「んーっ♪ 今日も良い天気だなぁ。」


 耕治は空を見上げながら大きく伸びをした。
 今日の耕治のシフトは掃除。従って今は店の前である。


「さて、さっさとここの掃除を終わらせて他の所も回らないと、休憩時間までに終わらなくなっちゃうな。」


 そう言うとテキパキと掃除を始める耕治。慣れた手つきで店の前を掃いていく。
 
 暫く掃いて、ゴミを一カ所に集めてちりとりでゴミを取っていると耕治の前に足が六本並んで見えた。


「「「こんにちわ〜♪ おにーさんっ♪」」」






Project「リレー小説☆ぴあぴあ」Presents

第参話 「3人娘と美奈ちゃんと♪」 

Written By kain






「こんにちわ。3人とも今日はお客様かな?」

 
 そう、耕治の前にいたのは耕治の良く知っている3人の女の子達だった。


「えへへっ。今日はね、ともみの誕生日なんだ〜♪」


 愛沢ともみ。長い髪をツインテールにして、細いリボンで纏めている、ちょっと甘えん坊な妹のような女の子。


「おかげで散々奢らされたのよ。今月のお小遣いがパーよ、全く。」


 新塚ユキ。肩の下位の髪をそのまま流して前髪をヘアバンドで留めている、少し皮肉屋な、でも本当は優しい女の子。


「ユキちゃんそんな事言っちゃダメじゃないですか。又ともみちゃん泣いちゃいますよ?」


 志摩紀子。ショートヘアーの大人しそうな女の子。だけど3人の纏め役。

 この3人はこの夏に一騒動あったのだが、今はいつも通りの仲良し3人組になっている。
 耕治にとっては可愛い妹達の様なもの・・・なのだろうか?


「そうなんだ、で、買い物の後の食事に来たのかな?みんなは。」

「ん〜、それもあるんだけど・・・お兄さん今度の日曜日はお休みかなぁ?」

「今度の日曜? ・・・ん〜どうだったかなぁ。昼間なら空いてたと思うけど?」

「やったぁ♪ それじゃその日ね、ともみ達に付き合って欲しいんだぁ♪」

「ともみがピクニックに行きたいって言うんだけど・・・保護者無しじゃ親も納得してくれないのよ」

「で、お兄さんに保護者として付いてきて欲しいんですけど・・・ダメですか?」


(確かに日曜は夕方までは暇だしなぁ。3人に付き合うのも久しぶりだし・・・行っても良いか。)


 耕治は素早く考えを纏めると行っても良いだろうと判断を下した。
 実際暇だったし、バイトも夕方からである。昼間は3人に付き合っても支障は無い筈である。


「良いよ、今度の日曜日だね? ちゃんと空けて置くから。」

「アリガト〜♪ お兄さん大好きだよ〜♪」

「頼りない保護者だけど・・・よろしく頼むわね。」

「すいません。有り難う御座います。」


 耕治の言葉に三者三様の言葉を返す3人娘。
 耕治としてもどう返して良いか判らず苦笑を返すしかなかった。


「ほらほら、みんなお客さんとして来たんだろ? 俺も仕事があるし、早く行かないと混んできちゃうよ?」

「エヘヘッ。そうだね、それじゃお兄さん日曜日は約束だよ?」

「はあ、まだ奢らされるのね・・・全く・・・」

「ユキちゃん。今日はともみちゃんの好きにさせてあげましょうよ、折角の誕生日なんですから。」


 三人が楽しそうに話しているのを耕治は嬉しそうに眺めていた。
 この夏、この三人が大喧嘩をしていたのを耕治は知っている。ある意味それがこの三人と知り合うきっかけだったのだから。
 三人の関係が壊れそうになる位の深刻な喧嘩だったのだが、耕治が間に入って仲直りしたのだ。
 耕治自身は話を聞いてあげただけのつもりなのだが、三人はそれ以降耕治に懐いている。・・・耕治は理由には気付いていないが。


「おっといけない。仕事仕事っと。」


 そして耕治は掃除を再開した。

(どうせなら誕生日プレゼント代わりに何か一品ずつ位は奢ってあげたいし、さっさと終わらせて中に行かないとな。)

 先程よりも手早く掃除を続ける耕治。それでも雑にならないのはバイトを続けてきた成果の一つであろう。
 そして掃除を終わらせると、清掃用具を纏めて店の裏口に廻っていった。










「へえ〜。それで耕治ちゃん日曜日はともみちゃん達とデートなんだぁ。」

「耕治君。中学生に手を出しちゃ駄目よ〜♪」

「出しませんよっ! つかさちゃんもっ! デートじゃなくて保護者として行くのっ!」


 掃除から帰ってきた後、先に休憩に入っていた葵とつかさに休憩に入るように言われて、一緒に休憩する事にした耕治だったが
 ともみ達が店内でかなりはしゃいでいたようで、二人に色々問いつめられてしまった。
 からかわれるのは予測済みの耕治だったが、実際にからかわれるとやはり照れてしまう。


「全く、何度も言っているように、ともみちゃん達は妹みたいなものなんですから。そういう事を言わないで下さいよ。」

「だぁって〜。耕治君がそう思っててもあの子達がそう思ってるとは限らないし、最近の中学生って進んでるらしいし・・ね♪」

「え〜っ!! 駄目だよ、耕治ちゃん! そんな事になったら耕治ちゃん捕まっちゃうよ!?」

「・・・だから、そういう対象として彼女たちを見てないって言ってるじゃないですか・・・勘弁して下さいよ、葵さん。」

「じゃ、耕治ちゃんにとって、ともみちゃん達ってホントに妹みたいなものなの?」

「さっきからそう言ってるじゃないか、勘弁してよ。つかさちゃんも。」

「でも〜。あの子達確かに可愛いし、ちょっと心配だよ〜。」

「だ・か・ら、何度も言ってるけど、ともみちゃん達は妹みたいなものなの。美奈ちゃんと一緒だよ。」


 自分が美奈を妹の様に可愛がっているのを皆は知っている。
 だから美奈を引き合いに出して納得して貰おうと思った耕治だったが、美奈に聞かれているとは考えもしなかった。










「だ・か・ら・何度も言ってるけど、ともみちゃん達は妹みたいなものなの。美奈ちゃんと一緒だよ。」


 店長の祐介に頼まれて耕治を呼びに来た美奈だったが、扉を開けようとした手が中からの声で止まってしまった。


(・・・あれ・・・何でかな?・・・何か・・・嫌な気分・・・)


ガチャ。


「きゃっ。」

「え、美奈ちゃん? 御免、大丈夫だった?」


 いきなり内側から開いたドアに吃驚して尻餅を付いた美奈だったが、耕治に助け起こされる前に立ち上がると耕治に向かって御辞儀をした。


「はい、美奈は大丈夫です。ちょっと吃驚しちゃっただけですから。」

「そう? なら良いんだけど。でもどうしたの? 誰かに用事かな?」

「あっ、そうでした。耕治さん、店長さんが呼んでるんです。美奈それを言いに耕治さんを捜してたんです。」

「えっ、そうなんだ。有り難う美奈ちゃん。店長は何処にいるのかな?」

「倉庫の方で待っているって店長さん言ってましたぁ」

「倉庫だね、有り難う」


 美奈に礼を言うと耕治は倉庫の方へ走っていった。その後ろ姿を見ていた美奈に葵が声をかけた。


「あれ、ど〜したの美奈ちゃん? な〜んか不景気な顔してるわよ〜。」

「え?美奈そんな顔してますかぁ。・・・そんな事無いですよ、美奈はいつも元気ですよ。」

「ダァメダメ♪ そんな顔していっても説得力無いわよ。悩みがあるんならお姉さんに言って御覧なさ〜い。悪いようにはし・な・い・か・ら♪」


 口調はおちゃらけていたけど葵の表情は優しかった。
 だからかもしれない。美奈はさっきの耕治の話を聞いていた時に感じた事を全て話していた。
 耕治に妹みたいなもの、と言われた時に感じた嫌な感じの事を。


「そうかぁ。耕治君にそう言われて美奈ちゃんはそんな風に感じちゃッたんだ。」

「はい、何だかこう・・胸の中がもやもやしてきて・・・美奈、何処か変なんでしょうか?」

「そんな事無いわよ、むしろ美奈ちゃんが女の子だからそんな風になるのよ。」

「そうでしょうか?・・・美奈には・・・よく判りません。」

「そっか〜、まだ判んないのかぁ。・・・・・・ねえ美奈ちゃん、今度の日曜日夕方からのシフトだったわよね?」

「え? は、はい。そうですけど?」

「じゃ、日曜日は昼間予定入れないでね〜♪」

「えっ? あ、葵さぁん。何する気何ですですかぁ?」


 葵が悪戯っぽく笑うのを見て少し不安になった美奈だったが、葵がそんなことを気に留めるはずもなく、そのまま美奈に手を振ってフロアに戻って行ってしまった。


「・・・美奈・・・相談する人間違えちゃったんでしょうかぁ。」


 ・・・美奈の呟きは誰にも聞かれることはなかった。











 そして日曜日。
 待ち合わせ場所の駅前に集まったのは・・・ともみ、ユキ、紀子の三人娘と耕治、そして葵と美奈だった。


「で、何で葵さん達が此処にいるんです?」

「あら、だって耕治君を信用していない訳じゃないけど間違いがあったらいけないものね。だから未成年じゃないアタシが居た方が良いでしょ?」

「すいませぇん・・・葵さんがどうしてもってぇ。」


 耕治の疑わしそうな目や三人娘のジト目にも答えた様子もなく、しれっと答える葵。
 それとは対照的に申し訳無さそうに小さくなっている美奈。


「・・・美奈ちゃんは良いんだよ、葵さんに無理矢理連れてこられたんだろうし・・・。来たものは仕様がないか。悪いけど、良いよね? ともみちゃん?」

「うん、ともみは良いよ〜♪ 大勢の方が楽しいし♪」


 耕治にあっさりと答えるともみ。大勢で遊ぶ方が楽しい辺り、この辺はまだまだお子さまである。


「ほら、さっさと行くわよ。時間が勿体無いじゃない。」


 ユキの一声でみんなが移動していく。今日の行き先は3駅離れた所にある自然公園。
 最近評判のデートスポットでもある辺り、三人娘もお年頃という事なのだろう。











「うわ〜♪ ひっろ〜い♪」

「へえ、こんなに良いとは思わなかったわ。」

「評判になってるだけのことはありますよね。」


 自然公園に着いてみてみんな思わずその景観に感嘆の声を上げた。
 この自然公園、広大な敷地内に川や湖まである公園なのだ。


「あ、お兄さん。あっちの湖でボートに乗れるんだって。行こうよ〜♪」

「判ったから引っ張らないでよ、ともみちゃん。・・・すいません。葵さん、皆の事お願いしますね。」


 ともみが耕治の腕を引きながら湖の方へ歩いて行くのを見て、美奈はまたもやもやしたものを抱えていた。


(・・・何でだろう? 耕治さんと他の女の子が仲良くしているのを見ると・・・また・・・嫌な感じがする。)

(何でこんな事考えちゃうんだろう?他の女の子と仲良くして欲しくないなんて・・・。)


 考え込んでいる美奈の顔を見て葵は何か満足そうな顔をしていた。
 

(う〜ん。大分煮詰まってきてるみたいだし、後もう一押しって所かな?)


 などと葵がとんでも無いことを考えているとは露知らず自分の考えに浸っている美奈であった。










「う〜ん、風が気持ち良いね〜♪」

「そうだね、気持ち良いよね。」


 二人はボートに乗りながら楽しく談笑していた。
 ともみとしては、久しぶりに耕治と二人きりになれて御機嫌だったし、耕治もまあ妹みたいなものとはいえともみのような可愛い子と二人っきりでボートに乗って楽しくない訳はなかった。


「お兄さん。有り難うね、ともみの我が儘聞いてくれて。」

「良いよ、俺も充分楽しんでるし。」

「ホントに? ホントに迷惑じゃなかった?」

「ホントだって。ともみちゃんみたいな可愛い子と遊べるんだからね。」


 耕治の台詞にともみは赤くなって俯いてしまった。
 こんな台詞が意図せずにポンと出てくる辺りが、耕治がモテる要因の一つかも知れない。


「・・・あのね、お兄さん。聞きたいことがあるんだけど・・・良いかな?」

「うん、構わないよ。何が聞きたいのかな?」

「あの・・・あのねっ。お兄さん・・・今・・その・・・好きな人って・・いるの?」


 耕治はともみのいきなりの問にバランスを崩しそうになりながらも何とか立て直した。


「い・・・いきなりな質問だね・・・ともみちゃん・・・」

「御免なさい。でも、ともみどうしても知りたいの。」

「・・・どうして?」

「だ・・・・だってともみっ・・・」

「ともみちゃんっ! 立っちゃ駄目だっ!」

「えっ? きゃぁぁっ!!」


 ともみがボートの上で立ち上がってしまった所為でボートが大きく傾いだが耕治が咄嗟にともみを捕まえたので、ボートは転覆しなかったし、ともみも湖に落ちずに済んだ。
 しかし、その所為で耕治がともみを抱き締める形になっていたが。


「ふぅ、大丈夫かい? ともみちゃん。」

「う、うん。・・・・大丈夫だよ・・・」

「駄目だよ? ボートの上で急に立ったりしたら。」

「うん。これからは気を付けるね?」


 そう言うとともみは耕治にギュッと抱きついた。


「と、ともみちゃん?」


 ともみの行動に少し焦る耕治。でも、ともみは離れようとはしない。


「ねえ、お兄さん・・・誰かを好きになるのはもう少しだけ待っててね。」

「???」

「ともみ、急いで大人になるから。・・・PIAのお姉さん達に負けないぐらいに。」

「・・・・ともみちゃん・・・」


 思わず見つめ合ってしまう耕治とともみ。
 このまま良い雰囲気でいければ良いのだろうが世の中そこまで甘くはないようだ。


「こらぁ〜! その二人離れて下さいぃ〜!!」


 いきなり聞こえた声に弾かれたように離れる二人。
 声の主は別のボートを葵に漕がせて耕治達を探しに来た美奈だった。


「耕治さんは美奈のお兄さんなんですからね〜! くっついちゃ駄目です〜!」


 どうやら先程の行景を見ていきなり自分の感情を自覚したようである。葵の思惑通りといったところであろうか?
 

(さて、これで美奈ちゃんも自覚したみたいだし、面白くなるわねー。)


 ・・・耕治は葵にとっては遊び甲斐のある玩具でしかないのだろうか? 少し疑問である。











「あ〜あ、恥ずかしい事してるわね、ともみってば。」

「ユキちゃんもやりたいんじゃないですか? ああいうの。」


 岸に残っていたユキと紀子は騒ぎをみて笑いながら話していた。
 

「私の柄じゃないわ。ああいうのはともみか紀子の方が似合うわよ。」

「あれ? じゃあ、ユキちゃんはお兄さんの事諦めるんですか?」


 紀子が悪戯っぽく聞いてくるのをユキは耕治達のボートをみながら答えた。・・・微笑みながら。


「まっさか。諦める訳無いじゃない。」


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