? やっぱりそーじゃん。あれキャロットのお姉さんだよ」

「?」

声の内容に思わず振り向いた葵の視線の先に二人の男が立っていた。一人は自分に向かって指差していた。

「やあ、お姉さん。今日は非番かい?」

馴れ馴れしく話し掛けてくる男二人の顔をよく見て、葵はようやく二人の事を思いだした。

(確か・・・夏に店内であずさちゃんをナンパしようとしてた二人だわ)

「一人? 良かったら俺たちと一緒に回らない?」

ニヤニヤと笑う二人に葵は営業スマイルを浮かべて、

「すいませんけど、今、連れを待ってる所なの。悪いけどお付き合いできないわ」

穏やかに、しかし断固とした口調で言った。が・・・

「そーつれない事言わないでさー、俺たちと来なよ。その方が楽しいよー、ねえ」

気が付かないのか、気が付かないフリをしているのか、男の一人は葵の手首を掴んで諦めようとしない。

(・・・性質の悪い奴に捕まっちゃったわね・・・)

ナンパをされたことならいくらでもある葵であるが、こういうタイプは一番始末に負えない。
さりげなく回りの人間を知り合いに見立てて逃げようにも、あいにく今は回りに誰もいなかった。

「俺たちと行こうぜ、な?」

腕を引っ張って引き寄せようとする男に葵は必死に抵抗して踏ん張る。

(ここは・・・一発殴って逃げるしかないかしら・・・)

最後の手段に訴えようとしたその時・・・

「葵さーん! お待たせ!」

スッと葵と男の前に現れた人物はさりげなく男の手を打って離れさせて葵の身体を引き寄せた。
驚いて葵がその人物の顔を見ると・・・それは耕治だった。

「あれ? どうしたの。この人たち、葵さんの知り合い?」

耕治はわざとらしく葵に話し掛けた。

「ちっ、またお前かよ・・・!」

耕治にナンパを邪魔された事を覚えていたのか、男は忌々しげに耕治を睨んだ。

「ううん、アトラクションの場所を聞かれたから教えてあげたのよ」

耕治の意図を察した葵は耕治のセリフに合わせて言った。

「そうか。じゃあ、そろそろ行こうか」

耕治は葵にの腕に自分の腕を絡めて歩き始めた。
葵も耕治に合わせて驚かずにそのままその場を立ち去った。




「ありがとう、前田くん。助かったわ」

腕を絡めたまま歩きながら葵が小さな声で耕治に礼を言った。

「礼なんて良いですよ。困ってたみたいですから・・・それにしても葵さんもここに来てるとは思いませんでしたよ」

「え? え、ええ。たまには良いかなーと思って」

耕治の言葉でともみ達の事を思い出した葵は慌てて戻ろうと耕治に絡めた腕を外そうとしたが・・・

ギュ。

耕治はその手を離さなかった。

「耕治くん?」

「葵さん・・・あの二人、まだ付いて来てます」

ハッとして葵は小さく後ろを振り返った。
耕治の言う通り二人は葵と耕治を睨みつけながら一定の距離を置いて尾行していた。

「どうも、俺の演技がわざとらしかったから疑ってるみたいですね・・・このまま恋人同士のフリを続けましょう」

「え? 恋人・・・?」

耕治の思わぬ言葉に葵はマジマジを耕治の横顔を見つめた。
男としてはさほど身長の高くない耕治だが、それでも葵よりはわずかに背が高い。
二枚目、と言うほどの顔ではないが・・・どこか少年っぽいハツラツとした輝きのある瞳が印象的だ。

(これで優しくされたらみんなが夢中になるのも無理も無いわね・・・)

「さ、葵さん。まずはどのアトラクションに行きましょうか?」

突然葵に顔を向けた耕治の視線が、耕治を見つめていた葵の瞳と間近でぶつかった。


ドキッ。


葵は耕治から顔を逸らした。

「? どうしたんですか、葵さん?」

「う、ううん。何でもないわ」

視線を宙に彷徨わせながら小さな声で答えた。

(な、なに、今の・・・)

心臓がバクバクと心拍数を上がっていくのがわかった。

(ま、まさかね・・・・・・)

浮かんでは消える心拍数増加の理由を葵は必死に打ち消しながら耕治に絡めた腕に力を込めた・・・




「お、お待たせ・・・ハイ」

耕治――もとい、変装?したユキは買ってきたコーヒー缶を潤に手渡した。

「あ、ありがとう、耕治♪・・・あれ? 耕治、僕ココアを頼んだはずだけど・・・」

潤は手渡されたコーヒー缶を不思議そうに見た。

(ヤバ!・・・間違えた!)「え!? あ、ご、ごめん、ま、間違えたわ・・・よ」

ユキは動揺も露わに取り繕をとして裏返った声を発してしまった。

「え?・・・耕治、声、おかしくない?」

(声が高過ぎたかな!?)「あ、あーっ、エヘンエヘン! ちょっと喉の調子がね・・・大丈夫だよ、潤」

ユキは喉を少し抑えて声の調節をして見せた。

「え!?・・・耕治、今、なんて・・・・」

「え?」

「僕のこと・・・“潤”って呼んでくれたの?・・・嬉しいよ」

(し、しまった!・・・まだ苗字で呼んでたんだ!)

瞳をキラキラさせながら嬉しそうに迫ってくる潤にユキは仰け反った。

「ねえ、耕治・・・僕、僕ね・・・」

「な、何だよ」

「今なら勇気を持って言えそう・・・聞いてくれる?」

(こ、これってまさか・・・)

潤のただらなぬ雰囲気にユキは嫌な予感がしつつも気圧されて動けなかった。

「僕、キャロットでいつも失敗ばかりしてて・・・何度も辞めようと思ったんだ。でも、耕治が僕を支えてくれたから
 ・・・耕治がいたから僕、これまでやってこれたと思うんだ」

(ほ、本当に変態だ、この人・・・)

本気で男に告白しようとしてるオカマ・・・ユキは眩暈を覚えた。

「め、迷惑だってわかってるけど、キャロットには僕なんかよりずっと魅力的な女の子がたくさんいるけど・・・でも、僕、
 これだけは言わせて・・・」

(こ、これ以上聞いてたらマズイわ!)

ユキは慌てて後ろに振り返ると、その場を立ち去ろうとして・・・

「待って、最後まで聞いて!!」

ユキは潤に腕を捕まれて、引き止められた。

「あ!」

しかし駆け出そうとしていたユキの勢いに負けた潤はそのまま引っ張られて転びそうになった。

「!」

転びそうな潤に気がついたユキは咄嗟に助けようと捕まれた腕を引き上げた。
掴んだ腕を引かれてバランスを失っていた潤はそのままユキに引き寄せられて・・・


ドシーーン!


自分に向かって来た潤を支えきれずにユキは尻餅をついた。

「アイタタタ・・・」

腰の痛みに涙目になりながら身体に掛かる重みにハッと今の状況に気が付いた。
尻餅を突いたユキの腕の中に潤が胸に頬を寄せるように抱きとめていた。
ゆっくりと潤が顔を上げて・・・その瞳は閉じていた。

「耕治・・・お願い・・・」

ゆっくりとユキの顔に瞳を閉じた潤の顔が近づいてくる・・・

(オ、オカマが迫ってくる・・・オカマが・・・)

あまりの異常事態にユキの頭はすっかり錯乱状態に陥っていた。眼前に潤の顔が迫ってきて・・・・


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


両手で潤を思い切り突き飛ばすと、ユキは全力疾走でその場を逃げ出した・・・帽子だけをその場に残して。

「こう・・・じ?」

何が起こったのかわからない潤は呆然とその場にへたり込んだ・・・




「・・・どうやら、やっと諦めてくれたみたいですね」

「え?」

耕治の言葉の意味がわからなかった葵は怪訝な声を上げた。

「ほら、あの男達ですよ・・・いなくなってますよ」

「あ・・・ああ、ホントね。いつの間に他所へ行ったのかしら」

男達の事などすっかり忘れていた葵は取り繕うように言った。
あれから五つものアトラクションを葵と耕治は共に楽しんでいた。
初めは妙に照れ臭かった葵だったが、いつしかそんな事も忘れて耕治と楽しんでいた。

「いや・・・実は俺もよくわからないんですよ。今、ふと思い出して周りを見たらいなかったんで・・・葵さんと一緒にいる内に
 そんな事すっかり忘れちゃってましたよ」


ドキッ!


笑顔で言った耕治の言葉に葵は心臓の鼓動が跳ね上がるのを感じた。

(あたし・・・やっぱり・・・)

「ハァ・・・」

「? どうしたんですか、葵さん。溜息なんかついて・・・」

「ううん、何でもないわ・・・ただ、あたしも一応、“女”だったんだなあ、と思っちゃってね」

「突然何言ってるんですか。葵さんはどこからどう見ても魅力的な女性ですよ」

耕治にして見ればそれは特に意識して言ったつもりは無かったが・・・葵にはそうは聞こえなかった。

「ふーん、前田くんから見て、あたしは魅力的なんだ」

「ええ、勿論ですよ・・・どうかしたんですか?」

クスクスと口を押さえて小さく笑う葵を耕治は不思議そうに見つめた。
葵はその視線だけでも身体が熱くなるのをはっきりと感じた。

「あたしね、実は・・・」


「「「「ああ!! こんなところにいた!!!!」」」」


突然の四人の大声に耕治と葵は驚いて顔を上げると・・・三方の道より潤、ユキ、ともみと紀子がほぼ同時に二人を発見して
声を上げた。

「耕治! 何で葵さんと一緒にいるんだよ!」

「葵さん! 私、酷い目にあったんですからね!」

「「葵さんもユキちゃんもどこ行ってたんですか!?」」

潤、ユキ、ともみ&紀子の三方よりの質問攻めに耕治はタジタジになって一歩後ず去る。
葵はその様子を見回してから・・・小さく笑うと、耕治の腕に自分の腕を絡めた。

「あ、葵さん!」

突然の葵の行動に狼狽する耕治。そして・・・


「「「「ああ!! 葵さん、何をしてるんですか!!!!」」」」


怒り心頭の四人に葵は甘えるように耕治に枝垂れかかって悪戯っぽくウインクをして言った。


「見ているだけじゃつまらないでしょ♪」






 第十一話に続く


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