「ふわ〜っ、今日も良いお天気ね」
双葉涼子の朝は早い。
本当に昨夜宴会に出てたのかという疑問が出るくらい早い。
手早く、朝食を済ませ。
洗濯、掃除を軽くしたのち、一番で中杉通り店の門をくぐる。
マネージャーの仕事は、事務所の中だけかと、思われがちだが、PiaCarrotに限ってそんなことはない。
周辺の掃除や、キャッシャー、当然事務処理もする。
閉店後には、その日の売り上げのチェック、店内の軽い清掃etc,etc…
すべてが終わる時に、一日が既に終わっていることも珍しくなんかない。
そして、一番最後に店を出る。
こうして、中杉通り店の影の主の長い一日は終わる。
Project「リレー小説☆ぴあぴあ」Presents
第五話「からだはいたわってね♪」
Written by よーや
「いや〜前田君は、本当によくやってくれるよ。」
「そうですね、いまは、本当に男手がありませんから。でも、あんまり、無理しすぎないといいけど。」
「確かに、飛ばしすぎているかもしれないな。うーむ。」
耕治は耕治で、忙しい。
バイトの中も、珍しい、男手ということもあってか、マルチに仕事をこなしている。
「いらっしゃいませ、PiaCarrotへようこそ!!」
「何名様でしょうか?おタバコはお吸いになりますか?」
「それでは、こちらの席へどうぞ。」
夏休みからこなしてきただけにフロアの仕事はみごとなもの。
よどみなく流れるように、お客を案内していく。
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ザクッザクッザクッザクッ
タンタンタンタンタンタン
「ふぅ。調理長、キャベツ5コ千切りしましたけど。」
「どれどれ、ふむ、まぁ、このくらいできれば、線キャベツは良いだろう。」
あれから、厨房のシフトの時にはずっと、線キャベツを切っていた耕治の努力が実ったのか、
"線キャベツ"の腕前だけは、それなりになったようだ。
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「これはこっちで、そっちはあれで…」
「うわっ、うわっ、耕治手貸して!」
「ふぅ神楽坂君、もう少ししっかりしてくれないと困るよ〜」
祐介がもっぱら、フロア中心に働くようになったので、倉庫のリーダーはおのずと耕治になってくる。
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とにかく、耕治はよく働く。
面接日のあずさとのゴタゴタから、勢いで、六日間勤務を承諾した夏休みの間もそうだったが、
いまの状況はさらにすごいものだ。
午前中は普通に高校に行き、午後にはキャロットで働くのだ。
並みの心構えでできるものではない
「ふぅ、こんなもんかな?」
「前田君、そんなに飛ばしちゃって大丈夫なの?」
「ん、日野森か?俺の心配してくれるなんて、うんうん、おにいさんはうれしいよ」
「ちょっと、だれがだれのお兄さんなのよ〜」
「はははは。」
今日はキャッシャーだった涼子は、そんな光景を片目で眺めていた。
「涼子、なに不景気な顔してんのよ?」
たまたま、フロアの仕事に余裕が出てきたのか、葵がはなしかけてきた。
「なるほどなるほど、マネージャーのおねえさまは耕治くんとあずさちゃんが仲良いのがしょっくなのね〜」
「べ、別にそんなんじゃないわよ」
「それじゃ、なんでそんな顔してたの〜?うりうり、白状なさい」
「うぅ〜、って、葵そんな事してないで、仕事に戻りなさい!!まだ勤務中よ!!」
「あ、はぐらかしたわね。じゃ、その辺は後でしっかりと聞かせてもらうわね〜」
「もう、葵ったら」
…くらっ
(あれっ?)
「…しもし?」
「はい?」
「あの、お勘定お願いします。」
「あ、すいません。えっと…」
からかいに来た葵を、仕事に返して、
ほっとしたところに、軽い目眩を感じたが、深く気にもしないで仕事に戻る。
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「それじゃ、涼子さんお先に失礼します。」
「じゃ、涼子お先に〜」
ほかのみんなが寮や、それぞれの家に帰って行く。
しかし、涼子にはまだ、仕事があるのだ。
「それじゃ、双葉くん始めようか?」
「はい、店長。まず、オーナーから話しのあった企画の件ですけれど…」
祐介をして"頼りになる女性"と言わせしめた涼子である。
打ち合わせにしたって、てきぱき進んでいく。
そんなに時間も経たないうちに
「双葉くん、顔色が悪いんじゃないか?」
「いえ、そんな事はないですよ?」
「いや、大事を取るに越した事ははない。
今日するべき分はあらかた終わったのだし、この辺で切り上げて今日は帰ったほうが良い。
僕もそろそろ切り上げるから。これで、終わりにしよう」
「大丈夫ですよ、そんな事はないですよ。」
「コンコン」
戸をたたいて誰かが入ってきた。
「涼子さん、店長、そいじゃ先に帰ります。」
「前田くん、いったいこんな時間にどうしたんだい?」
「いや、倉庫の整理が、少し残ってたんで、片づけてしまおうかなと思ったんで」
「そうか、それはご苦労様。それじゃ、すまないんだけど、
双葉くんを送っていってあげてくれないかな?どうも調子が良くないみたいなんだ」
「わかりました、それじゃ、行きましょうか涼子さん?」
「すいません、店長」
「なぁに、気にしないで、しっかり、休んでください。それじゃ、前田くんよろしく。」
「「それじゃ、失礼します。」」
コツコツコツ…
二人の足音が遠ざかっていくのを確認してから、
「さて、双葉くんにはあぁ言ったものの、
これは、早めに片づけておかないと、親父にどやされるからなぁ、
さとみには遅くなって悪いけど、怒られる覚悟を決めて片づけておくか。
ふふっ、部下を気遣って、黙々と作業に励む…これも男の浪漫だ、うん。」
ともあれ、最後の台詞がいささか怪しげではあるが、店員を気遣う姿勢は立派だ。
しかし、企画とはなんなのだろうか?
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「涼子さん、ほんとに大丈夫なんですか?」
学校帰りに直で来たので、自転車を押しながら、涼子の荷物を持って耕治が尋ねる。
「別に大した事じゃないんだけど、店長は顔色が悪いから、早く休んでくれって。」
「でも、本当に顔色悪く見えますよ。無理してるんじゃないんですか?」
「そんなことないわよ、それより、前田くんこそ大丈夫なの?
夏休みの間は、半日だったのに、今は学校もいれれば、一日中動いてるんでしょ?」
「いや、俺は大丈夫ですよ。部活やってる奴等は、これくらい動いてるもんでしょ?」
(まさか、学校で寝てるとはいえないな、ハハハ)
「まぁ、確かにそうなんだけど…」
互いを気遣いながら、話しをしていると、寮が見えてきた。
いつもの事ながら、人と話しをしていると、この距離はとても短くなる。
「涼子さん、ちゃんと休んでくださいよ。」
「前田くんもね。ゆっくり休んでね。あ、でも、明日はお休みだったかしら?」
夏休みと違い、学生組は来れる時間が限られてくるので、休日が固定というわけにもいかないらしく
涼子もうろ覚えのようだ…
「ええ、学校も休みですから、明日はゆっくり休ませてもらえますから。涼子さんは明日も仕事なんでしょ?
早く、寝ちゃったほうが良いですよ、無理しないでくださいよ。それじゃおやすみなさい。」
「おやすみ、前田くん」
・
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パタン
「二人にはあぁ言ってみたものの、ちょっとつらいかもしれないわ。
二人の言うとおりに、早く休んだほうが良いわね。」
いつも、帰ってきてそんなに起きているわけではないが(宴会を除き)
涼子にしては、特別に早く床に就いた。
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そして、また夜が明ける。
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(む〜、体がだるいわ、体温計、体温計)
(7度5分…これくらいなら、大丈夫よね)
多少手足が不自由な気もしないでもないのだが、
職務を大切にする涼子は、そそくさと、準備に取り掛かった。
すこしでもサボろうとする世の中の諸君にも見習ってもらいたいものである。
「やぁ、双葉くん、あんまり、体調は良くないみたいだけど、大丈夫かい?」
「あ、涼子さん。こんちゃ〜す!」
昨日の残業など事など欠片も見せないで、迎える祐介と
とにかく朝から元気な、2号店のムードメーカー榎本つかさが涼子を出迎えた。
「あ、店長、おはようございます。大丈夫ですよ、これくらいで休んでいられませんもの。
えっと、今日は葵とつかさちゃん、それから、早苗さんが、早番ですね。」
「あぁ、縁くんはさっき見かけたけど、皆瀬くんはまだ来ていないみたいだね。
双葉くんもあんまり、無理はしないようにね。駄目だと思ったら、早退したほうが良い。
遠慮なく言うようにね。」
「わかりました、でも、ほんとに大丈夫ですから。それにしても、葵ったら。」
「ハハハハ。葵ちゃんらしいね。」」
さすがの涼子も長い付き合いと言う事もあるのだろうが、
ここの所、遅刻ぎりぎりで駆け込んでくる葵には、気安いと言うか、容赦が無い。
そんな噂を立てていると、
キキーーーーーーーーーーーーッ!バタンッ!
けたたましいブレーキ音がしたと思うや否や、バックルームに飛び込んでくる人影二つ。
「あの、ゼェゼェ、葵さん、ハァハァ、なんで、今日は休日の俺まで、キャロットにこなきゃいけないんでしょう。」
「ごめんごめん、ちょっと、寝坊しちゃって〜♪
ちょうど、出るところに耕治くんがいたから〜♪ほんと、ごめんね〜」
もう、前回ので慣れてしまったのか、すぐに水を取りに行く涼子と、
近くにあったファイルで耕治をを煽ぐつかさ。
「耕治ちゃん、だいじょうぶ〜?」
「前田くん、はい、お水。ほんとにご苦労様。葵ったらまた、耕治くんを使って、まったくもぅ」
こうなってしまったのも、前回同様。
前回ので味をしめた葵は、安心しきって眠っていたところ。
目覚めたのは、遅刻8分前。
そこへ、運が良いのか悪いのか、またもや、休みでちょうど、真士に呼び出された耕治が通りかかったと言う訳だ。
耕治としては、前回の10分を上回るコースレコードをたたき出す羽目になってしまったわけだ。
「ほんとに、あんたは〜」
ただでさえひどい頭痛がまた、ひどくなるような気さえしながら涼子はため息を吐いた。
「確かにここんとこ、耕治くんには世話になってるし、よし、お姉さんがおごってあげるわ〜」
「葵さん、ありがたいんですけど、朝食食ったばかりだし。
真士のやつに呼ばれてるから、お昼か、夜によらせてもらいます。覚悟しといてくださいよ。」
「わ、分かったわ、お手柔らかにね。」
「それじゃ、また。」
パタン
入ってきた時とはうってかわって、静かに耕治は出ていった。
「葵も早く着替えてらっしゃい。もう時間よ。」
「わかってるってば、そんなに急かさないでよ」
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そして、中杉通り店の一日が始まる。
(店長、あの後一人で仕事を片付けてくれたみたいね、後でお礼を言っとかないと。)
(今日は、休日だし、忙しくなるわね。)
(それにしても、葵はしょうがないわね、まったく反省の色が無いんだから。)
事務所では涼子が一人黙々と作業をしていた。
どうも、オーナー発案の企画について、本店と色々と折衝があるようだ。
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そして、お昼。
「りょ〜こ♪お昼にしない?も〜私くたびれちゃって、涼子?」
返事が無い。見渡しても、該当する人物が見当たらない。
「りょ〜こ〜、どこ〜?」
「ぁぉぃ…?」
肩で息をしながら、やっとの事で反応する涼子。机に伏していたので、見えなかったようだ。
「ちょっと、涼子どうしたのよ、大丈夫なの?」
「別に何とも無いわ…、大丈夫よ。」
「大丈夫じゃないわよ、ひどい熱じゃない。早く休んだほうが良いわ。
祐介さんに言ってくるから、ちょっとそこのソファで横になってたほうが良いわ。」
「わかったわ。」
ガチャ、パタパタパタ。
いつもは、おちゃらけているが、さすがに非常時の行動はすばやい、
締めるところは締める、この辺が葵の魅力でもあるのだろうか。
「店長、涼子がひどい熱みたいなんで、早退させて良いでしょうか?」
「やっぱり無理してたのか、うん、すぐ、休んでもらってくれ。頼むよ。」
「葵さ〜ん、おごってもらいにきました〜」
待ってました、とお声がかからんばかりの"Good Timing!"
イベント発生時にやってきてしまうのは、主人公の性だろうか?
耕治がお昼を食べに来たようだ。
「あ、耕治くん、ちょうどよかった、あのね…」
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「涼子さん!無理しないでください、静かに寝ててください。
前田くんも薬を買ってくる、って言ってましたしすぐ帰ってくると思いますけど。」
「でも、あずさちゃんに悪いわよ、あとは自分でするから、ね。」
耕治に連れられて帰ってきた涼子は、たまたま、寮で、休日の暇を持て余していたあずさの看病を受けていた。
「でも、じゃないです。私も、前田くんも、葵さんも店長もみんな涼子さんのこと心配してるんですから。
早く治すためにも、みんなを頼ってください。今年の風邪は治りにくいそうですし。
あ、そう言えば、もう閉店時間ですね?そろそろ葵さんが帰ってきますね」
「あずさちゃ〜ん、お願いだから、勘弁して〜」
二人がかりでの看病攻めが効いたのか、涼子の体調もだいぶ持ち直していた。
にも、かかわらず、二人の勢いはとどまるところを知らない。
「涼子〜、早く治して全快記念宴会よ〜」
「もう、お願いだから…」
こうして、中杉通り店の影の主の長い長い一日は終わる。