ピピピピピピピピピピ

目覚し時計の電子音が鳴り響く。

「う〜ん・・・」

枕元をまさぐって目覚し時計を止めると、涼子はベッドで上体を起こして伸びをした。
みんなの看病のおかげだろう、昨日とはうって変わってすこぶる気分が良い。
これまた枕元に置いてある眼鏡に手を伸ばそうとしていると・・・

「もう一杯〜・・・」

なにやらとぼけた声が聞こえてきた。
眼鏡をかけてそちらに目をやると、

「葵・・・」

そこには、もう秋だというのに相変わらず挑発的な服装の葵が丸くなって寝転がっていた。
葵だけではない、あずさに耕治もそのそばにそれぞれ寝転がっている。
三人とも昨日の服装のままだ。

「ずっと看病してくれてたのね」

そっと三人にささやきかける。

(ちょっとやりすぎだったけど・・・)

葵には、一生懸命なんだけどちょっと度が過ぎてしまうことがままにある。
それにあずさに耕治まで乗ってしまったものだから・・・。

涼子は軽く苦笑いしながら三人を起こさないようそっとベッドから降りた。
三人にそっと毛布をかけると、なるべく音をたてないようにして、
四人分の簡単な朝食を用意しテーブルに並べる。

「葵は・・・遅番だからいいとして・・・」

コーヒー用にお湯を沸かしているやかんを眺めながら、シフト表を頭に思い浮かべる。
こういう時にさっとシフト表が思い出せるところはさすがだ。

「二人は・・・学校よね」

ようやく沸いたやかんをとり、お湯を注ぐと、涼子は二人を起こしにかかった。

「前田君、朝よ。起きて」

涼子はそう言って耕治の肩を軽く揺さぶった。

「ん・・・もうちょっと・・・」
「遅刻するわよ・・・」

そんなやりとりをしていて、涼子の顔がふと赤くなった。

(こういのって、なんだか恋人みたい・・・)

思わず、起こす手を止めて耕治の寝顔に見入ってしまう。

「・・あれ・・・涼子さん・・・?」

と、突然目を開いた耕治と目があった。まだねぼけているのだろう、目を手でこすっている。
涼子は慌てて耕治から視線を外した。

「お、おはよう。前田君」
「おはようございます。・・・もう大丈夫なんですか?」

ようやく意識がはっきりしてきた耕治が起きあがって挨拶を返す。

「ええ。おかげさまで」
「でも、顔、赤いですよ・・・」
「だ、大丈夫よ。大丈夫・・・」

慌ててごまかすが、耕治がこちらをじっと見るので涼子の顔はますます赤くなってしまった。

「でも・・・」
「大丈夫だから。心配しないで」
「そうですか、でも無理しないでくださいね」
「うん、ありがとう」

そういうと涼子はそそくさとあずさを起こしにかかった。
これ以上顔をあわせているとますます赤くなってしまいそうだったから。

涼子は二人と一緒に朝食をとり、二人を送り出すと、葵の出勤時間にあわせて目覚ましを合わせ、
書置きと部屋の鍵をテーブルの上に置くと、店へ向かうために玄関から外へ出た。

空高くには秋特有のうろこ雲が薄く広がっており、まだ昇ってそう経ってはいない太陽が
優しく光りを投げてくる。涼しい風に長く伸ばした涼子の髪がたなびいた。
自然と伸びをしたくなる。

「うーん・・・」

涼子は1回両手を空に向けて広げて伸びをした。
らしくない、どこかでそう思いながらも思いついたことを口にする。
この素晴らしい朝が言わせたのだ。そう思うことにして。

    「双葉涼子、復活!」



Project 「リレー小説☆ぴあぴあ」presents

第六話「かあるがいちばんちゅよいんだよ♪」

Written by YOU



昼下がりのPiaキャロット。
昼食を食べに来た客が出終わり、3時頃までのわずかな間だけ客足が鈍る時間だ。

「店長・・・」

いつものように雑用に駆けまわっている祐介を涼子が呼びとめた。
『復活』宣言は伊達ではなく、涼子は休んだ分を取り戻すかのように朝からてきぱきと
働いている。

「何だい、双葉君?」
「例の件、保健所から許可がとれました」
「そうか。じゃあ後は、親父・・・じゃなかった、オーナーを説得するだけだな」
「ええ。どうですか? そちらの方は? 準備で半日ほどお店閉めないといけないですし・・・」
「うん、もう一押しだろう。半日閉めるとかそういうのよりも、オーナー、こっちが良い案
 出したもんだから悔しがってるんだよ」

祐介はそう言うとにやっと笑った。
涼子もそれに合わせて軽く微笑む。

「予定通りの期日でできそうですね」
「ああ、今日の終業後に皆に伝えよう」
「きっと皆喜びますよ」
「じゃあ、そういうことで」

そう言うと祐介は店の奥の倉庫へと向かった。
耕治に潤が来るのは学校が終わってからなので、それまでは祐介が一人で倉庫整理を
行うことになる。

「ほんと、良く働く人・・・」

涼子はくすっと笑うと、再び机へと向かった。




「ありがとうございました〜♪」

あずさのその言葉に送られて、本日最後の客がPiaキャロットを後にする。
あずさが、ドアにかかったプレートを「OPEN」から「CLOSED」に変えて、
鍵をかけてフロアに戻ると、そこには既に皆が集まっていた。
終業後にフロアに集まるよう言付けられていたのだ。
ミーティングをする時のように皆が席につく。
全員が腰を下ろしたのを見計らって祐介が切り出した。

「今日、集まってもらったのは・・・。今度、皆に屋台をやってもらおうと思うんだ」

その言葉にざわめきが起こる。

「あの、店長」

耕治がおずおずと手を上げた。

「なんだい?」
「うちの経営、そんなにやばいんですか?」
「え?」
「だって、屋台出してまで稼がないといけないなんて・・・」

耕治があまりに深刻そうな顔をして言うので祐介は思わず吹き出しそうになった。

「おいおい。今日も忙しかっただろ?」
「ええ」
「あれで経営が悪いようじゃ、どこのレストランもやっていけないよ」
「そうですか・・・。じゃあ、なんで?」
「うん、発表する順番が悪かったな。・・・今度、2号店で企画をやることになってね」
「企画ですか」
「そう。題して、『秋祭り in Piaキャロット』」

店長のその言葉を聞いて、皆が反応する。

「わ〜、楽しそうですぅ♪」
「へえ、面白そうだね、耕治」
「ボク、コスプレしてくるよ」
「食欲の秋・・・嫌な言葉です」
「やっぱ祭りといえばビールよね〜」

まさに三者三様、もとい五者五様。

「でも店長、具体的にはどんなことするんですか?」

皆が思い思いのことを口にする中、あずさが手をあげて尋ねた。

「うん、隣接する駐車場と、店の入り口のあたりに屋台を出す。
 で、フロアを開放して、お客様が自由に出入りできる、注文しなくてもね、そういう風に
 しようと思うんだ」

「なんだか文化祭みたいですね」
「うん、そう思ってもらってかまわないよ。何せ、それで思いついたことだから」

「でも、祐介さん」

今度は葵が尋ねる。

「私達だけでそんなにいくつも屋台なんてできるんでしょうか?」
「その点も心配いらない。プロの方にも出してもらうからね。
 皆には5つくらい、屋台をやってもらおうと思うんだ」
「5つ」
「うん、一部通常メニューからも出すから、そんなに人手はさけないんだ」
「そうですか。でも、楽しそうですね」

その後もいくつかの質問や意見が出された。
が、概ね皆歓迎しているようである。

「みんなで頑張って、是非成功させよう!」

祐介のその言葉でその日の臨時ミーティングは幕を閉じた。




そして2週間後の土曜日。
Piaキャロット2号店の景色は、いつもとは違う様相を呈していた。
営業開始時間を遅らせて、秋祭りの準備が進められているのだ。
店はちょうちんや紅白の垂れ幕でディスプレイされ、入り口脇の歩道にも屋台が組まれている。

キキッ

ブレーキ音を爽やかな秋空に響かせて、一台の自転車がその前に止まった。
言わずと知れた『ちゃりたく』こと『耕治君ちゃりんこタクシー』である。
本日のお客さんは・・・

「耕治さん、ありがとうございました」

どうやら美奈ちゃんだったようだ。
自転車を置いて戻ってきた耕治にそうお礼を言っている。

「どういたしまして。今日はまだ時間があるから急ぐ必要無かったし。
 それに美奈ちゃん軽いからこぐのも楽だったよ」

耕治が何気なくそう言葉を返していると・・・

「どうせ私は重いわよ」

というセリフが耕治の背後から聞こえてきた。
ぎくっとして振り返ると、そこにははっぴ姿の葵が立っていた。
どうやら、屋台の準備をしていたらしい。

「いや、葵さん。そういう意味じゃないんですけど」
「あーら、じゃあどういう意味なのかしら?」

そういって葵は感情のこもっていない笑みを浮かべる。

「え、えと・・・ 、はっぴ、似合ってますね」
「ごまかしたわね。・・・まあいいわ。何着ても似合うんだから、私って罪よねー」
「はは、そうですね」

なんとか話の流れが変わったので、適当に相槌をうっておく。

「耕治君に美奈ちゃんも早く着替えてらっしゃい。準備、手伝ってもらわないと」
「はい」
「はーい」

元気な返事を残して二人はお店へと入っていった。
今日は店員は皆、はっぴ(レンタル)か浴衣(秋仕様)を着用することになっている。
耕治もさっそくはっぴに着替えると、祭りの準備にとりかかった。何せ、力仕事が多い。
ようやく準備を終え、開催しようかというころには耕治はへとへとになっていた。
入り口のところの階段に座って休んでいる。
と、

「お疲れ様。はい、これさし入れ」

そう言って、いつものものを差出す葵の姿があった。

「葵さん、なんでビールなんですか・・・」
「耕治君にはまだやってもらうことがあるからねえ。元気になってもらわないと」
「・・・? やってもらうこと?」
「そ! 私が何の屋台やるか知ってるでしょ?」

そう言って葵は不敵な笑みを浮かべた。

「お好み焼きでしたね」

耕治はそう答えてから、

「・・・大阪風の」

と疲れたように付けたす。
もちろん、わざわざ付け足したのにはわけがある。
今回、Piaキャロの従業員が出店するなかには・・・

・お好み焼き(大阪風)・・・葵
・お好み焼き(広島風)・・・涼子

なぜかお好み焼き屋が2軒もあった。
なぜかといっても、もちろん、理由はあるわけで・・・

何を出店するかは皆で決めたらいいとの店長の言葉に、閉店後皆で集まったのだが・・・

「やっぱ、楽しく決めましょうよ。ということで、はいこれ」

といってみんなに缶ビールを手渡す葵を止めなかったのが間違いだった。
いつのまにか酔っぱらってパワーアップしていた涼子と葵とが

「屋台といえば、お好み焼きよね」

の一言からいつぞやのお好み焼き討論を再び始めてしまったのだ。

「広島風!」
「大阪風!」

なだめる耕治たちをよそに、言い争いは続き・・・・・・

「じゃあ、売り上げで勝負よ!」

と決着したのだった。

翌日、素面にもどった涼子は、勝負をやめようと何度か葵に持ちかけたが、
「いいじゃない。楽しそうで」
という葵に押しきられてしまっていた。

と、そういう理由でお好み焼き屋が2軒。
代わりに、お好み焼きと並んで定番と思われるたこ焼き屋の出店はなくなってしまった。


「で、それと僕にやってもらいたいことがどう関係するんですか?」
「お好み焼きの材料といえば?」
「小麦粉、豚肉・・・」

耕治は思いつく材料を順番にあげていった。
そして思い当たるものに行きつく。

「・・・キャベツ」
「その通り! 耕治君ったらもう『キャベツ千切りマスター』だって料理長が言ってたわよ」
「あの料理長がそんな言い方するとは思えませんが・・・」
「というわけで、よろしくね♪」

こちらの話を聞いているのかいないのか、葵はダンボール一杯のキャベツを
耕治の座っている横に置くとご機嫌に鼻歌なんぞ歌いながら去って行ってしまった。

「これ、全部・・・」

うんざりしながらダンボールの中を見ていると、

「前田君、ちょっといいかしら」

今度は深い紺色の浴衣に身を包んだ涼子が目の前に立っていた。

「・・・まさか、涼子さんも?」

案の定、涼子の足元にはキャベツの箱が置かれている。

「も?・・・葵がもう頼んでいったの?」
「え、ええ」
「そ、そう。じゃあ、仕方ないわね・・・」

涼子はダンボールを持ち上げると俯いたまま耕治の横を通って店の中へと向かう。
と、気のいい耕治が、涼子のその様子に耐えられるわけが無く・・・

「そ、それくらい余裕ですよ!」

そう言って、耕治は涼子の腕からやや強引に箱を受け取った。

「でも・・・」
「大丈夫ですよ。料理長に鍛え上げられた腕、お見せしましょう!」
「そ、そう? お願いしていいかしら?」
「もちろんです!」

そう言って耕治は片手で器用に箱を持ったまま、もう片方の手で胸をどんと叩いた。

「ありがとう。じゃあ、お願いね」

涼子は笑顔で店内へと戻って行った。

「はあ」

涼子の後姿を見送ると、ダンボール二箱分のキャベツを前に耕治はそっとため息をついていた。
もう開始までそう時間は無い。
耕治はもう一度ため息をつくと、ダンボール二箱をもって、調理場へと向かった。

トントントントントン

まな板をたたくリズミカルな音が厨房に響く。
その音が聞こえなくなった頃、まるでその音が鳴り止むのを待っていたかのように、
店内に祭囃子が流れ出した。



「はい、できましたよ」

そう言って、切り刻んだキャベツを配り終わった頃、ぴたっと足にしがみつくものがあった。
足元をみると・・・

「おにぃちゃん♪」

かおるが足に抱きついている。

「かおるちゃん、いらっしゃい。ということは・・・」

再び視線を上げると、

「春恵さんもいらっしゃいませ」

予想通りそこに立っていた春恵に挨拶する。

「こんにちは、耕治さん」

冷たい風に当たったせいか、それとも他の理由か、やや頬を赤らめた春恵は
そう言って丁寧にお辞儀をした。

「ねえ、おにぃちゃん。かあるとあしょぼ。おまちゅり、おまちゅり」

まわりの雰囲気に興奮しているかおるがそう言って耕治のはっぴの裾を引っ張る。

「うーん、でも一応仕事中だしなあ・・・」

耕治は困って頭に手をやった。
トレードマークのバンダナは、今日は服装に合わせてねじり鉢巻に変わっている。

「ほら、かおる。おにいちゃん、おしごとだから」
「・・・やだ! おにぃちゃんとあしょぶの〜」
「かおる、わがまま言うんじゃありません・・・」
「や〜〜。おにぃちゃんといっしょがいいの・・・」

そう言うかおるの目はどんどん涙ぐんでいく。
そして、まさにかおるが泣き叫ぼうというその時・・・

「少しならかまわないよ」

背後からそういう声が聞こえてきた。
3人が振り向くと、そこにはこれまたはっぴ姿の祐介が立っていた。

「いいんですか、店長さん」
「うん、少しくらいならね。かおるちゃんも大切なお客様だから」

祐介はそう言ってこちらに寄ってくると、かおるの頭を撫でた。

「すいません、店長さん」

春恵が頭をさげると、

「あいがとう、おじちゃん」

そう言ってかおるも春恵の真似をしてあたまを下げた。

「お・・・おじちゃん・・・」

「かおるちゃん・・・」
「か、かおる・・・」

耕治に春恵が慌ててかおるの口を塞ぐが・・・

「いや、いいんだよ。・・・はは。おじちゃんかあ。そうかあ・・・」

祐介はひとりでつぶやきながらふらふらと店内に入って行ってしまった。



「かおるちゃん、まずは何食べる?」

傷心の祐介の背中を見送ると、耕治はわけがわからずきょとんとしたままのかおるに
尋ねた。

「わちゃがし〜」
「綿菓子か。じゃあ、美奈ちゃんのところだな。よし、レッツゴー!」
「れっちゅごー!」

こうして3人は駐車場で美奈がやっている綿菓子屋へと向かった。



「あ、耕治さん。いらっしゃいです」

かおると春恵を先導してやってきた耕治をみつけて美奈が声をかけてきた。

「どう? 美奈ちゃん。お店の調子は?」
「へへ。いっぱい売れてますよ」
「良かったね」
「はい」

そういう会話をしていると、

「わちゃがし〜」

そう言ってかおるが急かすように耕治を引っ張った。

「うん、そうだったね。・・・えっと、美奈ちゃん、綿菓子を・・・」

そこで言葉を切って春恵の顔を覗う。

「私は結構です」

耕治の視線の意図を察した春恵が答えた。

「じゃあ、一つください」
「はい。ありがとうございますぅ。ちょっと待ってくださいね」

そう言うと美奈は綿菓子を作り出した。
やがてちょっと不恰好な綿菓子が出来あがり、

「はい、かおるちゃん」

そう言ってかおるに手渡された。

「あいがと、おねぃちゃん」
「どういたしまして」

笑顔の美奈に手を振ると、3人はその場を離れた。



「わちゃがし、わちゃがし〜」

顔中を綿菓子でべたべたさせながら、ご機嫌に食べていたかおるだったが、
ふと、歩みをとめて黙り込んでしまった。

「どうしたの? かおるちゃん」

耕治が尋ねても、かおるは無言でじっとなにかを見ている。
耕治がその視線の先を追うと、そこには父親に肩車されているかおると
同じ位の歳の男の子がいた。

「・・・パパぁ・・・」

かおるのその呟きに、春恵ははっとして、恐る恐る我が子へと目をやった。
が、そこにかおるの姿は無く・・・

「まぁあ♪」

なぜか、自分より高いところから聞こえてくる声に目をやると・・・
そこには綿菓子を持った手を嬉しそうに上げて、かおるが耕治に肩車されていた。

「まあぁ、ちっちゃいね」

こちらを見下ろしてご機嫌でそういうかおるに

「かおる、大きくなったわね」

そう言って春恵が微笑んだ。

「うん♪」

かおるが満面の笑みで答える。

「すいません、耕治さん。お仕事中に付き合っていただいた上に、肩車まで・・・」

そう言って申し訳なさそうに頭を下げる春恵に、

「これぐらい、いいですよ。かおるちゃん、可愛いし」

耕治はそう言って答えた。

「かある、かわいい?」
「うん。かおるちゃんはかわいいよ」

頭の上から聞こえる声に、耕治が笑顔で答える。

「えへへ。うれしい。おにぃちゃん、だいしゅき」

本当に嬉しそうに、かおるが声を弾ませる。
その笑顔が見えないのが、耕治にはちょっと残念だった。

ちょうどそのころ、

「ねえ、耕治君。念のためもう少しキャベツ切っといて欲しいんだけど・・・」

そう言って駐車場に現れた葵だったが、かおるを肩車している耕治の姿と
かおるの笑顔とを見て、

「こりゃ、頼めそうにないわね」

そう呟いて戻って行った。

「結局・・・、誰もあの子にはかなわないのよね・・・」

葵が苦笑と共に残した一言は、賑わう人々の声によって掻き消された。
まだ陽は沈んだばかり。秋の夜長は、これからが本番のようだ。





第7話へ続く


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