「お待たせ〜神楽坂!」






 気合いを入れて意気揚々と倉庫に向かった耕治は、入る前に一端止まると大きな声でドアを開けた。

 「わ、わわっ!?」

 脚立の上でちょっと大きな段ボール箱を持って棚に載せようとしていた潤は、耕治の声に驚いて思わずバランスを

 崩して今にも落ちそうによろけていた。

 「神楽坂!」

 名前を呼びながら素早く駆け寄った耕治は、潤を背中から抱きしめると何とか支えることが出来た。

 「ふぅ〜・・・何とか間に合ったか?」

 そのまま体を抱きしめたまま息を吐いて落ち着いた耕治だったが、潤の体がわずかに震えているのに気づいた。

 「・・・耕治」

 「ん、どうした神楽坂?」

 「どこ・・・触っているの?」

 「どこって・・・うわっ!?」

 耕治が自分の腕を見るとしっかりと潤の胸の当たりを掴んでいるのに気づくと、慌てて手を離して後ろに下がろうとした。

 「あっ、耕治・・・」

 どかっ。

 その瞬間、耕治の頭に潤が持っていた段ボール箱が漫画を見ているように落ちてきて、箱と一緒に崩れ落ちた。

 「ぐおっ」

 「こ、耕治、大丈夫? しっかりして!」

 下敷きになって完全に気絶した耕治を潤は介抱するが、目が渦巻きになっている耕治は起きる気配は無かった。






 Project 「リレー小説☆ぴあぴあ」 Presents

 第九話 「だからそれは誤解だってば〜!」 

 Written By じろ〜






 仕方がないので潤は耕治をその場に寝かせていたが、彼の寝顔を見ていたら何となくしてみたい事が頭の中を過ぎり、

 他には誰も居ないのにきょろきょろと当たりを見回してから、行動を起こした。

 そっと耕治の頭を持ち上げると、その下に自分の膝を入れて再び耕治の頭を膝の上に乗せる。

 俗に膝枕と言う奴である。

 暫く耕治の顔を眺めていた潤は、髪の毛に触ったりほっぺたをつついたりして早く起きないかと思いつつ、

 このまま起きないで欲しいと心のどこかで思っていた。

 「女の子だってみんなに言ってしまえば、こんな事しててもおかしくないのにね・・・」

 愚痴をこぼしつつもその顔は微笑んでいた、ちょっとだけ頬も赤くして・・・。

 この時、潤の頭の中には誰かを呼びに行くと言う考えはなく、それよりも耕治と二人きりでいる事を邪魔されたくない

 想いで一杯だった。

 いわゆる、こんなチャンス滅多にない! 状態である。

 何となく耕治の唇に視線が止まった潤はふと浮かんだ考えに顔が真っ赤に染まった。

 誰かと・・・キスしたこと有るのかな? じゃなかったら・・・。

 そんな思いに捕らわれながらだんだんと前屈みになっていく潤の顔が耕治の顔に少しずつ近づいていく。

 そして唇まであと少しと言うところで突然、耕治の目が開いた。

 「・・・んんっ、神楽坂?」

 「あ、うん、だ、大丈夫、耕治?」

 自分がしようとした事に恥ずかしさのあまり視線を逸らしながら様子を聞く潤の顔が赤いのに、見上げながら

 どうしたのかなと乙女心に気づかない鈍感が代名詞の耕治だった。






 「う〜まだちょっと頭ががんがんするなぁ」

 「ご、ごめん耕治、僕が荷物を・・・」

 「違うって、俺が大きな声を出したのが悪いんだから」

 「でもっ」

 まだ何か言おうとする潤の唇を耕治は人差し指で押さえて止める。

 「いいから、それに天罰かもしれないし・・・」

 「天罰?」

 きょとんとしている潤に耕治はニヤリとちょっと意地悪く笑う。

 「さっき神楽坂の胸を触ったからな♪」

 「こ、耕治のH!」

 「ははは〜」

 「もうっ、せっかく人が心配してるのに・・・」

 「分かってるよ、だからしてくれたんだろう、膝枕?」

 「・・・うん」

 「ありがとう神楽坂」

 真面目な顔つきになると耕治は真剣な目で見つめながらお礼を言ったので、潤の胸が激しく高鳴った。

 「でも、あんまり大きくなかったけどな?」

 「ば、ばかっ! 耕治のばかばかばか〜!!」

 「いてっ、痛いって、ごめん悪かった潤、許してっ」

 ぽかぽかと耕治の頭を叩いて顔を真っ赤にする潤を、可愛い奴などと考えながら攻撃から身を守る耕治だった。

 「ふん! 耕治なんて知らないよ、スケベなんだからっ」

 「だから悪かったって、ごめん神楽坂」

 「ふん!」






 そっぽを向いて拗ねている潤を困った様子で見ていた耕治だが、前にもやった方法で何とかならないかと考え

 言ってみる事にした。

 「神楽坂」

 「・・・何?」

 問いかけても拗ねてこっちを見ずに返事をする潤に耕治は苦笑いをして提案してみた。

 「遊園地に行こうか?」

 「えっ?」

 耕治の提案に驚いた顔でようやく自分の方を見た潤に安心して、続きを話す。

 「お詫びに遊園地に連れて行って上げるから許してくれないか?」

 「こ、耕治?」

 「駄目か? う〜ん・・・」

 「ううん、そんな事無い! そんな事無いよ、耕治・・・」

 潤が耕治を潤んだ瞳で見つめ返して何度も肯いた。

 「そっか、じゃあ今度行こうな」

 「うん♪」

 よほど耕治と出かけるのが嬉しいのか、潤は目尻に溜まった涙を手で擦って拭っていた。

 「何泣いてるんだ、神楽坂?」

 「な、何でもないよ、目にゴミが入っただけだって!」

 「ふ〜ん、そう言う事にしておいてあげるか・・・」

 「もうっ、耕治のいじわる」

 「はっはっはっ〜」

 「くすくすっ」

 仲直りした耕治と潤は二人だけの世界を作っていたが、ここはピア・キャロットの倉庫である、だから誰が来ても

 おかしくなかった。






 がたっ。

 音のした方に二人がそろって顔を向けると、ドアの所で口元に手を添えてこっちを見て立ちつくしているつかさがいた。

 「「つかさちゃん?」」

 「し、知らなかったよ、ボク・・・」

 うるうるした目で顔を横にふりふりしながらつかさは後ずさった。

 「あの、つかさちゃんこれは・・・」

 たっ。

 踵を翻して立ち去って行ったつかさを、耕治は一瞬ぽけっと見ていたがすぐに我に返ると体を起こして

 立とうとしたが、立ち眩みをして膝を着いてしまった。

 「うっ・・・」

 「大丈夫、耕治?」

 「ああ、俺の事はいいけど不味いんじゃないか? 見られちゃって」

 「えっ、僕は別に構わないけど・・・」

 「あのなぁ〜、ここでは神楽坂は男なんだぞ?」

 「うん」

 デート(?)の約束をした所為か笑顔で答える潤に力が抜けそうになるのを必死で耐えて、耕治は言葉を続けた。

 「だ・か・ら〜、男の神楽坂に膝枕されて楽しそうに話していた俺はどう見えちゃうんだ?」

 「どうって・・・あれ?」

 首を捻って考える潤がどことなく可愛いが、そんな事は気にしている余裕が無い耕治は頭をかきむしった。

 「ああっ、そうか、そう言う仲に見えるんだね♪」

 落ち着いてポンと合いの手を打って、さっきより嬉しそうに微笑む潤に耕治は唸った。

 「落ち着いてる場合かーっ! しかも見られたのはつかさちゃんだぞ?」

 「うん、そうすると今頃は・・・」

 「ま、まずい!?」

 そう言って今度こそ立ち上がると耕治は倉庫を出て、急いでつかさの後を追いかけて行った。

 「あ〜あ行っちゃった、でもそれはそれでも良いんだけどね、私に取ってはその方が誰も耕治に近寄らなくなるしね」

 一人残された潤は楽しそうに自分の気持ちを呟いて、鼻歌を歌いながら再び倉庫整理を始めた。






 「だから見たんだってば〜、耕治ちゃんとじゅんじゅんがらぶらぶしていたのを!」

 フロアに来たつかさは早速そこにいたウェイトレス達に自分が見た事を多少・・・いや、かなり脚色して

 瞳をきらきらさせて話していた。

 「まさかあの二人がねぇ・・・」

 葵は言葉こそ否定はしていたが、その顔には今夜はその事で盛り上がれると密かに楽しみにしていた。

 「そうよね、いくら何でも・・・」

 涼子はいくら何でもそんな事有って欲しくないと言う思いから、つかさの言葉には素直に肯けなかった。

 「美奈はお兄ちゃんの事信じていますぅ」

 美奈は大好きな耕治の事を変な風に言うつかさに対して、涙目になって睨んだ。

 ただあずさだけが黙って話に耳を傾けていたが、よく見ると肩を震わせて綺麗な指を白くなるほど握りしめていた。

 それに気づく訳も無く、更にみんなに教えようとつかさはうっとりしてどこか遠くの方を見ながら言おうとした。

 「耕治ちゃんを膝枕して見つめていた潤くんが、そのまま顔を近づけていって・・・ムガムガッ」

 「ストップ、つかさちゃん!」

 「もご?」

 ようやく追いついた耕治はつかさの口を後ろから塞ぐと、取り合えず黙らせたが少し遅かった様である。

 耕治はそこにいた彼女達を愛想笑いしながら見回してながらつかさの話を否定してみた。

 「あの、誤解ですからね、つかさちゃんの言ったことは・・・」

 「ふ〜ん・・・そう、でもどの辺が誤解なのかじっくり聞かせて欲しいわ♪」

 「・・・何してるんですか、美樹子さん?」

 そこに、いつの間にか葵達に混ざってスケッチブック片手にわくわくしながら耕治の言葉を待っている美樹子がいた。

 「何って・・・や〜ね〜取材よ、しゅ・ざ・い♪」

 ジト目で睨む耕治の視線を物ともせず、ずい〜っと前に出るとつかさに近寄って耕治の手をどけると質問を再開した。

 「で、もっと詳しい描写が欲しいんだけどそこん所お願いできるかな?」

 つかさは、自分の話を真剣に聞いてくれる美樹子に共感を感じて再び話し始める。

 「うんうん、耕治ちゃんも笑顔浮かべて潤くんをじっと見つめるの、それも熱い瞳で」

 「ふんふん、それから?」

 スケッチブックにメモりながらそのイメージのラフをその横に描いていく美樹子に耕治は嫌な感じがして、

 聞かずにいられなくなった。

 「ちょっと美樹子さん、それってまさか・・・」

 「うん、さすが耕治君よね〜、お願いしたばっかりなのにすぐにネタを考えてくれるなんて♪」

 ため息をついて、悪い予感だけはよく当たるんだよなぁと自分の勘に恨みながらも耕治は質問を続ける。

 「予想は出来るんですがあえて聞きます、どんな内容にするつもりなんですか?」

 「もっちろん、禁断の美少年愛をテーマに描くに決まっているでしょ♪」

 「却下」

 耕治は最初から用意していた答えを間髪入れず美樹子に言った。

 「えーっ! こんなに面白いのに〜」

 「もし描いたらアシスタントの話は無かった事にするから」

 今の美樹子に一番威力のある事を淡々と言い切る耕治の目はマジだった。

 「それって卑怯よ、耕治君!」

 自分の事しか考えていない美樹子の意見をさらっと流してはっきりと強く耕治は否定した。

 「あのね、自分の事を面白おかしく描かれて尚かつそれを手伝うなんて出来るわけないでしょう!」

 はっきり言われてつまらなそうにスケッチブックを抱きしめると、眉間にしわを寄せて唇を尖らして愚痴る。

 「ちぇ〜」

 「ちぇ〜じゃない!」

 「ぶ〜」

 「ぶ〜でもべ〜でも駄目な物は駄目!」

 頑として譲らない耕治に美樹子は顔をしかめて舌を出してべ〜として耕治に文句を言う。

 「けちっ」

 「が〜っ!」

 耕治の迫力に仕方なくしぶしぶと言った感じで諦めたかと思ったら、美樹子は急にニタ〜と笑って耕治を見つめた。







 「じゃあさ・・・普通の恋愛とかなら問題ないわよね?」

 「まあ、男と男じゃなければ・・・」

 耕治の返事を聞いて早速スケッチブックを広げると、ニコニコしながらつかさに躙り寄った。

 「OK! それじゃつかさちゃん、協力してちょ〜だい♪」

 「ボクが? どうして?」

 「だって、耕治君に抱きしめられたままのつかさちゃんもなんかいい感じだから」

 「へっ?・・・ああっ、ごめんつかさちゃん! ってあら?」

 美樹子に言われて気が付いて放そうとした耕治の腕をぎゅっと抱きしめると、つかさは顔を赤くして照れながらも

 大きくうなずいた。

 「うん、いいよ、耕治ちゃんと恋人同士って言うならボク協力しちゃう♪」

 さっきまで耕治と潤の事をあれこれ言っていたのに、いざ自分の事となると恋する乙女の本能のままに行動を

 切り替える現金なつかさだった。

 「よし、決まり〜! ではさっそく詳しい事を・・・」

 「あの・・・腕を放してくれないかな、つかさちゃん?」

 「え〜、だって耕治ちゃんとボクは恋人同士なんだよ」

 「ちがいますぅ、美奈のお兄ちゃんなんだから離れてください!」

 今まで黙っていた美奈も同じく恋する乙女の本能が耕治が他の女の子とくっついているのに我慢出来なくなって、

 つかさに大きな涙目で抗議する。

 「お兄ちゃん、それも良いかも・・・」

 美樹子の言葉にまた妖しい考えを巡らしていると気づいた耕治は、すかさず反論する。

 「そーゆーのも駄目!」

 「えーっ、だって男の子と女の子だったら良いって言ったじゃない?」

 「それのどこが普通の恋愛だ? それに違う意味で危ないから駄目!」

 それを聞いた美奈はなんか自分の事を嫌いみたいに言われたと感じて、耕治の事をうるうるした大きな目で見つめた。

 「ぐすっ、耕治お兄ちゃん美奈の事嫌いなんですか?」

 「ああっごめん、そんな事無いよ、俺も美奈ちゃん大好きだよ」

 「えへへ〜美奈嬉しいですぅ」

 「あ〜っ耕治ちゃん酷いよ! ボクの恋人じゃないの?」

 今度は反対につかさが唇を尖らせて膨れっ面になり、美奈は嬉しくて笑顔を浮かべて喜んでいた。

 そんなじゃれ合いを見ていた葵はさりげなく涼子に自分たちの事を持ちかけてみた。

 「あら〜それじゃ私達はどうなのかしら、ね〜涼子?」

 「なんで私に振るのよ、葵?」

 葵の言われるまでもなく凄く気になっていたが涼子は誤魔化すように返事をして、目の前の耕治をちらちらと

 横目で気にして見ていた。

 そんな二人の会話にしっかりと聞き耳を立てていた美樹子は、葵と涼子の顔を見てまたまたニヤリと笑いすぐに

 漫画のネタを思い浮かべて呟く。

 「お姉さんとの・・・」

 「だからそーゆーのは駄目だって言ってるだろう!」

 「もうっ耕治君て堅いんだから〜」

 「そう言う問題じゃな〜い!」

 もはや騒ぎが大きくなって収拾が着かなくなりそうになった時、傍観していた彼女はその握りしめていた拳を

 静かに解くとゆっくりとその騒ぎの中に向かって動き出した。






 がしっ。

 「うわっ?」

 「きゃっ?」

 無言のまま突然割り込んできたあずさが、男顔負けの握力で耕治とつかさの肩を掴むと、力任せに引き離した。

 「みなさん、今は休憩時間じゃないと思うんですけど違いますか?」

 顔はこれ以上無いって笑顔で、しかし雰囲気はもの凄く怖いあずさに見回されて、そこにいたみんなは恐怖のため

 一瞬硬直してしまった。

 「違いますか?」

 普段の明るい声の彼女と違って妙に低い声でもう一度聞くあずさに、皆同じ様に首を縦に何回も振って肯いていた。

 「そうですか、それではみなさん仕事に戻りましょう」

 あずさの最”恐”の笑顔に逆らおうなんて思う愚か者は誰も居ないのか、黙ってその場からみんなが離れようとした時

 騒ぎの元になった潤が倉庫の方から耕治を呼びに来た。

 「ちょっと耕治! いつまで僕一人で片付けさせるんだよ?」

 「ああ、悪い神楽坂、今行くよ」

 しかし怒っている様な言葉と違って潤の楽しそうな笑顔を見たみんなは、さっきつかさが言っていた事がまんざら

 嘘じゃないのかとちょっとだけ思ってしまった。

 「なんか妖しいわね、あの二人〜♪」

 「気、気のせいよ、葵」

 葵のウキウキした言葉に力無く答える涼子の顔にもどことなくそう思っている節が伺えた。

 「ほらほら〜ボクの言ってた通りでしょ」

 「耕治お兄ちゃん・・・美奈は、美奈は信じていますぅ」

 目をきらきらせて嬉々とした表情のつかさと目をうるうるさせて心配そうな美奈は、見事なほど対照的なだった。

 「ほら、早くっ」

 「わわっ、手を引っ張るなって」

 潤がみんなの前で耕治の腕を両手で掴んで歩き出そううとしたら、あずさがジト目で二人を睨みながらぼそっと呟いた。






 「やっぱりそうなんじゃない、この変態!」






 「ちが〜う、だからそれは誤解なんだってば〜!」

 「がんばろうね、耕治♪」

 「・・・やっぱりこの二人で行こうかしら?」






 第十話に続く


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